日本地質学会学術大会講演要旨
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S1.関東の地質:露頭から大深度地下まで
  • 安藤 寿男
    セッションID: S1-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    日本海拡大前の日本列島の地質学的背景を理解するには,白亜紀から古第三紀の古日本陸弧−海溝系の地質記録をよく保存する前弧堆積盆の地層を比較し,西南日本,東北日本の連続性と違いを検討することが重要である(安藤,2006). しかし,その境界域にある関東地域は,新第三紀以降のテクトニクスによる改変や厚い被覆層のためその当時の情報が乏しい.

     関東地方の古第三紀以前の地質を考えるには,1) 断続的に続く古第三紀以前の地層群の分布とその連続性の評価,2) 日本海拡大に伴う東北日本弧と西南日本弧の相対運動やその横ずれリフト帯である北部フォッサマグナの形成などによって被った,古第三紀以前の基盤岩類の構造変形,3) 関東地域の地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に伴う基盤岩類への影響の,3つの視点が必要であろう.

     西南日本から東北日本に散点的ながら断続的帯状に分布する,白亜紀前弧の堆積物は,安藤・高橋(2017)において層序と堆積相,年代層序から広域対比と連続性の評価が試みられている.西南日本では,1) 外帯の秩父帯(関東山地〜九州)に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島—四国の和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群の,2列をなしている.一方,東北日本では福島県南部から岩手県北部にかけて太平洋岸に孤立しながら散点的に分布するが,現在の前弧堆積盆の海底下には厚く南北に連続的に広がっていることが知られている.そして,その北方は北海道中軸部の蝦夷層群に連続する.個々の地域における地層の時代範囲は短く,堆積相も合わせてそれぞれ異なることが多いが,堆積盆レベルで見ると白亜紀前期から末期まで広がっている.白亜紀/古第三紀境界付近の地層は認められないが,暁新統が断続的に確認できる.全体として,明瞭な層序の類似性は見出し難いが,大きな差異や広域不整合も認められない.化石相や古生物地理研究からは大局的に同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.こうした,地質学的背景から,サハリン—北海道まで含めれば,基本的には西南日本から東北日本にかけて2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元されている.

     近年,各地の前弧堆積物の砕屑性ジルコンのU-Pb年代スペクトルが明らかにされ,その時間的・地理的変遷が弧—海溝系内での位置や後背地の変化(場合によって背弧側からの異地性岩体)によるもの解釈されるようになった(例えば,中畑ほか,2016,長谷川ほか,2020).特に三河から関東山地にかけての白亜紀後期〜暁新世の孤立した地層群の年代スペクトルから,2列の地層分布が少なくとも関東東部までは連続することが示された.こうした研究動向を把握して,関東対曲構造と呼ばれる,日本海拡大に続く,伊豆小笠原弧の衝突による,白亜紀古日本陸弧−海溝系の構成要素の変形・移動を考慮して,関東地方の重要性をまとめてみる.

     一方,三陸沖から鹿島沖にかけての東北日本の太平洋海底下の白亜系〜古第三系は,基礎物理探査や基礎試錐によって広域に厚く分布することが判明している.公表されたものは多くないが,馬場(2017)では,日高沖〜棚倉構造線南方延長域にいたる前弧域で,白亜系〜古第三系暁新統(Cr),始新統〜漸新統下部(P2),漸新統上部〜中新統下部(P1)の震探層序ユニットが識別され,三陸沖堆積盆ではP2,P1間に大規模傾斜不整合(漸新世不整合)があるのに対し,常磐沖堆積盆には認められずP1+P2が一連で,新第三系に不整合で接する.常磐沖では,最大層厚2,000mを越えるCrが認められており,棚倉構造線東側までは潜在する.場所によっては下部白亜系以下の堆積層と思われる構造も見られるので,3D探査を含めた最新の探査記録解析の公表が待たれる.いずれにしても,東西幅数十〜百数十km規模の前弧域が広がっていることは,西南日本への前弧域の延長を考慮する際に重要である.

     関東平野では地下地震探査が行われ地下深部構造が調べられており,さらに,関東平野地下で会合する太平洋,アジア,フィリピン海プレートの相対運動に関する研究も盛んであり (例えばWada and He, 2017),こうした成果が,地表における古第三系以下の地層群の分布や構造にどんな制約を与えてくれるかも興味深い.

    文 献:安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2東北地方,427-478,朝倉書店/長谷川ほか,2020, 地学雑誌,129, 397-421/中畑ほか, 2016,地学雑誌,125, 717-745/Wada and He, 2017, GRL, 44, 7194-7202.

  • 高木 秀雄
    セッションID: S1-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    関東山地の中央構造線(以下MTL)は,三波川変成岩や御荷鉾緑色岩と,その北に広く分布する中新統との境界として認識され,下仁田の大北野−岩山断層露頭では50−70°北傾斜,その東部の牛伏山断層(鏑川団体研究グループ,1985)では20−40°北傾斜をなす.領家変成岩は約60Maの黒雲母K-Ar年代を示す花崗岩類に伴って比企丘陵のみに露出し(高木・長濱,1987),そのほか70MaのジルコンU-Pb年代(佐藤ほか,2018)をもつ平滑花崗岩が下仁田に露出する.比企丘陵東部の吉見丘陵に露出する吉見変成岩は,一部に輝石を含む角閃岩〜ざくろ石角閃岩を主体とし,結晶片岩が含まれる.それらのK-ArおよびジルコンU-Pb年代(変成年代で70−60Ma)より,吉見変成岩は三波川帯に帰属するものと考えられている(高木ほか,1989;足立ほか,2007).比企丘陵の領家帯と吉見丘陵の三波川帯から想定される中央構造線の地表トレースは不自然にカーブを描くが,地震反射断面(嵐山側線:小澤ほか,2003)により,比企丘陵の領家帯は低角度に傾斜するMTLが押しかぶさって正断層で落ち込んだ構造的クリッペであることで,説明できる. 吉見丘陵より東部では,基盤岩の露出がないため,ボーリングコアやカッティングスの帰属が検討されている(林ほか,2006;高木・高橋,2006;高木ほか,2006a, b,2010,2015).それらのうち,領家帯に帰属を求められたものが防災科学技術研究所による岩槻観測井,つくば南観測井(茎崎コア)および石油資源開発(株)による松伏の基盤コアと,温泉開発のための野田市花井のカッティングスであり,筑波変成岩に帰属を求められたものがつくば市下原のカッティングスである.特に岩槻,松伏,茎崎のコアと野田市のカッティングスはいずれもマイロナイト化しており,MTLから近接している可能性が高い.一方,三波川変成岩に帰属を求められるものは林ほか(2006)による総括に従う. 関東山地の跡倉ナップを構成する前期白亜紀変成岩(寄居変成岩)や,その上位の金勝山ナップを構成するペルム紀石英閃緑岩とホルンフェルスの起源として,それぞれ阿武隈帯(肥後帯)および南部北上帯に求められた.従って,東北日本の構成要素がかつて領家帯と三波川帯の間に挟まれており,それが九州の肥後帯まで続いていたと考えられ,MTLと棚倉構造線は本来連続するものであると考えられた(高木・柴田,2000).それに対し,高橋(2006)は,西南日本の地体構造はフォッサマグナの東縁断層として位置づけられる利根川構造線によって切断され,右にずらされていることから,それらは延長しても太平洋の中にあると述べた.その根拠として,前期中新世の火山前線の約230 kmの右ずれを挙げている. 上述した岩槻コア基底部については,マイロナイトの上位3,346–2,864 m深度に鉛直方向の長さ482 mの花崗斑岩が存在し,その黒雲母K-Ar年代は17.7Maという前期中新世の年代を示す(高木ほか,2006a).従って,前期中新世の火山前線は岩槻観測井の南を通っている可能性がある.つまり,前期中新世の火山前線の右ずれは,フォッサマグナ全体で賄っており,利根川構造線のみで大きくずれる必要はないものと考えられる.

    文献

    足立達朗・岩崎一郎,Dunkley, D. J.・外田智千,2007,日本地質学会第 114 年学術大会演旨, P15.

    林 広樹・笠原敬司・木村尚紀,2006,地質雑,112, 2-13. 鏑川団体研究グループ,1985,地質雑,91,375-377.

    小澤岳史, 川崎慎治, 川中 卓, 井川 猛, 伊藤谷生, 笠原敬司, 佐藤比呂志, 2003,  日本地震学会講演予稿集.

    佐藤興平・竹内 誠・鈴木和博・南 雅代・柴田 賢,2018,群馬県立自然史博 物館研報,no.22,79-94.

    高木秀雄・林 広樹・高橋雅紀・岩崎一郎,2006b,地質雑,112,口絵i.

    高木秀雄・柴田 賢,2000,地質学論集,no.56, 1-12.

    高木秀雄・柴田 賢・内海 茂,1989,岩鉱,84,15-31. 高木秀雄・鈴木宏芳・高橋雅紀・濱本拓志・林 広樹,2006a,地質雑,112, 53-64.

    高木秀雄・高橋雅紀,2006,地質雑,112,65-71.

    高木秀雄・高橋雅紀・林 広樹・笠原敬司・堀江憲路・麻原良浩・岩野英樹・山本俊也・関口渉次(2015)地質雑,121, 325-337.

    高木秀雄・武田佳明・石井 徹,2010,地質雑,116, 453-457.

    高木秀雄・長濱裕幸,1987,地質雑,93,201-215.

    高橋雅紀,2006,地質雑,112, 14-32.

  • 高橋 雅紀
    セッションID: S1-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    大部分がユーラシアプレートに属する日本列島には,南からフィリピン海プレートが,東から太平洋プレートが沈み込んでいる.日本列島のうち,本州(東北日本から西南日本)の広い範囲は東西圧縮応力場におかれ,内陸地震が頻発し,断層運動に伴って山地は隆起し内陸盆地は沈降している.この東西短縮テクトニクスの原因について,3つのプレートの運動と,3つの収束境界(海溝)が一点に集まる海溝型三重会合点の三次元幾何学を組み合わせた思考実験を行った.

     その結果,これまで,西に移動する太平洋プレートの運動そのものに起因すると考えられてきた東西短縮テクトニクスの原因が,北西に移動するフィリピン海プレートの運動によってコントロールされていることが判明した.すなわち,フィリピン海プレートの運動により三重会合点が西に移動し,追随するように日本海溝も西に移動する.その結果,東北日本も西に移動するが,日本海の海洋リソスフェアに阻まれるため,東北日本の島弧地殻は東西に短縮せざるを得ない.このことは,内陸地震の原因が,太平洋プレートの運動そのものではなく,沈み込み位置(日本海溝)の移動であることを意味している.

     一方,300万年前以降も沈降を続け,厚い上総層群を堆積させてきた房総前弧海盆は数十万年前から隆起に転じており,一様な東西圧縮でこの地殻変動の変化を説明することはできない.そこで,関東地方周辺のプレート運動について三次元幾何学的に再検討したところ,太平洋プレートに進路を遮られたフィリピン海プレートそのものの変形(座屈褶曲)で説明することが可能である.言い換えるならば,本来沈降場であり,深い海域であり続けるはずの房総半島は,フィリピン海プレートの変形によって急激に隆起し山地(清澄山系)が形成されていると考えられる.このように,地質学的に認識されている日本列島の第四紀テクトニクスは,陸側プレートに沈み込む太平洋プレートとフィリピン海プレートの運動によって,合理的に説明することが可能となった.

  • 佐藤 比呂志, 阿部 進, 松原 誠, 石山 達也, 加藤 直子, 蔵下 英司, 岩崎 貴哉, 平田 直
    セッションID: S1-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに: 関東地域は、太平洋プレート(PAC)とフィリピン海プレート(PHS)の二つのプレートが沈み込むという特異なテクトニクスが進行している。2000年以降、地震災害軽減の基礎となる地殻構造調査や地震観測が積極的に実施され、関東地域に沈み込むプレートの形状から堆積層までの構造が明らかになってきた。ここでは、地殻・マントル構造の概要と、それらの構造を生み出したテクトニックな要因について述べる。フィリピン海プレートの上面形状: 通常プレート境界面は固着しており、地震活動のみでプレート境界を推定することは難しい。このため、深部反射法地震探査や稠密自然地震観測によるレシーバー関数解析などの解析方法を取り入れて、プレートのイメージングにつとめた。東京湾、相模湾、房総半島において、フィリピン海プレート上面からの反射面が捉えられ、従来の推定よりもかなり浅い深度に位置することが明らかになった[1]。関東山地から甲府盆地に至る地域では複雑な形状を示し、PHS上面は大月から丹波山村周辺ではNNW-SSE方向のリッジ状の形状をなす。この東翼では緩傾斜であるが、西翼では傾斜を増大させ、甲府盆地の曽根丘陵下では、深さ40 kmまで追跡される[2]。このリッジ状の背斜軸跡は1923年関東地震の震源の西端と一致し、震源断層の形状を規制している。駿河湾と相模湾において実施した地殻構造探査によって得られたPHS上面の形状は、伊豆衝突帯の東側が緩傾斜で西側では傾斜が増大する。こうした非対称な形状は、関東山地下と共通する。甲府盆地で確認されたPHS上面は、浮揚性沈み込みにより地殻上部が剥ぎ取られた伊豆-小笠原弧の中部地殻に相当する。PHS上面深度は南アルプス下で推定されるものより有意に深いが、連続性については更なる検討が必要である。地殻構造の特徴: 関東地域の地殻構造は、重力異常によく反映されており、関東平野北西部や鬼怒川低地帯にかけて、負のブーゲ異常域が形成されている。この領域では厚い中新世の堆積物が分布するが、逆に地震波トモグラフィーから得られるP波速度構造では下部地殻の速度が増大している。こうした特徴は、北部フォッサマグナ〜新潟の中絶リフトと共通しており、日本海形成-拡大期の地殻スケールのネッキングと、苦鉄質岩の中下部地殻への迸入によって形成されたものと推定される。新潟-北部フォッサマグナのリフト縁辺では、リフトの外側に傾斜する断層が形成されている。関東平野北西部や鬼怒川低地帯の縁辺の断層についても、類似の特徴を有している可能性が高い。西南日本の中央構造線は、一貫して北傾斜を示すと共に活断層として再活動している区間が長い。関東平野周辺の中央構造線については、北傾斜の断層としての再活動は不明確で、日本海拡大期に大きな改変を受けたことを示している。地震波トモグラフィーによって推定されたモホ面深度は、関東盆地では25 kmであり、関東山地や足尾山地などに比べて、有意に浅い[3]。この薄い地殻の成因については、充分な議論がなされていないが、地質学的な説明が求められている重要な課題の一つである。関東平野の堆積盆地は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う葉山-嶺岡隆起帯の背後に形成され、最大層厚は川崎沖の東京湾で6 kmに及んでいる。葉山-嶺岡隆起帯下のP波速度構造は、関東平野下の先新第三系の岩石に比べて低下し、付加体としての形成プロセスを反映してP波速度4〜5 km/s程度の厚い一様な速度構造を示し、地震基盤は葉山-嶺岡隆起帯に入ると大きく低下する。関東地域の構造とテクトニクス: 関東地域の構造に大きな影響を及ぼしたテクトニックプロセスは、日本海拡大期の関東平野北部下での大規模な右横ずれ運動とリィフテング、中期中新世以降のPHSの北北西進に伴う駿河・相模トラフでの沈み込みと伊豆衝突帯での浮揚性沈み込み、1 Ma以降のPHSの西北西方向への運動方向の変化[4]などがある。伊豆衝突帯西側での地殻の短縮量の増大やPHSスラブの傾斜の増加は、PHSの運動方向の変化に起因すると考えられる。 文献[1]Sato, H. et al., Science, 309 (5737), 462-464, 2005. [2]佐藤比呂志,首都直下地震防災・減災特別プロジェクト 総括成果報告書, 15-24, 2012.[3]Matsubara, M. et al., Tectonophysics, 710-711, 97-107, 2017. [4]Hashima, A. et al., Tectonophys., 679, 1-14, doi: 10.1016/j.tecto.2016.04.005, 2016.

  • 田村 糸子
    セッションID: S1-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    鮮新-更新世テフラの広域対比と編年:大規模噴火により広域に分布するテフラは,噴出後極めて短時間に堆積するため,離れた地域に同時間面を示す鍵層として重要である.関東,大阪,濃尾平野等,日本の大平野の土台を構成する鮮新-更新統のテフラ編年は,各地のテフラ記載データの蓄積と,テフラ中の火山ガラスの化学成分分析などの様々な対比手法の適用により進められ,現在,およそ4Ma~1Maにかけて36層の広域テフラが報告されている(Tamura and Yamazaki, 2015など ).

    南関東のテフラ編年の現状と成果:関東平野に分布する海成の鮮新-更新統,上総層群には日本列島各地から飛来した夥しい数のテフラ層が挟在されている.時間指標となる広域テフラも多数見出され,房総半島中央部に分布する上総層群において,およそ1Ma~2.2Maの大田代層~最下部の勝浦層中に16層の広域テフラが報告された(田村ほか,2019a).また,近年,房総半島北東部の銚子犬吠層群や南部の千倉層群,三浦半島の鎌倉逗子など南関東に分布する上総層群相当層のテフラ記載・対比研究が進んでいる.これらの地域では不整合により地層が削剥されていないため,さらに下位に13層の指標テフラが見出され,その年代は3Maを遡ることが明らかにされた(Tamura et al., 2016; 田村ほか,2019bなど).これらの指標テフラは,日本で一番広い関東平野を作った前弧海盆の形成年代,隆起沈降テクトニクス等の解明において重要な役割を果たしている.

    南関東に分布する2.5Maの丹沢-ざくろ石軽石層:南関東の上総層群相当層中の指標テフラの一つに,大量にざくろ石を含むという特徴を有する丹沢-ざくろ石軽石層(Tn-G:2.5Ma,田村ほか,2010)がある. 銚子半島の屏風ヶ浦に露出する犬吠層群下部の名洗層において,田村ほか(2007)は,広域テフラの可能性が高い細粒ガラス質テフラを14層記載し,下位よりIn1~In14テフラと命名した.このうち8層が他地域のテフラと広域対比され,名洗層の堆積年代におよそ3.1Ma~2.3Maという時間面が入った(田村ほか,2007;田村ほか,2019bなど).ざくろ石を大量に含む軽石層はIn7とIn6の間に見出され,名洗含ざくろ石テフラと命名された(NaG:田村ほか,2010).NaGより上位のIn7は東海層群の御幣川テフラ(2.4~2.5Ma:宮村ほか,1981),NaGより下位ではIn6より一つ下位のIn5が東海層群の寺川テフラ(2.6Ma:宮村ほか,1981)に対比されている.南関東では,大量にざくろ石を含むテフラ層について,神奈川県愛川町の中津層群の含ざくろ石軽石層(Mk19:野田ほか,1999),鎌倉市の上総層群下部の含ざくろ石軽石層(KGP:稲垣ほか,2007)が報告され,両テフラは稲垣ほか(2007)により対比された.NaGとMk19,KGPとは記載岩石学的特徴,ざくろ石の化学組成,テフラ層の層位がよく一致し対比された.さらに,東京都江東区の深層ボーリングコア中からざくろ石を大量に含む軽石層が見出された(KT1217:田村ほか,2010).KT1217の諸特徴も他のざくろ石テフラと良く一致し対比され,4地域のざくろ石の粒径の傾向などから,その給源火山が丹沢に求められた.このざくろ石テフラは丹沢-ざくろ石軽石層(Tn-GP)と命名され南関東に分布する広域テフラであることが明らかとなった(田村ほか,2010).Tn-GPの堆積年代は各地における生化石層序,テフラ層序,古地磁気層序などから,およそ2.5Maと推定された.名洗層において,NaGより一つ下位のIn5と対比された寺川テフラは2.6Maのガウス上部である.これらの対比から,名洗層において,新第三紀/第四紀の境界がNaGとIn5の間にあることが明らかになった(田村,2019b).また,Tn-GPの発見により,関東堆積盆(上総海盆)の沈降中心に近い江東付近では,中津,銚子などの平野周縁部に対し,相対的に平均0.5㎜/年の速度で沈降していることが示された(田村ほか,2010).

    文献: 稲垣ほか(2007)地球科学,61,143-148.宮村ほか(1981)亀山地域の地質 5万分の1地質図幅,128p.野田ほか(1999)第四紀研究,38,65-73.Tamura and Yamazaki (2015) XIX INQUA,S04-P07.田村ほか(2007)日本第四紀学会講演要旨集37,38-39.田村ほか(2010)地質雑,116,360-373.Tamura et al. (2016)Geo.Rep.of TMU.51,41-51.田村ほか(2019a)地質雑,125,23-39.田村ほか(2019b)日本第四紀学会講演要旨集49,52p.

  • 鈴木 毅彦
    セッションID: S1-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    はじめに

     国内最大の平野である関東平野は,かつての海域(一部は深海域)が堆積と隆起により陸地に至った地域といえる.関東平野に先立つこの海域の一部は,海溝の陸側に発達する前弧海盆と考えられており,その凹地地形は上総トラフとよばれ海成層を主体とする堆積物により埋積されている(貝塚ほか,2000).上総トラフを埋積した堆積物のうち第四紀に堆積したものは下位から上総層群,下総層群,段丘構成層,沖積層などである.上総層群・下総層群の堆積期間は第四紀の大半を占め,関東平野の陸化過程を復元する上で必要な情報を多く含む.

     上総層群のおおよそ分布・構造・年代・堆積環境は明らかにされている.しかし各地地下に分布する上総層群の深度と年代,堆積環境については未解明な部分が多い.上総層群には年代を知る手がかりとなるテフラが多く含まれ,堆積環境を復元する微化石も含まれている.これらにより前弧海盆から平野への地形変化過程を詳細に復元することができる.本講演ではこうした研究をレビューし,関連する新たなデータを紹介する.

    上総層群の類型化

     関東における海域から陸域への地形変化過程を整理する上で上総層群を層相に基づき類型化することが役立つ(多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会,2020).類型化はそれらの多くが揃う関東西部での模式的な累層名などから,友田層型,加住層型,北多摩層型,小山田層型,段丘礫層型に整理できる.この類型化は堆積環境に対応しており,地域や時代によるその変化は各地域の古地理変遷を反映している.友田層型,加住層型,段丘礫層型は陸成層からなり,友田層型は泥炭質シルトや角礫を含むシルト・砂の互層であり,局所的な分布を示す.加住層型・段丘礫層型は網状流河川により運搬された礫質堆積物からなり,堆積時に扇状地を出現させたと考えられる.

     これに対し北多摩層型,小山田層型は主体が海成層からなる.北多摩層型の典型例は,北多摩層(東京都土木技術研究所,1996)とよばれるシルト層を主体とした堆積物で,堆積環境は外洋性から半深海性と解釈されている.北多摩層型堆積時の水深は氷河性海面変動幅よりも深いために継続的に海域であった.小山田層型は礫層,泥層,砂層からなる堆積物であり多摩丘陵西部において6 サイクルが存在し,氷河性海面変動の影響を受けて形成されたことが示されている(高野,1994).小山田層型の層相変化は氷河性海面変動により陸域(礫層堆積時)と海域(泥層,砂層堆積時)が交互に出現したことを示しており,相対的な高海面期には大陸棚であった地形環境が推定される.

