日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: S1-O-9
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S1. 球状コンクリーションの科学–理解と応用-
コンクリーション化プロセスの理解と応用
*吉田 英一山本 鋼志丸山 一平浅原 良浩南 雅代城野 信一長谷川 精勝田 長貴西本 昌司村宮 悠介隈 隆成竹内 真司松井 裕哉刈茅 孝一メトカーフ リチャード
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抄録

球状コンクリーションには、カルシウム、鉄、シリカを主成分とするものがあり、多くは球状をなす[1~4]。鉄コンクリーションについては、火星のコンクリーション(ブルーベリー)のアナログとして[3]、またシリカコンクリーションについては、石油の熟成過程で形成されることなどが明らかとなっている[4]。とくにカルシウムを主成分とするコンクリーションについては、数億年〜完新世の海性堆積岩中から発見され、保存良好な生物遺骸(化石など)を内包するなど1900年代初頭から知られていたものの、詳細な成因については不明のままであった。その成因や形成速度について国内外の数百に及ぶ試料を調査・分析し、それらの共通性質として、コンクリーション内部のCa濃度がほぼ一定でδ13Cが低く有機物炭素由来であること、元素プロファイルからCaCO3の濃集・沈殿が、コンクリーションの縁(反応縁;Reaction Front)で生じつつ、炭素起源の生物を取り巻くように内部から外へと急速に成長すること、を明らかにした[1,2]。このプロセスは、コンクリーションの縁(反応縁)の幅(L cm)と、堆積物中の炭素(重炭酸イオン)の 拡散係数(D cm2/s)及び反応速度(V cm/s)が 'D = LV' という単純化した関係式で示され、「拡散成長速度ダイアグラム」として表すことができる。このダイアグラムから、全てのコンクリーションの形成速度を見積もることが可能であり[2,5,6]、直径1メートルサイズでも形成速度は数年程度と見積もられる。これは、コンクリーションが未固結海底堆積物中で形成されたとする堆積学的証拠と矛盾しない[2,6]。またコンクリーションは非常に緻密で、露出した後も風化に強く、内部化石の保存状態も良好である。これは、炭酸カルシウムが堆積物中の空隙をシーリングし、後世的な風化プロセスの進行を抑制するためである[5]。このプロセスを工学的に応用できれば、非常に短期間で長期的なシーリングが実施可能となる。

コンクリーションのシーリング状態・工学的評価

球状コンクリーションは、周辺地層の約10〜20倍の50〜60wt%のCaCO3を含む。この割合は,海底堆積物 の初期空隙率に近い値を示し、コンクリーションが未固結堆積物中で形成されたことと整合的である。コンクリーションの空隙率は、その多くが5%以下と非常に緻密で、透水係数も10-12m/sオーダーと花崗岩に匹敵するものも認められる。このような緻密なシーリング状態が、コンクリーション中の化石の長期保存を可能にすると考えられる[2,5,7]。

コンクリーション化剤の開発

コンクリーション化プロセスの応用として、地下岩盤中での水みちなどの空隙をシーリングさせるための‘コンクリーション化剤(コンクリーションシード(略称コンシード))’を積水化学工業と共同で開発してきた(特許第6889508号)。このコンクリーション化剤の利点は、1)従来の物理的圧入法と異なり、元素の拡散・沈殿によりミクロンオーダー以下の微細な空隙もシーリングが可能。2)元素の拡散によるシーリングであることから、地下水の(高)間隙水圧の影響を受けない。3)地下水中の自然由来の重炭酸イオンやカルシウムイオンも活用可能であり、持続的かつ長期的なシーリングが可能、という点である。

応用化のための原位置実証試験

開発したコンクリーション化剤を用いた実証試験を、北海道幌延深地層研究センターにおいて実施中である。最新の結果として、地下坑道周辺の掘削に伴う緩み領域(EDZ)岩盤の透水性が、コンクリーション化剤の注入により数ヶ月で約2オーダー低下し、周辺母岩とほぼ同様の透水性にまで改善されつつあることが示されている。今後、コンクリーション化剤の注入孔をオーバーコアリングし、コンクリーション化の進行度合いを各種実験/分析によって検証する。将来的には、岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちのほか、既存トンネルの修復、さらにはCCSや石油廃孔の長期シーリングなどへも応用する計画である。

文献[1] Yoshida et al. (2015) Scientific Reports, [2] Yoshida et al. (2018) Scientific Reports, [3] Yoshida et al. (2018) Science Advances, [4] Yoshida et al. (2021) Scientific reports, [5] Muramiya et al. (2020) Sedimentary Geology, [6] Yoshida et al. (2019) Scientific Reports, [7] Yoshida et al. (2020) Geochemical Journal.

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© 2021 日本地質学会
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