言語研究
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未指定理論,音韻階層および素性依存と朝鮮語音韻論
平野 日出征
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1992 年 1992 巻 102 号 p. 88-120

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抄録

音韻階層の観点からの分析をとおして,朝鮮語の音韻現象を支配している力学,すなわち,順行変化は,聞こえ度の低い音を作り出す傾向があり,逆行変化は,聞こえ度の高い音を生み出す傾向があることを明らかにできる.この力学により,朝鮮語の音韻現象の妥当性のある分析が可能になる.
音韻素性は相互依存し,樹状構造をなしていると仮定する理論と不完全指定モデルは,舌頂性と鼻音性を基底構造で指定しないことと,文脈依存の余剰規則によって,結節複写という操作を導入せずに,素性切り離しと同化規則により相互変化が説明できる.また,舌頂性を持つ子音が,前舌性のわたり音とともに現れ
ないことは,素性結節の拡張の禁止による説明が望ましいことを示す.
音韻階層と不完全指定理論により,朝鮮語の母音調和が,聞こえ度による調和であることを明示する.また,音韻階層により,歴史的音変化の傾向が,逆行変化の性質を持つことが示される.わたり音に関わる制約を説明するためには,わたり音の素性指定についてさらに研究が必要であることを指摘する.

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