    海域から陸域への地形変化過程

     前弧海盆から平野への変化過程を示すもっとも単純な図式は,北多摩層型→小山田層型→段丘礫層型への変化である.房総半島中部の上総層群が北多摩層型,下総層群が小山田層型に相当するのは同地域が外洋性~半深海性から陸棚環境に変化してきたことを示す.こうした変化は前弧海盆における堆積の進行や隆起で説明できる.一方で小山田層型の存在,とくに地下に小山田層型の累重が見られる場合,沈降運動が継続してきたことを示唆し,長期にわたる地殻変動を復元する上で欠かせない.房総半島中部を除くと,小山田層型は多摩丘陵西部に加えて,東京西部の立川・狭山丘陵付近でおよそ2.0 Ma~1.4 Ma頃まで形成されたと考えられる.この小山田層型の出現年代は西方ほど古く東方ほど新しい傾向にあり,その傾向は房総半島に続く.講演ではその中間域にあたる武蔵野台地北東部から東京低地にかけてのデータを紹介する.

     ところで納谷ほか(2017)によれば埼玉県北東部地下では小山田層型を示すと考えられるサイクリックな堆積物が地下に厚く伏在し,その年代は少なくとも1.6 Ma以降最終間氷期最盛期MIS 5e 堆積物まで累重するとされた.MIS 5e海成面の高度は関東平野中央部の埼玉県北東部付近で海成層上面高度が10 ~20 m(小池・町田,2001)であり関東平野でもっとも低く,小山田層型累重傾向にあることに調和的である.一方でMIS 5e海成面がプラスであることは既に隆起傾向に転じており,関東平野全域において小山田層型,すなわち沈降域が消滅していることを示唆するのかもしれない.

    引用文献:貝塚ほか(2000)日本の地形4関東・伊豆小笠原,東大出版会.多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会(2020) 同プロジェクト報告書.東京都土木技術研究所(1996)東京都(区部)大深度地下地盤図 —東京都地質図集6—.高野 (1994) 地質学雑誌, 100, 675-691.納谷ほか(2017)地質学雑誌,123,637-652.小池・町田(2001)日本の海成段丘アトラス,東大出版会.

  • 中山 俊雄
    セッションID: S1-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    「かだいおうち」(鹿児島大理学部地球科学HP)に、応用地質と純粋地質学の関係を樹木に例え、応用地質学は根・幹であり、純粋地質学は葉である、「幹なくして葉無く、葉茂らずして幹成長することなし」とある。 東京での応用地質の課題は、都市の発展とともに大きく変化してきた。このうち応用地質の課題として①地盤地質、②資源地質、③防災地質を歴史的背景を踏まえ取り上げ、純粋地質学、地質学との関わりを考える。 1)地盤地質:明治21年に農商務省地質局技官鈴木敏により「東京地質図説明書」が作 成された。ここでは「都下の地質を査定し、もって、地下に包蔵せられる応用物料の適否を弁じ、その地質と水脈、衛生、地震等との関係を説くにあり」とあり、その応用地質課題を取り上げている。一方、明治政府にとって帝都にふさわしい皇居(明治宮殿)造営計画があり、ジョサイヤ ゴルドンに地盤調査(地耐力試験)を依頼しいる。その後、鹿鳴館(明治16 :1883)、三菱1号館(明治27:1894)、東京駅舎(大正4:1914)などが次々と建設されるなか、地盤(特に軟弱地盤)への関心が、建築家(造家)の中に高まり、関東大震災後の昭和4年の「東京及び横濱の地質」(復興局建築部)の刊行に繫がる。この報告書で、初めて沖積低地の地下地質が取り上げられた。この地盤調査の流れは更に「東京地盤図」(1959:東京地盤調査研究会)に引き継がれ、地質調査資料、3421本のボーリング柱状図をもとに、区部の地質図・地盤断面図・礫層分布図などとともに地盤の地質・土質力学特性質・構造物の基礎など、地層と土質の関係がまとめられた。 1959年新潟地震を契機に、地震被害想定のための地盤図が求められ、東京都土木技術研究所は、地盤を1㎞メッシュで示した区部地盤地質図(1969)を作成している。ここでは沖積層細分化が行われている。この沖積層の細分化は、その後の堆積学の進展とともに、新たな沖積層問題の進展を促した。また、上記、地盤地質図を契機に、地盤盤調査のデータベース化が進み、地盤図の精度向上や地震被害想定のための地震動予測図、液状化予測図などの課題図の作成や3次元都市地盤図(産総研)へと発展している 2)資源地質:関東構造盆地には良好な地下水帯水層があり、また天然ガスを賦存するこ が知られている。明治末から始まる都市部での工業生産の高まりとともに、工業用水として地下水の大量くみ上げが始まり、終戦時の一時を除き、戦前・戦後に大量の地下水揚水が行われ、地盤沈下が進行した。また、戦後のエネルギー事情を反映し、水溶性天然ガスの採取も始まり、地盤沈下の一層の加速を促した。東京都は地盤沈下の機構解明と地下水位の監視のために、都内42地点で深度100から1000mの深層ボーリングを行い、地盤沈下観測所を設置した。この調査をもとに、地下水揚水規制、水溶性天然ガス採取の禁止をおこない、地盤沈下を止めることに成功した。一方、これら調査により、都内の深部の地質構造を明らかにした。これら調査ボーリング資料は、その後の火山灰層序学の進展を背景に、都立大グループにより調査研究がすすめられ、より精緻な地質構造が再現されつつある。 防災地質:1995年兵庫県南部地震を契機に、防災科技研では高感度地震観測整備のための深層位観測井の設置が進められ。都内にも府中と江東区に基盤(先第三系)に達する深層ボーリングが行われた。また、東京都も地震研究推進本部からの委託研究として、東西・南北測線で反射法地震探査を実施、合わせて微動アレー探査も行っている。これら資料をもとに、都内の地震基盤までの地下構造だけでなく、関東平野地下の全体の地質構造解明が進みつつある。  応用地質の課題を進める中で、東京(関東)の地下地質構造が明らかにされてきた。 「応用地質と純粋地質学との関係」、振り返ると共に順調に成長した木のように思えるが、それとも筆者の気のせいか? これまでの応用地質の課題が、災害を契機に押し進めれらえてきたことも気になる点である。先を読む課題の提起が必要である。来年は関東地震から100年を迎える。応用地質、特に防災地質への取り組みへの強化が課題である。その一つは、成果の普及活動である。住民の各種ハザードパップへの理解への支援である。3次元地盤図1)はその取り組みの一つになるのではと期待している。  参考文献  1 産業技術研究所 地質調査総合センター(1921):都市域の地質地盤図「東京都区部」

S2.人新世における地質学:年代境界・物質境界研究のフロンティア
  • 川幡 穂高
    セッションID: S2-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    人類は現在78億人となり,地球の隅々までホモ・サピエンスであふれるようになった.人類は地球上のバイオマス量のわずか0.01%を占めるのみだが,人工物を作り続けてきた.その結果,その総重量は2020年に地球上のバイオマス総重量を超えた.20年後には倍になると推定されている.

     地球表層環境システムには緩衝機能が備わっている.しかし,人間活動がその閾値に近づいたために,その機能が発揮できない場面が顕著になりつつある.その代表的事例が人為起源の二酸化炭素放出に伴う「双子の悪魔」と呼ばれる脅威である.これまで地球表層環境に放出された人為起源二酸化炭素の約70%が大気中に残存し地球温暖化がもたらされ,約30%が海水中に吸収され,今世紀後半に海洋酸性化が顕在化する見通しである.すなわち,大気中の二酸化炭素濃度(pCO2)が>550ppmとなると炭酸塩に不飽和の海水が極域に出現し,同海域の生物起源炭酸塩が溶解する事態となる.

     一方,白亜紀のpCO2は現在の2倍以上の>1,000ppmであったが,フランスやイタリアや世界の大洋で,石灰岩が大量に堆積した.この事実はpCO2が海洋酸性化の第一要因でないことを示している.陸地の風化によるアルカリ度の供給による「海水の中和」は地球環境の代表的緩衝機能である (Yamamura et al., 2007).しかし,これが機能するには数十万年以上の持続時間が必要となる.

     逆に,5500万年前の暁新世/始新世(P/E)境界には深刻な海洋酸性化が起こり,深海底に生息する底棲有孔虫の約半分が絶滅した.原因は,メタンハイドレートの大規模崩壊の可能性が高い.大気中でも海水中でも酸素存在下ではメタンは数年以内に二酸化炭素となる.当時のハイドレート崩壊は約1万年間継続し,大量の二酸化炭素が地球表層環境に放出された.この二酸化炭素流量は現代の人為起源の放出速度の1/30程度だったので,当時の1万年間は現代の300年間に相当する.

     P/E境界や現代(人新世)の場合には,二酸化炭素が環境に放出される流量があまりに高いので,大陸の化学風化で海水を中和できない.地球惑星科学の観点より考察すると,海洋酸性化の最重要支配因子は高pCO2ではなく,環境変化速度であると結論できる.「現代の地球環境の最大の問題は速すぎる変化速度である」と一般化できる事象が他にもある.

     今後の酸性化の推定をわかりやすく理解するために,P/E境界の堆積物カラムに将来の推定状況を対比して示す(図参照).2050年前後に南極や北極海域の一部に炭酸塩に不飽和の海水が出現する.これらの海水は密度が高いので2100年に深海に沈みこみ,海底の堆積物の溶解が始まる.太平洋では,底層水は北進し,炭酸塩の溶解が進行する.「カーボンニュートラル2050」が実施されても,途上国での化石燃料は増大し,2050年には現在より消費が増加するという現実的で説得力のある予測がある.海洋酸性化は,脱炭素社会が確立されれば,炭酸塩含有量が低下するものの図中の薄茶色の状態で停止する.しかし,脱炭素化に失敗すれば,炭酸塩はすべて溶解し,堆積物は暗黒色の状態に到達する.

     IPCCによれば,現在より平均気温がさらに0.9℃上昇すると,2100年にはサンゴ礁生態系の99%が地球上より消失する.人新世の環境は人類にとって初体験なので,人新世の社会がどこに向かうのかを予測することは難しい.研究者はその専門性を生かして,さまざまな条件に対応して未来を推定することができる.国民あるいは全人類が最終判断をくだす時に役立つよう,その推定シナリオを社会に提示することが研究者の使命と考える.

    引用文献:Yamamura, M. et al. (2007) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 254, 477-491.

    Kawahata, H. et al. (2015) Island Arc, doi:10.1111/iar.12106.

    川幡穂高(2022)学術の動向,27巻2,26-30.

  • 西 弘嗣
    セッションID: S2-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    地球環境の問題は,既に20世紀中盤から大きな社会問題として取り上げられ,1972年にはローマ・クラブから「成長の限界」の報告書が公表された.この報告では,今後人口増加や環境汚染などの傾向が続けば,100年以内に地球上の成長は限界に達するというのがその内容であり,残すところ50年あまりでこの報告の結論が出る時代になってきた.その後も森林破壊,異常気象,オゾンホールの破壊などの問題が次々に取り上げられ,世界全体で取り組まないとこれらの問題が解決できない状況となっている.そのため,国連はミレニアム開発目標(MDGs,2000年9月)や SDGs(持続可能な開発目標,2015年9月)と国際的な目標を続けて提案した.このうちSDGsは国連サミットで採択され,国連加盟193ヶ国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標で,17の大きな目標とそれらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されている.日本の産業界でもSDGsを念頭におき,経営に取り込む方針を打ち出す企業も多くなっている. 一方,学術研究は幅広い知的創造の活動で,真理の探究という知的欲求に根ざし,新しい法則や原理の発見,新しい知識や技術の体系化、先端的な学問分野の開拓などを目指すものである.そこから生まれる学術研究の成果は,人類の知的共有財産として文化の知的側面を形成するとともに,応用化や技術化を通して日常生活を豊かにする役割を果たし,人類社会の発展の基盤を形成するものと提言されている.すなわち,学術研究は真理や技術の探究だけではなく,その専門的な知識と研究成果を社会の繁栄に寄与させることを常に意識しておくことが責務であり,学術研究に対する社会的要請の中から研究課題を新たに見出し,貢献を積極的に果たせるようにすることが必要である.そのため,学術会議でもSDGsやゼロ・カーボンのような国際的な社会問題に対する発信や貢献が強く求められている. 地質学は災害,資源,環境の分野に広く関連し,社会の基盤を支える分野である.特に日本では変動帯やモンスーン気候下にあり,平野が少なく山地が多い地形であるため,多くの災害が引き起こされてきた.そのため自然災害に関しては,これまで多くの重要な社会貢献を果たしてきたといえる.一方,その時間概念の長さから工学や農学の分野に比べると,災害関連以外の分野における地質学の貢献への社会の理解が弱かったように思われる.また,フューチャーアースやIPCCといった国際プロジェクトは常に文理融合を基礎にして行われるようになっており,自然界を探る学術研究も社会科学との結びつきを意識しないと受け入れられない時代になってきた.今回,「人新世」という時間尺度が議論されるようになったのも,産業革命以後の約200年間に人類がもたらした森林破壊や気候変動の影響はあまりに大きく,人類社会が第四紀以降という地球史の括りでは足りないという学術的な認識が強くなってきたためである.地球温暖化の問題も,人類がかつてのシアノバクテリアのように大きく地球環境の改変を劇的に行っているという認識と,その改変が我々の生活を阻害するような環境への改悪を引き起こすという懸念からであろう.持続可能という言葉には,未来の人類のカタストロフィを起こしたくないという願いが込められている.われわれ地質学者も社会の要請や期待を強く意識し,それに対応できる学問体制を作らなければならない時代に来ている.そのためにも,「人新世」の問題にも関与する必要性は大きいのではないだろうか.また,近年,学術界は文理融合の方針が大きく打ち出されている.「人新世」は,フューチャーアースと同様にわれわれ地質学が文理融合で議論できる課題であることも重要な点であると思われる.

    文献:ドネラ H. メドウス, 1972,成長の限界ーローマクラブ「人類の危機」レポート,ダイヤモンド社

  • 後藤 和久
    セッションID: S2-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    地球科学的には,災害は大気圏や海洋圏等で発生した自然現象が,人間圏の一部または全体に及ぼす影響と捉えることができる.そのため,明確に定義されているわけではないものの,災害研究の対象は本質的には人間圏の成立以降に限られる.

    災害を議論する際に,英語ではハザード(hazard:災害を引き起こしうる自然現象を指し,その大きさを外力とも呼ぶ)とディザスター(disaster:ハザードが発生した結果として生じる被害(災害))を使い分けるが,日本語ではこのような明確な用語の区別はない.ハザードの理解は災害研究の根幹をなしており,過去の事象の理解が不可欠であるから,歴史学や考古学等とともに地質学が大きく貢献できる部分である.災害研究の主たる対象範囲が人間圏の成立以降だとしても,ハザードはそれ以前から地球史を通じて繰り返し発生しており,将来にわたって発生する可能性もあることから,地質時代にまで遡ってハザードの理解を深めることが重要である.一方でディザスターは,ハザードの規模だけではなく,それを受ける人間社会の脆弱性も考慮する必要がある.ハザード自体の発生は制御できなくても,対象となるハザードを適切に理解して対策を講じ,人間社会の側の脆弱性を低減させることができれば全体の被害を軽減できる.ここに,工学や社会学あるいは行政の役割がある.

    ここで防災の考え方をもう少し深めたい.ハザードは,一般的には規模が大きいものほど発生頻度は低くなる.河田(2003)によれば,ある規模・頻度のハザードを計画外力として防災上は設定し,それに対しては被害抑止を目的とした様々な施策が講じられる.しかしながら,それを上回る規模のハザードの発生は低頻度ながら否定できず,これらに対しては防災教育等を行って被害軽減を図ることになる.ただし,それをも上回る巨大ハザードが発生する可能性も否定できず,河田(2003)はこれを“防災の限界”としている.このように,防災の観点からは小規模かつ高頻度のハザードの側に基点が定められ,段階を追って対応策が定められる.そして,ハザードに対し,いくつかの境界線を設定することで,防災が成り立っていることがわかる.さて,この考え方で問題となるのは,どの規模のハザードまでを想定し,対策の対象とするのかという点である.特に2011年東日本大震災以降,計画外力や防災の限界と考えていたハザード規模の設定を全体的に引き上げる動きがみられる.ただし,どのような種類と規模のハザードが,どの程度の確率で起きうるのかを高い精度で把握できているとは言いがたく,また “防災の限界”として扱うハザード規模についてもコンセンサスが得られているわけでもない.ここに,地質学が担うべき役割があると考えている.

    地質学は,地球史の全体像を数億年や数千万年など様々に時間スケールを変化させて把握しつつ,特定の気候・環境変動やイベントに注目して,さらに時間・空間解像度を高めて事象をより詳しく理解しようとする.これは,高頻度から低頻度の順にハザードを評価する防災的思考とは逆の考え方とも言える.全球凍結や巨大隕石衝突等,一般には防災の対象としないような超巨大かつ低頻度のハザードを含む,地球上で起きうるあらゆる規模・頻度のハザードを認識できる可能性があることは,災害研究における地質学の強みであると言える.そのため,近い将来に現実的に起きうるハザードを含め規模・頻度ともに高精度で予測することで,防災対策にも大きく貢献できると考えられる.ただし,高精度の予測が十分に行えているとは言いがたく,さらなる知見の集積や技術開発が不可欠である.

    引用

    河田惠昭:防災学講座,第4巻,40(2003)

  • 益田 晴恵, 中尾 正喜, 中曽 康壽, 崔 林日, 三原 伸治, 橋本 浩一
    セッションID: S2-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    地中熱は環境負荷の少ない再生可能熱エネルギーである。中でも、地下水を熱媒体として用い、大規模化が可能であるATES(帯水層蓄熱: Aquifer Thermal Energy Storage)は、欧米で先行して普及している1)。一方で、国内では、エネルギー対策への効果が大きいと期待される大都市の多くが、地盤沈下対策のために地下水利用が制限されている海岸平野に立地するため、普及が進まない。ATESでは、冬期に冷却された地下水を夏期の冷房に用い、加温・還水された地下水を冬期の暖房に用いるという循環型の使用(オープンループ)が一般的である。この循環を効率よく行うためには、1)熱循環の観点からは、停滞的な地下水域であることが好ましく、2)井戸管理の観点からは、目詰まり事故を誘発する流量や水質変化が起こらないことが好ましい。私たちは、これら2点を水質の観点から評価する方法を確立するために、大阪市と神戸市の沿岸部に設置された施設において、継続的に水質分析を行ってきた。本報告では、それらの結果に基づいて、ATES運用における水質監視の重要性を紹介したい。

     大阪市(舞洲の公共施設)では、Dg-2(第2被圧帯水層)とDg-3(第3被圧帯水層)を貫き、パッカーで遮水した井戸(熱源井A・B)を用いてATESを設置した。ATESは2020年5月に冷房用として供用が開始された。10月から2ヶ月間の休止期間を置いて、12月23日に暖房を開始した。この時、Dg-3の地下水は熱源井Aで揚水し熱源井Bに還水、Dg-2の地下水を熱源井Bで揚水し熱源井Aに還水していたが、2021年2月9日に熱源井AのDg-2のストレーナー部分に目詰まりが発生した。事故前後で、酸化還元電位・溶存酸素・溶存鉄濃度のみに変化が見られたことから、大気が配管に流入することによって、井戸と配管内部が一時的に好気的環境となり、溶存鉄が酸化・沈澱したことが明らかであった。また、目詰まり事故発生の2週間前には沈殿が始まっていたと推定された。さらに、この事故に伴って、熱源井A内部でDg-2の地下水がDg-3へ流入し、本来は淡水であったDg-3の地下水に高濃度の塩水(海水の10分の1程度)が混入することとなった。事故後は井戸を使用しない状態で放置し、7月27日に採水・水質分析を行ったところ、井戸〜配管で還元反応が進行し、目詰まり状況が改善されていた。そのことから、冷房運転を開始した。井戸内部での還元反応はその後も進行し、10月には鉄は溶解して沈澱は見られなくなった。以上のことから、井戸と配管を大気と遮断して放置しておくことで、自然的に還元状態が回復したことが明らかであった。特に、夏期の気温上昇に伴って配管内の生物活動が活発化することにより還元反応が促進されたと推定された。停滞的かつ還元的な状態で溶存鉄を多く含む水質の地下水を用いたATESでは、還元的環境を保つことが、井戸運用では必須である。また、水質の異なる複数の帯水層を貫く井戸を用いる場合には、地下水混合が起こらないように十分配慮しなければならない。

     神戸市に設置されたATESでは、Dg-2の地下水を冷暖房に用いている。運用開始後3年以上経過するが、目詰まり事故は発生していない。しかし、地下水水質の季節変動が観測されており、春期に酸水酸化鉄の安定領域近くまで酸化還元電位が上昇する現象が観察される。この時、わずかではあるが、地下水中に懸濁物が観察される。塩化物イオン濃度の変動も伴うことから、帯水層内で異なる水質を持つ2種類の地下水が自然的要因によって混合割合を変えて井戸内に流入することを示している。このことは、帯水層に貯留した熱が自然的に失われる可能性があることを示唆している。水質分析結果から、熱エネルギーの損失が許容範囲を評価できる可能性がある。

     地中熱利用において、地下水質は軽視されがちであるが、ATES施設の適正管理の一環として水質監視を運用開始前から行うことが望ましい。ATES設置による環境影響評価に関する研究は少ない2)。しかし、遠隔地や近隣の異なる帯水層への環境影響評価の観点からも水質監視をすることが望まれる。

    引用文献: 1) Fleuchaus, P., et al, 2018. Renewable and Sustainable Energy Reviews 94, 861–876; 2) Sommer, W.T., et al., 2014. Hydrogeol J 22, 263–279.

  • 安原 盛明
    セッションID: S2-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    海洋における人新世の気候変動の影響は陸域における暴風雨や山火事のようにはっきりとは目に付かないかもしれない.しかし,海水の温度,酸性度,酸素含有量の少しの変化が海洋生物に大きな影響を与えうる.種によっては移動することによってこのような変化に対応するが,移動能力の低い生物は変化に適応するかさもなければ絶滅する.このような異なる気候変動への対応を無数の種がとることにより近い将来,例えば数世紀先,の生物群集・生物多様性の構造が決定される.しかし,断片的な歴史資料や長くとも20年程度に限られる生物学的なモニタリングからこのような過去,現在,未来の生物多様性・生物群集構造の趨勢や気候変動との関わりを理解することは非常に難しい.そこで,一つのアプローチとして,堆積物コア中の化石記録を過去の生態系を見,将来に備えるための「タイムマシーン」として使うことが挙げられる (Yasuhara et al., 2020a; Yasuhara and Deutsch, 2022).このような方向性の研究を生物学的な観測データ・研究と比較することにより,海洋の温暖化がドミノ効果的な種の高緯度方向への移動を引き起こしていることがわかってきた.つまり,海洋温暖化と溶存酸素量の低下により,熱帯域の種は過剰な高水温とそれに伴う低酸素環境を避け中緯度域に移動し,中緯度域の種はさらに高緯度に移動する,そして極域の種は逃げ場がなく絶滅するかもしれない (Yasuhara and Deutsch, 2022).この結果,熱帯域の多様性は低下し,中緯度域にピークを持つ二峰性の多様性の緯度勾配が発達する (Yasuhara et al., 2020b).極域の多様性は低緯度域からの種の流入によって高められるが,極域の固有種は高い絶滅リスクにさらされる.このような大規模な生物多様性・群集構造の再編成はすでに最終氷期以降の温暖化期,つまり,産業革命以前から始まっており,人新世の二酸化炭素排出により加速している.熱帯域の海水温は現在すでに海洋生物にとって高すぎるレベルにあり,熱帯域の種多様性の低下が生物学的な観測データからもすでに検出されている.近い将来のさらなる人為的温暖化は熱帯の生物多様性をかつて過去数百万年間無かったレベルまで低下させるかもしれない (Yasuhara et al., 2020b).

