抄録
上皮間充織細胞においては、その形質転換に伴ってカドヘリンの発現低下とインテグリンの発現上昇が観察される。本研究ではまず、当該細胞の形質転換における細胞接着性変化の分子機構を明らかにするために、カドヘリンとインテグリンの裏打ちタンパク質群について検討した。その結果、インテグリンの活性化に伴って2種のタンパク質でのチロシンリン酸化の亢進が観察され、最も顕著な変化を呈したタンパク質としてパキシリンが同定された。パキシリンのリン酸化部位の変異体cDNAを細胞に発現した際の効果を検討した結果、パキシリンのチロシンリン酸化が、この形質転換に伴う細胞運動性変化をもたらす主要因子であること、その複数部位のチロシンリン酸化が協調することにより細胞同士の「接触による増殖阻止」と「接触による運動性阻止」とを制御することを明らかにした。さらに、上皮細胞においては、パキシリンの複数部位のチロシンリン酸化による制御を乱すことにより、細胞同士が十分接触していてもカドヘリンを介した細胞間接着が正常には形成されないことも明らかにした。