2024 年 130 巻 1 号 p. 89-109
断層破砕帯には多様な姿勢の剪断面が形成されている.それらの周囲に発達した複合面構造から各剪断面の剪断センスを推定できるが,それらが同じ活動ステージ(応力)で形成されたものか否かは識別ができない.本研究ではこの課題を解決するために,複合面構造の観察と応力逆解析を組み合わせて,塩ノ平断層と車断層の運動と応力の履歴の解明を試みた.結果として,塩ノ平断層において5つ,車断層において2つの活動ステージを復元した.活動ステージの時期を特定する年代指標が少ないものの,先行研究で示された断層周辺の古応力場や造構運動と矛盾しない結果が得られた.断層スリップデータの取得領域の粗密によって一部の応力は復元できない可能性はあるが,包括的な破砕帯形成史の解明を目的とした研究において,本手法は一定の有効性が示されたと言える.