日本地質学会学術大会講演要旨
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S1. 能登半島地震とそれによる自然災害の地球科学的理解を目指して
  • 岡村 行信, 井上 卓彦, 佐藤 智之, 大上 隆史, 有元 純
    セッションID: S-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    能登半島とその周辺の地質構造は,漸新世から前期中新世の日本海形成,中新世末の南北圧縮,第四紀の北西―南東圧縮の3回の構造運動の影響を強く受けている.能登半島の原型は日本海の形成時に作られた.半島とその北側の水深百m数の台地状の地形が一体となっているが,その北側の大和海盆や東側の富山トラフは水深が1,500m以上あり,海洋性地殻あるいは半海洋性地殻からなると推定されている.また半島の南側にもかなり深い盆地が形成されたことはわかっている.一方,能登半島には中生代の深成岩や変成岩がわずかに露出しており,大陸性地殻からなることを示している.能登半島と周辺の沈降域との境界には,北東―南西,南北や東西など,方向の異なる正断層が形成された可能性がある.また大陸性地殻からなる能登半島とその周辺にも,数列の北東―南西方向及び東西方向の正断層とリフトが形成された.中新世末の南北圧縮は西南日本弧の日本海側で宍道褶曲帯を形成した.この時期の褶曲は日本海形成時の正断層が逆断層として再活動することによって成長したと考えられ,能登半島内及び西方沖の海底下に分布しており,ほぼ東西方向の軸を持つ隆起帯を形成することが多い.能登半島北岸もこの時期に隆起した.この変動は広域的な隆起を伴い,能登半島とその周辺に広く浸食平坦面が形成されたが,鮮新世以降,徐々に沈降した.更新世の中頃になって東―西から北西―南東圧縮が優勢になり,主に北東―南西方向に伸びる逆断層が成長し始め,現在の活断層になっている.それらも日本海形成時の正断層が逆断層として再活動している可能性が高いが,後期中新世の構造と一致しないこともある.海域の高分解能反射探査に基づいて,能登半島の北岸沖には南東傾斜の逆断層が形成されており,海底では最終氷期の侵食面や完新世の地層中を変形させていることが知られていた1).この断層は能登半島周辺の活断層の中で最も活動的と考えられ,さらにその南西側および北東側に活断層が断続的に連なっている.令和6年能登半島地震に伴う地震活動,地殻変動,津波の観測データから,この半島北岸沖の活断層とその周辺の活断層の変位が地震の主な原因と推定されていた.さらに地震後の高分解能反射探査によって,地震前に知られていた能登半島北岸沖の活断層が,ほぼ全域で地震によって変位したことが確認され, 2007年能登半島地震の地震断層にも新たな変位も認められた.令和6年能登半島地震発生前の2014年には,日本海で収集されてきた各機関の反射探査断面などに基づいて,主要な活断層のマッピングとそれらの活動によって発生する可能性のある最大クラスの津波想定が公表された2).能登半島北岸沖では長さ94㎞の断層によってマグニチュード7.6の地震が発生すると想定され,地震前には詳しい津波の浸水域も公表されていた.令和6年能登半島地震によって発生した津波の浸水域は,能登半島東部では想定内であった.一方で地震活動は約150㎞の範囲に広がり,事前に想定されていた断層を超えている.本講演では,今回の地震に関する観測結果と海底活断層の調査結果を比較し,活断層に基づいた地震想定の課題を議論する. 1)井上卓彦・岡村行信 (2010) 数値地質図S-1, 地質調査総合センター.2)日本海における大規模地震に関する調査検討会(2014)日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書.

  • 西村 卓也, 平松 良浩, 太田 雄策
    セッションID: S-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年1月1日16時10分に発生した能登半島地震(Mj7.6)は、日本列島の内陸部や日本海側で発生する震源の浅い地震としては最大級の地震だった。能登半島北東部では、2020年12月から活発な群発地震活動が起こっており、 2023年5月5日のMj6.5などの大きな地震が相次いで発生していた中で、一連の地震活動の中で最大の地震が2024年元日に発生したと言える。群発地震活動の活発化を受けて、2021年9月に京大防災研と金沢大学は、群発地震の震源域近傍に臨時のGNSS観測点を設置した。さらに、震源域周辺にはソフトバンク株式会社による独自基準点(GNSS観測点)が設置されており、これらのデータと国土地理院電子基準点のデータを統合処理することによって、能登半島における地殻変動の推移が明らかになることが期待される。そこで、本講演では、これらのGNSS統合解析により明らかになった群発地震や大地震(Mj6.5, Mj7.6)に伴う地殻変動と、一連の地震活動のメカニズムに関するシナリオ仮説について報告する。

    能登半島北東部のGNSS観測点において、隆起などのそれまでと傾向の異なる「非定常」地殻変動は、2020年12月頃から活発化した地震活動とほぼ同時期から始まった。2020年12月から2023年4月までに、群発地震の震源域から放射状にひろがる最大約3 cmの水平変動と震源域周辺で最大約6cmの隆起を示す非定常地殻変動が観測された。2023年5月5日のMj6.5の地震では、能登半島北岸の観測点を中心に、最大約8cm程度の地殻変動が観測され、地震後には地殻変動速度が鈍化した。2024年1月1日のMj7.6の地震では、能登半島北部を中心に水平方向で西向きに最大2m程度、上下方向は能登半島の北岸で最大2m程度隆起したことが観測された。Mj7.6の地震後は、余効変動とみられる地殻変動が継続し、その変動量は地震後4ヶ月間で水平方向に最大約3cm、上下方向では最大約6cmの沈降であった。余効変動のパターンは、地震時地殻変動と似ているが、能登半島の上下変動が地震時と反対に沈降している点と、水平変動の大きさの距離減衰が本震時よりも小さいという点で異なっている。筆者らが推測する一連の地震活動のメカニズムに関するシナリオ仮説(Nishimura et al., 2023)は、次のとおりである。能登半島北東部には、下部地殻にもともとマントル起源の深部流体に富む領域があった。ここから流体が2020年12月に地震活動を伴いながら,深さ16km程度まで上昇した。上昇してきた流体の体積は3,000万m3にのぼると考えられる。この流体が南東傾斜の断層帯を通って移動・拡散し、深さ15km以深では主にスロースリップを引き起こし、深さ15km以浅では激しい群発地震を誘発した。さらに、この近傍には、過去千年以上にわたり応力を蓄積してきた海底活断層があり、流体上昇がその破壊の最後の引き金となって、 Mj7.6の大地震が発生したと考えられる。また、地震後の余効変動の主原因は、マントルにおける粘弾性緩和であり、Burgers粘弾性体を仮定して、粘弾性パラメータを推定すると、弾性層厚さが30km、マントルの過渡的な粘性率(Voigt要素粘性率)が6×1017Pa s程度の値が得られた。粘性緩和による能登半島の沈降は、地震時の隆起に比べれば小さいが、30年後には地震時隆起の1割程度の沈降が生じると見込まれる。

    謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは、「ソフトバンク独自基準点 データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました。また、国土地理院から公開された後処理解析用データを使用しました。

    引用文献:Nishimura T, Hiramatsu Y, Ohta Y (2023) Episodic transient deformation revealed by the analysis of multiple GNSS networks in the Noto Peninsula, central Japan. Scientific Reports 13 (1):8381. doi:10.1038/s41598-023-35459-z

  • 遠田 晋次
    セッションID: S-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    令和6年(2024年)1月1日に発生した能登半島地震(M7.6)では,井上・岡村(2010)による能登半島北岸沖の断層群と佐渡西沖へ延びる海底活断層の約150km区間が連動した.国土交通省(2014)のF-43, F-42断層に相当する部分に加え,輪島市門前町〜志賀町北部の沖合の活断層も活動したと推定される.今回の震源域の南西端付近では,2007年3月25日に平成19年能登半島地震(M6.9)が発生し,井上・岡村(2010)の門前沖セグメントの東半分が活動したとされるが,余震分布をみると,令和6年能登半島地震の余震域の南西側はこの2007年震源域をはるかに超えて海士岬南端にまで延びている.この地域では震源断層として北北東走向で東南東傾斜の逆断層が推定される.このことから,今回の震源断層は全体として珠洲から輪島西沖までは東北東走向で,それより西側では海岸線に沿って「く」の字状に曲がり海士岬付近まで連続するとみられる.防災科学技術研究所(2024)F-netの余震メカニズム解もこの推定構造に整合する.

     能登半島地震の余震総数は1994年北海道南西沖地震(M7.8)に匹敵する.しかし減衰は顕著で,余震の時間減衰を示す大森―宇津式のp値は1.2程度と高く,破壊域での今後の余震ハザードは急速に減少している.その一方で,震源域外での広義の余震(オフフォルト地震)を無視することはできない.Fig. 1aには,気象庁一元化暫定震源について,本震前2年間と本震後の地震発生率変化を示した.また,図の右には各地域での6月18日までの時系列を示す.震源断層から約100km以内の地域では,本震時の反応と顕著な地震発生率の増加が認められる.本震前の平均発生率と比較すると,志賀沖(A)では約100倍,陸域の富山市〜金沢市周辺にかけて(B)では約4倍,佐渡周辺(C)では約2倍,富山湾(D)で約8倍の活発化がみられる(Fig. 1).

     これらの地震活動が本震による応力伝播に起因するかどうかを確かめるため,事前の活断層分布・地質構造・余震分布・地殻変動を考慮した震源断層のフォワードモデルを作成し,静的クーロン応力変化(ΔCFF)を計算した(Fig. 1b).その結果,震源断層の南東に位置する富山湾を除き周辺域でΔCFFが正となることから,多くのオフフォルト余震は応力伝播に反応したものとみられる.一方で,富山湾の活動について両者は矛盾し,地震動による動的応力変化,もしくは中小規模の横ずれ断層系の活動が励起された可能性(Fig. 1b)が考えられる.国土交通省(2014)・佐藤ほか(2021)の海域活断層も含めた周辺活断層へのΔCFFを計算すると,上記と同じ傾向がみられ,主要活断層の1つである邑知潟断層帯には0.1MPa程度の応力増加が見込まれる.眉丈山断層に関しては,ΔCFFは断層傾斜や摩擦係数に大きく依存する.実際に,邑知潟断層帯直下では,能登半島地震以降にそれ以前に比較して地震活動が活発化しており,断層を横切る北西―南東の震源断面をみると,南東に45°程度で傾斜する断層面を示唆するような震源クラスターが認められる.

    文献

    1) 防災科学技術研究所(2024)F-net 地震のメカニズム解情報,https://www.fnet.bosai.go.jp/event/joho.php?LANG=ja

    2) 井上卓彦・岡村行信(2010)能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書,陸海シームレス地質情報集「能登半島北部沿岸域」.数値地質図S-1,地質調査総合センター

    3) 国土交通省(2014)日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書,43p,https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/daikibojishinchousa/houkoku/Report.pdf

    4) 佐藤比呂志ほか(2021)断層モデルの構築,令和2年「日本海地震・津波調査プロジェクト」成果報告書,275-303.

  • 石山 達也, 野 徹雄, 佐藤 比呂志
    セッションID: S-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    令和6年能登半島地震(M7.6)は,2024 年1月1日16時10分に石川県能登地方の深さ約15 kmの上部地殻内で発生した、北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型の地震である(地震本部, 2024a).また,能登半島北岸の広域で顕著な海岸隆起(立石ほか,2024)・地殻変動(国土地理院, 2024)を伴ったことから,能登半島沖に分布する複数の海底活断層(井上・岡村, 2010)が活動したものと見られる(地震本部, 2024b).本発表では,日本海東部の地殻構造と中新世以降の構造発達史および能登半島・富山トラフ周辺の活構造を概観・検討し,能登半島周辺域のアクティブ・テクトニクス・海底活断層および地殻構造の関係を検討した.地殻構造探査の結果(野ほか, 2014; Ishiyama et al., 2017など)によれば,中新世の日本海拡大の際に活動した日本海東部のリフト構造は,日本海盆の海洋地殻よりなる日本海盆型(No et al., 2014)と,やや厚い海洋地殻よりなる大和海盆型(Sato et al., 2014),海洋地殻を伴わず、高速度下部地殻が発達する富山トラフ型(Ishiyama et al., 2017)に大別される。このうち,日本海盆の海洋地殻と島弧側大陸地殻との遷移部は1983年日本海中部地震(M7.7)の震源域に一致しており(No et al., 2014),震源域上方延長には非常に水平短縮量が大きい衝上断層が顕著に発達する(Ishiyama et al., 2024).一方,富山トラフ下では高速度下部地殻とトラフ両側の大陸地殻は境界断層で接する.これらの境界断層やリフト軸外側の大陸地殻内部に形成された正断層の一部は第四紀の東西圧縮応力場のもとで逆断層として再活動をしていると考えられる.また,富山トラフ両側の境界断層の活動は、能登半島中部の南東側斜面の海成段丘面群(小池・町田編,2001)の傾動や、飛騨山地北西麓部の河成段丘面群の増傾斜等の活構造の形成・成長に大きく寄与していると考えられる(Ishiyama et al., 2017; Ishiyama et al., 2024).一方,能登半島北岸部には複数段の完新世海成段丘面群が断続的に分布し,これらは過去数千年間に能登半島沖の海底活断層が繰り返し活動してきたことを示唆する(宍倉ほか,2020; 安江ほか,2024).横断する反射断面から,これらの海底活断層は元来リフト軸外側の大陸地殻内部に形成された半地溝構造を構成する正断層群の一部が再活動したもの考えられる(Ishiyama et al., 2017). ただし,再活動した正断層は,必ずしも主断層とは限らず, 累積変位量の小さい断層も含まれると考えられる.従って,令和6年能登半島地震と断層構造の対応づけについては,震源再決定による余震分布を慎重に検討する必要がある.

    引用文献

    井上卓彦, 岡村行信, 2010, 能登半島北部周辺20万分の1海域地質図及び説明書. 海陸シームレス地質情報集, 「能登半島北部沿岸域」. 数値地質図S-1, 地質調査総合センター.

    Ishiyama, T., et al., 2017, Tectonophysics, 710, 21-36.

    Ishiyama, T., No, T., and Sato, H., 2024, JpGU 2024 Meeting, U16-04.

    地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024a, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/20240101_noto_3.pdf(2024年2月9日閲覧)

    地震調査研究推進本部・地震調査委員会, 2024b, https://www.static.jishin.go.jp/resource/monthly/2024/2024_04.pdf(2024年5月13日閲覧)

    国土地理院, 2024, https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html (2024年1月19日閲覧)

    小池一之, 町田 洋(編), 2001, 日本の海成段丘アトラス. 東京大学出版会, 115p, 3 CD-ROM.

    No, T., et al., 2014, Earth and Planetary Science Letters, 400, 14-25.

    野 徹雄ほか, 2014, JAMSTEC Rep. Res. Dev., 19, 29–47.

    Sato, T., et al., 2014, Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 119(3), 1563-1579.

    宍倉正展, 越後智雄, 行谷佑一, 2020, 活断層研究, 53, 33-49.

    立石 良ほか, 2024, 日本地球惑星科学連合2024年大会, U15-P83.

    安江健一ほか, 2023, 日本地球惑星科学連合2024年大会, U15-P97.

