抄録
水文学的モデルHYDROTRENDを過去13,000年間の古利根川に適用した.HYDROTRENDは流域内の気候と地形的条件から河川流量と砕屑物供給量を計算する.HYDROTRENDによる計算には年平均気温の変動,年間降水量の変動,海水準変動による流域面積の増減といった要素がパラメータとして含まれる.数値実験の結果,古利根川の河川流量と砕屑物供給量の時代的変遷を推定できた.それらは現利根川から推定される河川流量,関東平野の地下構造から推定される土砂供給量とそれぞれよく一致する.古利根川における年間砕屑物供給量の長期的変動パターンは日常的な河川流量を反映せず,むしろ年間当たり数日程度しか発生しない増水イベントに強く支配されていた.高海水準期にあたる過去7,000年間では,古利根川は河口から数百年に一回程度の頻度でハイパーピクナルフローが発生したと想像される.本研究を通じてHYDROTRENDの有用性が裏付けられる.