本研究では群馬県・長野県の遺跡から出土した縄文・弥生時代人歯の歯根部コラーゲン炭素・窒素安定同位体分析および放射性炭素年代測定、歯冠部エナメル質アパタイトの炭素安定同位体分析を行い、日本に農耕が伝わった縄文・弥生移行期の食性の変遷を調べた。コラーゲンの炭素・窒素安定同位体比において、縄文前期と比べ縄文晩期・弥生の資料ではδ13Cが平均4.2‰増加し、δ15Nは低いまま変動しなかった。δ15Nが低く、かつδ13Cが高い食料源としてアワ・キビなどの雑穀を含むC4植物が挙げられる。コラーゲンと比べ食物中の植物をより顕著に反映するアパタイトでもδ13Cが平均5.2‰増加しており、縄文晩期から弥生時代にかけて雑穀が利用され始めたことが示唆された。現在、肉食・草食率によって変動する食料源と捕食者コラーゲン・アパタイトの同位体比間スペーシングを考慮した雑穀利用のさらに定量的な評価を進めている。