  • 宍倉 正展
    セッションID: S-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年1月1日に発生したM7.6の能登半島地震(2024年地震)では海岸が大きく隆起したことによって浅海底が干上がる離水現象が見られ,防潮堤や岩礁に固着していた生物の遺骸や海成段丘の形成が確認された.現地で計測された地盤の隆起量は国土地理院の測地観測とおおむね一致しており,能登半島西部で最大4 mに達する(宍倉ほか,2024).海岸の隆起は半島北部の東端から西端までの沿岸全域で広範囲に生じており,これは沿岸海域に分布する海底活断層の活動がもたらしたものである.能登半島北部周辺海域の海底活断層は西から門前沖,猿山沖,輪島沖,珠洲沖の4つのセグメントに区分され(井上・岡村,2010),2024年地震ではこれらが連動したものと考えられる.一方,能登半島で近年に起きた地震や,生物遺骸の隆起痕跡の分布に基づけば,海底活断層はセグメントごとにも活動していることがわかる.門前沖セグメントでは,2007年3月25日にM6.9の地震が発生し,半島西部沿岸が最大0.5 m程度隆起した.海岸沿いには過去1000年以内の年代を示す生物遺骸が,少なくとも3つのレベルの見つかり,それらの高度分布からみて,1つ1つが異なる隆起パターンを持ちながら0.3〜0.5 m程度ずつ隆起したことを示している.特に最低位の生物遺骸は1892年の地震(M6.4とM6.3の2回)に関連している可能性が指摘された(Shishikura et al., 2009).猿山沖セグメントでは9世紀頃と12–13世紀頃の年代を示す生物遺骸が見つかり,それぞれ0.7–0.8 mずつ隆起していることを示している(宍倉ほか,2020).また輪島沖セグメントでは1729年の歴史地震(推定M6.6–7.0)で最大で0.8 m隆起したと推定される生物遺骸が見つかっている(Hamada et al., 2016).珠洲沖セグメントでは,2023年5月5日にM6.5の地震が発生しているが,この震源と活断層との関係は明確ではない.しかし最大0.24 mの隆起が同セグメントの範囲内で生じたことが確認された(宍倉ほか,2023).このように過去千年以内に限ってみれば,M7未満の地震が沿岸の様々な場所で数百年間隔で起き,それぞれ数10 cmずつ隆起していることがわかる.一方で沿岸には,完新世に形成されたと考えられるいわゆる低位段丘が,1〜3 mの比高をもって少なくとも3面(L1〜L3面)分布していることが確認されている(宍倉ほか,2020).特にL1面の高度分布は,2024年地震で最も大きく隆起した能登半島北西部や北東部の一部と変動パターンのピークが一致する.これは2024年地震と同様に,セグメントが連動してM7後半に達する地震が過去に少なくとも3回発生していた可能性を示唆する.今のところ低位段丘の具体的な年代に関するデータは得られていないが,一般的な縄文海進のピークであった6千年前頃以降であると考えると,2024年地震クラスの地震は千〜数千年間隔で起きていたといえる.したがって能登半島で起こる地震には階層性があり,M7未満で数百年間隔で起こる地震と,千〜数千年間隔で活断層が連動してM7後半の規模になる地震が起きている.また隆起のパターンで見ると,長期的には最終間氷期のいわゆる中位段丘の高度分布も,低位段丘の高度分布や2024年地震の隆起パターンと調和的であることから,能登半島の地形を規定しているのは,基本的に2024年地震と同様の活断層の連動による隆起であると言える.このような解釈は今後,他の地域でも起こり得る地震や地形発達の理解に向けて大きな助けとなるだろう.

    Hamada, M. et al. (2016) Tectonophysics, 670, 38–47. 井上卓彦・岡村⾏信(2010)「能登半島北部沿岸域」.数値地質図S-1,産総研地質調査総合センター. Shishikura, M. et al. (2009) Geophysical Research Letters, 36, L02307. 宍倉正展ほか(2020)活断層研究,53,33–49. 宍倉正展ほか(2023)日本地震学会2023年秋季大会予稿集S22P-08. 宍倉正展ほか(2024)第四紀研究,63,169–174.

  • 卜部 厚志, 片岡 香子, 西井 稜子, 河島 克久, 松元 高峰, 渡部 直喜, 新屋 啓文, 渡部 俊, 高清水 康博, 藤林 紀枝, ...
    セッションID: S-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年1月1日に発生した能登半島地震では,新潟市西区を中心に甚大な液状化被害が発生した.新潟大学は,地元大学として被災記録を残すことを重視し,1月4日から液状化に伴う諸現象(噴砂,家屋被害,亀裂(地すべり性)分布,道路変状など)の悉皆調査を行った.この結果,液状化被害は,①砂丘斜面末端(新潟市西区青山~内野までの県道16号沿い),②信濃川の流路跡(新潟市西区ときめき~善久,江南区天野),③新潟市西区の寺尾東などの低地の盛土造成地に集中していることを明らかにした.また,これらの被害分布は,1964年以降に市街化した地区(寺尾東など)を除くと,1964年新潟地震での液状化被害分布とほぼ一致しており,再液状化していることが明らかとなった.さらに①から③の地形・地質・土地履歴の特徴から液状化被害の要因が異なることが推定できた.

     さらに新潟大学では,地区(タイプ)ごとに液状化した地層の深度や地盤強度の垂直分布などの具体的なデータが不足していることから,住宅再建にむけての基礎となる液状化した地盤の深度,表層地盤のN値分布や地下水位の基礎的な情報についてSWS試験とボーリング調査を併用した調査により液状化層に関する基礎情報の解析を行った.この結果,SWS試験とボーリング調査を併用した調査は,液状化調査に対して非常に迅速かつ効果的な方法であることを示し,調査地域の地下水位や液状化した砂層の深度分布を明らかにすることができた.この概要調査により,液状化層の深度,層相,地盤強度分布の連続性を把握することは,地域の液状化のメカニズムと街区単位での液状化防止事業の適応可能性等の把握において非常に有効であることが明らかとなった.

T1.変成岩とテクトニクス
  • 森 康, 黒木(佐藤) 直子, 重野 未来, 西山 忠男
    セッションID: T1-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    長崎変成岩野母ユニットの三和累層は、主に泥質片岩と苦鉄質片岩からなる低温高圧変成岩であり、下位の蛇紋岩と衝上断層を介して接している(宮崎・西山 1989)。泥質片岩のフェンジャイトK–Ar年代は90–70 Maである(Hattori & Shibata 1982; Nishimura 1998)。泥質片岩の炭質物ラマン地質温度計は約470℃のピーク変成温度を示す。

     三和累層と蛇紋岩の衝上断層付近では、泥質片岩が帯状に曹長岩化している。この曹長岩化帯は厚さにより異なった産状を示す:厚さ10 cm未満のものは細脈や小断層に沿った漸移的な白色化帯、厚さ1 m程度のものは漸移的な白色化帯を伴う塊状曹長岩層、厚さ2 m以上のものは漸移的な白色化帯のない塊状曹長岩層である。塊状曹長岩層には肉眼的な空隙が多くあり、顕微鏡下でpulverization(微粉砕)された緑簾石の粒子を特徴的に含む厚さ約100µmの粉砕層が発達する。全岩化学組成にもとづく組成–体積関係は、曹長岩化に伴う数%の固体体積減少を示す。

     以上の知見は、衝上断層の活動時に下盤の蛇紋岩から上盤の損傷帯(三和累層)に反応性流体が浸透し、泥質片岩の曹長岩化が生じたことを示す。初期の浸透は粉砕層を通じて生じたと考えられる。この段階での流体の流量は小さかったと思われるが、pulverizationは曹長岩化の前駆現象として流路の形成に重要な役割を果たしただろう。泥質片岩と流体の交代反応(=曹長岩化)が始まると、固体体積減少を主な原因としたreaction-enhanced permeabilityにより流体の流量が増加し、曹長岩化が自己促進されたと考えられる。この例は、pulverizationとreaction-enhanced permeabilityが岩石の浸透性を制御し、沈み込みコンプレックスにおける流体移動と浸透交代作用を助長する可能性を示す。

    Hattori H & Shibata K 1982, Bull Geol Surv Japan 33: 57–84; 宮崎一博・西山忠男 1989, 地質学論集 33: 217–236; Nishimura Y 1998, JMG 16: 129–140

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    藤原 秀平, 岡本 敦, 吉田 一貴, 石井 友弘, 木村 正雄, 城戸 大貴
    セッションID: T1-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    <はじめに>

    近年、変質した岩石中の長石や硫化鉱物、炭酸塩鉱物の置換組織において、普遍的に空隙が存在することが発見されている。流体による鉱物置換反応に伴って発達するこのような空隙は、物質移動の通り道として重要である可能性があり、その形成メカニズムが注目されている [1]。特に、地殻の主要鉱物である長石の変質では、一方の長石(斜長石(Pl)またはカリ長石(Kfs))が塩水(NaCl, aqまたはKCl, aq)と反応し、他方の長石に置換する際に 、多数の微細空隙が形成される[1]。これまで、長石の置換反応に関する多くの熱水実験が行われてきたが、空隙のネットワークの3次元形状や連結性、その時間発展は、まだ十分には理解されていない。この1つの要因は、空隙の複雑な幾何学的形状を定量的に評価する指標が存在していないことにある。本研究では、まず、長石の置換反応の水熱反応実験を行い、その3次元的な特徴をX線CTで撮像した。X線CTで撮影した3次元構造について、パーシステントホモロジーを用いて解析することで幾何学的形状の定量的評価を行った 。

    <方法>

    長石の置換反応実験は500˚C, 150 MPaにおいて、2つの対照的な系で行った。(1) カリ長石(Kfs)とNaCl水溶液(2M)とを反応させ曹長石(Ab)による置換が起こる固体体積減少反応(ΔV=-8.14%)と、(2) AbとKCl水溶液と反応させKfsによる置換が起こる固体体積増加反応(ΔV=+8.85%)である。実験は、48時間の加熱実験とX線CT撮影を交互に2回繰り返すことにより、空隙の形状の時間的発展を調べた。パーシステントホモロジーは、位相幾何学の一分野であり[2, 3]、フィルトレーションという操作(voxelのthickening とthinning)により、連結成分の誕生(b)と死(d)をプロットし、パーシステンスダイアグラム(PD)を作成する。得られたPDの各点(b, d)はX-CT像の微細組織の‘かたち’の特徴量を表しており、その分布をベクトル化して主成分分析および、逆解析することで、空隙の幾何学的構造の特徴を定量化し、それに基づいて及び形成メカニズムについて検討した。

    <結果と考察>

    2つの置換反応実験のどちらも、実験後の生成物を観察すると、結晶の亀裂や外縁部を進行する置換反応の反応フロントで空隙が形成された。曹長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への置換反応(固体体積の増加)では、孤立した空隙が板状の形をしており、主要な亀裂にほぼ平行に配列していた。逆に、カリ長石(Kfs)から曹長石(Ab)への置換反応(固体体積の減少)では、空隙は枝分かれのある3次元の樹状構造を示し、その一部は中央の主要な亀裂と部分的に繋がっていた。96時間の反応後、48時間における空隙は閉じられ、新たな空隙は移動した反応フロントで形成された。

    0次のPDを作成すると、曹長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への48時間の置換では、birthは広い範囲(-9から-2、1px は1.65μmに相当)に分布する一方、deathは狭い範囲(-6から-2)に集中していた。対照的に、96時間後には、(b<0, d<0)の点の分布は減り、(b<0, d>0)の分布が増加した。PD内のこの特徴的な変化は、くびれた大きな空隙(b<0, d<0)が複数の孤立した空隙(b<0, d>0)に分割されたことに対応している。カリ 長石(Kfs)から曹長石(Ab)への置換におけるPDでは、48時間から96時間への傾向は、曹長石(Ab)からカリ長石(Kfs)への置換で観察されたものとは逆で、複数の孤立した空隙が変質の進行とともに繋がり、大きな樹状の空隙が形成された特徴を表していると考えられる。固体体積の減少による反応フロントでのナノ空隙の連続的形成、および化学ポテンシャル勾配に沿った空隙の拡散と凝集が、そのような特徴的な空隙構造の形成を担っている可能性がある。一方、亀裂面と平行および垂直方向に伸びる空隙セットに対して、PDをもとに主成分分析を行ったところ、PC1とPC2により両者が異なるクラスターとして区別できたことから、空隙の幾何学的特徴の違いは結晶方位の違いにより生じていることが示唆された 。

    1. Plümper O, Botan A, Los C, Liu Y, et al. 2017, Nature Geoscience, 10, 685-691

    2. Kimura M, Obayashi I, Takeichi Y et al. 2018, Scientific Reports, 8, 3553.

    3. Obayashi I, Y. Hiraoka, and Kimura M, 2018, J. Appl. Comput. Topol., 1, 421.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    志関 弘平, 辻森 樹
    セッションID: T1-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    収束プレート境界においてマントルウェッジを構成する蛇紋岩及び含水かんらん岩は、密度差を駆動力とした物質の流れだけでなく、スラブから放出された水流体や炭素の貯蔵、あるいは、蛇紋岩の脱水による元素移動にも大きな影響を与える。つまり、これらの超苦鉄質岩はレオロジー特性の変化など動力学的な重要性と、地球化学的なそれの両方を備え持つ。  

    本研究では、海洋プレート沈み込みの2D動力学的モデリング (志関・辻森, 2024 JpGU) の高精度化を目的に、エクロジャイト相に達したスラブ物質を伴う飛騨外縁帯の青海蛇紋岩メランジュの青海川沿いに分布する超苦鉄質岩の記載岩石学的な特徴を調査した。調査対象の蛇紋岩は、アンチゴライトを含む変成蛇紋岩を主とし、局所的に炭酸塩岩化を被り低密度化しているものがある。アンチゴライト蛇紋岩は主として、アンチゴライト+磁鉄鉱+マグネサイト±緑泥石から構成され、一部の蛇紋岩では、蛇紋岩化前の粗粒かんらん岩の組織が残存し、アンチゴライトと共存する変成かんらん石を含む。先行研究では、ダナイト起源と考えられる蛇紋岩中のクロム鉄鉱岩脈を構成するクロム鉄鉱の化学組成と初生的な角閃石の存在から、蛇紋岩の原岩がメルト成分に枯渇した典型的な前弧域マントルを起源とすることが提案されている (辻森, 2004)。蛇紋岩にはまれに、幅数センチ未満の角閃岩の脈が見出され、蛇紋岩化の以前にすでに含水環境にあったことが示唆される。転石も含めて変成かんらん石を保持した試料を解析したところ、粗粒の変成かんらん石 (数 mm) を切る幅100 μm程度の「極細粒の含水かんらん岩マイクロベイン」が複数発見された(図1)。同マイクロベインを含む変成かんらん岩の鉱物組み合わせは、変成かんらん石 (Fo89)+アンチゴライト+緑泥石で少量のトレモラ閃石を伴い稀に透輝石を含む。粗粒の変成かんらん石は一見、プロトグラニュラー組織のように見えるが、アンチゴライトを伴い、まれに劈開状に発達したアンチゴライトも存在する。マイクロベインは他形から半自形のかんらん石 (Fo89)を主としたグラニュラー組織を呈し、板状のアンチゴライトと少量のトレモラ閃石 (Na2O= 1–2 wt%) を含む。EBSDによる解析では、マイクロベイン中の極細粒かんらん石は弱い定向配列をなしており、そのC軸が再結晶脈の伸張方向とおおむね一致していた。

    「細粒含水かんらん岩マイクロベイン」の反射電子像から計算で推定した全岩組成をもちいて相平衡モデリングを行った結果、マイクロベインの鉱物組み合わせは温度約580–620℃、圧力1.9 GPa以下で安定である。蛇紋岩の鉱物組み合わせは圧力依存性をあまり示さないため、変成圧力の下限を制約することは難しいが、蛇紋岩中にひすい輝石岩が存在することから変成圧力はJd=Ab+Neの反応線より高圧側と推定される。また、Yamada et al. (2019) により報告された、ホウ素同位体組成の低さからも蛇紋岩が沈み込み帯深部由来であることが示唆されており、変成圧力は1.1–1.9 GPaと推定される。この値は青海地域のエクロジャイトの変成条件1.8–2.0 GPa、550–600℃ (Tsujimori, 2002; Yoshida et al., 2021) とも整合的であり、エクロジャイト相に相当する沈み込み帯深部領域において本脈が形成されたことを示す。本講演では、「細粒含水かんらん岩マイクロベイン」その成因と地質学的な意義について報告を行う。

    【引用文献】

    志関・辻森, JpGU Meeting 2024, MIS23-P06.

    Tsujimori (2002) Int. Geol. Rev., 44, 797–818.

    辻森 (2004) 地質雑, 110, 591–597.

    Yamada et al. (2019) J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 290–295.

    Yoshida et al. (2021) J. Metamorph. Geol., 39, 77–100.

