2021 年 160 巻 p. 183-213
本論文では限定の意味を表すとりたて詞ダケとシカの分析を試みる。広く知られているKuno(1999a)の提案では,ダケ文では肯定命題が主陳述,否定命題が第二陳述となり,シカ文では逆に否定命題が主陳述,肯定命題が第二陳述となる。この分析は魅力的だが,「主陳述」と「第二陳述」の概念の内実が明らかでない。本論文では,Tomioka(2015)による最大値演算子(maximality operator)を用いたダケの分析に基づき,ダケとシカの第二陳述は最大値演算子の意味から副次的に生じる派生的含意(Kubota 2012)であると分析する。このことにより,主陳述と第二陳述の区別に理論的裏付けが与えられる。提案する分析は,論理学における限定表現に関する長年の対立を新たな角度から捉え直し,そのことによりいわゆる「投射的意味」に関する最近の形式意味論・語用論分野での論争に一石を投じることを目論むものである。