    参考文献

    Yasuhara, M., Huang, H.-H.M.§, Hull, P., Rillo, M.C., Condamine, F.L., Tittensor, D.P., Kučera, M., Costello, M.J., Finnegan, S., O’Dea, A., Hong, Y., Bonebrake, T.C., McKenzie, N.R., Doi, H., Wei, C.-L., Kubota, Y., Saupe, E.E., 2020a. Time machine biology: Cross-timescale integration of ecology, evolution, and oceanography. Oceanography: 33(2), 16–28.

    Yasuhara, M., Wei, C.-L., Kucera, M., Costello, M.J., Tittensor, D.P., Kiessling, W., Bonebrake, T.C., Tabor, C.R., Feng, R., Baselga, A., Kretschmer, K., Kusumoto, B., Kubota, Y., 2020b. Past and future decline of tropical pelagic biodiversity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America: 117, 12891–12896.

    Yasuhara, M., Deutsch, C. A., 2022. Paleobiology provides glimpses of future ocean: Fossil records from tropical oceans predict biodiversity loss in a warmer world. Science: 375 (6576), 25–26.

  • 黒柳 あずみ
    セッションID: S2-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    人類活動起源による大気中の二酸化炭素濃度の増大により,海洋酸性化が急激に進行している.産業革命以降,pHは既に0.1以上低下しており,今世紀末までに海水pHは現在の8.05 (SWS)から8.0 (SSP1)〜7.7 (SSP5) 以下まで減少することが予想されている(IPCC, 2021).この海水のpH低下により,炭酸カルシウムの飽和度が減少するため,海洋の炭素固定を担う石灰化生物にとって,多大な脅威となることが様々な研究結果より指摘されている(Kawahata et al., 2019).さらに,温暖化による海水温上昇により,共生藻の光合成が阻害されるなど,その影響はさらに加速されることが予想される(Kroeker et al., 2013).

    地質学において有孔虫は,年代決定に用いられるとともに,炭酸塩の殻に生息当時の環境を記録するため,環境推定にも広く用いられている.現在の海洋において,浮遊性有孔虫は外洋炭酸塩生産の23-56%,海洋表層から海底への炭素フラックスの32−80%を担う(Schiebel, 2002).そのため,有孔虫の炭酸塩殻生産量が環境によりどのように変化するのかを検証することは,将来の地球上の炭素循環や炭素収支を考える上で,重要である.

    将来の海洋酸性化が有孔虫の炭酸塩殻形成に及ぼす影響を検証するため,サンゴ礁棲大型底生有孔虫を異なるpH環境下で10週間飼育した.飼育に用いたのは,無性生殖後のAmphisorus kudakajimensisの122個体で,アラゴナイトより溶解しやすいHigh-Mg calciteの殻を形成する.飼育の結果,検証された pH 7.7– 8.3 (NBS scale) の範囲では、石灰化率は、pHの減少とともに低下する傾向を示した.よって産業革命以降,自然界では既に有孔虫石灰化量が減少していることを示唆している.一方で,pH 7.9 (pH 7.74, SWS) までの範囲であれば,現在の石灰化レベルを維持可能であるが,日常的にpH 7.7 (pH 7.54, SWS)付近まで下降した場合には、サンゴ礁域の大型底生有孔虫にとって大きな打撃を受けることになる可能性が大きい(Kuroyanagi et al., 2009).炭酸塩殻への詳細な影響についてさらに検証するため,マイクロX線CTを用いて,1µm以下の解像度で前述の有孔虫殻の体積を測定した.その結果,pHの減少に伴い,有孔虫殻の体積および密度の両方が減少していることが明らかになった.つまり,pHが 7.7 (NBS scale)まで減少した場合,体積と密度はそれぞれ35%および15%減少し,殻重量としては45%と半減することが明らかとなった(Kuroyanagi et al., 2021).また前述の通り,海洋酸性化とともに海洋温暖化も重要な懸念事項となっている.将来の水温上昇への影響を検証するため,水温を変化させた飼育実験では,殻の体積は変化する一方で,密度は変化しないことが明らかとなった(Kinoshita et al., 2021).飼育水温が,最適水温である25°Cから,29°Cへ上昇すると大型底生有孔虫Sorites orbiculusの殻重量は28%低下した.以上から,IPCCのSSP5では,海洋酸性化と温暖化により,世界の海洋の中で最も感受性の低いとされる熱帯域でも,今世紀末にはサンゴ礁有孔虫の炭酸塩生産量(現在の年間炭酸塩生産量; 4300万トン)に大きな影響を与えることが示唆される.これらの飼育実験結果に加え,地質時代のPETMのような,急激な海洋酸性化や温暖化の時期に起きた生物応答は,これからの地球環境予測の貴重な判断材料となる.地質学的データを基に,今後の地球環境変遷についての考察を深めていくことが期待される.

    References

    Kawahata et al.(2019) Prog Earth Planet Sci. 6, 5

    Kinoshita et al.(2021) Mar. Micropaleontol. 163, 101960

    Kroeker et al. (2010) Ecology Letters 13,1419–1434

    Kuroyanagi. et al. (2009) Mar. Micropaleontol. 73, 190–195

    Kuroyanagi et al. (2021) Scientific Reports 11, 19988

    Schiebel (2002) Global Biogeochemical Cycles 16, 1065

  • 磯崎 行雄
    セッションID: S2-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    地質学は、地球に産する多様な岩石や地層の記載と分類を基礎として発展してきた。特に岩石・地層・化石などの物質研究を通して、さまざまな地質単元が識別され、異なる単元の間の境界が注視されてきた。とくに、断層、不整合、あるいはマグマの貫入面などの明瞭な物質境界についてその形成過程が考察され、基本的な地質学的概念が導かれた。これらは「相接する花崗岩と礫岩との境界」という単純な記載以上に、各々の物質境界に新たな科学的意義を付加された古典的例である。さらに、より広い時空間の理解のためにさまざまな地質学的な抽象概念が認識されるようになり、地質年代の区分や古生物地理区の識別のために境界が想定され、また造山運動という長時間に及ぶ地質過程についても空間的な境界や変動時階の時間的な境界が議論されるようになった。このように地球表層に産する様々な物質単元とそれらに由来する抽象概念について、地質学者は200年以上研究し続けてきたわけだが、常に「境界」の認識とその意義付けに異常な注目を注いできたと言えなくもない。 基本的に200年前から同じ場所にはほぼ同じ岩石・地層が分布するが、最近の半世紀には、ほぼ全ての岩石・地層がプレートテクトニクス的視点から記述、分類、そして説明されている。特に近年では目覚ましい技術革新の恩恵のもと、かつては観察不能だったミクロあるいはマクロの世界の詳細が詳らかになり、地質学者に認識できる時空間が大きく拡大した。「境界」認識における時間・空間分解能や記述精度の飛躍的な向上は目覚ましい。さらに、研究対象は地球以外にも及ぶようになり、月や隕石はもとより、火星や金星、さらに太陽系外の惑星もが地質学の研究対象とみなされるに至った。 このような大変化が起きている現在においても、「境界」研究が地質学において重要であることに変わりはない。特に、肉眼で見え、また指し示しせる具体的な「物質境界」のみならず、視覚では認識できない抽象概念においても「境界」の認識と定義が不可欠で、結局それらがこれまでの研究においても新たな探索の契機となってきたように思われる。地質学における境界認識・解釈は多くの研究者にとって、古くて新しい重要な問題であると言えるだろう。今回のシンポジウムでは、ご招待した多方面・多分野の俊英達によって最先端研究課題における「境界」問題についての話題が提供され、鋭い議論がなされることを期待する。 演者自身が関わった「境界」研究の対象を整理してみると、層状チャート中のコノドント化石帯境界に始まり、異なる付加体間(地体構造)の境界、古海洋の遠洋深海でのredox境界、古海洋での炭素固定モードの境界、古地磁気の逆転パタンの境界、堆積盆地の後背地変遷の境界、大量絶滅原因の階層性、東アジアの地体区分などなど、多様な事象について固有の難問に悩み続けてきた記憶がよみがえる。それでも、難問山積みの「境界」問題にこそ地質学の醍醐味があると考えたい。

  • 澤木 佑介
    セッションID: S2-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    花崗岩は惑星地球を特徴づける岩石の一つであり、その成因を明らかにするために数多の研究が為されてきた。上部大陸地殻は概ね花崗岩質であるとされるが、大陸形成史の解明において砕屑性ジルコンが2000年代以降注目を集めている。砂岩中に含まれる砕屑性ジルコンの大半は花崗岩由来であり、その年代頻度分布から、過去には花崗岩形成時期にいくつかのピークがある事が明らかになってきた(Rino et al., 2008)。これに加えて、ジルコンを供給した母岩組成などに関する情報も得る事ができれば、大陸形成史の理解がさらに深まると期待できる。花崗岩を分類する方法は多々あるが、本研究では花崗岩をI-, S-, M-, A-型に分類する方法に着目し、各型に含まれるジルコンの化学組成を調べ、母岩の違いを反映する元素の特定を行い、ジルコンの母岩推定図の作成を試みている。この判別図を作成するにあたって、2度の境界問題に直面する。1度目は母岩をどのような基準に沿ってI-, S-, M-, A型に分けるかであり、2度目は得られたデータから判別図を作成する際、どこに境界を引くかである。  最初に提案されたI-, S型は、オーストラリア・ラクラン褶曲帯に露出する花崗岩のうち、堆積岩の寄与が少ないものと多いものに対して使われたのがその始まりである(Chappell and White, 1974; White and Chappell, 1977)。その中では花崗岩の構成鉱物(Ca角閃石―白雲母)、Na濃度, Al濃度、Sr同位体比や捕獲岩等が分類時に重視され、これを多くの研究者が他の岩体にも適用した。その際、両型にまたがる性質を示す花崗岩も存在し、その都度分類指標の見直しが繰り返され(Chappell and White, 2001)、一般化されたような印象を受ける。1979年にM-, A型が追加された(Loisell & Wones, 1979; White, 1979)後も、各型の特徴は洗練されつつあるものの、一つの花崗岩が複数の型の性質を示してしまう問題は解消されていない。そのような状況下において、本研究ではアルカリ岩をA型に分類し、非アルカリ岩をSr同位体比に基づいてM-, I-, S型に分類した。その際重視したことは結晶分化による影響を受けにくい指標である。

     上記分類に基づいてジルコンの化学組成を眺めた時、NbもしくはTaとCe濃度に基づいて、上記4型中のジルコンが上手くわかれる事が明らかになった。想定されるメカニズムは以下のとおりである。A型ではマグマ中でのジルコン晶出が早いために、上記元素が他の鉱物に吸収される前にジルコンに分配されるために濃度が高くなる。反対にS型ではマグマ中でのジルコン晶出が遅く、先に上記元素が他の副次鉱物に吸収されてしまうためにジルコン中濃度が低くなる。M-, I型中のジルコンはA型と S型の中間に位置する。M型とI型で若干のNb及びTa濃度に違いが見られ、それは母岩が取り込んだ堆積岩量を反映していると思われる。メカニズムが想定されつつも互いに領域が重複している部分も存在し、明確な境界線を引くことは難しい。現状は確立頻度分布を用いて統計学的に境界を引いているがその妥当性については再検討の余地が残る。

     境界を定めるとき、数字で分けるのが簡便であって、分ける事自体には議論の余地はさほどなくなるが、数値そのものにそれほどの意味を込められない事が多い。一方であまりに意味を持たせた境界を用いると、その適用範囲に対して議論の余地が生じる。いつ何時も使える完璧な境界は存在しないため、その時々の目的に応じた使い分けが大事だと思われる。

    [引用文献] Rino et al., (2008) Gondwana Research, 14(1-2), 51-72. Chappell and White, (1974) Pacif. Geol., 8, 173-174. White and Chappell, (1977) Tectonophysics, 43(1-2), 7-22. Chappell and White, (2001) Australian journal of earth sciences, 48(4), 489-499. Loisell & Wones, (1979) GSA Abstracts with Programs, 11, 468. White, (1979) GSA Abstracts with Programs, 11, 539.

  • 辻森 樹
    セッションID: S2-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    「地質学は物質境界、時間境界、さらに抽象概念としての境界など多様な境界の認定とその意味を考察してきた学問分野である」 ——— 変成岩と変成帯、そして変成作用を取り扱う研究者の多くも、多様な物質境界と時間境界の解釈に明け暮れてきたのかもしれない。例えば、古典的な変成岩岩石学のアイソグラッドの概念は、変成帯に記録された見かけの温度構造の地理空間情報の視覚的な表現の1つである。高圧変成帯ではアイソグラッドの情報を元に、スラブ深部の物質の熱構造が議論されてきた。また、変成岩の年代と構造の大きな不連続性は変成帯の境界を定義し、造山帯の発達機構と造山運動サイクルを解釈するための1つの重要な標識の役割を果たしてきた。地理空間のなかで明瞭な境界線を認定することではじめて、変成帯の研究がプレート収束域の様々な物理現象について地質学的制約条件を与えることに役に立ってきたといえる。ところが、変成作用に関するさまざまな境界は、時間と空間スケールの問題を無視することができない。今日、科学とテクノロジーの進歩によって、変成岩の記載がナノスケールまで迫れるようになり、化学組成のような高次元データも大きく変数が増えてきたものの、我々は未だに変成帯の空間的な連続性を定めることに苦労し、ある標本に含まれる変成鉱物の斑状変晶1つが成長に要した時間や速度を十分に制約できていない。本講演では変成作用に関する境界の歴史を振り返りつつ、スラブ−マントルウェッジ境界の地質学的な手法に基づく物質境界研究の話題を提供したい。

    定常的な海洋プレート沈み込み帯において、前弧域マントルウェッジ深部はスラブとディカップリングしており、比較的低温の状態で蛇紋岩化したかんらん岩が滞留していると考えられている。しかし、蛇紋岩を直接年代測定できないため、前弧域マントルウェッジ深部がどの程度のタイムスケールで滞留できるのか分かっていない。前弧域マントルウェッジ深部で形成する特殊な高圧変成岩としてひすい輝石岩が存在する。最近著者らの研究チームは前弧域マントルウェッジ深部で形成するひすい輝石岩を見直すことで前弧域マントルウェッジ深部の静的な状態のタイムスケールの束縛に取り組んでいる。例えば、西南日本では約2億年間、前弧域マントルウェッジ深部で蛇紋岩化したマントルかんらん岩と静的な状態を経験し、スラブ由来の高圧変成岩が取り込まれて蛇紋岩メランジュを形成するタイミングで新しい交代作用を経験したことを見出した。現状で前弧域マントルウェッジ深部は高圧変成帯の上昇のような非定常的な地質イベントが起こらない限り、静的な状態を2億年近く保てる可能性があると考えている。

  • 片山 郁夫
    セッションID: S2-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地球史を通じて安定的な表層環境がこれまで維持されてきたのは,地球内部での水と炭素循環の動的な平衡が維持されてきたからである(e.g., Tajika and Matsui, 1992; Kasting and Holm, 1992)。とくに炭素循環は,ウォーカーフィードバックにより表層での気候の安定化に寄与し,40億年以上ものあいだ地球が水惑星として存在する大きな要因となったと考えられる。炭素は,火山による脱ガスにより地球内部から放出される一方,海洋プレートに取り込まれた堆積物の沈み込みによって地球内部へと運び込まれる。この地球内部での炭素の放出と吸収の動的平衡が成立すること,そして地球史を通じた太陽放射の変化に対応することで地球表層での安定的な環境が維持されてきた。しかし,物質循環の駆動力である地球内部の熱源は地球史を通じて減少し続けており,プレートテクトニクスの抑制や停止によって未来の地球ではこの動的平衡が破綻する可能性が高い。現在の地球においても,温度低下によりプレートの脆性領域が広がるなど,動的平衡が破綻する兆候が見え始めていると考えられる。近年の地球物理観測では,海溝付近のプレートが折れ曲がるアウターライズ領域において,引張場での断層形成により海水がマントルまで浸透している証拠が数多く報告されている(e.g., Grevemeyer et al. 2018)。マントルと炭素が高い親和性をもつことから,そのような断層沿いでは炭酸マグネシウムの形成など海水中の炭素がマントルへ固定化されると予想される。その場合,従来想定されていた以上の多量の炭素が地球内部へと取り去られることで,現在の地球においてもすでに炭素循環の動的平衡が破綻しているのかもしれない。これまで地球システムとしての物質循環と自己調整機構によって安定的な表層環境が維持されてきたが,現在は大きな転換期を迎えており,不可逆で不安定な状態に移行していると考えられる。本講演では,最新の地球物理観測や実験データに基づいてこの仮説を検証するとともに,地球システムでの水と炭素の動的平衡が破綻する場合にどのような地球環境変動が待ち受けているかについて議論したい。

    Grevemeyer, I., Ranero, C., and Ivandic, M. (2018) Structure of oceanic crust and serpentinization at subduction trenches. Geosphere 14, 395–418.

    Kasting, J. and Holm, N. (1992) What determines the volume of the oceans? Earth Planet. Sci. Lett. 109, 507–515.

    Tajika, E. and Matsui, T. (1992) Evolution of terrestrial proto-CO2 atmosphere coupled with thermal history of the earth. Earth Planet. Sci. Lett. 113, 251–266.

  • 宇野 正起
    セッションID: S2-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    岩石と水の境界は,地震発生やマグマ生成など地球内部の動的な現象の現場である.従来,変成岩や深成岩などの完晶質の岩石は静的な場で,百万年スケールで温度と圧力に応じて静々と反応するというイメージが主流であった.しかしながら近年,岩石と水の境界である反応帯や鉱物脈では,数百年から数年,さらには数時間程度のかなり短時間の破壊や流体移動,反応輸送現象を読み解くことが出来るようになってきた(e.g., John et al., 2013; Beinlich et al., 2020 Nature Geoscience).

     例えば,地殻深部で形成された高温変成岩中の鉱物脈は10時間程度の短時間の流体活動を記録しており,火山下の深部低周波地震や群発地震など現在進行中の地球物理現象と比較できるようになってきた(Mindaleva, Uno et al., 2020 Lithos).また,かんらん岩とH2OやCO2との反応は,体積膨張を伴うため,破壊や変形を引き起こす.最新の室内実験では,かんらん岩と水の反応組織(メッシュ組織)は,反応によって岩石が破壊して,水の流れや反応が加速された結果,形成された組織であることがわかってきた(Uno et al., 2022 PNAS).

     また,地質学において岩石と水の反応は,多くの場合,反応後の物質しか手に入らず,反応前の物質は分からない,そのため反応プロセスが分からない,ということがよくある.近年の地球化学と機械学習の発展によって,反応前の物質(=原岩)の化学組成を,反応後の岩石の化学組成から復元出来るようになってきた(Matsuno, Uno et al., 2022 Sci. Rep.).

     鉱物脈をみてあなたは何年でできたと思うだろうか?蛇紋岩のメッシュ組織からどんな反応プロセスを想像するだろうか?変質した玄武岩からもとの岩石を想像できるだろうか?時間と空間の限界に挑戦する,岩石―水反応の動的な描像をお伝えしたい.

    【引用文献】

    John et al. (2012) Nature Geoscience, 5, 489–492.

    Beinlich et al. (2020) Nature Geoscience, 13, 307–311. Mindaleva, Uno et al. (2020) Lithos, 372–373, 105521.

    Uno et al. (2022) Proceedings of the National Academy of Sciences, 119 (3) e2110776118.

    Matsuno, Uno et al. (2022) Scientific Reports, 12 (1) 1385.

  • 斎藤 誠史
    セッションID: S2-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    好気性細菌や後生動物が行う好気呼吸に不可欠な分子酸素は、シアノバクテリアやこれに由来する葉緑体が行う酸素発生型光合成によって生成し、地球史における地球と生命の共進化の象徴として理解されてきた(Lyons et al., 2014など)。大気海洋の酸化史については数多の先行研究の集積があり、この中で重要な役割を担ってきた酸素発生型光合成はシアノバクテリアの誕生とともに開始されたと考えられている。この開始時期の推定には幅があるが、地質記録からは約30-27億年前と考えられている(Planavsky et al., 2014など)。

     光合成の本質は、標準状態にて安定な二酸化炭素と水からより不安定な有機物と分子酸素の対をつくることによって、太陽エネルギーの一部を化学エネルギーとして保存することである。好気呼吸では、有機物と分子酸素の間の酸化還元反応を行うことによってこのエネルギーを解放し、その一部を使ってATPを合成する。化石燃料の燃焼も同様で、解放されたエネルギーの一部を車や蒸気機関車の運動エネルギーや電気的なエネルギーに変換している。このようにして解放されたエネルギーは、地球表層のエネルギー循環に取り込まれ、最終的には赤外線として宇宙空間へ放射される。

     エネルギーという観点からみると、大気海洋の酸化史とは、光合成によって地球史を通じて保存されてきた太陽エネルギーの「一つの側面」と理解される。現在の大気には20.95%の分子酸素が含まれるが、これはすなわち、地球史を通じて(少なくとも)これに相当する量の有機物が埋没し、そしてこれに相当する量の太陽エネルギーが地球に保存されてきたということに他ならない。しかしこれまでに、具体的にどれほどの量の太陽エネルギーが光合成を介して地球に保存されてきたかを定量的に見積もった例は多くない。

     そこで本発表ではこちらを試みる。すなわち、現在の地球の大気海洋に存在する分子酸素に相当する量として、どれほどの太陽エネルギーがこれまでに光合成を介して保存されてきたかを近似的に見積もる。このために二つの量を算出する。1つ目は、光合成を介して単位モルあたりの反応で保存される化学エネルギーの量である。こちらは光合成で生成される有機物をグルコースと仮定し、この燃焼熱に基づいて近似的に算出する。2つ目は、現在の大気海洋に存在する分子酸素の総量である。大気海洋(およびオゾン層)に存在する分子酸素(相当)量からは、大気が分子酸素の主要なリザーバーであることが分かるが、この大気海洋間の偏った分子酸素の分配はヘンリーの法則によって部分的に理解される。以上に基づいて、現在の地球の大気海洋に存在する分子酸素に相当する量として、これまでに光合成を介して保存されてきたエネルギーの総量を見積もる。この見積もりはいくつかの仮定を含む近似的なものであるが、この量の大まかな感覚をつかむために、現在の地球表層における太陽エネルギーの年間の収支との比較を行う。

     また大気海洋に存在する分子酸素の総量からは、これに相当する形で地球史を通じて埋没してきた有機炭素の総量も見積もられる。こちらと、現存する化石燃料の確認埋蔵量や(Friedlingstein et al., 2022など)、岩石圏に存在するケロジェンの総量の推定値などとの比較から(Falkowski et al., 2000など)、有機物の埋没の歴史について考察する。本発表は、大気海洋の酸化史という古くから注目されてきたトピックについて、最新の話題を提供するものではないが、そのエネルギーという側面に光を当てようとする試みである。

    引用文献

    Lyons et al. (2014) Nature, 506, 307-315.

    Planavsky et al. (2014) Nature Geosci., 7, 283-286.

    Friedlingstein et al. (2022) Earth Syst. Sci. Data, 14, 1917-2005.

    Falkowski et al. (2000) Science, 290, 291-296.