  • 西山 忠男, 外山 茂樹, 森 康, 重野 未来
    セッションID: T1-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    九州西端長崎変成岩においては西彼杵半島に分布する西彼杵ユニットと野母半島に分布する野母ユニットに蛇紋岩メランジュが発達する.これらの蛇紋岩メランジュは,同じ白亜紀の沈み込み帯で形成されたと考えられるが,産状と構成岩種の点で大きな違いがある.西彼杵半島の蛇紋岩メランジュについてはNishiyama et al. (in press)で報告したので,ここでは野母ユニットの蛇紋岩メランジュについて述べる.野母ユニットは,約500 Maの変成ハンレイ岩,250-180 Maの低温結晶片岩類(野母崎層群),そして90 Maの低温高圧変成岩類(三和層群)から構成され,これらは断層で接している(宮崎・西山,1989).三和層群は蛇紋岩とそれに衝上する結晶片岩類からなり,蛇紋岩中ならびに蛇紋岩と結晶片岩との境界部には蛇紋岩メランジュが発達する.蛇紋岩メランジュ中の構造岩塊の年代は90 Maを示し,メランジュは三和層群と同時期に形成されたものである.この蛇紋岩メランジュは,蛇紋岩体と結晶片岩との境界部ならびに蛇紋岩体内部に厚さ100 m規模(最大の厚さ300 m)の層状岩体として産する.メランジュ構造岩塊の構成岩種は変成火山岩類(変成された枕状溶岩,ピローブレッチャ,ハイアロクラスタイト,火山角礫岩)と角閃岩(後退変成作用を受けている)を主とし,変成ハンレイ岩や曹長岩などを伴う.これらのブロックは塊状のもの(径数10 cm–数m)が多く,延性変形を示すものは少ない.角閃岩にはカタクラスティックな変形を示すものがある.また曹長岩化した苦鉄質片岩(原岩は玄武岩質凝灰岩と推定される)には厚さ数m,長さ数10 mの岩体として産するものがある.蛇紋岩体中には変成ハンレイ岩とロジン岩の岩脈が多く発達する(Nishiyama et al., 2017)が,メランジュ中には変成ハンレイ岩は産するがロジン岩は全く産しない.メランジュの基質は,アクチノ閃石片岩が主であるが,マグネシオリーベック閃石片岩の場合も稀にある.構造岩塊は,角閃石(ウインチ閃石–バロワ閃石)+緑簾石+緑泥石+アルバイトの鉱物組み合わせを持つものがほとんどで,一部にはオンファス輝石を産するが,石英と共存せず,マグネシオリーベック閃石を産するが藍閃石を産しないなど,西彼杵ユニットに比べて低圧の条件を示す.野母ユニットの蛇紋岩メランジュに特徴的に含まれる角閃岩は,大洋底変成作用の産物と考えられ,変成火山岩類とともにメランジュ中に産することは,野母メランジュの起源が,oceanic core complexまたはそれに類似した海洋リソスフェアの物質に由来し,沈み込み帯の比較的浅い場所で,沈み込む海洋プレート表層に露出していたこれらの岩石が混合し,変成作用を受けたものと推定される.

    宮崎・西山(1989)地質学論集,33, 217-236.Nishiyama et al. (2017) PEPS, 4:1, DOI 10.1186/s40645-016-0115-4Nishiyama et al. (in press) Island Arc.

  • 辻森 樹, 福島 諒
    セッションID: T1-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    水流体の化学的性質 (溶存化学種、溶解特性) の理解が増すことで、沈み込み帯流体の化学種分化やpH変化を予測できるようになる。高圧変成岩の相平衡モデリングにおいて、水流体中の化学的性質まで計算に考慮することで、沈み込み帯の水流体が関与する元素循環についての確からしい議論を導くことができる (例えば、Galvez et al., 2016)。化学的性質の熱力学的予測は、特定の温度圧力条件に固有の元素移動や交代作用の理解だけでなく、流体のpHに依存したホウ素などの軽元素の同位体分別に関する岩石記録の解釈に不可欠である。しかしながら、流体の溶存化学種や溶解特性に関するデータはまだ不完全であり、新しい実験が必要とされる (例えば、Takahashi et al., 2022; Takahashi et al., in revision)。

     我々は、変成岩と平衡な水流体の化学的性質に関する基礎データが不完全であることを前提としつつも、サブソリダスかつ沈み込み帯中深部条件に対し適用可能なデータセット(DEW17: Sverjensky et al., 2014) と Perple_X v7.1.5 を用いた相平衡モデリング (Simple back-calculated electrolyte speciation) を行うことで、温度圧力条件 P= 0.5–2.5 GPa, T= 300–600°C における高圧変成岩と平衡な水流体の化学的性質を計算した。そして、その結果が天然の岩石が記録する情報と調和的かどうか検討した。本講演では、DMM+H2O系 (NCFMASHO: Hacker, 2008 [XFe3+ 〜0.2]) および NMORB+H2O系 (NCKFMASHO: Hernández-Uribe and Tsujimori, 2023) の水流体の化学的性質についての計算結果を紹介する。

     DMM+H2O系において仮想蛇紋岩と平衡な水流体に溶存する Na2O量は〜400°C以下の温度で増大し、〜1.7 GPa 以上の圧力で SiO2量が急増する。水流体に溶存する Al2O3量は〜560–580°C、〜1.8–2.3 GPa で極大を示す。pHについては、Galvez et al. (2016) が示した結果と調和的であり、低温低圧側で高アルカリの傾向を示す。NMORB+H2O系の仮想変成玄武岩と平衡な水流体については、溶存する Na2O, SiO2, Al2O3, K2O量の増減はそれぞれ独立した傾向を示す。本講演では、得られた特徴がどのような天然の現象・観察 (高圧変成岩や蛇紋岩に伴う交代岩・交代脈、前弧域蛇紋岩のホウ素同位体比傾向など) と調和的、あるいは矛盾するかについて議論する。

    引用文献

    - Galvez, M.E., Connolly, J.A.D., Manning, C.E. (2016) Implications for metal and volatile cycles from the pH of subduction zone fluids. Nature 539, 420–424.

    - Hacker, B.R. (2008) H2O subduction beyond arcs. Geochem. Geophys. Geosyst. 9, Q03001.

    - Hernández-Uribe, D., Tsujimori T. (2023) Progressive lawsonite eclogitization of the oceanic crust: Implications for deep mass transfer in subduction zones. Geology 51, 678–682.

    - Sverjensky, D.A., Harrison, B., Azzolini, D. (2014) Water in the deep Earth: The dielectric constant and the solubilities of quartz and corundum to 60 kb and 1200°C. Geochim. Cosmochim. Acta 129, 125–145.

    - Takahashi, N., Tsujimori, T., Kamada, S., Nakamura, M. (2022) In-situ Raman spectroscopic analysis of dissolved silica structures in Na2CO3 and NaOH solutions at high pressure and temperature. Contrib. Mineral. Petrol. 177, 36.

    - Takahashi, N., Tsujimori, T., Kamada, S., Nakamura, M. Rutile solubility in aqueous sodium salt solutions at high pressures and high temperatures: in-situ observation using a diamond anvil cell. Prog. Earth Planet. Sci., in revision.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    沖野 峻也, 岡本 敦, 喜多 倖子, 澤 燦道, 武藤 潤
    セッションID: T1-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

    沈み込み帯には毎年莫大な量の炭素が持ち込まれている.しかし,持ち込まれた炭素がマントルウェッジ深度で,どのように振る舞っているのかは明らかではない.マントルは炭素を炭酸塩鉱物として固定し,副生成物として滑石などを生成する.特に,滑石はマントルに生成する鉱物の中で最も低い摩擦係数を持ち,地殻-マントル間を滑りやすくする可能性がある.地震波観測網の発達により,様々な特徴を持つスロー地震が観測されている.その原因として間隙水圧の上昇に注目されてきたが,近年,岩石-流体反応,例えば,マントルウェッジに形成された滑石層がスロースリップを引き起こしている可能性なども提案されている1.これまで,高圧変成帯の蛇紋岩体に炭酸塩鉱物を伴った滑石脈が見つかっている2ものの,マントルウェッジ深度での地殻-マントル物質境界におけるレオロジーとマントル炭酸塩化の直接的な関連は全くわかっていない.本研究では,マントルウェッジの温度圧力条件において地殻-マントル境界を模擬した反応実験を行い,物質移動を伴う反応の特徴,およびCO2流体が滑石の生成やすべり挙動に与える影響を検討した.

    実験

    地殻-マントル境界を模擬し,Griggs型固体圧変形試験機を用いて,500℃・1GPaの静水圧下での反応実験を行った.実験試料は,珪岩(ブラジル産)または泥質片岩(三波川帯,長瀞)のコア試料を,ハルツバージャイト(幌満かんらん岩)と蛇紋岩(アンチゴライト+クリソタイル,長瀞)で上下に挟み,沈み込む堆積物が無水または含水マントルと接する境界を模擬した.流体としては,純粋なH2O流体と,シュウ酸二水和物(OAD)の分解によるH2O-CO2流体の2種類を用いた.OADは200℃でCO2,H2O,H2に分解される.H2O-CO2流体の実験では,H2Oを4 wt%,XCO2を0.2とした.また,同じ温度圧力条件下,H2O-CO2流体(XCO2=0.25)を用いて,石英岩-かんらん岩の変形実験を行った.石英岩とかんらん岩のコア試料に片面にソーカットを施し,45°で接するようにした.

    結果と考察

    地殻物質として珪岩を用いたH2O流体の実験では,かんらん岩側には厚さ10 µmの滑石層が形成されたが,蛇紋岩側では亀裂の周りを中心に滑石が生成し,境界にはほとんど生成しなかった.一方CO2流体の実験では,かんらん岩,蛇紋岩ともに滑石生成量は大きく増加し,境界には滑石のみが見られ,内部にはマグネサイトと滑石が生成した.組織としては,かんらん岩ではブロック状に割れるメッシュ状の反応組織を示す一方,蛇紋岩では炭酸塩鉱物+滑石が細脈と生成している.また,短時間の実験(13 h)では,いずれのマントル物質にも境界付近で石英とマグネサイトが形成した.泥質片岩を用いた場合は,かんらん岩では珪岩を用いた場合と同様に滑石層が形成したが,蛇紋岩では境界に滑石と蛇紋石の混合物が形成し,内部に細い滑石脈が見られた.泥質片岩側は曹長石が選択的に変質していた.CO2流体を導入した場合は,珪岩の時と同様,滑石とマグネサイトが形成し,泥質片岩側の白雲母のリムが変質していた.

    珪岩を用いた実験のマスバランス解析は,かんらん岩や蛇紋岩において起こる滑石の形成は,Si交代作用ではなくて,CO2交代作用によって進行したことを示している.また,反応初期での石英の析出は,初期流体中の高いCO2濃度によって説明できる.時間が経過すると,珪岩との境界付近では石英による高いSi活量によって滑石のみの領域が形成したと考えられる.泥質片岩を用いた場合も同様であるが,マスバランス解析によりMgとSiの双方向な移動が地殻とマントルの間で起こったことが示唆された.

    変形実験は,変形開始前に3時間静水圧下で反応させ,8.3×10-5 /sの歪速度で12時間変形させた.実験生成物から,石英+マグネサイト+かんらん石からなる組織がかんらん岩から分離している様子が観察された.境界では滑石層が生成し,局所的な変形が起きていた.応力-時間曲線には,降伏直後に差応力が急激な降下の後に回復するイベントが記録された.これらのことから反応初期に形成された強度の大きい石英+マグネサイト領域が変形に伴って分離し,その後は滑石層によって変形がまかなわれたと考えられる.

    以上,本実験の結果は,少なくともXCO2が~0.2の条件では,マントルの,CO2交代作用はSi交代作用と比較して著しく反応が早く進行し,岩相境界と岩体内部で生成鉱物の空間的・時間的不均質性が生じることが明らかとなった.この不均質性がスラブ-マントル間のすべり挙動に複雑性と多様性をもたらし,スロー地震の一因となっている可能性がある.

    参考文献

    1. Lindquist et al., 2023, Geochem. Geophys. Geosyst.

    2. Okamoto et al., 2021, Commun. Earth Environ.

  • 仁木 創太, 吉田 健太, 沢田 輝, 大柳 良介, 平田 岳史
    セッションID: T1-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    局所同位体比分析法の開発と普及に伴い、岩石薄片上で組織観察しながら鉱物粒子ごと、あるいは鉱物粒子内の成長組織ごとに年代測定を実施することが一般的になった1)。組織観察と年代分析箇所の照合は、正確な鉱物の年齢決定を可能とするだけでなく、鉱物の年齢と岩石学・鉱物学的な議論に基づき推定される鉱物形成条件の紐づけを可能とした。そして鉱物の年齢と鉱物形成条件の双方が明らかになることで、鉱物の年齢と地質現象の時期の対応関係をより明確に捉えることができるようになった。

    現在、多段階の火成・変成作用を経た岩石の形成過程解明の上で様々な鉱物種・同位体年代系を活用したマルチ年代学研究が盛んに行われている。マルチ年代学研究において、局所同位体比分析法の中でも特にレーザーアブレーションICP質量分析法(LA-ICP-MS)が用いられることが多い。LA-ICP-MSは非スペクトル干渉(i.e., マトリクス効果)を抑えた多元素分析を実施でき2)、この特長は親核種と子孫核種で異なる元素の同時測定が必要な(すなわち元素比分析が必要な)年代測定において、分析の正確性を高める観点で重要である。そして近年では年代標準となるマトリクス合致参照物質が充実していない鉱物種や同位体年代系に関しても信頼できる年代データが得られつつあり、新たな年代測定法の開発が絶えず進展している3)

    最近の研究では、U濃度はごくわずか(1 µg g-1未満)であるが初生Pb濃度はさらに低い(1 ng g-1未満)低U濃度・高U/Pb鉱物(柘榴石・イルメナイトなど)のU–Pb年代学に焦点が当たっている4, 5)。これらの鉱物のU–Pb年代測定はLA-ICP-MSの高感度化により実際の応用研究が進みつつある。たとえば発表者らの研究グループでは高速多点紫外フェムト秒レーザーアブレーション法6, 7)やデイリー型検出器を搭載した多重検出方式のICP質量分析装置8, 9)の実用化により、僅かな試料体積の分析であっても高いシグナルバックグラウンド比でPb同位体信号を計測できるようになった。

    以上の局所同位体比分析技術の応用として発表者らのこれまでの研究では、低U濃度・高U/Pb鉱物である柘榴石に着目して石灰質変成岩からピーク変成時の年代情報取得に成功している10)。また同一の岩石に産するチタン石から柘榴石とは異なるU–Pb年代が得られており、殊に三波川帯に属する五良津東部岩体に産する高圧変成石灰岩のチタン石からは約200 Maの先三波川変成作用に関する記録を読み解くことができた11)。この柘榴石とチタン石を組み合わせたマルチ年代学研究は、従来年代制約が困難であった岩相から新たな年代情報を得る手法として、広く変成年代学研究に応用できる可能性がある。

    本発表では年代測定やLA-ICP-MSの基礎から石灰質変成岩に対するマルチ年代学の応用研究までを概説する。変成柘榴石のU–Pb年代学研究も発表者らの研究開始当初は世界に先んじたものであったが、現在はドイツを中心に応用研究が急速に発展しており、国際的には最早コモンな手法と言っても過言ではない。この国際的な研究の潮流の中で、日本独自の同位体比分析技術の開発を進め、即時に地質学への応用研究を展開していく両輪が不可欠である。以上を踏まえ、発表の最後に今後の展望に関して述べる。

    References

    1) D. Rubatto, J. Hermann. Geol. 29: 3, 2001.

    2) J. Koch et al., J. Anal. At. Spectrom. 21: 932–940, 2006.

    3) A. Simpson et al. Geochron. 4: 353–372, 2022.

    4) S. Seman et al. Chem. Geol. 460: 106–116, 2017.

    5) J. M. Thompson et al. J. Anal. At. Spectrom. 36: 1244–1260, 2021.

    6) T. D. Yokoyama et al. Anal. Chem. 83: 8892–8899, 2011.

    7) Y. Makino et al. J. Anal. At. Spectrom. 34: 1794–1799, 2019.

    8) H. Obayashi et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 686–691, 2017.

    9) K. Hattori et al. J. Anal. At. Spectrom. 32: 88–95, 2017.

    10) S. Niki et al. J. Miner. Petrol. Sci. 117: 2022.

    11) K. Yoshida et al. Lithos. 398–399: 106349, 2021.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    福島 諒, 辻森 樹, ベラノアグイレ アラッツ, アルバート リチャード, ゲルデス アクセル, マーシャル ホルスト
    セッションID: T1-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Lawsonite eclogite has received attention due to its high H2O retainability, thereby contributing to volatile input into the deep Earth via oceanic plate subduction. Because the pressure–temperature (P–T) stability field of lawsonite is limited to high-P and low-T conditions along a cold thermal gradient (~5–6°C/km), continuous subduction of lawsonite eclogite would require either significant cooling of the oceanic lithosphere before subduction or extensive subduction maturation [1]. However, scarce geochronological data of natural lawsonite eclogites that include both the protolith and metamorphic ages inhibit the quantitative validation of this idea.

