2023 年 129 巻 1 号 p. 273-288
房総半島中央部にはいずれも前弧海盆堆積物とされる中新統-鮮新統の安房層群とそれを不整合で覆う更新統の上総層群が広く分布する.両層群は多くの凝灰岩層を含み同時間面の特定が容易であり露出も良好であることから,1950年代より層位学的研究が精力的に行われてきた.特に平均堆積速度が2 m/千年と比類無き速さを示す上総層群は,世界トップクラスの時間分解能を持つ地磁気逆転記録などが根拠となり,ながらく未定であった下部-中部更新統境界のGSSP(国際境界模式層断面とポイント)が設置されたことで世界の注目を集めている.本巡検では,半島西部に分布する安房層群最上部と黒滝不整合を観察し,その後は上総層群を下位層から順に巡ってゆく.粟又の滝では深海盆の泥岩卓越層と広域テフラのKd18を,養老渓谷温泉街では深海盆のタービダイト性砂岩泥岩互層における堆積構造や岩相変化を,そしてチバニアンGSSPサイトでは斜面堆積層の塊状泥岩層と無数に見られる生痕化石,およびチバニアン期/カラブリアン期の境界を定める世界基準となった白尾火山灰層を観察する.