  • 尾上 哲治, 高畑 直人, 曽田 勝仁, 佐野 有司, 磯崎 行雄
    セッションID: S2-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    日本の付加体中に含まれる中古生代の層状チャートは,陸源砕屑物の到達しないパンサラサ海遠洋域で長期間堆積した記録を持つ.一般に層状チャートは,以下の6つの起源物質を構成要素とする混合物とみなすことができる.すなわち,(1)放散虫などの生物起源物質,(2)大陸起源物質,(3)火山性物質,(4)海水から無機的に沈殿した鉄-マンガン酸化物,(5)熱水起源物質,(6)宇宙塵などの地球外物質である.従来の研究では、化学組成分析や微化石年代をもとに上記(1)〜(5)の構成要素の寄与率や期間を求めることで,高い時間解像度での古海洋環境の復元が行われてきた.一方,上記(6)については,白金族元素濃度とオスミウム同位体分析による研究や,ヘリウム(He)同位体分析[1]による地球外物質流入に関する研究が近年始まっている.このうち,He同位体(3He, 4He)分析については,層状チャート堆積期間(ペルム紀〜ジュラ紀)の地球外物質流入量の変動を連続的に復元することが可能であり,これらの物質流入が地球環境に与えた影響や,太陽系の物質進化史を解読するといった新しい研究展開も期待できる.本発表では,このHe同位体分析について,美濃帯のペルム系〜下部三畳系層状チャートを対象とした最近の研究結果を中心に紹介する.

     研究対象は,美濃山地西部舟伏山地域の美濃帯ペルム系上部グアダルピアン(キャピタニアン)〜下部三畳系層状チャートである[1, 2].He同位体分析は,(1)バルク分析,(2)バルク試料の段階加熱分析,(3)酸処理試料を用いた段階加熱分析を行なった.

     検討の結果,バルク分析で得られた3He濃度は,ペルム紀キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加する傾向がみられた.またペルム紀/三畳紀境界より上位層では,3He濃度は急激に低下した.He同位体比(3He/4He比)は,0.3〜0.8 Raの値をとり,全体としては検討セクションの下部から上部に向かって緩やかに低下する傾向がみられた.試料の段階加熱分析では,750-950℃の抽出温度で最も高い3He/4He比が得られた.さらにHF-HCl酸処理したものを段階加熱した結果,750-950℃の抽出温度で,地球外物質に特徴的な100 Raを超える3He/4He比も検出された[1].

     本研究の結果,試料中の3He/4He比が地殻岩石中でのHeの生成比(0.02 Ra)より高い値を示すこと,また地球外3Heのホスト鉱物の分解温度である750-950℃の抽出温度において,高い3He/4He比を示すことから,検討した試料に含まれる3Heは,主に地球外起源であることが示された.3He濃度および3He/4He比から地球外由来の3He濃度の変動を見積もると,キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加傾向にあることが明らかになった.この地球外3He濃度の増加については,地球ヘの宇宙塵流入量増加のほかにも,堆積速度の低下によっても説明できるため,今後は美濃帯のペルム系層状チャートを通じた堆積速度との比較検討が必要である.一方,堆積速度が求められているチャンシンジアンの層状チャート[1]について地球外3Heフラックスを計算すると,ペルム紀末の約50万年間は,フラックスが前の時代に比べて約4倍増加したことが明らかになった.地球外物質流入量の増加期間には,ペルム紀放散虫化石種の絶滅が知られていることから,今後は地球外物質の大規模な流入が地球環境に与えた影響について,詳しく検討を進める必要がある.

    引用文献 [1] Onoue, T. et al. 2019. PEPS, 6, 18; 高畑ほか,2019.地学雑誌, 128, 667-679.[2] Onoue, T. et al. 2021. Front. Earth Sci, 8, 685.

  • 岡田 誠
    セッションID: S2-O-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    GSSPは,陸上地質においてグローバルな地層の対比を行うための基準となることから,示準化石(多くは海洋プランクトン化石)を豊富に含む必要がある.すなわち,陸上で見られる海成層であることが条件だ.そこではグローバルな変動を捉えている必要があるので,地磁気の極性や海洋酸素同位体比もしくはそれに類似するグルーバルな変動記録を保持することが必須となる.チバニアンGSSPの批准で話題となった下部-中部更新統境界では, 最後の地磁気逆転である松山-ブルン境界(MBB)が基底層位の目安とされた.そして実際のGSSPは千葉セクションにおいてほぼ唯一の視認可能な層である白尾火山灰層(Byk-E)の下面に設置された(Suganuma et al., 2021).Byk-E層は質の高い古地磁気記録で示されるMBB層位より約1.1m下位に挟在しており,基底層位の目安であるMBBとの関係性も明確である.海洋微化石記録および詳細な酸素同位体変動記録も得られており,グローバル対比の基準としての責を十分に果たしうる.さらにByk-E層の堆積年代は,放射年代測定および酸素同位体変動記録を用いた天文年代較正という2つの独立した手法から求められており,信頼性の高い境界年代も提供した.

    一方,第四系(更新統)の基底層位は,その目安がガウス-松山地磁気逆転境界 (GMB)とされており,シチリア島モンテ・サン・ニコラセクションのジェラシアンGSSPによって定義されている (Rio et al., 1998).実際のGSSPは,ニコラ層と呼ばれる腐泥層と直上を覆うマール層との境界面に設置された.地中海周辺域では,北半球高緯度夏の日射量が最大となるタイミングでモンスーン強度が上昇し,降水量が増えることで地中海の密度成層が強化され海底に腐泥層が堆積したとされている.このため,露頭面で観察される腐泥層を数えるだけで歳差運動周期のカウントが可能になる上,ある程度の同時性も保証される.このため腐泥層は地中海周辺域において噴火周期が決まっている広域テフラ層の役割を担ってきた.ところが,モンテ・サン・ニコラセクションでは古地磁気記録の報告が少なく,ニコラ層とGMBとの関係性も層厚にして数mの範囲の誤差を含むなど明瞭ではない.さらに浮遊性有孔虫の産出はあるものの,酸素同位体記録が未だに得られていない.現状では他地域で得られた酸素同位体記録と腐泥層との関係を用いて,ニコラ層はMIS(海洋同位体ステージ)104に,直上のマール層はMIS103に対比されている状態であり,第四紀開始年代も含めジェラシアンGSSPによる定義は,極めて間接的な情報をもとになされたといえる.この他,更新統にはかつて更新統の基底を定義したカラブリアンGSSPがある.GSSPは南イタリア・ヴリカセクションの腐泥層である “e”層上面に設置され,現地で得られた酸素同位体記録よりMIS63/64境界に対比されている (Cita et al., 2012).しかしGSSP層位の8m上位で見られるオルドバイ正磁極亜帯上限境界の古地磁気記録は,続成作用の影響を大きく受け境界位置の特定が困難とされる (Roberts et al., 2010).

    上記で述べたように地中海周辺域における腐泥層序は地域内対比を行う上で大変有用である一方,古地磁気記録や酸素同位体記録などといったグローバル層序対比に必須な情報が欠如しがちである問題を抱えている.さらに腐泥層堆積のタイミングを日射量ピークと合致させるという年代較正手法についても,その仮定が少しでも崩れると,同様の手法で年代決定された新第三系における多くのGSSPの年代値が影響を受けることになる.こうした問題を回避し地質年代の信頼性を向上させる上で,微化石・古地磁気・酸素同位体など各種のグローバル層序対比に必要な記録を保持した地層の解析が極めて有用といえる.チバニアンGSSPを擁する上総層群を始め,房総半島にはこれらの記録を保持した鮮新統〜更新統の地層群が広く分布しており,地質年代研究への貢献が期待される.

    参考文献:

    Cita et al. 2012, Episodes 35, 388-397

    Roberts et al. 2010, EPSL 292, 98-111

    Suganuma et al. 2021, Episodes 44, 317-347

    Rio et al. 1998, Episodes 21, 82-87

  • 齋藤 文紀
    セッションID: S2-O-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    国際科学会議(International Council for Scientific Union: ICSU)が1987年から実施してきた地球圏・生物圏国際協同研究(International Geosphere-Biosphere Programme: IGBP)は,10年が経過した1998年から2003年に,第1期の総括と第2期に向けたコアプロジェクトの再構築を行った.2000年に行われたメキシコでの会議で,副議長のクルッツェン(Paul Jozef Crutzen)は,人間活動は地球や大気に大きな影響を与えており,もはや過去11700年間の完新世ではないことから,突発的にAnthropoceneと発した. 18世紀後半以降を人類の時代を意味するAnthropoceneとした(Crutzen and Stoermer, 2000)が,以下に述べる作業部会では1950年頃を完新世と人新世の境界として作業が行われている.

     地質年代や地層や時代の名称である地質系統は,国際地質科学連合(IUGS)において定められている.人新世については,国際地質科学連合の国際層序委員会(International Committee on Stratigraphy)の第四紀層序小委員会(Subcommittee on Quaternary Stratigraphy)において,人新世作業部会(Anthropocene Working Group)が2009年に設置され,提案に向けた検討が行われている.IGBPの提案以降,人新世は広く用いられるようになり,地質学的な検討が必要であることからロンドン地質学会が中心となり,作業部会の設立に至っている.人新世作業部会では,人新世は,地質系統のランクでは,世・統が望ましいこと,完新世と人新世の境界は,大加速(Great acceleration)が始まる時期であり,また地球規模で同期した識別が可能である放射性核種がマーカーとして認められる1950年頃をターゲットに, GSSP(Global Boundary Stratotype Section and Point:国際境界模式層断面とポイント)の提案に向けた準備が行われている.現在候補地からの提案の基礎となる資料の準備が行われており,2022年末までに人新世作業部会で投票が行われ,GSSPの候補地が選考される予定である.選ばれた候補地と副模式地は論文として取りまとめられ,第四紀層序小委員会で投票が行われる,6割以上の賛成が得られた場合に,上位の委員会に提案される.今回の提案は,完新世を2分し,人新世を設けることの提案と,GSSP候補地の提案の2つから構成される見込みである.

     一方,人類と地球との関係を示した人新世という言葉は,人文社会科学,経済学,哲学など,様々な分野で用いられるようになった.地質学における人新世と最も異なる点は,地質学では地質時代の境界であることから人新世の始まりは世界で同じ時間である必要があること,地域による違いが無い基準が求められることである.人類の影響は地域によって異なり,どのような対象をみるかによっても異なる.それらが始まった年代に同期性はない.人新世が正式に地質時代として認められた場合には,用語の使い方が分野によって異なることを注意する必要がある.

     人類が地球環境を大きく変化させ,地球環境は限界に達している(Planetary boundary)と認識され,持続的な地球環境との関係が求められ,SDGsのような行動計画が推進されている.沿岸環境においても1950年以降に急激な変化が世界で起こっている.世界で5億人以上が住み,食物の生産,商工業に大きな役割を担っているデルタは,IPCCの第4次評価報告書で最も脆弱な地域として示された.デルタの問題は,多くは陸域における様々な人間活動に起因するものだが,今後はこれらの変化に加えて地球規模の海面上昇などの影響が加わり,より広域にまた大規模な悪影響が懸念されている.特に脆弱な途上国における沿岸環境をいかにして保全し,持続的に利活用してゆくか,知識や取り組みの共有と国際的な連携が求められている.

    Crutzen, P.J. and Stoermer, E.F., 2000. The “Anthropocene”. Global Change Newsletter 41, 17-18.

T1(口頭).変成岩とテクトニクス
  • 佐藤 恵, 兵藤 博信, 板谷 徹丸
    セッションID: T1-O-1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    カナダのSlave地質区は、カナディアンシールドの北西端にある始生代の花崗岩-表成岩の分布地帯である。表成岩の岩石は、主に変成されたタービダイトと苦鉄質から珪長質の変成火山岩で構成されている。Slave地質区には、2.7〜2.5 Gaの火成・変成岩だけでなくより古い片麻岩も分布している。その東はThelon変動帯(2.0〜1.9 Ga)、西はWopmay変動帯(1.9〜1.8 Ga)に境されている。アカスタ片麻岩はSlave地質区の最西端のWopmay変動帯と接する部分とそれより地質区内部に露出している。Bowring et al. (1989, Geology)のジルコンSHRIMP U-Pb分析により、スレーブ地質区のAkasta片麻岩の源岩は地球表層岩としては最も古い(3.96Ga)とされた。Wopmay変動帯とAkasta片麻岩の境界を通る東西18 kmに及ぶトラバースに沿って27個の岩石試料を系統的に採集し、その岩石から黒雲母と角閃石を分離しK-Ar(40Ar / 39Ar)年代測定を実施した。その目的はWopmay変動がAkasta片麻岩に影響を与えたかどうかを見るためである。もし与えたとすればその影響の強さと範囲を明らかにするためである。そのためにWopmay変動帯からも4試料採集しその黒雲母のK-Ar年代測定を実施した。Bowring et al. (1989)の研究で採集された試料付近からも試料を採集し、年代測定を実施した。 Wopmay変動帯の黒雲母K-Ar年代は1810〜1854Maでありこれまでに知られていた年代と誤差の範囲で一致した。Akasta片麻岩の黒雲母K-Ar年代は特に若い1試料(1711Ma)を除くと1779〜1884 Maであり、年代のばらつきの範囲はWopmay変動帯のそれより少し広いが誤差の範囲で大きな差がない。Wopmay変動帯から14〜18km東側のAkasta片麻岩の黒雲母K-Ar年代はWopmay変動帯の黒雲母K-Ar年代と誤差の範囲で一致する。Akasta片麻岩の角閃石K-Ar年代は1685〜1952Maであり、黒雲母の年代幅より大きい。より古い試料とより若い試料の存在がその幅を広くしている。しかしながら誤差の範囲内でWopmay変動の年代と大きな差はない。 レーザー段階加熱40Ar/39Ar 単結晶年代測定も実施した。Wopmay変動帯の3試料からの黒雲母40Ar/39Ar年代スペクトルはプラトー年代が定義された(1826±21, 1885±13, 1866±18 Ma)。このプラトー年代はK-Ar年代と誤差の範囲で一致している。Akasta片麻岩の5試料中2試料からの黒雲母40Ar/39Ar年代スペクトルもプラトー年代が定義された(1935±14, 1951±11 Ma)。このプラトー年代はWopmay変動帯の黒雲母プラトー年代より少し古い結果であった。角閃石の年代スペクトルはイレギュラーであった。しかし13試料中の1試料でプラトー年代が定義された(1847±15 Ma)。このプラトー年代はWopmay変動帯の黒雲母プラトー年代に一致している。 Wopmay変動帯に近いAkasta片麻岩はWopmay変動(1.9〜1.8 Ga)の影響を強く受け、黒雲母と角閃石のK-Ar系がリセットされたと結論される。一方、Wopmay変動以降の局所的な熱源の影響で部分的な若返り現象もあったと言える。

  • 福山 繭子, 小笠原 正継, 堀江 憲路, 竹原 真美
    セッションID: T1-O-2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    銅・鉄スカルン鉱床である釜石鉱山は,北上山地の中央東部,早池峰構造線の南西に位置し,中・古生代堆積岩中の石灰岩と白亜紀初期の蟹岳複合岩体との接触部にスカルンを形成している.釜石鉱山周辺で主に分布するのは,石炭系・二畳系の堆積岩,蟹岳複合岩体,栗橋花崗閃緑岩,ひん岩であり,蟹岳複合岩体の周囲にスカルン及び鉱床が胚胎される.過去の地質学的研究や酸素・炭素同位体の研究,古地磁気学的研究から,閃緑岩及び閃緑ひん岩の貫入後に蟹岳花崗閃緑岩が貫入し,蟹岳花崗閃緑岩の貫入に伴ってスカルン化及び鉱化作用が起こったことが明らかとなっている.本研究では,釜石鉱山に産する火成岩類及びスカルンの化学的特徴を検討し,火成活動とスカルン鉱化作用の時期を明らかにするため,LA-ICP-MSを用いてスカルン中のザクロ石のU-Pb年代測定を行った. 本研究で検討した釜石鉱山新山鉱床中のザクロ石スカルン中のザクロ石の組成範囲はGrs50-60And32-43Hgr4-6Pyp0-2Sps1とグロシュラー成分に富み,また佐比内鉱床中のザクロ石の組成範囲はAnd66-80Grs16-33Pyp0-3Sps0-1Hgr0-1とアンドラダイト成分に富む.これらグロシュラー成分に富むザクロ石とアンドラダイト成分に富むザクロ石の年代測定を試みると共に微量元素を含む化学的特徴を検討した.U-Pb年代測定では,放射壊変で生じた鉛を測定するため,初生鉛は少ない又は含有しないほうがよいが,ジルコンのような珪酸塩鉱物に比べ,ザクロ石は初生鉛を多く含む.ウランの放射性壊変で生じた鉛に比較して初生鉛が多いと,精度の良い年代測定は困難となる.そのため,ウランがある程度含有される必要がある.ザクロ石中のウラン濃度の分布は一般的に不均質であることから,ウラン濃度の高い領域を測定することが望ましい.そのため,ザクロ石中のウラン濃度とその他の元素の相関も検討した.秋田大学理工学研究科に設置されたLA-ICP-MS(ESI NWR193UCとAgilent 7700x)を使用した.一次標準物質には,91500ジルコン,QC04ザクロ石を用い,二次標準物質としてIUC-1ザクロ石を用いて分析を行なった.ザクロ石のU-Pb年代は,120.7 ± 8.7 Ma(U濃度0.1-4.3 ppm)と116.3 ± 3.8 Ma(U濃度 0.2-2.2 ppm)と得られ,これらの結果は蟹岳花崗閃緑岩から得られたジルコンのU-Pb年代値(123.43±0.70Ma)と誤差範囲で一致した結果を示した.またザクロ石中のウラン濃度はチタンと正の相関を示し,ザクロ石中のチタン濃度がウラン濃度の指標となる可能性がある.

  • 増田 俊明
    セッションID: T1-O-3
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    板状鉱物の形態選択配向の変形による改変:マーチモデルを用いた2次元シミュレーション 増田俊明(静岡大学)  板状鉱物のpreferred orientationにより生じる面構造(スレート劈開や片理)の形成過程について、ランダム粒子回転説に基づいたマーチモデル (March, 1932) を用いて解析した。 ★ 発端  上記面構造は変成岩の変形解析を行う場合に必ず意識する構造である。野外でその走行や傾斜を計測し、薄片を作成する際にもその方向を意識して岩石の切断を行うのが普通である。面構造の成因については1815年以来多くの議論がなされてきたが、依然として納得できる解釈には到達していない(e.g., Wenk et al., 2020)。1970年〜80年代に盛んに議論が行われたが、当時のコンピューターの計算速度が十分でなく、randomnessをuniformで代用して簡略的なシミュレーションを行ってきたのが、あいまいさの最大の原因であると考える。 ★ マーチモデル  変形場に置かれた線分(両端の2点で規定)は、一様変形に伴い座標が変化する(アフィン変換)。2点の座標の変化は、結果としてその線分の方位の変化に現れる(March, 1932 を参照されたし)。 ★ 目標  片理面と歪楕円の関係を徹底的に調べる事 (片理面は歪楕円の長軸と平行だと思っている研究者が多いが・・・ それは本当なのか???) ★ 本シミュレーションの特徴 (これまでの研究との違い) (1)扱う粒子数を最大100万個にまで拡張した。 (2)simple shear とpure shear を端成分とする広い範囲のvorticity に対応した。 (3)方位分布にvon Mises分布を採用し、片理や劈開の強度を定量化した。 (4)粒子配列のrandomnessを定量化した。 ★ 結果 (1)Vorticityは結果に影響しない。 (2)変形前の粒子の方位分布が一様の場合とランダムな場合とで、結果は同じではない。 (3)測定粒子数が少ないと(例えば <50)、信頼できるデータが得られない。 (4)マーチモデルを仮定した歪解析は可能である。 (5)歪楕円の長軸と平均方位は、厳密には平行でない。 ★ 波及  研究者が野外で片理面の走行・傾斜を測定する際に、あるいは岩石を切断し薄片を作る作業を行う際に、その作業の意義と限界を意識するようになるかも? (これまで私は、深く考える事なく面構造に垂直な薄片を作っていた。この研究を進めながら、その事に思い至り・・・・) [引用文献] March, A., 1932. Mathematische Theorie der Regelung nach der Korngestalt bei affiner Deformation. Z. Kristall., 81, 285 – 297. Wenk, H.-R. et al., 2020. Fabric and anisotropy of slates: From classical studies to new results. Journal of Structural Geology, 138, 104066.

  • 鳥海 光弘
    セッションID: T1-O-4
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Sealed shear cracks associate abundant jog filled with albite, quartz, chlorite and calcite in the low - grade metamorphic rocks of the plate boundary. These shear crack jog should open at the time of shear crack growth and propagation, of which the shear slip velocity varies in the very wide range from km to nm order per second, suggesting that the volume increasing rate of the jog may become imbalance with the fluid influx from the surrounding matrix. The simulation of the fluid pressure in jog for various slip velocity can be carried out by means of the equation of state and inflow of aqueous fluid in the increasing jog volume controlled by the slip velocity. The results indicate the various patterns of rapid drop of fluid pressure depending on the shear slip velocity before jog collapse. The change in the degree of oversaturation of albite and quartz is inferred by the difference of fluid pressure in jog and matrix, because of saturation equilibrium of them with matrix aqueous fluid. Therefore, it is possible that the crystal shape of albite and quartz in jog is controlled by the degree of oversaturation controlled by the shear slip velocity, that means the speed of the shear crack slip motion. In the case of the fast earthquakes, the degree of oversaturation reaches over unity, and thus the crystal shape may be dendritic, but in the medium speed slip, it should be flower-like shape, and in the very slow slip event, it may be euhedral shape. The diagram of slip velocity and temperature is divided into the regimes of dendrite, flower, acicular (needle), and euhedral shape.