    Here, we report metamorphic and protolith ages of lawsonite eclogite from the South Motagua Mélange, Guatemala. These samples ubiquitously include well-preserved lawsonite grains both as inclusions in garnet and in the rock matrix, demonstrating that garnet-forming reactions occurred within the lawsonite stability field. For the determination of the eclogite-facies metamorphic age, we performed LA-MC-ICPMS U–Pb dating of almandine-rich garnet grains [2,3] in four thin sections representing four different rock samples. Forty-four spot analyses of the inclusion-free rims in one of the samples plot on a well-defined regression line with a lower intercept of 137 ± 4 Ma. The garnet U–Pb ages from the other samples overlap this value within uncertainty. As for the protolith age, we performed LA-HR-ICPMS U–Pb dating of magmatic zircon in one of the samples, and obtained a concordia age of 187 ± 2 Ma. Hence, the protolith–metamorphic age difference (Δt) is found to be ~50 Myr.

    Previously reported Δt values for lawsonite–epidote eclogites from other localities (North Qilian and New Caledonia) are ~20 Myr, which is smaller than our result by ~30 Myr. Those samples formed along warmer thermal gradients than the Guatemalan lawsonite eclogites, as their metamorphic peak conditions were outside the lawsonite stability field. Assuming the subduction duration of eclogite-forming material is generally <10 Myr, we propose that 40–50 Myr of oceanic crust cooling before subduction is required to keep the thermal gradient cold enough for lawsonite stability. This study applied the novel in-situ U–Pb almandine garnet dating method, demonstrating its viability for extracting robust temporal information on convergent plate margin dynamics.

    References

    [1] Hernández-Uribe, D., & Tsujimori, T. (2023). Geology, 51, 678–682.

    [2] Millonig, L. J. et al. (2020). Earth and Planetary Science Letters, 552, 116589.

    [3] Shu, Q. et al. (2024). Contributions to Mineralogy and Petrology, 179, 49.

  • 高橋 瑞季, 遠藤 俊祐, 亀井 淳志
    セッションID: T1-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     ザクロ石角閃岩の部分融解は,造山帯の下部地殻や海洋地殻の高温沈み込み(沈み込み開始直後や若いスラブの沈み込み)において発生しうる重要なプロセスである.北米カタリナ島や南米パタゴニアなど,世界のいくつかの沈み込み型変成帯では,ザクロ石角閃岩とトーナル岩~トロニエム岩の組合せが,沈み込んだ海洋地殻の部分融解を示すと解釈されている(Angiboust et al., 2017など).鳥取県東部の若桜地域の蛇紋岩中からも,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩の組合せが報告されており,ザクロ石角閃岩の部分融解によりトロニエム岩が形成された可能性が示された(髙橋・遠藤, 2023).本発表では,新たに両岩石の全岩化学分析およびトロニエム岩中のジルコンU-Pb年代測定を行い,両岩石の起源と年代について検討した.

    地質概略

     若桜地域では,約300Maの変成年代をもつ高P/T型変成岩の蓮華変成岩(志谷層)と,その構造的上位を占める大江山オフィオライト相当の超苦鉄質岩類が分布する(Nishimura and Shibata, 1989).志谷層の泥質片岩は緑泥石帯からザクロ石帯への累進変成作用を示し,一部に青色片岩相の鉱物組合せをもつ苦鉄質片岩を伴う(Kabir and Takasu, 2021).超苦鉄質岩類は原岩の組織を残す塊状蛇紋岩から面構造の強く発達した片状蛇紋岩まで変化する.片状蛇紋岩により志谷層と隔てられた泥質片岩(灰曹長石-黒雲母帯相当)中に,ザクロ石角閃岩およびトロニエム岩が複数枚のレイヤーとして産する.

    岩石記載

     ザクロ石角閃岩は,優黒質部とそれを切る少量の優白質部からなる.優黒質部は主に自形のザクロ石(~15 vol%),褐色角閃石(>60 vol%),チタナイトにより構成される.優黒質部のザクロ石斑状変晶は昇温期の累帯構造を保持し,多量の斜長石,石英,ルチル,緑れん石を包有する.優白質部は斜長石,石英,白雲母,ゾイサイト,緑れん石,チタナイトにより構成される.優白質部のザクロ石は自形の輪郭を残して斜長石+石英に置換された「ゴースト」となっている.トロニエム岩はマイロナイト化しており,粗粒の斜長石,白雲母,ゾイサイトと細粒化した石英を主とし,構成鉱物はザクロ石角閃岩を切る優白質部と同様である.

    全岩化学組成とジルコンU-Pb年代

     ザクロ石角閃岩はSiO2-Nb/Y図において,玄武岩~玄武岩質安山岩組成のサブアルカリ岩である.また,Ti-V図などの判別図でMORB領域にプロットされる.トロニエム岩はSiO2 = 70.5-77.8 wt%,Na2O+K2O = 7.3-8.9 wt%,MgO = 0.23-0.58wt%の組成範囲をもつ.ザクロ石角閃岩(Y = 29-37 ppm, Zr = 137-80 ppm)に比較して,トロニエム岩(Y = 0.3-2 ppm, Zr = 12-35 ppm)はYやZrに枯渇し,高Sr/Y比(171-639)のアダカイト的な特徴を示した.

     トロニエム岩のジルコン含有率は低いが,回収されたジルコン粒子はオシラトリー累帯をもつ.測定した30粒子はいずれもコンコーダントな年代を示した.最も古い1粒子を除く加重平均年代は340.3±2.0 Ma (MSWD = 1.8)となり,これらジルコンのTh/U比は0.00-0.05であった.一方,最も古い1粒子の年代は399.5±17.0 Ma(Th/U = 0.31)であった.

    考察

     若桜地域のザクロ石角閃岩は,MORB類似の全岩組成から火山弧下部地殻ではなく沈み込んだ海洋地殻起源と考えられる.また,トロニエム岩はザクロ石角閃岩の部分融解によるアダカイト質メルト起源の可能性がある.しかしザクロ石角閃岩から推定されるピーク温度(660-700℃:髙橋・遠藤2023)は含水ソリダス付近であるため,トロニエム岩はメルト起源と流体起源の双方の可能性が残る.トロニエム岩から得られた340 Maのジルコンは,低いTh/U比から流体起源を示唆する.だが,この年代値は蓮華変成作用の年代と重複しており,志谷層の青色片岩相変成作用とほぼ同時期に,ザクロ石角閃岩とトロニエム岩が形成されるような高温沈み込みを想定することになる.一点ではあるが,火成ジルコンとみなしうる高Th/U比のジルコンが約400 Maの年代値を示すことから,トロニエム岩がメルト起源であった場合,ザクロ石角閃岩の部分融解は400 Ma頃に起こった可能性がある.

    文献: Angiboust et al. (2017) Gondwana Res., 42, 104-125; Kabir and Takasu (2021) Earth Sci. 75, 19-32; Nishimura and Shibata (1989) Mem. Geol. Soc. Japan, 33, 343-357; 髙橋・遠藤 (2023), 日本地質学会第130年学術大会講演要旨, T2-O-06

  • 八木 寿々歌
    セッションID: T1-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    南海トラフのプレート境界型地震発生帯の上限・下限付近では様々なスロー地震活動が観測されている.このような領域では,高間隙水圧帯の存在が示唆されており (Shelly et al., Nature, 2006; Hirose et al., J. Geophys. Res.: Solid Earth, 2021), 高間隙水圧帯の存在は有効圧を低下させ岩石の強度を低下させる可能性がある (Peterson and Wong, J. Geophys. Res.: Solid Earth, 2005).また,南海トラフは付加体により構成されている沈み込み帯であることから,地震発生帯およびスロー地震発生帯でのプレート境界断層の挙動はこの付加体の中でも特に強度の低い泥質岩によって支配されると予想される.本研究では南海トラフを構成する泥質岩を用いて変形実験を行うことでそのレオロジー特性を観測し,南海トラフ地震発生帯との関連を探った.本研究の剪断変形実験にはGriggs型固体圧式高温高圧三軸変形試験機を用いた.試料には三波川帯に属する高知県長岡郡本山町汗見川沿いにて採取した泥質片岩を用いた.XRD測定によってこの試料は石英と白雲母が主要な鉱物であることが確認された.実験の温度圧力条件は,Kouketsu et al. (J. Metamorph. Geol., 2020)でのラマン分光法による測定結果と,Okuda et al. (Earth Planet. Sci. Lett., 2023)およびGao and Wang (Nature, 2017) で示された南海トラフの温度構造モデルから,温度は480℃,封圧は1250 MPaとした.この温度圧力条件は南海トラフのETS領域での環境に相当する.本研究では泥質片岩の力学挙動に対する水の影響を調べるために,乾燥(Dry)条件,含水(非排水)のWet条件,一定の間隙水圧(400 MPa, 600Mpa)を加えるPp controlled条件の3つの条件で実験を行った.実験の結果,すべての条件において石英による同様の実験よりも強度が低く,ピーク強度に達した後に不安定滑りを示し,応力降下を起こした.特にDry条件では破壊音を伴うスティックスリップを起こした.Wet条件およびPp controlled条件での摩擦係数は0.34,Dry条件では0.37であった.最も強度の高いDry条件の摩擦係数が,白雲母の摩擦係数に近いことから,泥質片岩の強度は白雲母によって支配されていることがわかる.また,WetおよびPp controlled条件ではより摩擦係数が低く,湿潤状態の白雲母に近い値になったことから,水の存在の影響で強度がより低下することが分かった.Tokle et al. (J. Struct. Geol., 2023)は,このような強度低下について,白雲母が水と優先的に反応し変形することによると提案している.応力降下速度はWetおよびPp controlled条件では4.15-17.9 MPa/sであった.一方で,Dry条件では243 MPa/sであった.滑り速度はWet条件およびPp controlled条件で2.1-9.0 μm/s,Dry条件では121.5 μm/sとなった.しかし,Dry実験については,力学データのサンプリングレートが十分でなく,応力降下速度および滑り速度を過小評価している可能性がある.Peterson and Wong (Springer, 2005)では,封圧,間隙水圧,有効圧の関係は,Peff = Pc − ??Ppとされている.5wt%の時の間隙水圧は,回収試料内に残っていた水から計算する (Okazaki et al., J. Geophys. Res.: Solid Earth, 2020) と767 MPaとなった.しかし,間隙水圧が0である1wt%の場合と剪断応力が変わらない.一方,Pp = 600 MPaの結果から間隙水圧によって強度が低下していることが確認でき,有効圧が働いていると考えられる.よって今回の実験条件である封圧1250 MPa下では,従来の有効圧則が働いていないと予想される.以上のことから,白雲母を含む泥質片岩は乾燥状態でも強度が低く,湿潤状態ではより強度が低下し不安定な挙動を示す可能性がある.また,封圧が高圧の状態では,従来の有効圧則が成立しない可能性がある.南海トラフのETS領域の挙動は,白雲母などを含む複雑な鉱物組成による不安定さと,水の存在による強度の低下が強く影響している可能性がある.今後高間隙水圧下での実験を行うことで,より詳細な高圧下の岩石の強度に対する間隙水圧の影響について調べる必要がある.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    小山 雪乃丞, ウォリス サイモン, 永冶 方敬, 青矢 睦月
    セッションID: T1-O-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    沈み込み帯の熱構造はプレート境界の変成作用や流体の挙動等を支配する大事な要素である。また、沈み込み帯の熱構造モデルに関する研究は、プレート境界で発生する剪断熱が沈み込み帯の熱構造を大きく変化させる可能性を指摘しており、熱構造を解明する上で、剪断熱の理解は重要である。単位時間・単位プレート境界面積当たりの剪断熱発生量は、プレート境界にかかる最大剪断応力とプレート運動速度の積で近似的に評価される。そのうち最大剪断応力は、プレート境界の変形機構や歪速度等を仮定し、摩擦則や流動則を立式、計算することで推定されるが、実際のプレート境界の変形は複雑であり、仮定に起因する不確実性は取り除けない。よって、仮にこれらの仮定に依存しない独立した手法を用いて最大剪断応力が取得できれば、剪断熱の影響の評価に大きく貢献できる。そこで本研究では、沈み込みプレート境界から上昇し、現在地表に露出する岩体の変形組織から最大剪断応力を推定した。

     西南日本に位置する三波川帯沈み込み型変成帯ではマントルウェッジ由来の蛇紋岩と海洋地殻由来の片岩が隣接し、過去の沈み込み境界が露出している。また、変成帯形成時のプレート運動速度やスラブの年代など、モデル構築に必要な情報が得られており、モデルを用いた沈み込み帯熱構造推定も行われている。そこで、本変成帯が広く露出する四国中央部の汗見川、別子、猿田川地域を対象とし、沈み込み帯の最大剪断応力分布を推定した。主要な造岩・変形鉱物である石英に着目し、偏光顕微鏡による観察結果とEBSD(電子後方散乱回折)により取得した結晶方位データを合わせ、動的再結晶過程を考慮した組織の分類と再結晶粒子の選別を行った。選別した再結晶粒子のc軸結晶方位分布に石英開口角温度計を適用して変形温度を推定し、先行研究による岩体のPTパスと合わせて岩体の変形深さ条件を推定した。さらに変形温度と再結晶粒子の粒径を応力計に代入し、岩体の受けた最大剪断応力を推定した。粒径の計算にあたり、平面歪の場合は切断方位の依存性を考慮してXZ面とYZ面の両方で測定し、また異種鉱物による粒成長阻害の影響を避けるために、石英のみの領域を選別した。さらに、組織の分類に応じて適切な応力計を適用した。

     結果、粒径測定面や応力計の違いによる影響を含めても、深さ18–26 kmの領域では最大剪断応力が14–42 MPaの範囲に収まり、深さに依らずほぼ一定か、又は深さが増すにつれて僅かに(最大約1 MPa/kmの割合で)増加することが示された。また、最大剪断応力はプレート境界の走向方向にもほぼ一定であることが示された。この傾向はピーク変成時から岩体上昇の初期にかけて維持されていた可能性がある。一方で、最高変成温度と岩体の変形温度の差がより大きいサンプルは、変形深さ条件が12 km未満と浅く、最大剪断応力も38–73 MPaと高い値を示すことも判明した。これらは岩体の上昇が進み、沈み込み帯から離れた時点での変形と解釈し、後の議論では除外した。ほぼ石英のみから構成される岩体と、そうでない岩体が同程度の応力を記録することから、石英の記録した応力は概ね周囲の変形帯が受けた応力と一致すると考えられ、2相から構成される岩体の変形理論を基にした考察はこれを支持する。

     Ishii and Wallis (2020) では三波川帯の岩体が記録したPTパスと整合的な沈み込み帯熱構造を、剪断熱を考慮した数値計算モデルで再現することにより、三波川沈み込み帯のプレート境界における見かけの摩擦係数(μ’)を0.13と見積もった。しかし、本研究で得られた最大剪断応力分布と整合的な熱構造を計算した場合、μ’は0.06程度と見積もられ、予測される熱構造は低温となり、PTパスと矛盾する。つまり、モデル計算の仮定に修正が必要な可能性がある。一方、England et al. (2024) では、三波川沈み込み帯と類似する特徴を持つトンガ沈み込み帯の観測結果から地震発生領域を深さ30㎞以浅とし、μ’を0.06として三波川沈み込み帯プレート境界の温度を計算している。得られた熱構造は岩体の温度圧力記録とも整合的であり、本研究結果をも支持する。本発表では、このように推定した最大剪断応力がIshii and Wallis (2020)と矛盾し、England et al. (2024)と整合的となる原因についても、両モデルの前提条件の違いという観点から議論する予定である。

    引用文献

    Ishii K. and Wallis S. R. (2020) EPSL, 531. doi:10.1016/j.epsl.2019.115935

    England et al. (2024) G3, 25. doi:10.1029/2023GC011285

  • 金木 俊也, 纐纈 佑衣, 青矢 睦月, 中村 佳博, ウォリス サイモン, 志村 侑亮, 山岡 健
    セッションID: T1-O-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    岩石が過去に経験した最高被熱温度は、地球内部の続成・変成過程を調べる上で重要な情報である。炭質物は、堆積物やそれら由来の堆積・変成岩中に広く存在し、歪の影響が無い場合は被熱履歴に応じてその熟成度を不可逆的に変化させるため、有効な温度指標として用いられてきた。熟成度の評価方法の一つとして、ラマン分光分析がある。Beyssac et al. (2002)は、炭質物ラマンスペクトル中の特定のピークの面積比(R2比)と過去の最高被熱温度の関係が線形モデルで説明できることに着目し、世界初となる炭質物ラマン温度計を報告した。彼らの研究を皮切りに、今日に至るまで多くの炭質物ラマン温度計が報告されており、中でもKouketsu et al. (2014)とAoya et al. (2010)(以降、K2014とA2010)の温度計は、共に532 nmという一般的なレーザー波長を用いており、それぞれ150-400 degree Cの低〜中結晶化度および340-655 degree Cの中〜高結晶化度の炭質物に適用可能な温度計として広く用いられている。これら二つの温度計は、それぞれD1もしくはD2バンドの半値幅(K2014)およびR2比(A2010)を温度に換算するため、測定したラマンスペクトルに対してピーク分離を行う必要がある。しかし、非線形逆解析における初期値を解析者の主観で設定していたため、得られる結果が解析者に依存し、また初期値の設定に膨大な時間と労力が必要という問題があった。

