抄録
南極スカルブスネス露岩地域に分布する淡水湖の長池,塩湖のすりばち池および舟底池の堆積物の脂質バイオマーカー分析と顕微鏡観察を行い、過去数千年間の古環境変動を復元した。また、極限環境の生態系や生物の挙動を理解することを目的として古生態系の復元を試みた。その結果、淡水湖の長池では、水生蘚類に加えて藍藻や緑藻・珪藻、塩湖のすりばち池および舟底池では珪藻が主な生産者であることがわかった。また、珪藻に由来する高分枝鎖イソプレノイド(HBI)アルケンは海水の流入を経験した湖から検出され、淡水湖の長池からは検出されない。ハプト藻に由来するアルケノンはすべての湖で検出され、各々の湖でその組成の違いがみられた。バイオマーカーに記録された古生態系変動は,温暖/寒冷化といった南極大陸の気候変化に連動していることが推察された。