2023 年 129 巻 1 号 p. 643-654
長野県北西部,高瀬川・鹿島川に見出される蛇紋岩礫は,鹿島川の上流に向かい出現頻度が増し,有明花崗岩(古第三紀初期)分布域である飛騨山脈主稜(遠見尾根上部~五竜岳・鹿島槍ヶ岳)付近からもたらされたものである.花崗岩中に分布するとされる小規模な蛇紋岩体由来であろう.蛇紋岩礫はトレモラ閃石,タルクを含むが,直方輝石を欠き,軽度の接触変成作用を受けている.岩石学的性質は八方尾根のものに似るが,トレモラ閃石がNaに乏しいこと,かんらん石がしばしばFeに富む(Fo83まで)こと等が異なる.小規模にもかかわらず接触変成度が低いことから,マグマに取り込まれた岩塊ではなく,花崗岩中に構造的に取り込まれたものである.また,八方尾根岩体のトレモラ閃石帯に相当する岩相を欠き,原岩の変成度も低い.これらは,この地域の第四紀の変動の激しさを物語っている.地形の険しい山岳地帯の地質調査には礫の検討が極めて有力である.