  • 小山 雪乃丞, ウォリス サイモン, 永冶 方敬
    セッションID: T1-O-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    近年、スロー地震という通常の地震に比べ断層破壊がゆっくりと進む現象が発見され、発生の物理法則と条件の解明に向けて観測及び発生環境の解読が進められている。特に発生場での直接観測や試料採収が困難な深部スロー地震の研究では、過去に沈み込みプレート境界を構成していた岩石を用いる地質学的手法が大きな役割を果たす。

     西南日本三波川帯では沈み込んだ海洋地殻由来の片岩類とマントルウェッジ由来の蛇紋岩が隣接し、沈み込みプレート境界が保存されたまま露出している。また深部スロー地震が活発な西南日本沈み込み帯の熱モデリングによる推定温度構造は、岩石学的に決定した三波川帯形成時の沈み込み帯温度構造と酷似し、深部スロー地震現象に伴う変形の記録が期待される。よって三波川帯は、地質構造と深部スロー地震を関連付けるにあたり最適なフィールドの一つである。本研究では、三波川帯でも特に露出が良好であり、先行研究が豊富である四国中央部白滝ユニットの岩石を用いて、沈み込み帯プレート境界の変形に関する情報の取得を試みた。

     白滝ユニットの石英片岩中に見られる動的再結晶石英粒子について、EBSDを用いて結晶方位分布を取得した。先行研究のデータも加えてCPOのopening angleを用いた変形温度推定を行い、炭質物ラマン温度計によるピーク変成温度の推定値と比較したところ、確認範囲全域(ラマン温度計で凡そ300-500℃)における殆どの試料で整合的な結果を得た。これは上記組織が沈み込みプレート境界で形成されたことを示す。

     そこでピーク変成温度と整合的な試料について、結晶方位分布から粒界、粒径を決定し、応力、歪速度を求めた。得られた歪速度と三波川帯形成時に沈み込んでいたイザナギプレートの運動速度を用いて、プレート境界において、プレート運動に伴う歪を石英の転位クリープで解消するために必要な延性せん断帯の幅を計算した。結果、高温高圧領域(440-520℃, 0.7-0.9 GPa, 推定深さ20-30 ㎞)では幅数㎞の延性せん断帯の存在が示された。用いた岩体は石英を多量に含まない他岩体と同様に褶曲しており、全体の変形を代表していると考えられる。

     一方で低温低圧領域(300-360℃, 0.5-0.6 GPa, 推定深さ15-20 km)の観察では、石英転位クリープに加え、石英圧力溶解クリープや雲母鉱物のすべりによる変形が認められた。そこで沈み込み時に形成された石英脈や石英歪フリンジを用いてこれらの変形機構による歪速度を評価した結果、本領域では石英圧力溶解クリープと雲母鉱物のすべりが石英転位クリープに比べ卓越し、これらの変形が最大数㎞にわたり生じることで、プレート運動に伴う歪を解消し得ることが示された。フィールドでは石英圧力溶解クリープにより沈み込み時に形成された面構造が数㎞に渡って観察されており、本主張と整合的である。

     これらはプレート境界が面ではなく、数km幅を持った連続変形領域であることを示す重要な結果である。深部スロー地震は深さ20-50kmのプレート境界で発生することが観測されており、本研究で示唆される幅広い同質な変形領域内で深部スロー地震が発生する際は、変形領域内の任意の場所で同様な発生機構により生じることが予想される。

     近年、微細褶曲構造の形成が深部スロー地震現象の一種であるEpisodic Tremor and Slip (ETS)を発生させる可能性が指摘された。このモデルによれば、微細褶曲構造はその形成過程に crack seal (脆性変形による開口とその後の流体による石英充填)を含むため、石英 crack seal shear veins と同様に ETS を説明するのに適した構造である。また微細褶曲による変位は様々なスケールの褶曲を延性的に発生させ、その規模や均質性、変形メカニズム(脆性、延性)の違いが ETS を構成するlow-frequency earthquakeやtremor burst、短期的スロースリップなどの諸現象を良く説明する。

     本地域の調査では石英 crack seal shear veins を確認することが出来なかった。一方で低温低圧領域の面構造にはマイクロリソン部に褶曲した古い面構造が見られ、微細褶曲構造の特徴を示す。また様々なスケールの褶曲も普遍的に確認できた。仮に微細褶曲と様々なスケールの褶曲の形成が ETS を発生させていた場合、本岩体を形成した沈み込みプレート境界の低温低圧領域(推定深さ15-20km)では、面構造分布域に相当する数㎞幅のせん断帯全域にわたりETSが分布して発生していたこと、高温高圧領域(推定深さ20-30km)では石英転位クリープによる定常的な延性変形帯が存在していたことが示唆される。

  • 平内 健一, 永田 有里奈, 岡崎 啓史
    セッションID: T1-O-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    西南日本やカスカディアなどの温かい沈み込み帯では、微動・低周波地震とスロースリップイベントが同期して発生する現象(Episodic Tremor and Slip; ETS)が前弧マントルウェッジの先端付近で観測されている。ETSの発生後には、数 MPa程度の一時的な間隙流体圧の低下が起こることが知られており、これは岩石の破壊に起因した水のリークを示唆する(Gosselin et al., 2020, Sci. Adv.).したがって、数ヶ月から数年周期で繰り返し発生するETSは、間隙流体圧の上昇と下降のサイクルを表している可能性がある(Warren-Smith et al., 2019, Nat. Geosci.)。そこで本研究では、前弧マントルウェッジの破壊様式に対する間隙流体圧の影響について明らかにするべく、Griggs型固体圧式変形装置を用いた蛇紋岩の変形実験を行った。 実験は、温度500 °C、封圧(Pc)1 GPa、歪速度10−6 s−1の条件下で、アンチゴライト蛇紋岩のインタクトコアまたは粉末からなる円柱状試料に約0〜12 vol.%の純水を添加して行った。試料と純水は銀ジャケット内に封入しており、実験前後における重量変化から実験中における純水の流出量を見積った。蛇紋岩試料の差応力は約100〜1200 MPaの範囲であり、実験後の含水量が多い試料ほど差応力が低くなった。この差応力と含水量の関係は、銀ジャケット内の含水量が多いほどαPf(ここでPfは間隙流体圧、αPfが岩石強度に与える効果を示す定数であり、0〜1の範囲をもつ)が大きくなり、かつ有効封圧(Pc-αPf)が低くなることを反映している。α = 1と仮定し、モール円解析を行ったところ、実験後の含水量が最も大きい試料の間隙流体圧比(λ)は約0.9であった。実験後のインタクトコア試料の薄片観察では、実験中のλが高くなるにつれて、破壊面の数が増えるとともに、破壊様式が最大主応力(σ1)方向に対して約30 °斜交する剪断(モードII型)破壊からσ1方向と平行あるいは20〜30 °斜交する開口(モードI型)破壊および開口・剪断(モードI-II型)破壊に遷移することがわかった。モードI型・モードI-II型混合破壊では、破壊面がネットワーク状に発達することで、蛇紋岩はいわゆるblock-in-matrix構造を呈していた。 以上の結果は、スラブ起源流体の付加により前弧マントルウェッジ浅部において高間隙流体圧が発生した場合、蛇紋岩は多数の開口・剪断破壊の形成を伴う幅広い剪断帯を形成する可能性を示唆する。このような産状は、ETS発生域に対応する温度圧力条件下で形成されたマントルウェッジ起源の蛇紋岩体中に見出されている(Hirauchi et al., 2021, Earth Planet. Sci. Lett.)。この蛇紋岩体には、開口破壊面に沿ってアンチゴライトが析出することで間隙を充填している。したがって、本実験結果は、ETSの発生サイクルが破壊および破壊後の蛇紋石による空隙の充填にともなう間隙流体圧の上昇・下降サイクルを反映しているという考えを支持する。

  • Diana Mindaleva, Masaoki Uno, Noriyoshi Tsuchiya
    セッションID: T1-O-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    Short-lived fluid flow in the crust modifies hydrological properties and controls on the earthquake triggering. However, there are limited numerical constraints on the fluid volumes that can be rapidly transported. Comprehension of the timescales of fluid infiltration and the permeability evolution from geological samples is essential to estimating the fluid flux during crustal fracturing and its relation to seismic activities. This study focuses on fluid flow through a single fracture and scales its results to a series of low-magnitude fracturing events, such as tremors and low-frequency earthquakes, providing insights into fracturing and fluid-rock interactions in the lower–middle crust. Specifically, we analyse unique geological and geochemical evidence preserved in amphibolite-facies fluid-rock reaction zones to approximate the duration of fluid infiltration and time-integrated fluid fluxes and then determine the generated seismic moment and magnitude. This study is based on evidence of rapid fluid infiltration (~10 h) related to crustal fracturing and permeability evolution from low- to highly-permeable rocks (~10−9–10−8 m2). We estimate both through and perpendicular time-integrated fluid fluxes to a given fracture and the overall fluid-rock reaction zone. We present an advanced methodology for calculating the fluid volume via coupled reactive-transport modelling and thermodynamic analyses, focusing on Si alteration processes within reaction zones. In this study, we use two independent methods for constraining magnitude, which are based on fluid volumes and single fracture geometry. We compare the estimated values with the results provided by fluid injection experiments. Our finding reveals that the transportation of voluminous fluid volumes through a fracture (101 to 104 m3) may be related to short seismic/aseismic events such as tremors and LFEs, as suggested from duration (~10 h) and cumulative magnitude, representing the maximum values as 2.0–3.8. In addition, we define the lower limit of the magnitude for a single fluid-driven seismic event as –0.6 to 0.2. However, a single fracture remains possible to transfer voluminous fluid flow and could be a key control on the generation of seismic activity above the tremor and slow slip events source regions in the lower–middle crust.

  • 吉田 一貴, 大柳 良介, 木村 正雄, Plümper Oliver, 福山 繭子, 岡本 敦
    セッションID: T1-O-8
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沈み込み帯における流体の流れは、地震活動、マグマ生成、元素循環など様々な地質学的プロセスに関連している。しかし、沈み込み帯における流体の移動のタイムスケールや速度に関する理解は限られている。本研究では、ブルーサイトに富む反応帯を持つアンチゴライト鉱脈の組織観察、微量元素分析、熱力学的考察に基づいて、沈み込み超深部における流体移動のタイムスケールと流速の推定を行った。

    本研究で観察した試料は、オマーンオフィオライトの陸上掘削(Oman Drilling Project, Site CM1)において得られた下部地殻から上部マントルセクションまでの試料である。地殻-マントル遷移帯の完全蛇紋岩化したダナイトには、リザダイト(Lz)とブルーサイト(Brc)からなる母岩を切るようにしてアンチゴライトとクリソタイルからなる脈(Atg-Ctl脈)が発達していた。Atg-Ctl脈の一部には、脈の両側にブルーサイトに富む反応帯が発達していた。アンチゴライト脈が形成されたステージを考えるために、LA-ICP-MSによる微量元素分析を行った。その結果、Atg-Ctl脈は母岩の蛇紋石よりもAs、Sb,、HFS元素(Zr、Hf、Ta)に富み、Atg-Ctl脈形成時に沈み込み帯の流体が寄与している可能性が示唆された。 マスバランス計算から、ブルーサイトに富む反応帯を形成するためには母岩から大量のシリカが除去される必要があることが分かった。また、熱力学的な考察から、ブルーサイトに富む反応帯は、アンチゴライトの形成と同時に形成されたことが示唆された。

    熱力学的計算と反応帯の幅から、反応帯を形成した流体活動のタイムスケールと流速をシリカの拡散モデルから推定した。その結果、流体は短時間のうちに(1.1×10-1〜2.6×100yr)、現在の沈み込み帯の地震イベントの伝搬速度に近い高速(4.8×10-2〜1.2×10-1 m s-1)で流れたことが示唆された。この結果は、上層プレートへの流体の流出が短期間で起こることを示唆している。

  • 高見澤 駿, 市山 祐司, 山崎 秀策, 田村 明弘, 森下 知晃
    セッションID: T1-O-9
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沈み込み帯は水を始めとする地球表層の物質をマントルへ供給する主要な経路である.スラブ中の間隙水や含水鉱物を起源とするスラブ脱水流体には流体移動元素が含まれ,マントルウェッジに様々な交代作用を引き起こす.造山帯に定置した高圧変成岩を伴うマントル岩は過去の沈み込み帯のスラブ-マントルウェッジ境界に由来し,浅部マントルにおける交代作用の諸過程を検討する上で格好の研究対象であると考えられる.本研究は北海道神居古潭帯の高圧変成岩類を伴う蛇紋岩体(鷹泊・岩内岳・糠平)を対象に野外調査,岩石記載,鉱物主要/微量元素組成分析を行い,スラブ起源物質によるマントル交代作用の詳細に関して議論する.神居古潭帯は,前期白亜紀から古第三紀にかけて形成された低温高圧型の変成岩類と大量の超苦鉄質岩類から構成される.対象とする鷹泊岩体,岩内岳岩体,糠平岩体はボニナイトのような高Mg安山岩の生成に関わったとされており,中~高程度に枯渇する特徴を示す(田村ほか,1999,地質学論集).隣接する変成岩類は鷹泊岩体付近で青色片岩,岩内岳岩体・糠平岩体付近であられ石を含む低度の変成岩である(Sakakibara and Ota,1994,J. Geophys. Res.).アンチゴライト蛇紋岩の形成は隣接する変成岩類の変成度に関連し鷹泊岩体では形成量が多く,岩内岳岩体・糠平岩体ではほとんど見られない.初生/二次鉱物の主要・微量元素組成分析によって,神居古潭帯の超苦鉄質岩類は多様な交代作用を経験していることが示唆される. 最初の交代作用はSiに富むスラブ起源メルトによるもので,二次的にかんらん石を置換した直方輝石,単斜輝石,微小なスピネルの出現で特徴づけられる.溶け残り相に比べて,二次直方輝石は低CaO,低Cr#,低Mg#,二次単斜輝石は低Na2O,高Mg#,スピネルは低いCr#(=0.2-0.4)という特徴が見られる.Secchiari et al.(2019,Geosci. Front.)はニューカレドニアの高枯渇度かんらん岩体から同様の交代作用を報告し,全岩Sr-Nd-Pb同位体比等の証拠から堆積物由来のメルトを原因物質とした.神居古潭帯においても堆積物メルトが関与した可能性がある.スラブメルトによる交代作用の後,スラブ起源H2O流体によって初生鉱物を置き換える含水/二次鉱物(Ca角閃石,金雲母,タルク,緑泥石,アンチゴライト,リザーダイト/クリソタイル)が形成される.Ca角閃石は輝石を交代する産状を示し,トレモライトからマグネシオホルンブレンドの組成を示す.これらはNa量によって異なる2つのタイプ(Na-richとNa-poor)に区分され,鷹泊・岩内岳の両岩体で共通して見られる.角閃石地質温度計(Putirka,2016,Am. Mineral.)及び圧力計(Mandler and Grove,2016,Contrib. Mineral. Petrol.)を適用し,加重平均をとった結果,Na-richタイプで鷹泊が836 ℃/1.16 GPa,岩内岳が820 ℃/1.08 GPa,Na-poorタイプで鷹泊が835 ℃/0.71 GPa,岩内岳が865 ℃/0.85 GPaを示した.これらの結果は,Ca角閃石の形成が主に2段階あることを示唆している.微量元素組成は,流体移動元素(Cs,Rb,Ba,Sr,Pb)に濃集が見られる.鷹泊岩体のアンチゴライトは高Al,低Mg#のAtgⅠと低Al,高Mg#のAtgⅡの2タイプに分類される.AtgⅠはリヒター閃石,Feに富む変成かんらん石,変成単斜輝石と共存する.リヒター閃石,Feに富む変成かんらん石,変成単斜輝石は初生直方輝石を置き換える産状を示す.これらは550 ℃以下で初生かんらん石,直方輝石と流体の相互作用によって形成されたと考えられる.また,リヒター閃石や変成単斜輝石は流体移動元素に富み,多量のNaやCa,流体移動元素がスラブ流体によって供給されていたことを示唆する.AtgⅡはMgに富む変成かんらん石,磁鉄鉱,ブルーサイトと共存し,かんらん石の仮像を成す.AtgⅡは,450 ℃以下で初生かんらん石の加水分解によって形成され,その後の昇温によってMgに富む変成かんらん石が形成されたと考えられる.岩内岳岩体や糠平岩体では,スラブ起源メルトによる交代作用の証拠を示すものの,アンチゴライトはほとんど形成されておらず,その他の含水鉱物にも乏しい.また,随伴する高圧変成岩類の変成度も低いことから定置以前,この2つの岩体は鷹泊岩体よりも前弧側に位置していた可能性がある.本研究によってスラブ起源の物質流入による多様なマントル交代作用の証拠が明らかとなった.それぞれの段階でどのような流体の関与が支配的であったのか,流体移動元素の特徴に着目しながら検討する必要がある.

  • 大柳 良介, 宇野 正起, 岡本 敦
    セッションID: T1-O-10
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    <はじめに>

     沈み込み帯では地殻やマントル由来の岩石が混在している。地殻岩石とマントル岩石の境界近傍では、交代作用による大規模な脱水反応や元素移動が起き、沈み込み帯における物質循環プロセス(特に水や炭素)やスロー地震の発生に影響を与えている1–3。近年の高温高圧条件下の流体の物性理論の進展により,変成流体の化学的特徴(イオンの濃度やpH)を定量的に予測できるようになり,沈み込み帯における元素循環の理解が進みつつある4,5。一方で、岩石の交代作用やそれに伴う元素移動プロセスは、全岩化学組成に基づく熱力学的アプローチから理解することは不可能である。三波川帯には多数の小規模の蛇紋岩体が存在している。蛇紋岩体の多くはざくろ石帯よりも高変成度に存在し、マントルウェッジ由来と考えられている6 。泥質片岩と蛇紋岩の境界では、交代作用の痕跡である反応帯がしばしば観察される。本研究では、三波川変成帯の富郷地区に産する蛇紋岩岩体を研究対象とし、岩石学的解析とマスバランス計算から交代作用に伴う反応帯の形成と元素移動メカニズムの制約を試みた。

     富郷地区の蛇紋岩岩体は20メートルほどのサイズのBlock-in-matrix構造を示すアンチゴライトからなっている7。カンラン石は残っておらず、輝石やその仮晶は観察されない。また、蛇紋岩岩体は北側と南側で泥質片岩(ざくろ石帯)に接している。泥質片岩の鉱物組み合わせはQz+Pl+Ms+Ep+Chl+Grt+Amp+Rt+Ttn+Ap+Turであり、黒雲母は観察されなかった。泥質片岩に地質温度圧力計を適用した結果、変成条件は 530 - 560˚C・1.1 – 1.4 GPaと推定された。

     南側の蛇紋岩体と泥質片岩の境界周辺では、次のような系統的な反応帯が観察された。

    泥質片岩/曹長石岩/白雲母岩/緑泥石岩/透閃石片岩/滑石片岩/滑石+蛇紋石岩/蛇紋岩

    チタン石は曹長石岩から緑泥石岩にかけて観察されるが、透閃石片岩から蛇紋岩にかけては観察されない。また、スピネルは透閃石片岩から蛇紋岩にかけて観察されるが、曹長石岩から緑泥石岩にかけては観察されない。泥質片岩中のざくろ石は典型的な Mnベル型累帯構造を示した一方で、白雲母岩中のざくろ石は グロッシュラー成分に富む特徴的なリムを持っていた。

    <議論>

     周囲の泥質片岩から推定された変成条件は典型的なざくろ石帯の変成条件8より高いが、富郷地域の塩基性岩から推定された変成条件9と整合的である。反応帯内におけるチタン石やスピネルの出現・消滅は、泥質片岩と蛇紋岩の本来の境界が現在の緑泥石岩と透閃石片岩の境界部であることを示している。岩石学的記載を総合すると,本蛇紋岩岩体はマントルウェッジのかんらん岩が比較的均質に蛇紋岩化したのち泥質片岩に取り込まれ、交代作用を受けたものであると考えられる。泥質片岩と白雲母岩中のざくろ石の組成累帯構造の比較から、蛇紋岩体と泥質片岩の交代作用がピーク変成条件付近で始まったことが示唆される。講演では、反応帯の全岩化学組成に基づいたマスバランス計算などを用いて、沈み込むスラブとマントルウェッジの境界で起きる岩石や流体の化学組成の変化について考察する。

    参考文献

    [1] Marschall, H. R. & Schumacher, J. C. Nat. Geosci. (2012).

    [2] Tarling, M. S., Smith, S. A. F. & Scott, J. M. Nat. Geosci. (2019).

    [3] Okamoto, A. et al. Commun. Earth Environ. (2021).

    [4] Sverjensky, D. A., Harrison, B. & Azzolini, D. Geochim. Cosmochim. Acta (2014).

    [5] Galvez, M. E., Connolly, J. A. D. & Manning, C. E. Nature (2016).

    [6] Aoya, M., Endo, S., Mizukami, T. & Wallis, S. R. Geology (2013).

    [7] Hirauchi, K. et al. Earth Planet. Sci. Lett. (2021).

    [8] Enami, M. J. Metamorph. Geol. (1998).

    [9] Okamoto, A. & Toriumi, M. J. Metamorph. Geol. (2005).

  • 遠藤 俊祐, 栗原 那知, 田口 知樹
    セッションID: T1-O-11
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    白亜紀沈み込み境界で形成された四万十付加体と三波川変成岩とを比較すると,ともに海洋地殻(MORB)起源の苦鉄質岩が付加しているが,深部相である三波川帯の苦鉄質片岩は側方連続性の極めて良い層をなし,岩体規模が明らかに大きい.これら苦鉄質片岩の地質構造は,沈み込み期の延性変形(単純剪断)により高アスペクト比のシート状岩体となった後,上昇期に同斜状褶曲による折り畳みと東西伸長を伴う延性薄化を受けた結果とみなされる.しかし,それ以前に沈み込む海洋地殻から力学的に分離(構造スライス化)し,沈み込みチャネルへ取り込まれるプロセスに関しての地質学的証拠はこれまで知られていなかった.それは四万十付加体に観察されるduplexの形成よりも大規模な海洋地殻の破壊を伴うはずである.本発表は,愛媛県東温市滑川地域の三波川帯から見出した「石灰珪質片岩」の野外地質・岩石学的解析・炭質物ラマン分析の結果をもとにこのプロセスを議論する.この岩石名はCa-Al珪酸塩に富むことによるもので石灰岩起源という意味を含まない.石灰珪質片岩は緑泥石帯の厚い苦鉄質片岩層の下底(泥質片岩との岩相境界)に沿って薄く(厚さ数m以内)存在しており,側方に500 m以上追跡できる.苦鉄質片岩との境界は漸移的で,その産状と残留クロムスピネル組成から原岩はMORBに関係している.さらに石灰珪質片岩は,炭質物を含む灰色クラストと淡緑色基質からなる不均質組織をもつタイプAと,炭質物を含まず微量~主成分鉱物として方解石を含みCASH-CO2系に近い全岩組成を持つタイプBに分類できる.タイプAのクラストは緑れん石やアルバイトに富み,基質は緑泥石やアクチノ閃石に富む.タイプBの一部は四国西部で「変成斑れい岩」として記載された原岩不明の岩石(仲田ほか2019)と同様の組織(白色クラストを含むL-Sテクトナイト)をもつ.タイプBの現在の主要Ca-Al珪酸塩は緑れん石およびゾイサイトであるが,微細組織観察と岩石学的解析から,もとはローソン石+パンペリー石を主とする高含水量CASH-CO2交代岩として形成されたと解釈できる.このようなCASH交代作用は,冷たい沈み込み帯の深部(50-80 km:Vitale Brovarone and Beyssac, 2014)や温かい沈み込み帯の浅部(~10 km:Endo and Wallis, 2017)で起こり,より深部への効率的な水輸送に重要な役割を果たしていることが近年指摘されている.温かい沈み込み帯浅部の苦鉄質・泥質岩相境界におけるCASH-CO2交代岩の形成は流体を消費してプレート境界の固着を強めると考えられるが,プレート境界地震発生帯の末端付近(~300℃,0.5 GPa)まで沈み込むと,一転して大量のH2O流体を発生し,緑れん石およびゾイサイトを主とする岩石へと変化する.この反応をタイプBの全岩組成でモデル計算すると,5.26%の固相体積減少,4.74%の流体を含む系の体積増加となる.従って,この脱水反応は流体圧上昇を伴い,大規模な海洋地殻の破壊に関与した可能性が高い.実際に石灰珪質片岩の不均質組織は,後の延性変形の重複により不明瞭になっているものの,沈み込む海洋地殻の構造スライス化に直接関連した断層岩(カタクレーサイト)であったことを示すと考えられる.炭質物ラマン温度計により,石灰珪質片岩の周囲のピーク変成温度は約400℃と見積られるが,タイプAに含まれる炭質物は変成温度から期待されるよりも著しく結晶化度が高い(見かけ温度は530-540℃).この炭質物は断層運動の剪断熱により生じた高温流体から晶出した可能性がある.

    引用文献:Endo and Wallis (2017) J. Metam. Geol. 35, 695–716. 仲田ほか(2019)地質雑125, 447-452.Vitale Brovarone and Beyssac (2014) Earth Planet. Sci. Lett. 393, 275–284.

