抄録
高温高圧研究は地球の構造・起源・進化の研究に大きく貢献してきた。ここでは、上記のテーマがどのように解明されてきたのかを、著者の研究を例にして紹介する。初期地球の諸過程の重要なものは、集積に伴う重力エネルギーの開放による発熱とマグマオーシャンの形成、月を形成したジャイアントインパクト、金属鉄の分離による核の形成、マグマオーシャンの結晶化にともなう原始地殻の形成、核形成後の隕石の重爆撃、プレートテクトニクスの開始などである。これらの諸過程は地球形成初期の2~3億年の間に進行したと考えられている。これらの過程を駆動する重要なプロセスは融解現象、固体と液体(マグマ・金属液体)間の反応・元素分配過程である。 ケイ酸塩の溶融関係の研究は、下部マントルに及ぶ深いマグマオーシャンの中過程を解明するために不可欠である。この研究は、Ohtani (1979)によるマントル鉱物の融点の測定やTakahashi (1986)によるカンラン岩の溶融関係の解明以後、数多くの研究が行われてきた。そして、マルチアンビル高圧装置では35GPa付近までの実験が行われ、橄欖岩の溶融関係の詳細が明らかにされつつある(例えばIto et al., 2004)。さらに高圧ではダイヤモンドアンビルを持いて、下部マントル条件での橄欖岩の融点測定が行われている(Zerr and Boehler, 1998)。 マントル内部でのマグマの密度もマグマオーシャンの結晶化やその後の地球内部のダイナミクスに重要である。玄武岩マグマやコマチアイトマグマ、そして橄欖岩マグマの密度がカンラン石やダイヤモンドを密度標準に用いた浮沈法によって測定されている(Agee and Walker, 1993; Ohtani et al., 1993; Suzuki et al., 1998)。これらの密度測定の結果、地球や火星の上部マントルにおいて、マグマと橄欖石の間に密度逆転が存在することが明らかになった。このようなマグマ・結晶の密度逆転が存在すると融解にともなって、橄欖石が浮き上ったり、マントルは結晶分別が起こりにくくなり、マントルは大規模マグマオーシャンによっても始原的な組成を維持し続ける可能性がある。 マグマの密度逆転は、マグマオーシャン時のみならず、現在のマントルでも存在する可能性がある。上部マントル最下部には、地震波速度が小さくなり減衰が大きくなる領域が報告されている(Revenaugh and Sipkin, 1993)。また、核マントル境界部には地震波速度が大きく減少し、大きな減衰を示すUVZ(地震波の超低速度層)が報告されている。これらの領域にも密度逆転によって、周りのマントルよりも重いマグマが滞留しているものと考えられる。Yale大学や我々のグループは、含水マグマおよびCO2含有マグマの密度を測定し、これらのマグマが上部マントル最下部において密度逆転によって重くなり、重力的に安定に存在することを明らかにした(Matsukage et al., 2005; Sakamaki et al., 2006; Sujoy et al., 2007)。核マントル境界においても、周りのマントルよりも重いマグマが存在し得る。高温高圧下において酸化物メルトと鉄メルトが混和することが我々の実験によって明らかになっている(Tsuno et al., 2007)。このことは、核マントル境界において、マグマが核の鉄メルトを溶かし込んで、周りのマントルよりも重くなる可能性を示唆している。 核形成過程においては、金属鉄メルトとマグマおよび鉱物との反応・元素分配が重要になっている。特に、軽元素の分配は核中の軽元素の存在度を解明するために重要である。また、放射性熱源となるK、U、Thの元素分配は核の進化つまり内核の形成時期を見積もるためにも重要である。 Mg-perovskite、Mg-post-perovskiteやMagnesiowustiteと金属鉄の間の反応によって金属鉄中にOやSiが溶け込むことはTakafuji et al. (2004)、Sakai et al. (2006)、Asahara et al. (2007)によって明らかにされている。これらに研究によると圧力と温度の増加にともなって、酸素と珪素がともに金属鉄に溶解する。金属鉄と水素や水との反応もHirao et al. (2006)やOhtani et al., 2007によって明らかにされた。これらの実験によると金属鉄と水素や水との反応により、FeHxが容易に形成されることが明らかになっている。これらから、珪素、酸素、水素が核中に十分に取り込まれ得ること、したがって、核の軽元素の有力な候補になることが明らかになっている。