    この問題を解決するため、我々は炭質物ラマンスペクトルのピーク分離を自動で行うコードの開発に取り組んできた。その結果、Kaneki & Kouketsu (2022)(以下、KK2022)ではD1およびD2バンドの半値幅を、Kaneki et al. (2024)(以下、K2024)ではR2比を、それぞれ自動計算するコードの開発に成功した。開発した二つのコードを用いて、K2014とA2010が温度計を開発するために測定したデータセットをそれぞれ再解析したところ、先行研究と概ね調和的な結果を得た。自動解析データについてデミング回帰を行うことで検量線の係数を再決定し、予測誤差の計算と合わせてコードに実装した。また、開発した二つのコードは、それぞれK2014とA2010以外のデータセットにも適用可能であることを確認した。KK2022とK2024のコードの使い分け基準としては、K2024のコードを用いて計算したR2比が0.57を超えているか否かが有用である。R2比が0.57以下であればK2024のコードを用いてR2比から温度を推定し、逆に0.57を超えていればKK2022のコードを用いてD1バンドの半値幅から温度推定を行うことを推奨している。本発表では、主にコードの概要の紹介および実践的な使用に際しての留意点について発表する他、時間が許せばコードによる自動解析を実演する予定である。

    開発したコード

    半値幅に基づく自動解析コード(Kaneki & Kouketsu, 2022):https://doi.org/10.5281/zenodo.5851826

    R2比に基づく自動解析コード(Kaneki et al., 2024):https://doi.org/10.5281/zenodo.10237726

    参考文献

    Aoya et al. (2010) https://doi.org/10.1111/j.1525-1314.2010.00896.x

    Beyssac et al. (2002) https://doi.org/10.1046/j.1525-1314.2002.00408.x

    Kaneki & Kouketsu (2022) https://doi.org/10.1111/iar.12467

    Kaneki et al. (2024) https://doi.org/10.1186/s40645-024-00637-8

    Kouketsu et al. (2014) https://doi.org/10.1111/iar.12057

  • 志村 俊昭, KEMP Anthony, 槇納 吏袈, 長久保 恵美
    セッションID: T1-O-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日高変成帯は東上位の島弧地殻の衝上断片とされ,東側から西側へI帯(弱変成岩~緑色片岩相低温部)・II帯(緑色片岩相~角閃岩相漸移部)からなる上部層と,III帯(角閃岩相)・IV帯(グラニュライト相)からなる下部層に変成分帯されている(Osanai et al., 1991など).そしてその地殻変成岩層に多様な深成岩類が貫入している.ジルコンU-Pb年代により,その変成・火成イベントには37 Ma頃と19 Ma頃の,2回の熱パルスの存在が初めて示された(Kemp et al., 2007).その後,この2回の熱パルスの存在はさらに明瞭になってきている(Takahashi et al., 2021; Zhang et al., 2022及びそれらの中の文献を参照).

     上部層と下部層とは,日高変成帯に広域的に連続するデコルマ面を境に重なっており,下部層では19 Maの変成岩層に19 Maの深成岩が貫入している.上部層では,37 Maの変成岩層に37 Maの深成岩が貫入し,さらに19 Maの深成岩が貫入している.前述のデコルマ面は,19 Maの深成岩によって切られている.したがって,

    ① 37 Ma頃の熱イベントで上部層の変成地温勾配が形成された.

    ② 大規模なデコルマ面を境に,下部層の源岩の上に上部層が乗り上げた.

    ③ 19Ma頃の熱イベントで下部層の変成地温勾配が形成された.上部層の一部は19 Ma頃に2度目の変成作用を被った.

    という時系列が考えられる.

     ①の37 Ma当時の下部地殻は地表に露出していない.一方,変成帯南部の37 Maの閃緑岩体中から,37 MaのジルコンU-Pb年代を示すグラニュライトゼノリスが発見された(槇納ほか, 2018).そしてその中のザクロ石斑状変晶中から,ナノ花崗岩が発見された(槇納ほか, 2019).そのナノ花崗岩の化学組成は,37 MaのSタイプ花崗岩の化学組成と一致する.Shimura et al. (2023)のGASP地質圧力計・GASpP地質圧力計の適用結果もふまえると,このゼノリスは地表に露出しなかった37 Ma当時の下部地殻岩石と考えられる.また,多量の19 MaのSタイプ花崗岩の存在などから,19 Maの下部層よりもさらに深部の最下部地殻の存在も予想されるが,それも地表には露出していない.

     志村ほか(2006)は,日高変成帯の19 Ma以後の冷却史とテクトニクスを検討した.日高地殻はデュープレックスを形成しながら右横ずれ衝上運動を伴って日高変成帯として地表に露出した.一方,最下部地殻はデラミネーションにより地表に露出しなかったと考えた.

     2018年9月6日に,北海道胆振東部地震が発生した.Iwasaki et al. (2019)は,マントルトモグラフィーの検討と胆振東部地震の震源域の検討から,北海道中央部の上部マントルに,西傾斜の庇状の低速度域がある事を示した.この部分は,志村ほか(2006)が予測した,デラミネーションを起こした日高地殻の再下部層に対応すると考えられる.

     日高変成帯よりも西側の神居古潭帯内に,小規模なトロニエム岩体が点々とみられる.この岩石のK-Ar年代は約15 Maで,神居古潭帯の変成作用とは無関係である(中川, 1992).長久保・志村(2006)によると,この岩石の全岩化学組成は高いSr/Y比と著しく低いY量を示し,太古代TTGによく似た組成を示す.また,高いMg#からマントルとの反応が示唆される.Sr-Nd同位体比は日高変成帯の岩石によく似ている.このことから,前述の①~③のイベントに続き,

    ④ デラミネーションを起こしマントルに落下し始めた日高変成帯の最下部地殻が再融解し,15 Maのトロニエム岩体を形成した.

    というイベントが考えられる.

     日高変成帯の熱履歴とテクトニクスは,(1)北米プレートとユーラシアプレートの衝突,(2)背弧海盆の拡大とアセノスフェアの上昇,(3)変成帯の右横ずれ衝上運動と同時に,最下部地殻のデラミネーションと再融解がおきた,という時系列によって説明することができる.

    文献

    Iwasaki et al. (2019) Earth, Planets and Space, 71, 103.

    Kemp et al. (2007) Geology, 35, 807–810.

    槇納ほか (2018) 地質学会演旨, R4-P17.

    槇納ほか (2019) 地質学会演旨, R4-P2.

    長久保・志村 (2006) 地団研第60回総会資料集, 144–145.

    中川 (1992) 地調月報, 43, 467.

    Osanai et al. (1991) JMG, 9, 111–124.

    志村ほか (2006) 地雑, 112, 654–665.

    Shimura et al. (2023) JMPS, 118, S008.

    Takahashi et al. (2021) Island Arc, 30, e12393.

    Zhang et al. (2022) JMG, 41, 425-448.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    松山 和樹, 道林 克禎
    セッションID: T1-O-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、幌満カンラン岩体の構造発達史の解明を目的として、カンラン岩の微細構造解析を行った。幌満カンラン岩体は多様な変形微細組織と結晶ファブリックで特徴づけられる、世界でも有数の大規模カンラン岩体である。同岩体から産するカンラン岩は、これまでに岩石学的検討が多数行われ(Takazawa et al., 1999; Ozawa, 2004など)、スピネル安定相での再加熱を伴う温度-圧力履歴が見積もられている(Ozawa, 2004)。本研究では、幌満カンラン岩体から50個以上の定方位カンラン岩試料を採取し、SEM-EBSD法を用いてカンラン石の結晶方位を測定した。測定した結晶方位データは統計学的に解析し、結晶方位定向配列として定量化した。また、カンラン石の[100]軸がマントル流動の方向(剪断方向)に選択的に集中しやすい性質と、剪断方向とひずみ楕円の長軸との斜交性を利用し、カンラン岩が経験した剪断センスを復元した。偏光顕微鏡観察の結果、採取したカンラン岩試料はマイロナイト組織やポーフィロクラスト状組織、等粒状組織など多様な微細組織を示した。これらの微細組織は鉱物組み合わせと相関があり、ハルツバージャイトやスピネルに富むレルゾライトはマイロナイト組織~ポーフィロクラスト状組織を、斜長石に富むレルゾライトは等粒状組織を示す傾向があった。カンラン石の結晶方位定向配列はE、A、D、AG の4つのタイプが確認され、南から北(岩体下部から上部)にかけてこの順での分布を示した(Matsuyama and Michibayashi, 2023)。またEタイプはマイロナイト組織やポーフィロクラスト状組織、AGタイプは等粒状組織を示す試料から確認される傾向があった。復元した剪断センスは結晶方位定向配列の違いと相関があり、Eタイプは南北、Aタイプは西、AGタイプは南向きのセンスを示した。Eタイプの結晶方位定向配列は、実験研究では含水条件下で再現された(Katayama et al., 2004など)。また、近傍で実施された電気比抵抗探査は、スラブ由来の流体が日高主衝上断層に沿って存在していることを明らかにした(Ichihara et al., 2016)これらのことは、幌満カンラン岩体におけるEタイプの結晶方位定向配列が、リソスフェア内での水の流入と衝上断層の運動によって発達したことを示す。また本研究では、復元した剪断センスと日高変成帯の構造発達史(豊島ほか, 1997)から、幌満カンラン岩体の構造発達史を考察した。

    引用文献:

    Ichihara et al. (2016) Geochemistry, Geophysics, Geosystems.

    Katayama et al. (2004) Geology.

    Matsuyama and Michibayashi (2023) Journal of Geodynamics.

    Ozawa (2004) Journal of Petrology.

    Takazawa et al. (1999) Journal of Petrology.

    豊島剛志 ほか (1997) 地質学論集.

  • 北野 一平
    セッションID: T1-O-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日高変成帯は,北海道中央南部日高山脈に沿って新第三紀に衝上した島弧地殻断片として,深成岩類を伴って非変成堆積岩類からグラニュライトまで連続的に産出する地質体である(小山内ほか,2006など).最下部は日高主衝上断層を介してポロシリオフィオライトや白亜紀付加体と接し,著しくマイロナイト化している(小山内ほか,2006, 2007など).日高変成帯のグラニュライトはほぼ等温減圧を伴う時計回りの温度圧力経路をしめすことが明らかにされてきたが(小山内ほか,2006など),近年,複変成作用およびほぼ等圧冷却を示すグラニュライトが報告されている(Zhang et al., 2022).このことは,日高変成帯のグラニュライトに記録されている変成過程が一様でない可能性を示唆する.本研究は日高山脈中央部を流れるソガベツ川からマイロナイト化した泥質グラニュライトの転石2試料(T01C, T01D)を採取し,岩石学的解析により温度圧力経路を推定した.

     分析試料はザクロ石―直方輝石―黒雲母片麻岩(T01C)およびザクロ石―菫青石―珪線石―黒雲母片麻岩(T01D)で,両試料とも優白質部を伴い,マイロナイト化している.T01Cではザクロ石,直方輝石,斜長石が斑状変晶を成し,ザクロ石は自形性がよく包有物に乏しいコアと包有物に富むリムからなる.直方輝石は大部分を直閃石または黒雲母に置換され,斜長石は部分的にグラファイトを伴ってゾイサイトとNaに富む斜長石に置換されている.一方,T01Dでは,ザクロ石と菫青石は斑状変晶を成し,珪線石を包有する.一部のザクロ石は中心部にセクター構造を保持する.珪線石は針状の集合体としてザクロ石,菫青石,斜長石の縁に沿って産する.優白質部の菫青石のみ,十字石+藍晶石+石英の細粒集合体に一部置換されていることがある.

     T01Cのザクロ石はコアからリムに向かってMgとMnが減少してFeとCaが増加する組成累帯構造をしめすが,T01Dのザクロ石は縁部に向かってCaとMnが減少してMgとFeが増加し,最縁部でMnが増加しMgが減少する組成累帯構造をしめす.T01Cの黒雲母のXMg値は0.56–0.66で,T01Dのセクター構造部のザクロ石中の包有物(XMg = 0.66–0.67)を除いて,T01Dのそれら(XMg = 0.42–0.57)より高い.T01Cの斜長石は主に0.33–0.39のアノーサイト含有量をしめすが,ゾイサイトに伴うものは0.02–0.19の低い含有量をしめす.一方,T01Dでは,基質部の斜長石は0.14–0.24のアノーサイト含有量をしめすのに対し,セクター構造のザクロ石中の斜長石は0.48–0.53の高い含有量をもつ.そのほか,T01Cの直方輝石はXMg = 0.50–0.52およびXAl = 0.05–0.08の組成幅をしめし,斜長石を置換するゾイサイトはほぼ均一で低いFe含有量をしめす.T01Dの菫青石は0.59–0.61 のXMg値をもち,二次的な十字石はXMg = 0.17, ZnO = 2.18 wt%の化学組成をしめす.

     地質温度圧力計を適用した結果,T01Cの最高温度圧力条件は約5.0–6.5 kbar, 730–810 ℃,後退変成作用時の再平衡条件は約4.3–5.4 kbar, 570–600 ℃と見積もられた.T01Dの昇温期(セクター構造のザクロ石形成時),最高温度期,冷却期の温度圧力条件はそれぞれ,約2.8–4.1 kbar, 450–530 ℃,4.9–7.6 kbar, 750–850 ℃,2.5–5.8 kbar, 530–610 ℃と見積られた.また,T01Cの二次的なゾイサイト+Naに富む斜長石の集合体,T01Dの十字石+藍晶石+石英集合体の安定領域をシュードセクション法で計算すると,それぞれの冷却期の温度圧力条件と調和的となった.岩石成因論的グリッドを用いると,T01Dの鉱物の産状と関係性から時計回りの温度圧力経路が推定され,かつ上記の計算された最高温度圧力条件と調和的な結果が得られた.したがって,本研究の分析試料は,日高変成帯南部のIV帯と同様の最高温度圧力条件(5–6 kbar, 750–800 ℃:小山内ほか,2006)を経験しているが,ほぼ等温減圧の後退変成過程をしめす他のグラニュライトとは異なり,マイロナイト化を伴いほぼ等圧冷却する特異な上昇・冷却過程を有することが推定された.

    引用文献:小山内ほか(2006)地質学雑誌,小山内ほか(2007)地質学雑誌,Zhang et al. (2022) Journal of Metamorphic Geology

  • 福田 倫太郎, 豊島 剛志, 植田 勇人, Satish-Kumar Madhusoodhan, 小山内 康人, Sajeev Krishn ...
    セッションID: T1-O-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日高帯南部に分布する日高変成帯は,新生代に形成された若い島弧地殻であり,島弧地殻の形成・成長過程の解明を目的に活発に研究されてきた.従来,日高変成帯は白亜紀以降の一度の熱イベントで形成された下部〜上部地殻の衝上断片であるとされてきた(小松ほか, 1982など).しかし,ジルコンU-Pb年代測定による研究が進み,日高変成帯が2回あるいは複数回の熱イベントで形成されたこと(Kemp et al., 2007;菅野・豊島,2019;菅野,2021MSなど)や,異なる年代に形成された2つの地殻の接合帯であること(志村ほか,2015),2回の変成作用の重複を記録していること(志村ほか,2018)が示された.

     日高変成帯の変成岩類は東から西へ緑色片岩相~グラニュライト相に至るI~IV帯に変成分帯されている(Osanai et al., 1992;Komatsu et al., 1994;小山内ほか、1997など).変成帯北部〜中部のIV帯の変成岩の最高変成条件は870℃,720MPaを示す(Osanai et al., 1992;小山内ほか、1997).変成帯中部〜南部のIV帯の変成岩ではGrtが分解してOpxやCrdができる変成反応から,約500MPで約800℃の温度ピークが示されている(Komatsu et al., 1994).しかし,これらの変成作用の解析は,一回の熱イベントの記録として解釈されており,複数の熱イベントでできた異なる変成帯の接合帯であることを踏まえた再解釈が必要である.

