2019 年 155 巻 p. 159-172
多くの先行研究ではカラ格名詞句を主語として扱うことができると指摘している(張1995,井上2002,伊藤2001,Kishimoto 2012など)。カラ格名詞句は尊敬語化を引き起こしたり,「自分」の先行詞となったりする場合がある。Ueda(2003)やKishimoto(2012)などではカラ格名詞句はTPの指定部に移動せず,vPの指定部に留まる可能性に言及している。一方,後置詞であるカラ格は動詞の付加詞としての理解も考えられる。この2つの可能性を検討するために,本研究ではカラ格主語文とガ格主語文の文処理実験を行った。その結果,異なる語順のガ格主語文にはかき混ぜ効果が観察されたが,異なる語順のカラ格主語文にはかき混ぜ効果が観察されなかった。小泉・玉岡(2006)では,VP副詞には2つの正順語順(目的語の前と後)があると指摘している。この指摘を踏まえて考えると,日本語母語話者はカラ格名詞句をVP付加詞として理解する可能性があり,結果としてカラ格名詞句も目的語の前または目的語の後に生成されることが示唆される。