言語研究
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フォーラム
定形繰り上げ(と不完全時制)の批判的検討
――「ようになる」の意味的分析――
阿久澤 弘陽窪田 悠介
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2021 年 160 巻 p. 249-261

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抄録

「ように」節をとる変化動詞「なる」は繰り上げ動詞と類似した性質を示し,補文時制辞がル形のみ可能なことから,補文時制が不完全時制(defective tense)の定形繰り上げ(finite raising)として分析されることがある(Uchibori 2000, Fujii 2006)。本論文では「ようになる」構文の統語的・意味的特徴を再検討し,否定極性表現の認可と間接受身に関する統語的振る舞いから「ようになる」は非繰り上げ構造であること,また,補文時制辞の分布は「ようになる」が習慣(またはある種の恒常的状態)の意味を含むという語彙意味的特徴から自然な帰結として導かれることを示す。本論文での結論は,意味的特徴を精査することで,従来「擬似的な不定形節」として扱われてきた構文の統語分析を単純化できることを示した点において,近年の定形コントロール(finite control)に関する再検討(Akuzawa and Kubota 2020, Kubota and Akuzawa 2020)に通ずるものである。

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© 2021 日本言語学会, 著者
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