     そこで本研究では,複数回の地殻形成イベントの記録を残すと考えられる日高変成帯南部の幌満地域・ニカンベツ川上流のグラニュライトと,中部の神威岳周辺地域のグラニュライトを対象とした.幌満地域には幌満かんらん岩体と断層関係で,その構造的下位にある変成岩類中にBt-Grt-Opx-Crdグラニュライトが存在する(福田ほか,2023).ニカンベツ川上流には砂泥質岩起源のBt-Grt-Opxグラニュライトが存在する(西谷,2010MS).神威岳周辺地域にはグラニュライト相相当層が3回繰り返しており,Grt-Opx-Crdグラニュライトが存在する(豊島,1981MS).これらグラニュライトとその周辺の岩石を採集し,薄片観察,ジルコンU-Pb年代測定,鉱物化学組成分析などを行った.その結果,以下のことが明らかとなった.

    ・各地域のグラニュライトに含まれる鉱物の化学組成は次の通り.

    ザクロ石の組成  幌満:Prp25~21 Alm69~77 Grs1.8〜2.9 Sps0.8~2

             神威岳:Prp22~27 Alm76〜70 Grs1.7~2.1 Sps1〜1.8

             ニカンベツ川:Prp25~28 Alm64~60 Grs3~4 Sps7〜8

    直方輝石の組成 幌満:En57~43 Fs52~56

           神威岳:En51~49 Fs48~51

           ニカンベツ川:En57~49 Fs44~51

    長石の組成  幌満:An20~22 Ab79~78

           神威岳:An14~22 Ab76~85

           ニカンベツ川:An43~46 Ab53~56

    菫青石のXMg  幌満:0.62-0.66

            神威岳:0.69-0.72

    ・アポイ岳南方の幌満地域には,37Ma頃の花崗岩に貫入された黒雲母片麻岩・片岩が広く分布するだけでなく,19Ma頃に貫入したシート状トーナル岩中の包有物としてグラニュライトが存在している.

    ・ニカンベツ川上流には19Ma頃に形成されたグラニュライトが存在する.

    ・幌満地域・神威岳のグラニュライトでは,Grtが分解し,その周りにOpxとCrdのシンプレクタイトが形成されている.この変成反応から,日高変成帯が記録する800℃程度のピーク温度と圧力低下を記録していると考えられる.

    引用文献

    福田倫太郎ほか(2023)地質学会要旨.

    菅野萌子(2021MS)新潟大学修士論文.

    菅野萌子・豊島剛志(2019),JPGU要旨.

    Kemp, A.I.S. et al. (2007) Geology , 35 , 807-810.

    小松正幸ほか (1982) 岩鉱特別号, 3 , 229-238.

    Komatsu M et al. (1994), Lithos, 33, 31-49.

    西谷真也(2010MS)新潟大学卒業論文.

    小山内康人ほか(1997),地質学論集,47,29-42.

    Osanai et al. (1992) J. Metamorphic Geol., 10, 401-414.

    志村俊昭ほか(2018)地質学会要旨.

    志村俊昭ほか (2015) 地質学会要旨.

    豊島剛志(1981MS)新潟大学卒業論文.

  • 古川 旦, 辻森 樹
    セッションID: T1-O-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    岩石の被った地球化学的・地球物理的プロセスは岩石の化学組成/組織として記録される。多くの場合、このプロセスは実験室で再現可能なタイムスケールより遥かに長く、数値解析や物理モデルによって岩石の形成環境の再現する手法が有効である。特に、岩石組成/組織の「予測・再現」を目的としたフォワードモデリングと、組成や組織形成の「支配方程式のパラメータ(特に温度・圧力条件)の推定」を目的とした逆解析は互いに相補的な関係にあり、両者一体となった岩石組織の解析によって、岩石組成/組織の成因論に説明を加えると同時に、岩石からの情報抽出が達成される。これまでの研究では、熱平衡状態と仮定できる岩石については、シュードセクション法(Powell et al., 1998)等のフォワードモデリングやGibbs法などの逆解析(例: Okamoto and Toriumi, 2001; Inui and Toriumi, 2004)が十分に検討されている一方で、岩石の界面・組成不均一性に注目した非平衡組織については十分な解析が行われている研究は限定的である。そこで、本講演ではもっとも単純な非平衡組織の例として、2相系からなる離溶組織の再現と情報抽出を題材に扱う。離溶組織は高温環境下で形成した火成岩や変成岩における多様な鉱物種において観察され、共存する2種の固溶体組成の違いから注目系の置かれた環境の温度や酸素フガシティー、さらに岩石の冷却スケールを測る地質速度計として使用される。この組織の形成メカニズムは、もともと単一相であった固溶体が冷却に伴って不安定化し複数相に分離する、所謂スピノーダル分解/核形成−成長として記述可能である。具体的には、次のカーン=ヒリアード方程式:

    ∂c/∂t = M ∇・[∇[δ/δc{RT(clog(c)+(1-c)log(1-c)) + Wc(1-c) - (K∇)^T(K∇)c}]]

    ただし、c: 濃度分布, t: 時刻, M: モビリティ, R: 気体定数, T: 温度, W: 混合エンタルピー, K:界面異方性定数を基礎方程式において、特定のT,W,Kにおける微分方程式の解を求めるフォワードモデリングと、逆に微分方程式の解や実際の鉱物・岩石組織からT,W,Kのパラメータを推定する逆問題について言及する。前者の問題と岩石学への応用は、たとえばPetrishcheva and Abart (2012)、Furukawa and Tsujimori (in revision)等で議論されているが、後者の逆問題は岩石学において新しい取り組みである。しかし、材料科学や医学においては、たとえば合金の時効析出の研究や病巣成長の時間発展を調査する際にカーン=ヒリアード方程式の逆問題が考察されてきた(例: Kahle et al., 2019; Zhao et al., 2020)。本研究ではこれらの先行研究を紹介するとともに、岩石学においての応用可能性を議論する。

    参考文献

    [1] Okamoto, A., & Toriumi, M., 2001. Contrib. Mineral. Petrol. 141, 268–286.

    [2] Furukawa, T., & Tsujimori, T., in revision. Contrib. Mineral. Petrol.

    [3] Inui, M., & Toriumi, M., 2004. J. Petrol. 45(7), 1369–1392.

    [4] Kahle, C., Lam, K. F., Latz, J., & Ullmann, E., 2019. SIAM/ASA J. Uncertain. Quantif. 7(2), 526–552.

    [5] Petrishcheva, E., & Abart, R., 2012. Acta materialia, 60(15), 5481–5493.

    [6] Powell, R., Holland, T. J. B. H., & Worley, B., 1998. J. metamorph. Geol. 16(4), 577–588.

    [7] Zhao, H., Storey, B. D., Braatz, R. D., & Bazant, M. Z., 2020. Phys. Rev. Lett., 124(6), 060201.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    原田 浩伸, 松野 哲士, 宇野 正起, 岡本 敦, 大坂 恵一, 辻森 樹, 板谷 徹丸
    セッションID: T1-O-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    変成帯を指標鉱物の出現・消滅や化学組成の変化に基づいて鉱物帯に分ける変成分帯は、変成作用の空間的な広がりや変化を記載する手法としてBarrow (1893)以降、様々な広域・接触変成地域で行われてきた(例、Arai, 1975; Banno, 1958; Ernst, 1965; Moore & Kerrick, 1976)。鉱物帯の境界であるアイソグラッドが認定され、それに対応する変成反応が定義されることで温度・圧力情報が地理空間情報に追加される。アイソグラッド認定に必要とされる鉱物の同定には光学・電子顕微鏡での観察が広く用いられてきたが、粉末X線回折(XRD)測定とリートベルト解析からも鉱物相の同定及び鉱物量比の取得が可能である。1990年代には火成岩・変成岩についてXRD測定とリートベルト解析による鉱物量比決定の妥当性が示され、岩石学的研究への応用が提案された(Hill et al., 1993)。しかし通常の実験室のXRDを用いる場合、鉱物量比を求めるのに十分なデータを得るためには長時間の測定が必要であり、精密な解析の困難さも相まって岩石学的研究における応用はほとんどなされてこなかった。そこで我々はXRD測定とリートベルト解析による鉱物相同定の岩石学的研究への応用を目指して、短時間での測定が可能な高輝度、高分解能、高エネルギーの放射光X線を用いた粉末XRD測定を計186個の火成岩・変成岩試料について行った。本講演では、四国中央部三波川帯汗見川地域に産する結晶片岩類に対する放射光XRD測定による鉱物相同定の結果を紹介し、その有用性について展望を論じたい。

    四国中央部三波川帯の汗見川ルートは変成温度幅が大きく、低変成度から高変成度までの岩石が連続的に露出することから模式的ルートとして数多くの研究が行われてきており、既存の鉱物組成共生関係や温度構造の議論との対比が可能なテストフィールドとして最適である。本研究では汗見川地域で採取された泥質片岩78試料、苦鉄質片岩108試料について粉末XRD測定を大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2で行った。泥質片岩、苦鉄質片岩共に大半の主要構成鉱物についてピークの存在を確認することができた。四国中央部三波川帯は泥質片岩の鉱物組み合わせに基づき、緑泥石帯、ざくろ石帯、曹長石-黒雲母帯、灰曹長石-黒雲母帯に変成分帯される(榎並, 1982; 東野, 1975; Higashino, 1990)。ざくろ石はその化学組成によりピーク位置が大きく変化するため詳細なリートベルト解析を行わない限りその出現を評価するとことはできないが、黒雲母については高変成度試料での出現が確認された。白雲母のピーク位置については変成度の変化に伴ったシフトが見出され、三波川帯のフェンジャイト質白雲母の化学組成が高変成度試料ほどSiに乏しくなる傾向を示すこと(Higashino et al., 1982; Radvanec et al., 1994)との関連が示唆される。また、緑泥石帯の泥質片岩2試料からはローソン石のピークが確認された。このように放射光XRD測定による鉱物相同定は岩石・鉱物組織の情報は持たないため既存の観察との併用が望ましいが、主要構成鉱物については検出でき、岩石学的研究における一つのツールとなる可能性がある。

    引用文献

    Arai, 1975. Contributions to Mineralogy and Petrology, 52, 1–16.

    Banno, 1958. Japanese Journal of Geology and Geography, 29, 29–44.

    Barrow, 1893. Quarterly Journal of the Geological Society, 49, 330–358.

    榎並, 1982. 地質学雑誌, 88, 887–900.

    Ernst, 1965. Geological Society of America Bulletin, 76, 879–914.

    東野, 1975. 地質学雑誌, 81, 653–670.

    Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423.

    Higashino et al., 1982. The Science Report of Kanazawa University, 26, 73–123.

    Hill et al., 1993. Journal of Petrology, 34, 867–900.

    Moore & Kerrick, 1976. American Journal of Science, 276, 502–524.

    Radvanec et al., 1994. Mineralogy and Petrology, 51, 37–48.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    松野 哲士, 原田 浩伸, 大坂 恵一, 宇野 正起, 岡本 敦
    セッションID: T1-O-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    粉末X線回折(PXRD)は、岩石中の構成鉱物・鉱物量比の情報を内包することから、広く地質学分野で用いられてきた一方、実験室系の分析装置では、感度・分解能の限界から、鉱物同定のみに用いられることが一般的である。その中で、放射光粉末X線回折(SR-PXRD)では、実験室PXRDでは検出できない微少なピークシフト・形状の変化を検出できるだけでなく、自動試料交換による効率化によって、1試料あたり3分の短時間測定で高分解能の測定を可能とし(Osaka et al. 2010, 2019)、大量の天然岩石試料について鉱物の情報を高密度にデータ化することが可能となっている(Nakai et al. 2014)。しかし、現状では解釈に必要なデータの処理には多くの労力が必要であり、大量の試料から得られるPXRDの情報は、依然として高密度な情報を活かしきれていない(原田ほか, 2024, 地質学会)。

     本研究では、教師なし機械学習によるSR-PXRDの解析を提案し、従来の定性分析では見出すことが困難であった隠れた反応パターンを効率的に抽出し、大量の試料かつ高密度な情報を活かした解析を実現することを目指す。試料として、四国中央部三波川帯の汗見川ルートの緑泥石帯(約300℃)から曹長石-黒雲母帯(約550℃)で採取された計186試料の泥質片岩、苦鉄質片岩を用いた。SR-PXRDは大型放射光施設(SPring-8)のビームラインBL19B2で行い、測定波長は0.69992Åで行った。

     教師なし学習としては、主成分分析(PCA in scikit-learn; Buitinck et al. 2013)とUniform Manifold Approximation and Projection(UMAP; McInnes et al. 2018)を用いた。主成分分析は、データの分散を最大化する直線軸をとることで次元圧縮を行う手法である。多様体学習の一種であるUMAPは、多次元データを2次元上に圧縮し、データ間の距離として類似度を可視化する手法である。SR-PXRDデータは、回折角2-30度の範囲を使用し、前処理としてバックグラウンドを除去・正規化によるスケール変換を行ったのちに、教師なし機械学習を適用した。

     UMAPによる2次元上への可視化では、泥質片岩、苦鉄質片岩の両岩相で各変成分帯の試料ごとにクラスターを形成した。苦鉄質片岩の試料群は、高変成度の灰曹長石-黒雲母帯の独立したクラスターが特徴的である一方、低変成度の緑泥石帯とざくろ石帯の一部試料は、混合したクラスターを形成し、変成度が異なるにも関わらず一部試料で類似していることを示す。泥質片岩の試料群は、大局的には1つのクラスターを形成しているが、同じ変成分帯に属する試料は近傍に分布した。

      UMAPによる2次元上の分布を考察するため、PCAによる解釈を実施した。苦鉄質片岩の各主成分ベクトルの中でも、4.75度には低温角閃石, 4.85度には高温角閃石のピークが見られる角閃石に注目する。第2主成分が第1主成分と比較して高角側に主成分ベクトルを持ち、また第3主成分は、4.75度で正、4.85度で負の主成分ベクトルを持つ。つまり、第2主成分は高変成度を示す軸、第3主成分は後退変成作用に伴う高温角閃石から低温角閃石の形成を示す軸であると考察される。他の鉱物ピークと比較すると、第3主成分における低温角閃石は、後退変成作用時に形成される、緑泥石と同じ方向の主成分ベクトルを持つ。以上の主成分得点を地図上に投影すると、試料採取地点間で連続的に変化する主成分得点が得られることから、広域変成帯内での後退変成作用を伴う流体流量の変化が示唆される。また、UMAPの2次元分布に主成分得点を投影すると、第3主成分が各変成度の独立したクラスターへと連続的に変化した。つまり、UMAPによる2次元上の分布は、累進変成作用・後退変成作用の進行度による特徴を示していると考えられる。

     泥質片岩の各主成分ベクトルで特徴的なのは、12.0-12.05度に見られる石英のピークの変化である。第1主成分は、12.005度に正、12.02度では負の主成分ベクトルを示し、特にざくろ石帯より低変成度ほど正の主成分得点が得られる。また、より石英の高角・低角に大きく正負の主成分ベクトルを持つ第3・4主成分は、主成分得点からざくろ石帯、曹長石-黒雲母帯を特徴付けることがわかった。石英のピーク位置は、定性的にも高変成度ほど高角側へとシフトしていることから、ピークシフトの要因となる地質学的イベントの影響が考えられ、UMAPによる2次元上の分布は主に変成度を反映していると考えられる。

     このように大量の試料から得られる高解像度のSR-PXRDは、教師なし機械学習を活用することで、鉱物間の反応パターン・空間分布を効率的に抽出することが可能である。

    Osaka, K., Takuya Matsumoto, K. Miura, Masugu Sato, I. Hirosawa, and Y. Watanabe. 2010. “The Advanced Automation for Powder Diffraction toward Industrial Application.” AIP Conference Proceedings 1234 (July): 9–12.

    Osaka, Keiichi, Yutaka Yokozawa, Yasufumi Torizuka, Yoshito Yamada, Masahiro Manota, Noboru Harada, Yoshinori Chou, Hiroyuki Sasaki, Anna Bergamaschi, and Masugu Sato. 2019. “Versatile High-Throughput Diffractometer for Industrial Use at BL19B2 in SPring-8.” AIP Conference Proceedings 2054 (1). https://doi.org/10.1063/1.5084626.

