抄録
本研究では,礼文島浜中2遺跡V層出土土器胎土に残存する有機物をBristol大学で脂質分析し,海獣を起源とする有機残渣が検出されるかどうか検討した。その結果,炭素数14~22までの飽和脂肪酸が検出されると同時に,炭素数C16:3,18:3,20:3,22:3などのトリ不飽和脂肪酸(陸上動物や植物油と比べて,海洋性動物由来の油脂に占める割合は非常に高い)の加熱生成物と推定される環状化合物(ω-(o-alkylphenyl) alkanoic acids)が検出された。さらに,海洋性動物の存在の証拠と考えられているPhytanic acidやPristanic acidも検出された。このことは,縄文時代後期(1300~1200 BC)に,本遺跡で,これらの土器でニホンアシカを調理した際に,ニホンアシカの肉はコゲとして内面土器炭化付着物になり,燃料材に由来するススが外面土器付着炭化物として付着した。また,加熱によって生成するこれらの環状化合物は,土器でニホンアシカを調理した可能性を示唆する証拠であり,海洋性動物の指標として考えられるイソプレノイド化合物とともに土器に吸着され,現代検出されたものと考えられる。