抄録
野尻湖底堆積物および後期更新世高野層のTOC含有率を指標として,過去16万年間の中部山岳地域における気候変動の復元を試みた.まず,TOC含有率の増減が花粉組成の示す寒暖変動で裏付けられており,気候変動の指標として有効であることをそれぞれで確認した.次に,それぞれで標準化したTOC変動曲線を広域テフラDKPを鍵としてつなぎ合わせて,過去16万年間の詳細な変動を復元した.TOCの経年変動は,グリーンランドの氷床が記録する気候変動に匹敵する時間分解能を持ち,その大局的な変動は,海洋酸素同位体比曲線とも対応しており,汎世界的な気候変動を反映している.それを基に陸域の指標テフラを気候編年上に位置づけることができた.解明された詳細な気候変動と指標テフラの枠組みは,列島内の各地の気候変動の対比のみならず,堆積盆の形成や埋積過程,海水準変動の影響などを高精度で解析する上で重要な土台を提供する.