  • 副島 祥吾, ウォリス サイモン
    セッションID: T1-O-12
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    スロー地震の発生プロセスにおいて、沈み込み帯における水流体の存在が重要な役割を果たしていることはよく知られている。また、沈み込み環境で水流体中に溶解し、沈み込む堆積岩に最も多く含まれるシリカは、深部スロー地震の時間スケールを支配する重要な因子となり得るとして、近年注目されている。例えば,Audet & Burgmann(2014)は,沈み込み帯の上部プレートにおけるVp/Vs比が深部スロー地震の再来周期と正相関しているという観測から,シリカ付加過程を深部スロー地震の再来周期を決定する要因として提唱した。具体的には、スロー地震の周期は、断層すべり時の不連続構造の形成と石英の析出によるヒーリングの繰り返しによって決定されるという考えである。彼らは、このプロセスが進行する前弧地殻の下部領域で5–15vol.%のシリカが析出することが必要であると推定している。このようなシリカの移動は、シリカの供給源領域での体積減少と析出の起こる領域での体積増加に反映されるはずである。シリカは沈み込む岩石中に広く存在し、比較的溶解度が高いので、これらの地域の体積変化は移動したシリカの量とほぼ同程度である。したがって、深部スロー地震発生深度以深に沈み込んだ変成岩の体積変化の推定は、これらの領域におけるシリカの移動を定量的に検証するために用いることができる。 構造地質学分野において、これまで適用されてきた岩石の体積変化の推定方法は、絶対伸縮量の推定や岩石全体の化学組成の変化に基づくものであった。これらの手法には、特に変成堆積岩の解析において、検証不可能な仮定を必要としたり、それぞれの手法を同じ地域に適用した場合でも結果に大きなずれが生じたりする不確実性の問題があった。本研究では変形脈群法(Passchier, 1990; Wallis, 1992)という、変形した鉱脈の方向と変形タイプを利用して体積変化を推定する、ほとんど未開拓の方法を開発した。本手法は検証不可能な仮定を必要とせず、誤差範囲の推定も可能であるため、不確実性を含めた体積変化の定量的議論を可能にする。 Franciscan 帯の Del Puerto Canyon に分布する、 前弧地殻下部由来だと推定されるmetagreywacke に変形脈群法を適用した。その結果、同地域で大きな体積減少を示す従来の提案(Ring, 2008)と対照的に、変成同時性の体積変化は 7%以上であると制約された。Ring (2008)では,シリカの溶解沈殿プロセスで石英粒子の周囲に付着するover growthに着目し、その形態解析をもとに体積変化を推定した。彼らの手法では、粒界すべりと溶解移動による個々の結晶粒子の剛体回転を考慮できず、これが見かけの体積変化を著しく小さくする原因になった可能性がある。我々は、Ring (2008)で使用された手法にRf/Φ法による歪解析を組み合わせることで、粒子回転の影響を加味した体積変化推定を可能にし、体積変化が最大21%であると制約した。以上から最終的には、7–21vol.%の正の体積変化が推定され、岩石へのシリカの付加が示唆された。この結果は,Audet & Burgmann (2014) の推定値とよく一致している. また、推定された体積変化から、それを引き起こしたシリカ溶存水流体の時間積分フラックスの定量的評価が可能である。シリカの溶解度は、温度と圧力に依存し、一般的に温度が下がるほど低下する。したがって、本研究で明らかになった前弧地殻下部に沈殿した石英の体積は、沈み込み帯深部の高温領域から浅部の低温領域へと移動する水のリターンフローの時間積分フラックスと関連付けられる。本地域で水流体が垂直方向に浸透したと仮定した場合、先行研究の温度圧力推定の結果と本研究で得られた体積変化推定の結果から、時間積分流体フラックスは、1.0×106–1.9×107 (m3/m2)であると推定された。この結果は含水鉱物の安定性の議論に基づくモデリング研究(e.g. Peacock, 1990, van Keken et al., 2011) で推定されている流体フラックスの数十倍の値である。 【References】 Audet & Burgmann (2014), Nature, 510, 389–392. Passchier (1990), Tectonophysics, 180, 185–199. Wallis (1992), J. Struct. Geol., 14, 271–280. Ring (2008), GSA, Special Paper, 445 Peacock (1990), Science, 248 (4953), 329–337. van Keken et al. (2011), J. Geophys. Res., 116, B01401.

  • 松野 哲士, 宇野 正起, 岡本 敦
    セッションID: T1-O-13
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    海洋プレート上で生じる海洋底変質は、地球表層から地球内部までの一連の元素循環における起点である。海水との反応に伴って化学組成が改変された海洋プレートは、沈み込み帯を通じて地球内部へと入り、島弧玄武岩や海洋島玄武岩の微量元素濃度・同位体組成に影響を与える(Pietruszka et al. 2013)。海洋底変質による元素濃度変化は、原岩である玄武岩と変質作用の生成物である変質玄武岩の化学組成を比較することで解析されてきた(Kelley et al. 2003)。しかし、個々の変質岩試料に対する原岩にアクセスできるのは非常に稀であり、解析は依然として定性的な評価にとどまっている。したがって、海洋底変質に伴う定量的な元素移動量を解析するには、個々の変質岩試料に対して、原岩の組成を推定する必要がある。本研究は、変質岩の組成から原岩の組成を復元する地化学機械学習モデルによって定量的な元素移動量の推定を行い、異なる地域の変質岩試料から得られた元素移動量と変質作用の支配パラメータの関係性を評価した。

    変質玄武岩の組成データは、北西太平洋(i.e., N10−35°, E140-160°)・南太平洋(i.e., S10-50°, W100-180°)の7つの深海掘削サイトから得られた計237試料の16元素(Rb, Ba, U, K, La, Ce, Pb, Sr, Nd, Y, Yb, Lu, Zr, Th, Ti, Nb)を先行研究からコンパイルした。各変質岩試料に対する原岩の組成は、機械学習モデルをベースとした原岩組成復元モデル(Matsuno et al. 2022)によって決定し、元素移動量を定量的に推定した。変質岩に残された原岩の痕跡として使用する不動元素は、Zr・Th・Ti・Nb とし、それ以外の12 元素の移動量を推定した。解析する2つの地域は、年代および堆積物の堆積速度が対照的であり(太平洋西部:130-170Myr、15mm/yr;太平洋南部:13.5-103.7Myr、0.01-0.1mm/yr)、これらのパラメータが海洋底変質へ与える影響を評価するのに適している。

    各地域で推定された元素移動量からは、Rb・Ba・U・K・Pbで最大100倍の元素付加が見られる一方で、La・Ce・Sr・Nd・Y・Yb・Luでは元素移動が見られなかった。元素の付加が見られる物のうち、Rb・Kは、両地域で強い相関を持ち(R=0.842)、Saponiteなどの変質鉱物量比と相関が見られる(R〜0.5)。より年代が古い試料で付加傾向にあることから、海水との反応時間が変質鉱物の生成に伴うRb・Kの付加を促進すると考えられる。南太平洋地域では、Rb、Kが付加された試料において、Calcite veinと赤茶色の変色と共にBa・U・Pbの元素付加が見られた。その一方で、Pbの付加形態には、Calcite veinと赤茶色の変色を伴う場合と、変色などの特徴を持たない場合があり、後者の場合ではPbのみが付加していた。北西太平洋地域では、UとPbがそれぞれ独立した付加トレンドを示し、Uが付加されている試料では、変質鉱物に富む一方、Pbが付加されている試料では、南太平洋地域と同様に目立った特徴が見られなかった。北西太平洋地域の深さ521m-638mでは、Hydrothermal depositに伴うPbの付加が見られる一方で、その他では最大50%の溶脱が発生していた。両地域では、U・Pbの付加形態が異なるが、堆積速度に伴う堆積物の厚さの影響が考えられる。堆積速度の低い南太平洋では、堆積物の層が薄いため、継続的に酸化的な海水が供給される環境下での海水循環が起こる一方、堆積速度の高い北西太平洋では、堆積物の層が厚いため、プレート内での熱水循環が起きると考えられ、このような水の供給源・循環形態の違いが元素の付加・溶脱形態へ反映されている可能性がある。現在は、2地域7サイトから得られた試料の解析にとどまっているが、今後検証地域を広げ、各パラメータと海洋底変質のグローバルなトレンドを明らかにするとともに,沈み込み帯への各元素の供給量を定量的に評価する。

    Pietruszka et al. 2013, Earth and Planetary Science Letters.

    Kelley et al. 2003, Geochemistry, Geophysics, Geosystems.

    Matsuno et al. 2022, Scientific Reports.

  • 原田 浩伸, 辻森 樹, 高柳 栄子, 井龍 康文
    セッションID: T1-O-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    大理石(変成炭酸塩岩)は地球史を通して造山帯に普遍的に産出し、地殻におけるCO2(及び含CO2流体)の挙動を理解する上で最適な岩石である。特に、大理石を構成する炭酸塩鉱物は主要元素として含む炭素と酸素について同位体組成をトレーサーとして用いることができる。その同位体地球化学的研究は岩石の起源を推定できることに加えて、原岩の同位体組成が仮定できれば流体の起源や流体–岩石相互作用、CO2を放出するような変成反応である脱炭酸反応について定量的な議論を可能にする(Harada et al. 2021など)。本講演では四国三波川帯五良津東部岩体に産するエクロジャイト相変成作用を経験した大理石について、組織観察と微少量マイクロドリルサンプリングを併用した炭素 (C)–酸素(O)同位体組成分析結果を示し、三波川帯の大理石についての新知見を紹介する。

     三波川帯に産する大理石のうち、五良津東部岩体のものについては古くから堆積性か火成起源かその成因の議論がなされてきた(例えば、坂野ほか, 1976; Wada et al., 1984; Terabayashi et al., 2005)。大理石を含む五良津東部岩体は地質学的あるいは地球化学的に海台あるいは海洋性島弧の断片という考えがあり(Terabayashi et al., 2005; Utsunomiya et al., 2011)、大理石は海洋性炭酸塩を起源にもつと考えられている。しかしながら、Wada et al. (1984)は著しく低い炭素同位体組成を見出し、一部の大理石が火成起源であることを指摘した。

     五良津東部岩体の大理石は方解石を主とし、さまざまな量の石英、透輝石、Caざくろ石、チタン石を含む。我々は大理石中の方解石について組織観察しながら極微少量バルクの点分析を進めており、その予察的な炭素、酸素同位体組成(δ13C[‰ VPDB], δ18O[‰ VSMOW])の分析結果はそれぞれδ13C = +3.0 to +3.6‰(VPDB)、δ18O = +13.2 to +15.2‰(VSMOW)であった。高いδ13C値は海洋で堆積した炭酸塩のものとして整合的であり、海洋性炭酸塩説を指示する。一方、Wada et al. (1984)が報告した低いδ13C値を見出すことはできなかった。同産地の大理石中の変成チタン石は200–180 MaのU–Pb年代を示し(Yoshida et al., 2021)、その原岩はジュラ紀以前に海洋に堆積したものであると考えられる。また、Niki et al. (2022) は同大理石のCaざくろ石コアから得られたU–Pb年代97 ± 10 Ma をエクロジャイト相変成作用のタイミングと解釈した。

     五良津東部岩体の大理石のδ18O値(+13.2 to +15.2‰)は海洋性炭酸塩としては低いが、汗見川−銅山川ルートの泥質片岩中のフェンジャイトのやや高いδ18O値(+11.0 to +16.2‰: 辻森ほか, 2021)に近い。こうした酸素同位体組成の特徴は、地質学的な関係と従来の四国三波川帯の研究を考慮すると、三波川帯を構成する(地殻浅所まで上昇した)かつてのスラブ深部物質が酸素同位体に関して比較的均一になるような流体流入を経験したことを意味するかもしれない。今後、四国中央部の三波川帯構成岩の広域的な安定同位体比の検討により、スラブ物質上昇時における流体活動について定量的に解析できる可能性がある。

    引用文献

    坂野昇平ほか, 1976. 地質学雑誌 82, 199–210. doi: 10.5575/geosoc.82.199

    Harada, H. et al., 2021. Island Arc 30, e12389. doi: 10.1111/iar.12389

    Niki, S. et al., 2022. J. Mineral. Petrol. Sci. 117, 210814. doi: 10.2465/jmps.210814

    Terabayashi, M. et al., 2005. Int. Geol. Rev. 47, 1058–1073. doi: 10.2747/0020-6814.47.10.1058

    辻森樹ほか, 2021. 日本地質学会第128年学術大会, R4-P-7.

    Utsunomiya, A. et al., 2011. Chem. Geol. 280, 97–114. doi: 10.1016/j.chemgeo.2010.11.001

    Wada, H. et al., 1984. Geochem. J. 18, 61–73. doi: 10.2343/geochemj.18.61

    Yoshida et al., 2021. Lithos 398-399, 106349. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106349

  • 伊藤 泰輔, ウォリス サイモン, 高橋 嘉夫, 遠藤 俊祐, 小暮 敏博, 淺原 良浩
    セッションID: T1-O-15
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    沈み込み帯深部から地表へ上昇した高圧変成岩の岩石学的解析から導かれる温度圧力条件は、プレート収束域の地殻下部-上部マントル深度における岩石のレオロジーや化学反応の諸性質の本質的理解に欠かすことができない。また、岩石記録から推定される沈み込み帯の温度圧力構造は、地球物理学的観測に基づいた沈み込み帯の熱モデリングに対する重要な検証材料となり得るが、そのためには正確に岩石の温度圧力条件を推定することが重要である。

     代表的な高圧変成岩であるエクロジャイトは、ざくろ石と単斜輝石(オンファス輝石)の鉱物共生を特徴的に持ち、それらの間のMg-Fe2+交換反応が変成温度条件の推定に広く利用されている。温度計として実際に適用するには、両鉱物のFe2+の含有量(Fe3+/ΣFe比)を得る必要があるが、鉱物組成分析で広く使用されるEPMAではFe2+とFe3+を区別した定量は困難であるため、通常、化学両論的電荷均衡(チャージバランス)などの間接的推定法が採られる。しかし、Fe3+/ΣFe比の間接的推定法の精度は定量分析の誤差に大きく左右され、加えてエクロジャイト中の単斜輝石はFe含有量自体が少ない上に、Ca-Eskola成分(Ca0.5[vacancy]0.5AlSi2O6)の影響で化学両論を満たさない場合があるため[1]、得られたFe3+/ΣFe比の推定値には大きな不確実性が存在する。この不確実性に起因したざくろ石-単斜輝石温度計の推定誤差は少なくとも100℃に及ぶとされ[2]、正確な温度推定の大きな支障となっている。

     西南日本外帯の三波川変成帯は白亜紀の低温高圧型広域変成帯であり、沈み込み帯深部の情報を直接記録している地質帯である。四国中央部の別子地域には周囲の一般的な片岩類より有意に深い場所でエクロジャイト相変成作用を被った高変成度岩体が分布し、その温度圧力構造には圧力約2.0-2.5 GPaに顕著な高温側への湾曲構造が存在するとされる[3]。この湾曲構造は沈み込むスラブと上盤マントルの対流との熱的結合を示唆すると同時に、van Kekenらのタイプの沈み込み帯熱モデル[4]を実際に表している可能性があるが、上述の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の不確実性により、湾曲形状を支配する権現岩体の変成条件の推定誤差が特に大きく、改めて詳細かつ広域的な変成条件の再検討が必要である。本研究ではこの点に着目し、三波川変成帯に産するエクロジャイトを用いて後述の手法で沈み込み帯の正確な温度圧力構造の再評価を試みた。

     本研究では、マイクロビームの放射光X線を使用した化学状態分析法であるX線吸収端微細構造分光法(micro-XANES分光法)によるエクロジャイト中の単斜輝石のFe3+/ΣFe比の非破壊・微小領域分析を行った。標準試料はaegirine、augite、hedenbergite単結晶の粉末試料を用い、湿式分析によりFe含有量を、メスバウアー分光法により正確なFe3+/ΣFe比を求めた。Micro-XANES分析は高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのBL-4Aで行った。本実験ステーションは、2.5 GeV、450 mAの電子蓄積リングから偏向電磁石により発せられる高輝度シンクロトロン放射光を出射位置固定型Si(111)二結晶分光器によりエネルギー可変の単色X線に加工し、Kirkpatrick-Baez型集光光学系により約5 μm角のマイクロビームを実現している。岩石薄片試料は入射X線に対して45度の角度で固定し、Si(Li)半導体検出器により試料から発生する蛍光X線を検出した。二結晶分光器のエネルギー分解能はΔE/E=~10-4であり、magnetite標準試料によりエネルギー校正を行った。得られたFe K-edge XANESスペクトルからpre-edgeピーク重心エネルギーを計算し、標準試料の検量線から未知試料のFe3+/ΣFe比を求めた。

     本講演では、これまでに採取・分析した五良津岩体、権現岩体、瀬場岩体のエクロジャイト試料について、単斜輝石のFe3+/ΣFe比と温度圧力条件を再評価した成果を報告する。また、最高変成度の権現岩体の石英エクロジャイト中の単斜輝石から三波川変成帯としては新たにCa-Eskola成分を定量的に見出したことを報告する。

    文献

    [1] Proyer et al. (2004), Contrib. Min. Petrol., 147, 305-318.

    [2] Carswell and Zhang (1999), Int. Geol. Rev., 41, 781-798.

    [3] Aoya et al. (2009), Terra Nova, 21, 67-73.

    [4] van Keken et al. (2003), Geochem. Geophys. Geosyst., 3(10), 1056.

  • 内藤 美桜, 山根 健輔, 中村 大輔, 平島 崇男, マルチン スフォイッカ
    セッションID: T1-O-16
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    ヨーロッパのヴァリスカン造山帯の東端に位置するボヘミア地塊には高圧から超高圧変成作用を受けた変成岩類が産出する。地塊の中核部を占めるモルダヌビア帯の構造的最上位には、主に珪長質グラニュライトからなるGföhlユニットがあり、その中にザクロ石橄欖岩やエクロジャイトの岩塊が含まれ、それらの岩塊には超高圧条件(> 3.0GPa)を示すものがある(例えば、Medaris et al., 2005)。しかし、その母岩となる珪長質グラニュライトが経験した最高圧力条件は2.0 GPa程度であるとされている(例えば、Carswell & O’Brien, 1993)。こうした広域的に産出する珪長質変成岩とそれに含まれる超苦鉄質-苦鉄質変成岩の間に見られる推定圧力ギャップの問題は大陸衝突型造山帯で古くから議論されている。比較的新しい研究では、珪長質変成岩からも超高圧条件を示すコース石やダイヤモンドの存在が確認されており(例えば、Perraki & Faryad, 2014)、上述の推定圧力ギャップが本当に存在するか疑問が残るところである。

      本研究では、チェコ共和国南部に位置するGföhlユニットに属すBlanský les岩体の南東部のPlešovice採石場(以降PVと略す)と中央部のZrcadlová Hut’採石場(以降ZHと略す)に産する珪長質グラニュライトの最高変成圧力条件の考察を行った。

     珪長質グラニュライトの主な構成鉱物はザクロ石、石英、斜長石、カリ長石、黒雲母、藍晶石、ジルコンである。PVの珪長質グラニュライト中のザクロ石は直径1mm未満の細粒なものが多い。一方、ZHの珪長質グラニュライトは直径5mm程の粗粒なザクロ石斑状変晶を多く含み、マトリクスには藍晶石の仮像と考えられるスピネル+斜長石のシンプレクタイト(Baldwin et al., 2015)も含む。

     ザクロ石の化学組成はPV中の珪長質グラニュライトのものはコアからリムにかけてFeが増加し、Mgが減少する後退型累帯構造をもっているが、ZHのザクロ石で粗粒なザクロ石はコアからリムにかけてFeが減少し、Mgが増加する昇温型累帯構造を示した。また、ZHのザクロ石はグロシュラー含有量が高く(Xgrs > 0.16)、PVのものは低い(Xgrs < 0.16)傾向がある。

     PVのマトリクス中の黒雲母のMg#は40-50付近であり、ザクロ石中の包有物は20-70と大きくばらつく。ZHのマトリクス中の黒雲母は60-70で、包有物の黒雲母は40-70にばらつく。どちらの黒雲母もフッ素と塩素を含む。PVでは、ザクロ石中の黒雲母のF量は0.2-1.2 apfu(総陽イオン価数=44において)であり、マトリクス中の黒雲母のF量は0.2-1.3 apfuである。Cl量はマトリクス中の粒子と包有物の両方とも0.03 apfu以下である。ZHでは、F量はマトリクス中の粒子と包有物の両方で0.1-0.8 apfuの範囲にわたり、Cl量はマトリクス中の黒雲母において0.02 apfu程度と少ないが、ザクロ石中の黒雲母では0.2-0.3 apfuと比較的多い。

     地質温度圧力推定には、Grt-Bt温度計とGrt-Ky-Qz-Pl圧力計を使用した。PVではザクロ石のコアとマトリクスの黒雲母、包有物の斜長石を用いると、約2.2-2.5GPa、1000-1200℃といった推定値が得られた。ZHでは粗粒な昇温型累帯構造を持つザクロ石のリム、マトリクスの黒雲母、包有物の斜長石の組成を使用して求めると、約2.3GPa、1050℃の推定温度圧力が得られた。

     PVでは昇温型累帯構造を持つザクロ石はなく、推定温度も1200℃近い高温が得られていることを考えると、PVの方がZHより高温にあった可能性がある。モデル系では黒雲母が不安定となる1000℃以上の温度が算出されているのは、FやClといった陰イオンが少なからず含まれていることで黒雲母が超高温でも安定となったためかもしれない。一方、算出された圧力は2.5GPa以下で超高圧条件には達しない値である。本研究地域の珪長質グラニュライトは超高圧条件まで達しないものの、それに近い高圧の変成作用を経験しているのだろう。

    引用文献

    Baldwin et al. (2015) J. Metamorphic Geol., 33, 311-330.

    Carswell & O’Brien (1993) J. Petrol., 34, 427-459.

    Medaris et al. (2005) Lithos, 82, 1-23.

    Perraki & Faryad (2014) Lithos, 202-203, 157-166.

