言語研究
Online ISSN : 2185-6710
Print ISSN : 0024-3914
特集 世界の言語音の多様性
ウクライナ語における母音交替―音韻的普遍性の観点から―
渡部 直也
著者情報
ジャーナル フリー

2025 年 168 巻 p. 103-122

詳細
抄録

本論文では,ウクライナ語で観察される中段母音の閉音節における高段化,中段母音の開音節における削除,および前置詞および接頭辞の直後における[i]の挿入について,これまでの理論研究において提唱されてきた普遍的な音韻原理に基づいて分析を行った。高段化および削除については,通言語的に有標とされる中段母音の回避が関連していると考えられ,音節構造に応じた局所的忠実性との競合によって交替が生じる。語彙的な例外性についても,使用頻度の低い語で交替が生じにくいことから,特に借用語音韻論において仮定されてきた,語彙的な性質によって優先度が異なる忠実性制約によって定式化される。一方で高段化における[i]への中和については,同言語では概して前後の交替が生じないため問題となるが,母音挿入によって裏付けられる[i]の無標性によって引き起こされると主張した。

著者関連情報
© 2025 日本言語学会, 著者
前の記事 次の記事
feedback
Top