    Nakai, Izumi, Shunsuke Furuya, Willy Bong, Yoshinari Abe, Keiichi Osaka, Takuya Matsumoto, Masayoshi Itou, Atsuyuki Ohta, and Toshio Ninomiya. 2014. “Quantitative Analysis of Heavy Elements and Semi‐quantitative Evaluation of Heavy Mineral Compositions of Sediments in Japan for Construction of a Forensic Soil Database Using Synchrotron Radiation X‐ray Analyses.” X-Ray Spectrometry: XRS 43 (1): 38–48.

    原田 浩伸、松野 哲士、宇野 正起、岡本 敦、大坂 恵一、辻森 樹、板谷 徹丸, 放射光粉末X線回折測定の岩石学的研究への導入:四国中央部三波川帯での検証, 2024, 地質学会

    McInnes, Leland, John Healy, and James Melville. 2018. “UMAP: Uniform Manifold Approximation and Projection for Dimension Reduction.” arXiv [stat.ML]. arXiv. http://arxiv.org/abs/1802.03426.

    Buitinck, Lars, Gilles Louppe, Mathieu Blondel, Fabian Pedregosa, Andreas Mueller, Olivier Grisel, Vlad Niculae, et al. 2013. “API Design for Machine Learning Software: Experiences from the Scikit-Learn Project.” arXiv, 1–15.

  • 田口 知樹, 田邉 正騎, 長谷 拓磨
    セッションID: T1-O-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    近年、四国三波川帯ではエクロジャイトユニットの拡がりとその一連の変成作用が明確になりつつある(Endo et al., 2024 Elements)。しかし、四国地域外のエクロジャイトユニットの空間分布は未だ不透明であり、プレート収束境界の変成進化をより理解するためには詳細な岩石学的研究が不可欠である。これまでに紀伊半島北西部三波川帯を対象とした岩石学的研究は存在するが、四国地域と比べ露頭状況が悪く、変成履歴が不明な部分も多い。先行研究は紀伊半島北西部に位置する船岡山岩体のザクロ石角閃岩に着目し、この岩石がエクロジャイト相変成作用(P/T = 約1.3 GPa/590°C)を経験していると指摘した(Endo et al., 2013 JMPS)。ただし、隣接する泥質片岩からアラゴナイト(CaCO3高圧多形)の存在が認められる一方で、ザクロ石角閃岩中に高圧指標鉱物は見出されていなかった。本研究では、船岡山岩体から新規に発見されたアラゴナイトを含む苦鉄質片岩について、その岩石記載と共にラマン地質温度圧力計による変成条件の推定を試みた。

     紀伊半島の三波川帯飯盛地域は、ザクロ石帯以上の変成岩類が分布する飯盛ユニット、そしてより低変成度を示す鞆渕ユニットに区分される(王・前川, 1997 岩鉱)。飯盛ユニット北縁部に位置する船岡山岩体は泥質片岩と苦鉄質片岩を主体とし、紀の川内の小島(船岡山)および対岸部に小規模に露出する。船岡山南岸の苦鉄質片岩層には粗粒ザクロ石(最大5 mm)を含むザクロ石角閃岩が存在し、その熱力学的解析に基づき四国地域よりも高温のプログレード変成経路を辿ったことが示唆されている。

     研究試料は船岡山南岸の苦鉄質片岩層から採取し、この露頭は上記のザクロ石角閃岩に近接する。苦鉄質片岩の基質は主に角閃石+曹長石+ザクロ石+石英+白雲母+緑簾石からなり、副成分として方解石+チタン石+ルチル+ジルコン+燐灰石を含む。ザクロ石の多くは自形から半自形の斑状変晶をなし、その粒径は最大700 µmに達する。ザクロ石はSps(Mn)成分が結晶中心から縁部に向かい単調減少する昇温累帯構造を示し、最外縁部でのみSps成分が増加する。ザクロ石最外縁部におけるSps成分の増加は、ピーク変成後の後退変成作用の影響が示唆される。ザクロ石中の包有物はアラゴナイト(<10 µm)に加え、石英+チタン石+クリノゾイサイト+ルチル+パラゴナイト+ジルコン+燐灰石である。オンファス輝石は基質と包有物問わず認められない。基質およびザクロ石中には石英+ルチル+ジルコンの鉱物共生が認められる。しかし、ザクロ石中のルチル包有物は微小であり、Zr-in-Rutile温度計を適用できなかった。そのため、基質のルチルを対象にZr-in-Rutile温度計(e.g. Tomkins et al., 2007 JMG)を適用した結果、約550°C(T = 1.5 GPa)と推定された。次に、ザクロ石中の石英包有物およびジルコン包有物のラマン分光分析を行い、各包有物の残留圧力値を求めた。石英包有物はザクロ石全体に分布し、Kouketsu et al. (2014 AM)及びReynard and Zhong (2023 SE)の較正に基づくと最大で約0.4 GPaの残留圧力を保持していた。また、stRAinMAN(Angel et al., 2019 ZKCM)およびEntraPT(Mazzucchelli et al. 2021 AM)ソフトウェアを用いて、ジルコン包有物の最大残留圧力値を算出したところ約0.4 GPaであった。ザクロ石−石英系及びザクロ石−ジルコン系の等残留圧力線に基づき、本試料のピーク変成条件はP/T = 約1.3–1.5 GPa/580–600°Cと見積もられた。

     含アラゴナイト苦鉄質片岩の変成条件は、先行研究のザクロ石角閃岩とほぼ等しい。これは粗粒なザクロ石角閃岩と周囲の苦鉄質片岩が同様の変成履歴を有している可能性を示唆する。しかし、今回得られた石英残留圧力値は四国三波川帯のエクロジャイト質片岩(e.g. Taguchi et al., 2019 JMG)と比べ低く、その変成条件はエクロジャイトユニットの圧力下限値に相当する。船岡山岩体は、三波川帯の中でも比較的低圧条件を示すエクロジャイト相変成岩の産出で特徴づけられる可能性がある。

  • 箕輪 桃子, 永冶 方敬, 伊藤 泰輔, ウォリス サイモン
    セッションID: T1-O-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地殻の主要な構成鉱物の一種である石英は, 高圧下でコーサイトに相転移する. 沈み込み帯において, 石英の高圧相鉱物であるコーサイト自身やコーサイトへの高圧相転移を経験した痕跡(特徴的な形状を伴った石英多結晶体の微細組織等)の存在は, 深さ約80 km以上で (超)高圧変成作用を被った指標となる(Chopin, 2003) ため, 天然試料の沈み込みと上昇の履歴を調べる上で重要な手掛かりになる(Stern, 2005).

    一方, 地表の採取岩石はたとえコーサイトの形成条件までの沈み込みを経験したとしても, 多くの場合で上昇・減圧過程で低圧相の石英に戻るため, 包有物として残存する場合など特定の条件を除き, 保存された状態のコーサイトの観察されることは稀であり, その発見は容易ではない. そのため, コーサイトへの相転移を経験した痕跡を見つけられるかが変成条件を制約する上で特に重要な鍵となるが, 石英多結晶体がコーサイトからの相転移を経験したかの判断は, 主に微細組織観察に基づいて行われることが一般的であり, 観察者の経験に依存した定性的な判断要素を含む(Bidgood et al., 2020). これらの理由から, 試料中からコーサイト自体やその痕跡を見つけるには熟練の目を必要とする「宝探し」のような側面があると言える.

    現在までに国内から痕跡を含めコーサイトの報告例はない. しかし近年, 石英多結晶体への後方散乱電子回折 (Electron Back Scatter Diffraction, EBSD)によるマッピング結果から, コーサイトの痕跡の有無判別に有効な解析手法が発表された(Bidgood et al., 2020). これによって, これまでの定性的な判別手法から, コーサイトへの相転移を経験した石英について結晶学的特徴に基づく定量的な定義が与えられ, 定量的判別も可能となった. これは, これまでコーサイトやその痕跡の未報告地域にもEBSDを用いた再検証が可能になったことを意味する. 本研究では, 明確なコーサイトやその痕跡が発見されていないものの, これまでの研究から高圧条件下を経験したことが期待される四国三波川変成帯権現地域(e.g., Aoya et al., 2017) の石英エクロジャイト中の石英多結晶体にこの手法を適用し, 権現地域の岩体がコーサイト形成領域にまで沈み込んだ可能性を検証した.

    薄片10枚の顕微鏡観察に基づき, 分析箇所はザクロ石の包有物となっている石英多結晶体4箇所と, 石基中の石英多結晶体1箇所の計5箇所に絞り込んだ. 次に, 東京大学のSEM-EBSDを使用し, これら5箇所の鉱物相と結晶方位のマップデータを取得した. これを基に石英多結晶体の結晶方位関係について, 粒子内と粒子間の結晶方位差解析を行った.

    Bidgood et al. (2020) による手法に基づきコーサイトの痕跡を判別した結果, 全5点の分析箇所のうちザクロ石の包有物中の石英多結晶体領域1箇所において, コーサイトへの相転移を経験したことを示す石英粒子間の結晶方位関係を得た.

    本研究による権現地域からのコーサイト相転移の痕跡の発見は, 権現地域の岩体がコーサイト形成条件まで沈み込んだ可能性を示唆する. これは, (1)これまでのコーサイト石英相転移平衡曲線の推定と, (2)権現地域の温度圧力履歴の推定について, 一方あるいは双方の見直しの必要性を意味する. 前者はこれまでに全世界的に研究されてきた (超)高圧変成帯の沈み込み履歴に関連し, 沈み込み帯における岩石の上昇限界の見直しに繋がり, 後者は, 権現地域が日本における最初の超高圧変成帯の発見の可能性に繋がることから, 今後のより慎重な研究が期待される.

    [引用文献] Chopin. (2003), Earth Planet. Sci., Lett., 212, 1-14; Stern. (2005), Bull. Geol. Soc. Amer., 33, 557-560; Bidgood et al. (2020), Jour. Metamorphic Geol., 00, 1-6; Aoya et al. (2017), Jour. Geol. Soc. Japan., 123, 491-514.

  • 宮崎 一博, 林 里沙, 池田 剛, 中村 佳博, 長田 充弘
    セッションID: T1-O-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    柳井領家コンプレックス泥質ミグマタイトから複数の成長休止期間を挟み成長した痕跡を示すざくろ石を見いだしたので報告する.また,このざくろ石とパルス的変成作用の進行との関係についても議論する. 

    試料は,Ikeda (1998)のざくろ石菫青石帯に属し,Miyazaki et al (2023)によるジルコンU-Pb年代測定でジルコンのパルス成長が示唆された露頭から採取した泥質ミグマタイトである.Ikeda et al (submitted)では,ピーク変成温度約850℃,変成圧力約6.5 kbarと推定され,柳井領家の中では最も高温高圧の変成条件を示す.この試料から,研磨薄片,ざくろ石単離結晶試料を作成し,鏡下観察,EPMA分析を行った. 試料は,暗色の片麻岩的外見を呈するメソゾームと,白色粗粒の花崗岩的外見を呈するリューコゾームからなる.量的にはメソゾームの部分が多い.メソゾームは,黒雲母,ざくろ石,菫青石などの有色鉱物に富む層と,石英及び斜長石に富む層の繰り返しからなる片麻状構造が顕著で,片麻状構造に平行に黒雲母の形態定向配列が認められる.リューコゾームは,粗粒なカリ長石,斜長石,石英からなる.リューコゾームとメソゾームの境界は,片麻状構造と平行か,やや斜交する.また,高角度で斜交するリューコゾームも希に認められる.リューコゾームがメソゾームと接する部分では粗粒な菫青石やざくろ石が生じている.ざくろ石及び菫青石の包有物としてのみ針状の珪線石(フィブロライト)が認められる.鉱物共生関係から,ざくろ石生成反応の一部は,珪線石 + 黒雲母 + 石英 = ざくろ石 + 菫青石 + カリ長石 + メルト (反応1)によると考えられる. 

    薄片中のざくろ石及び3次元形態中心を通る単離ざくろ石の累帯構造をEPMA分析により調べた.すべてのざくろ石で,リムでMnが増加し,Mgが減少する累帯構造が認められた.一方,リン(P)の累帯構造には,P濃度が低く微細な包有物が多く含まれるコア(コアの最外縁部にはP濃度が著しく高い薄い層が伴う場合がある),P濃度がリズミックに変動する振動累帯構造が発達し,殆ど包有物を含まないマントル,P濃度のパッチ状の濃度不均一が存在し,丸みを帯びた石英,フィブロライトの比較的粗粒な包有物を時折含むリムの3つのドメインが識別される.コアの形態は多少丸みを帯びており,P濃度の違いによる組成組織がマントルとの境界で斜交する不整合が認められる.同様な不整合は,マントルとリムの境界でも認められた. 

    今回観察されたP濃度がつくる組成組織の不整合は,ざくろ石成長の休止もしくは休止と溶解を表していると解釈した.このことは不整合形成時に過飽和度(Δξ)がΔξ≦0となっていたことを意味する.逆にざくろ石が成長するためには,過飽和度Δξ >0となる必要がある.反応1を想定すると,熱が供給されることで温度が上昇し,左辺の組合せの自由エネルギーが右辺の組合せの自由エネルギーに比べ高くなることにより,Δξ >0が実現する.従って,コア,マントル,リムの形成には,Δξの鋸歯状の変化が必要である.マグマの貫入による加熱は,Δξを増大させる.Δξの鋸歯状の変化は,マグマ貫入のパルスに対応している可能性がある.即ち,旧来考えられていたような単一の昇温-冷却というサイクルとは異なるパルス的なマグマの貫入に伴う昇温とこれに呼応した変成作用の進行が領家変成作用の本質である可能性がある.

    引用文献:Ikeda (1998) Journal of Metamorphic Geology, 16, 39-52; Miyazaki et al. (2023) Journal of Metamorphic Geology, 41, 639-664.

  • 鳥海 光弘
    セッションID: T1-O-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    There are abundant shear crack jogs sealed with albite, chlorite, epidote, and quartz in the low-grade basic schists, manifesting jog formation during metamorphism. These shear crack jogs have decompression concaves, that are classified into two types: one is sharp outline type and the other diffusive one. The former displays sharp boundary between albite and quartz sealing jog and chlorite dominant matrix, but the latter does the gradual change of volume ratio of the very fine-grained albite and chlorite from the matrix to the jog interior. It is important that the boundary shape is fitted by sinusoidal curve of the cross-sectional boundary shape, but not concatenated one, thereby suggesting the decompression mechanism of the dent formation. The periodic structure of the concave structure is possibly interpreted by the depression mechanics of the low fluid pressure of jog volume at the time of shear crack motion (growth and propagation). In this talk, the author proposes the kinetics of the decompression dent formation during the plate boundary metamorphism.

  • 森 宏, 土肥 陽菜, 山岡 健, 小澤 和浩, 常盤 哲也
    セッションID: T1-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    炭質物は被熱温度の上昇に伴い結晶化(石墨化)が進行し,非晶質な状態から結晶質な石墨へと変化する.また,この石墨化に伴い,炭質物のラマンスペクトルも系統的に変化する.そして,この相関関係を利用して,変成ピーク温度(最高到達温度)を推定可能な炭質物ラマン温度計が開発されてきた(例えば,Beyssac et al., 2002;Aoya et al., 2010;Kouketsu et al., 2014;Kaneki and Kouketsu, 2022).同温度計は,幅広い温度領域(約150~650 ℃)をカバーすること,炭質物を含む多様な岩石に適応可能であること,さらには,広域変成岩だけでなく数十万年以上の被熱時間を経験した場合には接触変成岩においても適用可能であること等の利点から,新たな定量評価手法として確立されつつある.

     一方,岩石試料中の炭質物の石墨化度には不均質性が存在しており,炭質物ラマン温度計による温度推定の際には,この考慮が必要となる.Aoya et al. (2010)は,石墨化度指標であるR2面積比のばらつきに関して,データ数が25点程度を超えると大幅に減少する(この測定数以降,積算平均の変化が温度換算値で5 ℃以内に収まる)ことを示した.そして,後に続く多くの研究が,このデータ数をしきい値(正確な温度条件を見積もるために最低限必要な測定点数)としてデータ取得を行い,その平均値を変成ピーク時の温度条件として扱っている.ただし,上記しきい値は,変成ピーク温度として約400 ℃の1試料の解析結果のみに基づくものであり,他の温度領域や広域変成岩にこのしきい値が適応可能か否かの検討が不十分と言える.そこで本研究では,接触変成岩および広域変成岩のそれぞれで,約350 ℃,約400 ℃,約450 ℃,および約500 ℃の変成温度条件を経験した計8試料を用いて,各試料につき上記しきい値の10倍以上のデータを取得し,試料内での不均質性特性を明らかにすることを目的とした.

