抄録
本論文では,現代アイルランド語における新たな発見を2つ報告し,その発見が,統語理論に対して持つ意味を論ずる.2つの発見は,次のようである.(1)主語・目的語からの疑問詞の抜き出しに関して非対称性があり,主語からの抜き出しは不可能であること.(2)主語の疑問詞を超えて,その下位に生成された疑問詞が移動することができ,優位性効果が表出しないこと.これらの発見は,統語理論に対して以下のことを示唆すると論ずる.(1)指定部からの抜き出しは,その指定部にある句と述語が,∅-素性において一致する時にのみ不可能になること.(2)AGRoではなく,vが優位性の有無に関して重要な役割を果たしていること.