地質学雑誌
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論説
地球表層炭素循環モデリングに基づく暁新世/始新世境界温暖化極大の発生原因の再検討
安川 和孝中村 謙太郎加藤 泰浩
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2010 年 116 巻 8 号 p. 418-436

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抄録
約55 Maに生じた暁新世/始新世境界温暖化極大(PETM)では,炭素同位体比負異常(CIE)を伴う4℃以上の全球的温暖化が生じた.これは12Cに富む温室効果ガスの放出を示唆しているが,その起源は現在も特定されていない.本稿ではこの問題を,シンプルな炭素循環モデリングにより再検討した.PETMのトリガーとしては,同時期に北大西洋で起こった大規模火成活動が最も妥当と考えられる.計算の結果,この火成活動により生成した2,200 Gt-Cの熱分解起源メタンと,海底メタンハイドレートの分解に伴う700-2,800 Gt-Cの微生物起源メタンの放出により,-3‰の全球的なCIEを説明しうることがわかった.必要な微生物起源メタン量の不確実性は暁新世末期の大気中CO2濃度の見積もり幅に由来する.一方,計算された温度上昇幅は最大で1.4℃に留まり,地質記録から推定される温暖化を再現することはできなかった.
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© 2010 日本地質学会
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