2023 年 129 巻 1 号 p. 489-501
西南日本外帯の中新世アルカリ玄武岩岩脈の報告は少数ながら広域的な重要性をもつ.本論では新たに愛媛県桜三里付近の三波川変成岩に貫入するアルカリ玄武岩岩脈を報告する.アルカリ玄武岩岩脈の石基の長石のK-Ar年代は15.7±0.5 Maであり,周辺に分布する中新統石鎚層群の火成活動時期に近いかそれよりやや古い.アルカリ玄武岩岩脈は,地殻内での珪長質火成岩の同化の影響がみられるが,海洋島玄武岩(OIB)に似た微量元素組成をもつ.また岩脈には多量の大型斑晶と斑れい岩捕獲岩が含まれる.大型斑晶は主に先行するマグマから晶出したものであり,未分化な玄武岩マグマとホストマグマと類似したアルカリ玄武岩マグマという二つの起源が存在し,斑れい岩捕獲岩も後者のマグマに関係づけられる.フィリピン海プレートのスラブ下から上昇したOIB型マグマの活動は,西南日本外帯の中期中新世の前弧火成活動の熱源となった可能性がある.