  • 金木 俊也, 纐纈 佑衣
    セッションID: T1-O-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    地球内部における岩石の続成・変成過程を調べる上で、被熱温度は重要な情報である。炭質物は、堆積岩や変成岩中に普遍的に存在し、力学的な変形を受けていない場合は周囲の温度に対してその熟成度を不可逆的に変化させることから、有効な温度指標として広く用いられてきた。特に2000年代以降、ラマン分光法を用いた温度計の開発が盛んに行われており、その一つにKouketsu et al. (2014)が提案した地質温度計がある。彼らの温度計では、測定した炭質物ラマンスペクトルに対して疑フォークト関数およびローレンツ関数を用いた非線形最小二乗法によるピークフィッティングを行うことで、モデルパラメータの一つであるD1もしくはD2バンドの半値幅と被熱温度との線形関係から温度を推定することができる。しかし、ピークフィッティングを行う際のモデルパラメータの初期値を解析者が主観に基づいて設定する必要があるため、得られる結果が解析者に依存し、また解析に多大な時間と労力が必要であるという問題があった。 これらの問題を解決するため、本研究ではPythonを用いた炭質物ラマンスペクトルの自動ピークフィッティング手法を開発した。非線形最小二乗フィッティングの実行には、scipy.optimize.curve_fit関数を用いた。開発したコードを用いてKouketsu et al. (2014)が温度計を構築する際に用いたデータを再解析した結果、Kouketsu et al. (2014)と調和的な結果を得た。再解析で得られたピークの半値幅と被熱温度との関係が線形モデルで説明できると仮定し、それぞれの誤差を考慮した重み付きデミング回帰を行った結果、温度計が適用可能な温度範囲(150から400 °C)での95%予測区間は30から35 °C程度であることがわかった。

    コードが他のデータセットに適用可能かを調べるため、Nakamura et al. (2019)およびKouketsu et al. (2021)で測定された炭質物ラマンスペクトルについてもコードを用いた再解析を行った。得られた結果は先行研究の報告値と95%予測区間の範囲内で調和的であったことから、本コードはKouketsu et al. (2014)のデータ以外にも適用可能であることが確認された。

    Kouketsu et al. (2014)は、測定した炭質物ラマンスペクトルの特徴に応じて、Fitting AからGまでの七種類のフィッティング手法を使い分けることを提案している。このうち、温度計の適用範囲である150から400 °Cにおいては、Fitting CからGの計五種類の手法が用いられる。しかし、フィッティング手法の分類それ自体が解析者の主観を多分に含むため、本コードを用いて解析を行った場合でも、得られる解の一意性が数値誤差の範囲で担保されないという問題が残されていた。そこで、Kouketsu et al. (2014)のデータについて、Fitting CからGまでの五種類のフィッティング手法のいずれかを採用したコードによる自動解析を実施した。その結果、D2バンドの半値幅から計算された被熱温度は、採用する手法によってその値が95%予測区間を超えて変動することがわかった。D1バンドの半値幅から計算された被熱温度は、Fitting CもしくはDを用いた場合とFitting EからGのいずれかを用いた場合で、95%予測区間に収まらない差が存在することがわかった。ただし、後者の場合に推定された被熱温度は、先行研究での報告値と95%予測区間の範囲で調和的であった。これらの結果から、Fitting E・F・Gのいずれかの手法を採用したコードによる自動解析を行い、D1バンドの半値幅から被熱温度を計算すれば、フィッティング手法の分類による主観性が推定温度の誤差に及ぼす影響は支配的でなくなることが明らかとなった。

    以上をまとめると、本研究では、Kouketsu et al. (2014)の炭質物ラマン温度計を用いるための自動解析コードを開発した。D1もしくはD2バンドの半値幅から計算した被熱温度の95%予測誤差は30から35 °Cであった。本コードはKouketsu et al. (2014)以外のデータにも適用可能であり、Fitting E・F・Gのいずれかの手法を採用したコードを用いてD1バンドの半値幅から温度を推定する場合、どの手法を用いても解析結果に重大な影響を及ぼさないことがわかった。

    参考文献

    Kouketsu et al. (2014) Island Arc

    Kouketsu et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology

    Nakamura et al. (2019) Island Arc

  • Ji Wan Jeong, Chang Whan Oh, Deung-Lyong Cho
    セッションID: T1-O-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    The geological correlation between the Korean Peninsula and China Cratons is important for the interpretation of the tectonic evolution of Northeast Asia. Jangbong Island is located in the northwestern coastal area of the Gyeonggi Massif on the Korean Peninsula. Combining with previous studies, this study interprets the tectonic evolution of the northern Gyeonggi Massif by analyzing the age of intrusion and metamorphism of the mafic igneous rocks in Jangbong Island. The basement of Jangbong Island consists of Paleoproterozoic gneiss and is covered by Neoproterozoic metasedimentary rocks. These rocks were intruded by mafic dikes that were metamorphosed into amphibolite. All rocks in Jangbong Island were intruded by Triassic gabbro and granite, and Jurassic granites. The U-Pb dating analysis on zircon analysis using LA-ICP-MS gives the intrusion ages of 917-873 Ma for amphibolites. The whole-rock geochemical analysis indicates that amphibolites are all alkaline and tholeiitic basalts formed in a within-plate tectonic setting. Two metamorphic ages of 254.4±2.8 Ma and 231.5±1.9 Ma were obtained from amphibolite with an intrusion age of 873 Ma. On the other hand, one metamorphic age was obtained for two amphibolites which give metamorphic ages of 255±12 Ma and 229.8±1.4 Ma, respectively. Zircons with metamorphic ages of 255-254 Ma have lower trace element contents and Th/U values than zircons with metamorphic ages of 231-229 Ma. During the Permo-Triassic continental collision between the North China Craton and South China Craton, Jangbong Island experienced intermediate-P/T peak metamorphism (680-630 °C/8.6-7.3 kbar) at ca. 255 Ma and then underwent low-P/T retrograde metamorphism (600-560 °C/5.7-3.1 kbar) at ca. 230 Ma. The Triassic gabbro gives an intrusion age of 229.1±0.57 Ma and formed in a post-collisional tectonic setting with Triassic granite. Together with previous data, this study supports the tectonic correlation between the northern Gyeonggi Massif and the North China Craton and the Permo-Triassic collision within the Gyeonggi Massif.

  • 田口 知樹, Madhusoodhan Satish-Kumar, 三宅 亮
    セッションID: T1-O-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    世界各地のグラニュライトやミグマタイトなどの高度変成岩類から、部分溶融に起源をもつ包有物(ナノ花崗岩、珪長岩包有物)が相次いで報告されている(e.g. Cesare et al., 2009 Geology; Hiroi et al., 2014 Gondwana Res.)。これら包有物は主にザクロ石やジルコン中に認められ、多様な鉱物組み合わせを有する。そのため、部分溶融メルトの生成時期や化学組成を決定する手掛かりとして注目を集めている(Nicoli & Ferrero 2021 Geosci. Front.)。さらに近年、ナノ花崗岩の起源メルトと同時期に捕獲されたC-O-H流体包有物、及びその析出結晶(多相包有物)が見出された(Carvalho et al., 2019 J. Metamorph. Geol.)。この流体包有物の存在は、部分溶融現象と流体挙動の関係究明の新たな手掛かりとなることが期待される。本研究では、南インドKerala Khondalite BeltのKulapparaに産出するミグマタイト質片麻岩から、C-O-H流体起源と推定される多相包有物をザクロ石中に発見したので、その微細組織観察の結果を報告する。

     Kulappara地域に産する高度変成岩類は、コンダライト(ザクロ石や珪線石に富む泥質片麻岩)やミグマタイト質片麻岩である。当該岩石のピーク変成条件は、熱力学的解析によりP/T = 0.60–0.90 GPa/830–925 ℃と見積もられている(Blereau et al., 2016 J. Metamorph. Geol.)。また先行研究では、ジルコン中にナノ花崗岩様包有物も記載されている(Harley & Nandakumar 2014 J. Petrol.)。

     多相包有物が今回見出されたザクロ石は、ミグマタイト質片麻岩の優白質部に存在する。以下の記載は、偏光顕微鏡での観察に加え、微小鉱物はSEM-EDS及びラマン分光分析により同定した。優白質部における主要鉱物組み合わせは、斜長石+カリ長石+石英+ザクロ石である。ザクロ石は粗粒(数cm程度)かつ他形の結晶をなし、アルマンディン成分に富む。さらに、粗粒な石墨(数mm〜cm程度)が優白質部内に存在する。副成分鉱物としては、イルメナイト+アパタイト+ジルコンに加え、微小スピネル(約100 µm)も稀に確認される。スピネルは光学顕微鏡下で暗緑色であり、石英と接して出現する。なお優白質部の縁では、粗粒な黒雲母も観察される。ザクロ石中の包有物としては、今回着目する多相包有物に加え、CO2に富む流体包有物やナノ花崗岩様包有物(斜長石+アパタイト+イルメナイト+白雲母)が存在する。多相包有物は100 µm以下の不定形を呈し、クラックを伴わない。その鉱物組み合わせは、主に炭酸塩鉱物(シデライト、アンケライト)、微細粘土鉱物、石英である。今回、シデライト+アンケライト+石英+微細粘土鉱物からなる多相包有物について、透過型電子顕微鏡による電子回折像の解析も行った。その結果、微細粘土鉱物はカオリナイトであることが判明した。多相包有物を構成する固相は、C-O-H流体がザクロ石へ包有された後、二次的に生成された可能性がある。近年、C-O-H流体存在下の部分溶融は大陸地殻で一般的に起こる可能性が提唱されているが(Ferrero et al., 2014 J. Metamorph. Geol.; Cesare et al., 2015 Lithos; Carvalho et al., 2019 J. Metamorph. Geol.)、本研究で見出された多相包有物はこの説を支持する証拠と考えられる。

  • 足立 達朗, 河上 哲生, 東野 文子, 宇野 正起
    セッションID: T1-O-20
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東南極セール・ロンダーネ山地は,ゴンドワナ超大陸の形成に伴う造山運動によって形成された高度変成岩類や貫入岩から構成される(Shiraishi, 1997 Antarctic Geol. Map Ser.).これらの変成岩類は,変成履歴および砕屑性ジルコンの年代分布によって北東テレーンと南西テレーンに区分され,650-600Maに北東テレーンが南西テレーンに衝上することで形成されたと考えられている(Osanai et al., 2013 Precambrian Res.).両テレーンには,約600Maのグラニュライト相に達する変成条件の痕跡を残す岩石と,約550Maの角閃岩相以下のピーク変成条件を保持するが約600Maの年代を記録していない岩石が分布する.これまで後者は前述の衝上運動時に地殻浅部にあったためにグラニュライト相変成作用を免れたと考えられてきたが,最近前者が後者の構造的上位に分布する例が南西テレーンのブラットニーパネ・親指尾根で見いだされた(Adachi et al., 2021, JpGU).そこでは低角の延性剪断帯を境に構造的上位に泥質変成岩が,下位に珪長質変成岩が分布する.本発表は,Adachi et al. (2020, 2021, NIPR sympo.)で変成条件を検討したザクロ石-黒雲母-珪線石片麻岩(試料番号0703B)とザクロ石-単斜輝石片麻岩(0701B)についてin-situジルコン年代測定の分析結果を加えてより詳細にP-T-t履歴を制約することを目的とした.

     構造的上位に分布する0703Bはザクロ石,黒雲母,珪線石,斜長石,石英からなり,少量のチタン鉄鉱,ルチル,燐灰石,ジルコン,モナズ石を含む.また後退変成作用で形成されたと考えられる菫青石,緑泥石,白雲母,藍晶石,紅柱石が認められる.ザクロ石のリム部には針状の珪線石を含む.またザクロ石は割れ目に沿って菫青石+黒雲母+石英に置換されている.さらにこの菫青石と黒雲母は緑泥石+白雲母によって置換されており,藍晶石と紅柱石はこの緑泥石と白雲母に伴ってのみ産する.これらの組織から,ピーク変成作用のあとに等温減圧し,その後藍晶石/紅柱石の相転移条件付近で加水後退変成作用を受けたと考えられる.

     この岩石に含まれるジルコンは,オシラトリー累帯構造を示すコア部とそれを取り囲み暗いCLのリム部からなる.ザクロ石のリム部に含まれるジルコンのリム部からは,588-682Ma(n=4, Th/U=0.01-0.05, Gdcn/Ybcn=4.2-11.1)が得られた.これはザクロ石の成長が少なくとも590Maまで継続していたことを示す.マトリックスに含まれるジルコンのリム部からは,534-646Ma(n=14, Th/U=0.01-0.16, Gdcn/Ybcn=0.3-3.1)が得られた.菫青石と黒雲母に部分的に包有されるジルコンは,一点のみであるが538Ma(Th/U=0.16, Gdcn/Ybcn=0.5)を示し,マトリックスのジルコンの最も若い年代と一致する.このことはピーク変成作用後の等温減圧が約540Ma以降に起きたことを示唆する.

     構造的下位に分布する0701Bは,ザクロ石,単斜輝石,斜長石,石英,チタン鉄鉱を含み,少量のホルンブレンド,燐灰石,ジルコンを含む.ザクロ石と単斜輝石は互いに包有し合っており,同時期に形成されたと考えられる.また後退変成作用を示す組織は認められない.

     この岩石に含まれるジルコンは,オシラトリー累帯構造を示すコア部と,それを取り囲む明るいCLのマントル部および暗いCLのリム部からなる.ザクロ石に包有されるジルコンもリム部を持っている.変成作用で形成されたと考えられるマントル部とリム部はそれぞれ,約573Ma(n=9, Th/U=0.15-0.49, Gdcn/Ybcn=5.2-14.5),約557Ma(n=7, Th/U=0.08-0.20, Gdcn/Ybcn=1.5-6.6)を示す.リム部が示す1程度のGdcn/Ybcnはザクロ石と共存して成長したことを示唆するため,この岩石のピーク変成作用の時期と解釈できる.

     今回の結果に基づくと,構造的上位の泥質変成岩では少なくとも590Maまでザクロ石の成長が継続し,その後約540Maに等温減圧を経験したことが示唆される.この等温減圧のタイミングは,構造的下位の珪長質変成岩のピーク変成作用(約560Ma)と近い.このことは,約560Maに泥質変成岩のユニットが珪長質変成岩のユニットに衝上し,その後削剥されたことによって,泥質変成岩に等温減圧の温度圧力変化が記録されたことが想定される.これはGrantham et al. (2013 Precambrian Res.)で提案されたテクトニックモデルがセール・ロンダーネ山地中央部にも適応できる可能性を示唆する.

  • 河上 哲生, Satish-Kumar M., 三堀 徳也, Sasidharan Silpa Ammini
    セッションID: T1-O-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東南極セール・ロンダーネ山地には、約6.5-5億年前の大陸衝突帯の下部地殻岩石が広く露出している。衝突境界と考えられているMTBを境にして、北東側のNEテレーンにはグラニュライト相の変成岩類が、南西側のSWテレーンにはグラニュライト相の変成岩類と角閃岩相以下の変成度の変成岩類が主として分布する[1]。

     これらの変成岩類のうち、硫化鉱物が多く含まれる岩相は、主としてブラットニーパネ地域とバルヒェン地域に分布していることがわかった。硫化鉱物の大部分は磁硫鉄鉱と黄鉄鉱であり、岩石のマトリクス部分の粒界に不定形で産することが多い。一部の試料では、ザクロ石や単斜輝石中にもわずかに硫化鉱物が包有される。本研究では、これらの硫化鉱物を含む試料の全岩硫黄同位体組成(32S、33S、34S、36S)を測定した。測定値は、マトリクスの硫化鉱物の硫黄同位体組成を反映していると考えられる。分析の結果、質量非依存同位体分別は見られず、ザクロ石-黒雲母片麻岩、ザクロ石-珪線石片麻岩などの珪長質片麻岩類はδ34Sが-7.0から+12.0まで広い値をとった。これは現世の堆積性硫化鉱物や花崗岩質岩の示す値[2]に整合的である。一方、ザクロ石-直方輝石-黒雲母片麻岩やザクロ石-角閃石片麻岩などの苦鉄質片麻岩類は、一試料を除き、-6.0から+3.9までの値をとり、玄武岩や斑レイ岩の示す値[2]に整合的であった。苦鉄質片麻岩のうち玄武岩や斑レイ岩の示す値から大きく離れたδ34S値(+12.8)を与えた試料は、ブラットニーパネ地域から得られた。この試料は、面構造を切るザクロ石-角閃石脈を有するザクロ石-直方輝石-角閃石片麻岩の、壁岩部分である。[3][4]は、ザクロ石-角閃石脈の周囲に塩素による拡散プロファイルを見い出し、この脈が後退変成期の塩水流体活動の痕跡であると解釈した。詳細な岩石学的研究[4]により、脈周辺の壁岩部分も塩水流体活動の影響を受けたことがわかっているため、本研究で得られた硫黄同位体組成は、ザクロ石-角閃石脈形成に関与した、硫黄を含む塩水流体活動の痕跡である可能性が高い。高いδ34S値(+12.8)は、海水中の硫酸塩が示す値、ないしは、堆積性硫化鉱物や花崗岩質岩の値[2]に近い。ザクロ石-角閃石脈に類似した、面構造を切る角閃石や黒雲母の脈は、セール・ロンダーネ山地一帯に広く分布し、セール・ロンダーネ山地一帯で後退変成期の塩水流体活動が起きたことを示唆する。本研究の結果は、こうした後退変成期の塩水流体が、海水ないしは花崗岩質マグマや珪長質片麻岩の部分融解メルトの結晶化に伴い放出された流体である可能性を示す。実際、本研究で高いδ34S値(+9.1)が得られたブラットニーパネの珪長質片麻岩のマトリクスには、後退変成期の流体流入によって、硫化鉱物+菫青石を含む鉱物組み合わせがザクロ石を置換する組織が観察される[5]。従って、苦鉄質片麻岩のみならず、高いδ34S値を示す一部の珪長質片麻岩も、ザクロ石-角閃石脈形成に関与した流体と同様の、後退変成期の塩水流体の流入の影響を受けていると考えられる。

     [6]は、バルヒェンに産する珪長質片麻岩中の、ザクロ石の酸素同位体組成ゾーニングを詳細に調べ、ザクロ石リムでδ18Oが著しく低下することを見出した。これをもとに、ザクロ石リムに包有される塩素に富む黒雲母の形成にかかわった流体が、低いδ18O値をもつと推定されることから、その起源を苦鉄質岩に求めた。本研究で求めたこの試料のδ34S値は+5.4であった。したがって、面構造を切る角閃石や黒雲母の脈の場合と同様に、海水中の硫酸塩起源の硫黄を含む流体の関与を考えることもできる。

     以上のように、セール・ロンダーネ山地に産する塩素に富む鉱物の形成にかかわった流体活動は、変成段階によって異なる可能性がある一方、海水中の硫酸塩起源の硫黄を含む流体(海水そのものを含む)の流入として、統一的に理解することができる可能性もある。今後、より多くの試料について、複数の同位体組成を用いた検証が必要である。

    引用文献

    [1] Osanai et al. (2013) Precam. Res. 234, 8-29.

    [2] Giacometti et al. (2014) Geochem. Geophys. Geosyst. 15, doi:10.1002/2014GC005459

    [3] Higashino et al. (2015) JMPS, 110,166–178.

    [4] Higashino et al. (2019a) J. Pet. 60, 329–358.

    [5] Ikeda et al. (2021) JpGU abstract, R8-11.

    [6] Higashino et al. (2019b) J. Metamorph. Geol. 37, 1037–1048.

  • 東野 文子, 河上 哲生, 足立 達朗, 宇野 正起
    セッションID: T1-O-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東南極セール・ロンダーネ山地は、原生代後期からカンブリア紀の中部~下部地殻に相当する高温変成岩類が広く露出する (e.g., Shiraishi et al., 1997 Antarctic Geol. Map)。同山地は、変成履歴と砕屑性ジルコン年代の違いから、時計回りの温度圧力履歴を示す北東テレーンと、反時計回りの温度圧力履歴を示す南西テレーンに区分される (Osanai et al., 2013 Precam. Res.)。また、同山地では塩素に富む黒雲母および角閃石が東西 200 km に渡って産することが報告され、大規模な塩水活動が示唆されている (Higashino et al., 2013 Precam. Res.; 2019 J. Pet.)。その活動時期は、変成ピーク時から後退変成期まで様々であり、個々の試料において、温度―圧力―時間―流体履歴を解析する必要がある。

    パーレバンデは、同山地最西部に位置する約10km規模のヌナタクであり、南部では変成岩の構造的下位に花崗岩が露出している。パーレバンデ北部からは反時計回りの温度圧力履歴と、昇温期の塩素に富む流体流入が報告されている (Kawakami et al., 2017 Lithos)。本研究では、パーレバンデ南部に産する泥質片麻岩を用いて、変成流体活動履歴の解析を試みた。

    本研究試料は、ザクロ石―珪線石―黒雲母片麻岩であり、片麻状構造を切るように主に黒雲母から成る幅 <1 mmの黒いクラックが存在する。クラックの黒雲母は塩素に富み (~0.7 wt% Cl)、母岩との反応組織内に紅柱石が産する。これは、後退変成期に紅柱石安定領域下で、塩素を含む流体が局所的に流入したことを示唆する。

    また、母岩では、ザクロ石リムが菫青石と黒雲母のインターグロウスに分解する組織が観察される。分解組織内には珪線石が産し、さらに、この組織は上述のクラックに切られることから、ザクロ石分解反応が先に珪線石安定下で起きたと考えられる。その温度圧力条件は、~750 ℃、~0.3 GPa と見積もられた (cf. Spear et al., 1999 CMP)。インターグロウス中の黒雲母は~0.2-0.3 wt%の塩素を含み、菫青石にはラマン分光分析でH2OとCO2のピークが見られたことから、ザクロ石分解反応は、H2O-CO2-Cl流体の流入で起きたと考えられる。Kaindl et al. (2006 EJM) の手法を用いると、菫青石に含まれるCO2濃度は~1.3-1.7 wt% と見積もられた。さらに、インターグロウス中の黒雲母と共存する流体の塩素濃度を、メルト共存下および非共存下で見積もると、それぞれ~30 wt% Cl、~12 wt% Clを得た (Chevychelov et al., 2008 Geochem. Int; Aranovich, 2017 Petrology)。これらの値は、流体中のNaCl濃度の上限値と考えられる。これをH2O-CO2-NaCl系の相図 (Shmulovich & Graham, 2004 CMP) と比較すると、~750 ℃、~0.3 GPaの条件下では、塩素を含む流体とCO2流体が一相で存在していた可能性を示す。

    さらに、本試料のマトリクスにはパーサイト組織を持つカリ長石が産する。パーレバンデ北部のピーク圧力条件より (Kawakami et al., 2017 Lithos)、圧力を0.8 -1.0 GPa と仮定し、長石温度計 (Fuhrman & Lindsey, 1988 Am. Min.; Kroll et al., 1993 CMP; Benisek et al., 2004 Am. Min.) を適用すると、800-900℃の温度条件が得られた。また、同じ露頭に産するザクロ石―黒雲母片麻岩にも、同様の温度条件を示すパーサイト組織が存在する。このザクロ石―黒雲母片麻岩中のザクロ石およびマトリクスに産するモナズ石には、部分溶融の直接的証拠であるナノ花崗岩類が包有される。

    以上より、パーレバンデ南部ではピーク変成時に部分溶融が起き、その後、後退変成期に珪線石安定領域でH2O-CO2-Cl流体の流入によってザクロ石の分解反応が起きた後、紅柱石安定領域で塩素を含む流体が流入するという、複数段階の流体活動が起きていたと分かった。本露頭では、反時計回りの温度圧力履歴を支持する観察結果は得られていないが、本研究で見出された後退変成期の変成履歴は、構造的下位に位置する花崗岩類の影響を受けている可能性がある。したがって、パーレバンデ北部で見出された変成履歴と本研究試料の構造的関係性については、今後慎重に議論していく必要がある。

  • 中野 伸彦, 馬場 壮太郎, 加々島 慎一
    セッションID: T1-O-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    東南極リュツォ・ホルム湾からプリンスオラフ海岸までの東西400 km以上にわたり分布するリュツォ・ホルム岩体は,原生代末期〜カンブリア紀の変動,いわゆるゴンドワナ超大陸形成期のパンアフリカン変動を記録した地質体として,長らく日本の南極地域観測隊により研究が行われてきた.近年は特に年代学的な解析が精力的に行われ,原岩形成時期や砕屑性ジルコン年代に基づいた詳細な岩体区分が進んでいる(Takamura et al., 2018; Takahashi et al., 2018; Dunkley et al., 2020).一方で,南極特有の限定された露岩分布やアクセスの困難さから,岩体区分の詳細やその境界について,必ずしも統一した見解が得られているわけではない.このような最近のリュツォ・ホルム岩体の研究動向や約940 Maの変成年代をしめす異地性ブロックの存在(Baba et al., 2022)は,同岩体のテクトニクスやゴンドワナ復元時の近隣地質体への延長解読のためのより高密度な調査・データ取得の必要性をしめしている.本年3月末に帰国した第63次南極地域観測隊では,これまで未踏査であった複数の小露岩域の調査を実施した.本発表ではその1つであるベルナバネについて報告する.

