抄録
本稿では, 時の助動詞において, evidentiality (情報源の差異), epistemicity (認識内/外の情報) が, いかにtemporality (時・態) と関わるかを考察する。具体的に, 古代日本語の過去の助動詞キとケリ, トルコ語の過去の助動詞-di, -misを取り上げ, 次のような対応を指摘する。
キ/-di: 直接体験瞬間態認識内情報
ケリ/-mis: 間接体験持続態認識外情報
上記対応は, 直接体験を瞬時 (瞬時態と呼応) にして認識の内に吸収され得るもの, 又間接体験を, ある時間幅 (持続態と呼応) を経ての後吸収され得るもの, ゆえに発話時では認識外情報と考えるとうなづける。本稿では更に, 竹岡の「物語の現場」(キの用法) 対「あなたなる場」(ケリの用法) という対立概念と, Hopperのforegrounding対backgroundingというdiscourseの概念との呼応も指摘する。又, 前者には瞬間態が, 後者には持続態が多いとのHopperの指摘は, キ, ケリの瞬間態対持続態の差異によく合致する。