言語研究
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東海道沿線の方言分布パターン
グロットグラムデータの多変量解析
井上 史雄
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1992 年 1992 巻 101 号 p. 35-63

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抄録

この論文では,東海道沿線の方言調査データにいくつかの計量的手法を適用し,地理的・年齢的分布パターンを分析した結果について論じる。
4年がかりの調査の結果はグロットグラム集として公刊した。多くの図に地域差・年齢差が見られ,本土方言を東西に区分する等語線が,現在の東海道でどんな動態を示しているかなどを見ることができた。共通語化が進むだけでなく,各地で新しい方言が広がりつつあることも確認できた。個別に面白い成果は得られたが,多くの項目の分布全体を通した考察は,未だ十分でなかった。
ここでは,語形をあげて使用をyes-no方式で問う形の項目に,林の数量化3類や分布重心法を適用した結果について述べる。まず語形を分布パターンによって位置づけるために様様な手法をとって,比較した。林の数量化3類により,各語形を地理的分布によって分類できた。分布重心法によって使用者の平均年齢を計算し,語形ごとの年齢差を表示できた。「新方言」は各地で見られるが,調査項目の中では,ことに東京の近くに多いようである。次に各インフォーマント・地点・地域を,方言使用によって特徴づけ,分類することを試みた。また様々の多変量解析法の適用によって,方言区画が可能になった。東海道のように方言的に連続的と見られる地域でも,地域差がくっきりと浮かび上がった。横浜と明石の間は,神奈川静岡/愛知岐阜/滋賀京阪神の三地域に分かれた。
以上,計量的手法の適用により,多数の項目についての多人数データを要約して示すことができ,地理的分布の全体像を概観できた。またそれぞれの計量的手法の長短を知ることができた。

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