抄録
近年、世界各地の深海底において、酸化鉄で覆われた海底面が確認されている。それらは、海底の岩石(玄武岩)や地殻内に含まれる鉄を直接的あるいは間接的に利用する微生物の生理・生態を理解する上で最適な研究フィールドであると考えられている。鉄利用微生物は海底や海洋地殻の規模を踏まえると圧倒的な存在量を誇り、光の届かない栄養の乏しい環境での生態系を支える重要な一次生産者であると予想される。このような考えから、鉄利用微生物の一次生産活動や物質循環における役割が注目されるようになり、各地の酸化鉄被膜地帯での微生物調査が実施されている。 しかしながら、いまだ培養や試料採取の困難さなどから、酸化鉄被膜地帯での微生物の多様性、それぞれの存在量、エネルギー獲得様式、さらに生息環境における役割についてほとんど明らかとなっていないのが現状である。本研究では酸化鉄被膜地帯に生息する微生物群について新たな知見を得るべく、沖縄とマリアナの深海底熱水活動域に存在する酸化鉄被膜地帯での微生物学的調査を行った。