     ベルナバネは,リュツォ・ホルム湾西岸,アウストホブデの東南東約7 kmに位置する東西・南北とも700 m程度の小露岩である.Takamura et al. (2018)の区分では南部リュツォ・ホルム岩体と中部リュツォ・ホルム岩体の境界部に位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではアウストホブデとともにルンドボークスヘッタ小岩体を構成する.いずれにしても,リュツォ・ホルム岩体において想定されている最高温度軸付近に位置しており,スリランカ・ハイランド岩体や南インド・トリバンドラム岩体との関連を考える上でも最重要地点の一つといえる.変成岩類は露岩域最西端を除き,広域的に西北西−東南東の走行をしめし,中〜高角度で北傾斜する.主要な岩層は角閃石−黒雲母トーナル岩質片麻岩であり,まれに単斜輝石を含むことがある.同片麻岩は,露岩南部において直方輝石角閃岩のレンズおよび多数の変成輝岩のブロックを含む.変成輝岩は直方輝岩から単斜輝岩まで多様である.露岩中央部には3枚のザクロ石−黒雲母片麻岩レイヤーが産し,その最大幅は100 mにおよぶ.ザクロ石はしばしばスピネルや珪線石を包有し,基質には珪線石または直方輝石を含む場合がある.また,黒雲母に乏しいコンダライト質片麻岩も認められる.これらの泥質片麻岩類は,複数地点で比較的大規模なザクロ石を含むマフィックグラニュライトブロックを包有する.マフィックグラニュライト中のザクロ石,角閃石,直方輝石の存在量はブロックにより異なるが,一般に単斜輝石に富み石英を含む.斜長石は直方輝石または単斜輝石とのシンプレクタイトとして認められる.単斜輝石にはJd成分は含まれない.

     これらのベルナバネの構成岩類は,下部地殻(もしくは上部マントル)から表層までの様々な深度を起源とする原岩が,高圧グラニュライト相程度の変成作用を被ったことをしめしている.また,周囲の露岩域と同様にピーク条件から等温・減圧する変成履歴が想定される.ザクロ石−珪線石−黒雲母片麻岩およびザクロ石−直方輝石−黒雲母片麻岩からの予察的なEPMA分析により,基質部に580–520 Maをしめすモナズ石,ザクロ石中に1.9–1.8 Gaをしめすモナズ石の存在を確認した.このことは,同地域の複変成作用の可能性や堆積上限年代に重要な新知見をもたらす可能性がある.発表では,より詳細な岩石学的・年代学的検討を加え,同露岩域に認められた岩相の形成過程やテクトニックな位置づけについて議論する予定である.

    引用文献:[1] Baba et al. (2022) Gondwana Res., 105, 243–261. [2] Dunkley et al. (2020), Polar Sci., 26, 100606. [3] Tahakashi et al. (2018), J. Asian Erth Sci., 157, 245–268. [4] Takamura et al. (2018), Geosci. Frontiers, 9, 355–375.

  • 髙橋 瑞季, 遠藤 俊祐
    セッションID: T1-O-24
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    島根県隠岐島後に分布する隠岐変成岩は,近年の年代学的研究(Cho et al., 2021; Kawabata et al. 2022)から古原生代造山帯の一部であったと考えられる.隠岐変成岩の砂泥質片麻岩中には苦鉄質グラニュライトや角閃岩といった苦鉄質変成岩がレンズ状に含まれる(Hoshino, 1979).本発表では,苦鉄質グラニュライトおよび新たに見出したザクロ石を含む角閃岩の岩石学的解析により,ザクロ石形成反応を特定し,変成履歴を検討する.苦鉄質グラニュライトの両輝石の平衡温度はHoshino(1979)と同様に,800℃以上を示す.苦鉄質変成岩の基質を構成するCa角閃石はTi鉱物と共生し,岩種に関わらず褐色のコア(Hbl)と淡青色のリム(Ts)からなる累帯構造をもつ.TiO2に富む褐色のコアは,Ti-in-Ca角閃石温度計により800℃以上を示したことからグラニュライト相ステージとみなせる.ザクロ石は自形のものと苦鉄質鉱物(Fe-Mg角閃石仮像)と斜長石の粒界にコロナ様に生じるものが観察され,Fe-Mg角閃石やCa斜長石を包有する.この反応組織とFe+Mg+Mn:Ca=2:1に近いほぼ均質なザクロ石の組成から,次のザクロ石形成反応が特定できる.

    Fe-Mg角閃石+斜長石=ザクロ石+石英+H2O

    実際に,ザクロ石を含む角閃岩の全岩化学組成を用いてシュードセクションを計算したところ,この反応が角閃岩相でのザクロ石初出線となることが確認された.この反応は,右辺が高圧で,530-750℃の温度範囲で0.55-0.65GPaの圧力範囲を示すゆるい正の傾きをもつ不連続反応であることから,この苦鉄質変成岩中ではグラニュライト相から角閃岩相にかけて低圧(低P/T)かつ等圧冷却に近いP-T経路(後退変成作用)を経てザクロ石が形成されたと考えられる.北中国地塊東部の古原生代造山帯であるJiao-Liao-Ji beltでは,同様な後退変成時のP-T経路が報告されているが,それ以前の履歴において,藍晶石安定領域からの等温減圧(時計回り)を示すタイプと,低P/Tの昇温(反時計回り)を示すタイプが報告されている(Zou et al. 2018).隠岐変成岩からは中圧型(藍晶石安定領域)の変成条件を示すような直接的な証拠は見つかっていないが,隠岐変成岩の形成テクトニクスを議論するためには,後退変成以前の履歴を解明する必要がある.

    引用文献:Cho et al. (2021) Lithos 396-397, 106217; Kawabata et al. (2022) J. Metamor. Geol. 40, 257-286; Hoshino (1979) J. Japan. Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 74, 87-99; Zou et al. (2018) Precambr. Res. 311, 74-97.

  • 廣井 美邦
    セッションID: T1-O-25
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    富山県の宇奈月地域に産出する変成岩と深成岩の区分、分布、同位体年代値等について近年著しく情報量が増した。しかし特に花崗岩類の区分と年代値に関しては混乱が見られる(例えば、Horie et al. (2018)と竹内ら(2021))。西上原ら(2005)は中谷上流地域の苦鉄質鉱物に乏しく、マイロナイト化した紅色花崗岩から約250 MaのCHIME年代値を報告するとともに(図参照)、深成岩中の捕獲岩になった宇奈月片岩から約250~180 MaのCHIME年代値も報告している。ここでは中谷上流地域で採集した捕獲岩(多くは転石で、産状の詳細は不明)、特にインド石と十字石を含む複変成泥質ホルンフェルスの記載岩石学的特徴について改めて報告し、花崗岩類の区分と年代値に関する混乱解決の一助とする。 ① 中谷の流域は限定的で、上流部には苦鉄質鉱物に乏しく様々な程度にマイロナイト化した紅色の花崗岩が広範に分布する。この他に少量の角閃石斑レイ岩~閃緑岩も産出する。これらの深成岩中に宇奈月片岩が様々な大きさの捕獲岩となっている。 ② 少なくとも1980年までは、中谷上流部には砂防提や車の通行可能な道はなく、外部の岩石がこの流域に搬入された可能性はない。 ③ 捕獲岩には鉱物の定向配列や角礫化などの変形の痕跡が見られることが多く、熱変成作用時に変形作用があったことを示唆する。 ④ 捕獲岩には多量の白雲母や緑泥石、電気石などを含むものからそれらをほとんど含まないものまであり、「後退変成効果」は多様である。 ⑤ インド石-十字石含有複変成ホルンフェルスには、宇奈月十字石片岩と同様に、石墨を含むものと含まないものとがある。十字石は石墨を含む岩石の方に多量に出現(残存)するが、ホルンフェルス中の十字石は十字石片岩中のもの(長径数㎜から1㎝以上)に比べて細粒である(数㎜以下)。 ⑥ 主要なAl2SiO5鉱物は紅柱石であり、少量の珪線石や藍晶石も出現することがある。紅柱石は十字石を置換する場合でも針状~長柱状結晶の集合体のような産状を示すことが多い。珪線石はフィブロライトとして局所的に産する。藍晶石はインド石や黒雲母によって置換された残晶の産状を示す。 ⑦ コランダムが出現し、アルカリ長石と直接していることがある。 ⑧ 十字石とザクロ石はインド石や紅柱石、スピネル、コランダム、黒雲母などによって置換された残晶状の産状を示す(図参照)。 ⑨ インド石は十字石やザクロ石を置換する産状に加えて、細粒の珪線石、紅柱石、黒雲母、白雲母などを含む不規則な脈状の産状を示す(図参照)。インド石には偽双晶の関係を示す菫青石ラメラが見られ、インド石結晶中で菫青石が核形成し、成長したことを示している(Kitamura&Hiroi, 1982)。 この中でもっとも注目すべき点はインド石の産状と「保存」である。インド石は菫青石の高温型の多形で、火事が起きたインドの炭田の他に火山岩に伴って産する。一方、深成岩体の周辺のホルンフェルス中では、インド石として成長した場合も後に菫青石に転移している(例えば、Kitamura & Yamada, 1987)。したがって中谷の深成岩中の捕獲岩にインド石が産出することは例外的であり、低圧高温での熱変成後、急冷したことを示唆する。この点は、古生代後期の原岩形成後、250Maころの短期間(0.8-9.2Ma)に広域変成作用と熱変成作用が順次進行したとするHorie et al. (2018)の解析結果と調和的である。 引用文献 Kitamura & Hiroi, 1982, CMP, 80, 110-116; Kitamura & Yamada, 1987, CMP, 97, 1-6; 西上原ら, 2005, 地質学会講演要旨O-262; Horie et al., 2018, Chemical Geology, 484, 148-167; 竹内ら, 2021, 地質調査研究報告, 72, 41–64.

  • 大和田 正明, 青木 克磨, 赤﨑 英里, 亀井 淳志
    セッションID: T1-O-26
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    山口県東部,岩国-柳井地域には,領家帯に属する白亜紀低圧高温型変成岩類と白亜紀花崗岩類が広く分布する(東元ほか,1983).変成岩類と深成岩類は密接に伴って産し,領家帯深成-変成複合岩体を形成する(宮崎ほか,2016).花崗岩類のジルコンU–Pb年代は,106–92 Maと幅広い年代値を示す (Skrzypek et al., 2016; Mateen et al., 2019).

     累進変成作用は北から南へ温度が上昇し,最高変成温度のざくろ石-菫青石帯では,グラニュライト相に達する (Ikeda, 2002).Skrzypek et al. (2016)は,岩国-柳井地域の累進変成作用が花崗岩の活動に伴う広域的な接触変成作用によって形成され,変成帯の構造的上位(浅部)に貫入した花崗岩マグマ (105 Ma)の接触変成作用の後,構造的下位(深部)に花崗岩マグマが貫入 (99 Ma)し,この地域全域の古地温勾配が形成されたとするモデルを提案した.岩国-柳井地域に分布する滑花崗岩は,この地域で最初に活動した花崗岩マグマで,上部地殻の温度構造を形成した岩体の一つと考えられている(Skrzypek et al., 2016).そのため滑花崗岩の岩石学的特徴や定置過程を検討することは,この地域の低圧高温型累進変成作用を理解する上で重要である.

     滑花崗岩貫入母岩の泥質片麻岩は菫青石,カリ長石および白雲母を含み,しばしば紅柱石を伴う.また,滑花崗岩体に接するところでは,しばしば珪線石(フィブロライト)を伴う.片麻岩はカリ長石-菫青石帯に属し,590-670 ˚C,100-300 MPaの変成温度・圧力条件が見積もられている (Ikeda, 2004).後述するように滑花崗岩との境界部にはDiatexite状のミグマタイトが分布する.滑花崗岩は中〜細粒で,岩体の東部では弱い面構造が発達し,北西-南東走向で10-30˚北東へ傾斜する.岩体と変成岩類の面構造はほぼ調和的である.主な構成鉱物は石英,アルカリ長石,斜長石,黒雲母および白雲母で,ざくろ石や菫青石を伴う.色指数は3–12%である.また,珪線石をしばしば含む.この珪線石は白雲母や斜長石に包有され,黒雲母やざくろ石を伴うことがある.岩体周辺部は,有色鉱物が3%未満で優白質な岩相が卓越する.SiO2含有量は70–78 wt%で,優白質相がやや高い含有量を示す.また,Sr–Nd同位体組成(105 Maで補正)は,領家帯の泥質変成岩類と異なり,周辺に産する領家帯花崗岩類と同じ値を示す.ミグマタイトは,滑花崗岩体との接触部のみに分布する.ミグマタイトは面構造が弱いことで変成岩類と区分でき,細粒で色調が濃いことによって花崗岩と区別できる.ミグマタイトの鉱物組み合わせは,泥質片麻岩と基本的に同じであるが,斜長石,菫青石および紅柱石は自形結晶として産する.また,しばしば自形性の強い電気石を含むことから,滑花崗岩の貫入によって,接触部の温度が上昇すると共にホウ素 (B)を含む流体が関与することで部分溶融を引き起こしたと考えられる.

     上述のように滑花崗岩中の珪線石は白雲母や斜長石に包有されている.周囲の変成岩中には,少量のフィブロライトを伴うこともあるが,大部分は紅柱石である.従って,珪線石は母岩からの捕獲結晶とは考えにくい.この珪線石は黒雲母やざくろ石を伴うことから,珪線石-カリ長石帯に由来する捕獲結晶の可能性がある.そうだとすれば,Skrzypek et al. (2016)の見解と異なり,滑花崗岩が上昇を開始する105 Ma以前に広域的な熱構造が形成したことになる.産状,鉱物組み合わせおよび同位体組成を含む全岩化学組成から,滑花崗岩はマグマ上昇過程で泥質岩を取り込み,過アルミナ質の組成を獲得して上部地殻に定置したと推察される。

    東元ほか(1983)5万分の1地質図幅「岩国」,地質調査所,79p.宮崎ほか(2016)20万分の1地質図幅「松山」第2版.Skrzypek et al. (2016) Lithos, 260, 9–27. Mateen et al. (2019) Geosci Jour, 23, 917–931. Ikeda (2002) Island Arc, 11, 185–192. Ikeda (2004) Contrib Mineral Petrol, 146, 577–589.

  • 宮崎 一博, 村岡 やよい
    セッションID: T1-O-27
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
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    九州北部に分布する糸島花崗閃緑岩体は,東西約60 km, 南北約35 kmにわたる巨大珪長質深成岩体である.この岩体のルーフには,グラニュライト(大和田ほか,2005,地質雑; Adachi et al.,2012,Jour Geol. Soc. Japan)や角閃岩(大和田ほか,2000,地質学論集; Yamada et al., 2008, JMPS)などが分布し,高温型変成帯の存在が示唆される.以下では,脊振山系雷山稜線から糸島半島にかけて分布する巨大珪長質深成岩体周囲の高温型変成帯の形成について調べた結果を報告する.

    [雷山ユニット]雷山周辺に分布.主に苦鉄質変成岩からなり,泥質変成岩などを伴う.本ユニットには,糸島花崗閃緑岩(ジルコンU-Pb年代: 106.1 ±0.9Ma,105.0 ±1.4Ma; 村岡,2021,地質学会要旨)が貫入する.本岩は,片麻状構造を有し,貫入境界は,変成岩及び本岩の片麻状構造に平行かわずかに斜交する.本ユニットには,東西走向のアンチフォームとシンフォームが形成され,糸島花崗閃緑岩もこの褶曲に参加する.見かけ上部から下部へ片岩,片麻岩,ミグマタイトと組織が急激に変化する.

    [野北ユニット]糸島半島に分布.主に苦鉄質片岩からなり,少量の泥質片岩などを伴う.北側に北崎トーナル岩(ジルコンU-Pb年代: 111.5 ±1.3Ma;村岡,2021,地質学会要旨)が,南側に糸島花崗閃緑岩が貫入する.北崎トーナル岩と変成岩の境界には,主片理と大きく斜交する非調和貫入境界が存在する.一方,南側の糸島花崗閃緑岩との境界は両者に発達する主片理ないし片麻状構造とほぼ調和的である.

    [浜ユニット]糸島半島野北付近に分布.主に泥質片岩からなる.見かけ上位の野北ユニットとの間には,強い片理が発達し,多数の珪質片岩レンズを挟む延性剪断帯が存在する.

    [原岩年代]DensityPlotter (Vermeesch, 2012, Chem. Geol.)で求めた変成泥岩中の砕屑性ジルコン粒子の最若U-Pb年代成分は,浜ユニットで229.6 ±6.4Ma, 野北ユニットで376.3 ±6.6Ma,雷山ユニット下部で426.7 ±18.4Maであった.雷山ユニットと野北ユニットは,蓮華変成岩を原岩とすることと矛盾しないが,浜ユニットは周防変成岩を原岩とする可能性が指摘できる.

    [変成温度圧力]Grt-Bt温度計(Hodges and Spear, 1982, Amer. Mineral.)とGPBQ圧力計(Hoisch,1990, Contrib. Mineral. Petrol.)を用いると,浜ユニットで,3.8 kbar,622 ℃,雷山ユニット上部で,3.5 kbar,679 ℃,雷山ユニット下部で,5.5kbar,710 ℃であった.

    [変成年代]雷山ユニット下部の泥質ミグマタイトの変成ジルコンU-Pb年代で,126−98 Ma, 加重平均103.7±3.6Ma,MSWD=22.5であった.

    [考察]今回得られた雷山ユニット下部の温度圧力条件は,水に飽和した泥岩の固相線より高温であり,泥質ミグマタイトが分布することと調和的である.この温度圧力条件で糸島花崗閃緑岩マグマが貫入した場合,マグマの含水量を3.8wt%とすると,メルト量は約40vol%となる.温度圧力図上で,メルト量,系の自由エネルギー,流体量を見積もると,上述の温度条件から数十℃の温度低下により急激なメルトの固化,潜熱と流体の放出が起きることが示される.花崗閃緑岩マグマが周囲の高温変成岩の変成作用の熱源及び反応と変形を促進させる流体源であったことを示唆する.

     雷山ユニットの温度圧力測定を行った2つの試料は,直線距離で2.6 kmしか離れていない.従って,泥質ミグマタイトが,延性変形を被りながら薄化上昇したことが示唆される.地殻深部で巨大なマグマ溜が形成されていた場合,上昇するのに十分な浮力を獲得でき,高温型変成岩上昇の駆動力となり得る.Miyazaki et al. (2018, Int. Geol. Rev.)の数値計算から類推すると,深度20kmから深度10km程度まで,数Myrで上昇できる可能性がある.北部九州では,105Ma頃の火成活動の活発化と巨大珪長質マグマ溜の形成が,地殻深部での高温型変成作用と延性変形の進行,及び高温型変成帯の上昇を促進したと考えられる.巨大珪長質マグマ溜が熱源となり,その周囲で広範囲な変成作用と延性変形が進行する点は,同時期に形成された領家変成帯の形成と共通する.即ち,原岩を別にすると,地理的位置関係から,糸島花崗閃緑岩体周囲の高温型変成岩及び変成帯は,領家変成帯の西方延長と見なすことが可能である.

  • 福田 惇一, 奥平 敬元, 大友 幸子
    セッションID: T1-O-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/04/03
    会議録・要旨集 フリー

    大陸地殻の主要構成鉱物である石英について、結晶構造水や流体包有物として含まれる水は、石英の塑性変形を促進させることが知られている。しかし、天然の石英中の水の形態や含水量、およびこれらと塑性変形との関係性ついて不明な点が多い。そこで本研究では、阿武隈山地東縁から採取した異なる変形様式を示す割山花崗岩に含まれる石英について、赤外分光法を用いて水の分析を行った。

     分析試料は1. ほぼ原岩、2. 弱変形、3. 強変形試料、の3種を用いた。1.のほぼ原岩試料では、偏光顕微鏡下において、領域によっては石英の粒界でバルジングが起こっており、10 µm程度の粒子が一つまたは数個生成しているが、全体の組織としては大方原岩の状態を保持している。2.の弱変形試料では、試料は弱い面構造を示し、ホスト石英粒子の近傍に、バルジングや亜粒界回転によって生成した動的再結晶粒子が最大数百µmの領域で見られる。長石類もポーフィロクラストとなっている。3.の強変形試料では、強い面構造を示し、石英領域は100 µm程度のホスト粒子とその内部に発達した10 µm程度の若干の亜粒子が見られる領域もあるが、ほぼ動的再結晶が完了しており、細粒石英粒子が基質を占める。

     上記のような3種の変形度を示す試料について、赤外分光法面分析を用いて、石英含水量の2次元分布を測定した。試料の厚みは100 µm前後で、十分なシグナルを示す赤外スペクトルが測定でき、かつ偏光顕微鏡下で試料の微細構造も観察できる。面分析領域は最大400 x 400 µm、空間分解能=アパーチャーサイズは最小25 x 25 µmで分析を行った。ほぼ原岩試料は石英一粒子内部、弱変形試料はホスト石英粒子と動的再結晶石英領域、強変形試料は動的再結晶石英領域を分析した。

     分析結果を以下に述べる。ほぼ原岩試料の石英粒内の赤外スペクトルは波数2800-3800 cm-1に幅広い吸収帯を示し、流体包有物として分子状の水が含まれている。含水量は不均質で、一つの粒内で、数十wt ppm H2O から1500 wt ppmまで幅広く変化する。弱変形試料では、ホスト石英粒子内部の含水量はほぼ原岩試料と同様に不均質であった。一方、動的再結晶領域は強変形試料と共に分子状の水の吸収帯を示し、含水量は200-350 wt ppm、平均250 wt ppmとほぼ均質であった(下図)。このような水は動的再結晶石英粒内と粒界に存在していると考えられる。

     以上の分析結果は、Fukuda et al. (2012)で見られた、長石の溶解-沈殿機構による細粒化が起こる際、ホスト粒子(150-2200 wt ppm)からの水の放出と、含水量が均質な細粒長石領域の生成(150-300 wt ppm)とよく似た結果となった。一方、Fukuda and Shimizu (2019)の三波川変成岩中の石英集合体領域で見られた含水量分布とは相反する。Fukuda and Shimizu (2019)では、石英粒径が150 µmから30 µmへと減少するに従って、含水量は40 wt ppmから300 wt ppmへと増加した。これは石英の粒界の面積が相対的に増加し、粒界により多くの水が保持されていることを示唆する。三波川変成岩中の石英の場合では、動的再結晶による細粒化が起きたのか、元々粒径が異なるのかは不明であるが、粒界がより多くの水のリザーバーになっている。一方、本研究での割山花崗岩の場合では、ホスト粒子よりも低い含水量が細粒石英領域の粒内、粒界に含まれており、水はホスト石英粒子の動的再結晶時に放出されたことを示唆する。

    引用文献

    Fukuda J., Okudaira T., Satsukawa T., Michibayashi K. (2012) Solution-precipitation of K-feldspar in deformed granitoids and its relationship to the distribution of water. Tectonophysics, vol. 532-535, pp. 175–185

    Fukuda J. and Shimizu I. (2019) Water distribution in quartz schists of the Sanbagawa Metamorphic Belt, Japan: Infrared spectroscopic mapping and comparison of the calibrations proposed for determining water contents. Earth, Planets and Space, vol. 71:136, pp. 1–14

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