     各試料のデータ分布の特徴としては,350 ℃と400 ℃の接触変成岩ではバイモーダルもしくはやや非対称な分布が認められるのに対し,450 ℃以上ではユニモーダルな分布が卓越し,大局的には,高温条件になる程,データ分布の対称性は良くなる.一方,高温条件ほど頻度分布の山はなだらかであるとともに,標準偏差も系統的に増加しており,データのばらつきは温度とともに大きくなる傾向を示す.また,温度条件ごとに広域変成岩と接触変成岩を比較すると,400 ℃付近を除き,接触変成岩の方が標準偏差は大きく,大局的には,接触変成岩ほどばらつきは大きい傾向を示す.また,Aoya et al. (2010)の測定数しきい値(25点)以降の温度変化幅(5 ℃以内)を基準として,測定数に応じた温度変化幅についても検討した.なお,この検討には,試料ごとに各測定数における積算平均値を全測定数の平均値で引いて規格化した積算平均温度の変化を用いるとともに,測定順序の影響評価のために,モンテカルロ法を用いて測定データのランダム抽出・再配列を1000パターンで試行した.大局的な傾向としては,低温領域ほど変化幅の収束が早い.また,温度条件ごとの比較では,400 ℃付近を除き,広域変成岩の方が接触変成岩よりも収束がやや早い傾向を示す.5 ℃以内の収束に必要な測定数としては,500 ℃付近では約30〜40点である一方,450 ℃以下の温度領域の試料では,いずれも25点以内である.また,350 ℃付近の温度領域に関しては,測定数が10点程度で5 ℃以内に収まる.これらは,Aoya et al. (2010)により提案された測定しきい値が概ね妥当であることを示す一方で,より厳密には,温度領域ごとに収束に必要な測定数しきい値が変化することを示唆する.

    【引用文献】Beyssac et al., 2002, Journal of Metamorphic Geology, 20, 859–871; Aoya et al., 2010, Journal of Metamorphic Geology, 28, 895–914; Kouketsu et al., 2014, Island Arc, 23, 33–50; Kaneki and Kouketsu, 2022, Island Arc, 31, e12467.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    原田 浩伸, 辻森 樹, 板谷 徹丸
    セッションID: T1-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    泥質変成岩に広く含まれる炭質物は、沈み込み帯において有機物由来の炭素を地球表層から地球内部へと輸送する役割を担っている。我々は沈み込みの過程における有機炭素の挙動の解明を目指して、四国中央部三波川帯の泥質片岩に含まれている炭質物約200試料について炭素同位体組成(δ13C)の測定と同一試料を用いた顕微ラマン分光分析による変成温度推定を行い、変成温度の変化に対する同位体組成の変化傾向の把握を進めている。炭質物のδ13C値は高変成度試料ほど高い値を示す傾向を示し、メタンとしての炭素の放出が示唆される(原田ほか, 2024a JpGU, 2024b 鉱物科学会)。これに加えて、一般に炭質物の顕微ラマン分光分析によるピーク変成温度の推定(炭質物ラマン温度計)からは変成帯における温度構造の把握が可能であり、Beyssac et al. (2002) による高圧変成岩への応用以降、広域・接触変成地域における温度構造の解明や変成履歴の復元が行われてきた。本講演では炭質物ラマン温度計による変成温度の地域的な変化傾向について紹介する。

    四国中央部三波川帯ではHigashino (1990) をはじめとした詳細な変成分帯に基づいて温度構造の議論が行われてきた。最近、Kouketsu et al. (2021) は汗見川地域の泥質片岩についての炭質物ラマン温度計を用いた変成温度推定から詳細な温度構造を示し、緑泥石帯のざくろ石帯との境界付近においておよそ380°Cと440°C の間に顕著な温度不連続の存在を見出した。本研究では、Itaya (1981) においてXRD測定と化学組成の分析が行われた炭質物(泥質片岩から分離されたもの)とItaya & Takasugi (1988) でK–Ar年代測定が行われた泥質片岩の一部について顕微ラマン分光分析を行った。四国中央部三波川帯7ルートの試料について炭質物ラマン温度計により推定した温度の傾向はItaya (1981) で示された炭質物の結晶化度と整合的であった。緑泥石帯は大部分がおよそ300–350°Cの範囲内であったが、ざくろ石帯との境界付近において急激に変成温度が上昇し、Kouketsu et al. (2021) で報告された温度構造の不連続は四国中央部三波川帯の広範囲で確認された。汗見川–猿田ルート北部及び中の川ルートにおける大歩危ユニットとの境界付近では変成温度の急激な変化はみられず、大歩危ユニット内も他地域の緑泥石帯と同程度の温度であった。また、五良津岩体南部に位置する中七番ユニット(= 大歩危ユニット: 青矢・横山, 2009)についても同様で300–350°C程度の変成温度であった。南部の思地-長沢地域において、秩父北帯相当の付加体構成岩石を原岩にもつ思地ユニット(青矢・横山, 2009; 脇田ほか, 2007)及び三波川南縁帯(小島ほか, 1956)に相当する川又ユニットでは250–300°Cと白滝・大歩危ユニットに比べて低い変成温度を示すものが見られた。このように四国中央部三波川帯において広範囲での変成温度情報が得られつつあり、これらを踏まえて四国中央部三波川帯の泥質片岩に記録された広域的な温度構造について議論したい。

    引用文献

    青矢・横山, 2009. 日比原地域の地質. 産総研地質調査総合センター.

    Beyssac et al., 2002. Journal of metamorphic Geology, 20, 859–871. https://doi.org/10.1046/j.1525-1314.2002.00408.x

    Higashino, 1990. Journal of Metamorphic Geology, 8, 413–423. https://doi.org/10.1111/j.1525-1314.1990.tb00628.x

    Itaya, 1981. Lithos, 14, 215–224. https://doi.org/10.1016/0024-4937(81)90043-8

    Itaya & Takasugi, 1988. Contributions to Mineralogy and Petrology, 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739

    小島ほか, 1956. 地質学雑誌, 62, 317–326. https://doi.org/10.5575/geosoc.62.317

    Kouketsu et al., 2021. Journal of Metamorphic Geology, 39, 727–749. https://doi.org/10.1111/jmg.12584

    脇田ほか, 2007. 伊野地域の地質. 産総研地質調査総合センター.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    溝口 大世, 田口 知樹
    セッションID: T1-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    三波川帯は緑簾石-角閃岩相相当の変成作用(主変成)を一般に経験しているが、四国の一部地域では主変成に先立つエクロジャイト相変成の記録が残存している(Taguchi et al, 2019 JMG; Endo et al., 2024 Elements)。四国中央部におけるエクロジャイトユニットの分布域は制約されつつあるが、三波川他地域におけるエクロジャイト相変成領域の拡がりは未だ不透明である。紀伊半島北西部の三波川帯では主変成を経験した片岩類が広く分布するが、和歌山県かつらぎ町の一部地域に限り、周囲の岩相と比べ高変成度な船岡山岩体が露出する。船岡山岩体がエクロジャイト相条件の変成履歴を記録することは明らかになっている一方で(Endo et al., 2013 JMPS)、紀伊半島他地域でエクロジャイトユニットの痕跡は見出されていない。本研究では、船岡山岩体の西方約13 kmに位置する和歌山県岩出市船戸地域の泥質片岩を対象にラマン分光学的研究を実施した結果、高残留圧力値を示す石英包有物を普遍的に確認したため詳細を報告する。

     船戸地域では曹長石-黒雲母帯相当の泥質片岩が露出しており、基質では石英+曹長石+ザクロ石+白雲母+緑泥石+炭質物±黒雲母±電気石±チタン石±ジルコン±方解石±燐灰石の鉱物組み合わせが認められる。ザクロ石の多くは斑状変晶をなし、半自形から他形結晶として観察できる。変成温度推定を目的に炭質物ラマン温度計(Aoya et al., 2010 JMG)を本試料に適用した結果、513 ± 24°Cのピーク変成温度が見積もられた。この温度値は、四国三波川帯における曹長石-黒雲母帯の変成温度と矛盾しない。今回、ザクロ石成長時に取り込まれた石英包有物60粒子に対し、ザクロ石−石英系のラマン地質圧力計を適用した。これはザクロ石に包有された石英粒子をラマン分光分析することで、そのピーク位置変化から残留圧力を算出し、変成岩が経験した変成圧力を推定することができる手法である。石英包有物の残留圧力を評価する上で、Δω1(Enami et al., 2007 AM)とP206(Reynard and Zhong, 2023 SE)で表される変数が用いられる。本試料ではΔω1 = 約10.8 cm-1とP206 = 約0.68 GPaの最大残留圧力値が得られ、これを変成圧力に換算するとP = 約1.6–1.8 GPa(T = 450–550°Cと仮定)になる。

     石英包有物がΔω1 >8.5 cm-1である場合、エクロジャイト相条件に達した指標になることが経験的に知られている(Enami et al., 2007 AM)。今回、ザクロ石内の石英包有物60粒子中19粒子がΔω1 >8.5 cm-1を示した。本研究で得られた石英の残留圧力値は、四国中央部三波川帯のエクロジャイトユニットで報告されている値とよく一致する(e.g. Taguchi et al., 2019; Endo et al., 2024)。泥質片岩試料中に高圧指標鉱物は現状確認できていないものの、船戸地域もエクロジャイト相変成条件に達していた可能性は考えられる。また、紀伊半島北西部三波川帯において、船岡山岩体のみがエクロジャイト相変成作用を経験した異質岩体でないことも示唆される。今後、船戸地域のザクロ石を対象に高圧指標鉱物の探索や組成累帯構造との関係性を検証することで、より詳細な変成履歴を復元できると期待される。

  • 瀬川 知希, 田口 知樹
    セッションID: T1-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ヒスイ輝石岩や関連する交代岩は蛇紋岩メランジュ中によく産出し、その詳細な特徴付けはプレート収束境界で起こる岩石−流体相互作用の実態解明に繋がる。関東山地寄居地域では、ヒスイ輝石と石英が共存するヒスイ輝石岩(ヒスイ輝石−石英岩)が認められる(Hirajima, 1983 岩石鉱物鉱床学会誌)。ヒスイ輝石−石英岩を対象とした地質年代学的研究も実施されているが(Yui and Fukuyama, 2015 JAES)、その岩体周囲に蛇紋岩以外のメランジュ構成岩類の産出や反応帯の存在は報告されていない。そのため、当地域のヒスイ輝石岩とメランジュ構成岩類との関係性については不明な点が多い。今回、寄居地域のヒスイ輝石−石英岩周縁部で反応帯(曹長岩化帯および藍閃石岩)を新規に発見した。本研究では、特にヒスイ輝石−オンファス輝石の共生を含む反応帯の岩石学的特徴と形成過程について考察する。 

     研究対象の反応帯はヒスイ輝石−石英岩岩体の南西斜面下部にて確認され、その近傍には蛇紋岩も分布する。この反応帯はヒスイ輝石−石英岩境界から順に、曹長岩化帯、片状藍閃石岩、塊状藍閃石岩に推移しており、交代作用を被った産状を示す。ヒスイ輝石−石英岩との接触境界直近に位置する曹長岩化帯について、その基質は曹長石+ヒスイ輝石+オンファス輝石からなる。石英は基質に認められないが、ヒスイ輝石中にのみ石英包有物が残存している。輝石の産状は、純粋なヒスイ輝石(Jd91–97Aeg0–5Aug2–6)を中心に、不純なヒスイ輝石(Jd84–89Aeg2–7Aug7–9)とオンファス輝石(Jd24–48Aeg9–14Aug42–62)からなる細粒結晶が被覆成長する形態を示す。ヒスイ輝石とオンファス輝石間には組成間隙があり、不混和領域の存在が確認された。次に、片状藍閃石岩では藍閃石の定向配列がよく発達し、藍閃石+曹長石+ヒスイ輝石+オンファス輝石から構成される。片状藍閃石岩中の藍閃石は、主にフェロ藍閃石の化学組成(XMg = 0.45–0.81、XFe3+ = 0.12–0.45)を示す。基質のヒスイ輝石(Jd81–99Aeg0–7Aug1–28)とオンファス輝石(Jd25–45Aeg7–13Aug47–64)間には組成間隙があり、曹長岩化帯と同様に不混和領域の存在が確認された。その産状は、(1)不純なヒスイ輝石(Jd72–89Aeg0–7Aug7–19)とオンファス輝石(Jd25–45Aeg7–14Aug47–64)が直接接合する組織、(2)粗粒なヒスイ輝石仮像をなし、その中心部にほぼ純粋なヒスイ輝石(Jd91–99Aeg0Aug1–9)と微小石英が共存、縁部に不純なヒスイ輝石(Jd83–86Aeg2–6Aug11–12)とオンファス輝石(Jd27–39Aeg7–13Aug50–62)から構成される細粒結晶が被覆成長、という二種類に区分できる。最後に、塊状組織を示す藍閃石岩はほぼ藍閃石からなり、片状藍閃石岩とは鉱物組み合わせが大きく異なる。藍閃石には定向配列が認められず、狭義の藍閃石に相当する化学組成(XMg = 0.65–0.80、XFe3+ = 0.16–0.40)を示す。

     塊状藍閃石岩と片状藍閃石岩に含まれる藍閃石の組織・組成傾向を考慮すると、これら藍閃石岩は形成時期が異なることが考えられる。塊状組織を示す藍閃石岩は蛇紋岩メランジュ中での産出がよく報告されており、本研究で発見された塊状藍閃石岩もヒスイ輝石−石英岩と同時期の高圧下で形成された可能性がある。ヒスイ輝石−石英岩境界では曹長石の増加に伴い、基質から石英が消失している。ヒスイ輝石中にのみ石英包有物が残存するため、この曹長岩化帯は岩石上昇期に形成されたことが示唆される。西山(1989 地質学論集)は反応帯形成時の変形機構を検証し、片状構造が岩石−流体相互作用下で形成できることを示した。片状藍閃石岩も曹長岩化帯と同時期に形成されたと解釈できる。さらに、片状藍閃石岩及び曹長岩化帯の不純なヒスイ輝石とオンファス輝石が示す組成領域は、他地域で報告されている不混和領域とほぼ一致する(e.g. Carpenter, 1980 CMP)。これは低温下の不混和領域において、ヒスイ輝石(空間群C2/c)とオンファス輝石(空間群P2/n)が同じ時期に安定であった可能性を意味する。ヒスイ輝石−石英岩を特徴づける純粋なヒスイ輝石が曹長岩化帯形成と同時期の流体浸透により、不純なヒスイ輝石とオンファス輝石が再結晶したのであろう。本地域のヒスイ輝石岩本体はヒスイ輝石−石英の接触共存がよく残されているが、これは反応帯形成によりヒスイ輝石岩の後退変成作用が抑制された結果かもしれない。

  • 林 里沙, 池田 剛
    セッションID: T1-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    山口県柳井地域の領家変成帯最高変成度地域(ザクロ石-菫青石帯)にはザクロ石-菫青石-黒雲母の共生が広く見られる。変成条件は西の220MPa、620℃から東に向かって上昇して700MPa、870℃に達する。本研究では高圧、低圧を代表する東西2試料のザクロ石の微細構造と微量元素の不均質からその成長過程を議論した。

     泥質岩中のザクロ石は、球形から不定形の様々な形状を示し、粗粒側に尾を引くサイズ分布をもつ。球形粒子の#Mg(Mg/Fe+Mg)は、内部で均質で外縁部で減少している。この#Mgの減少は、黒雲母と接している部分で特に顕著である。また、粒子の外形がP(リン)の等値線を切っている場合もある。この場合も外形に沿って#Mgは減少している。不規則な形状の粒子や一部の球形粒子には、PやCaの複数のドメインが認識できるものがある。このドメイン境界部の#Mgは、①周囲の粒子内部の値と等しい場合、②粒子外縁部の値と等しい場合、③両者の中間的な値の場合が認識された。

     PやCaは拡散係数が小さく、高温時の拡散の影響を受けにくいため、累進変成時のザクロ石の成長過程を記録していると考えられる。これらの元素の濃集あるいは枯渇したドメインが存在することは、各ドメインが別々の結晶であり、それらが合体したことを示唆する。これに対し、FeやMgは拡散係数が大きく、最高変成時には粒子内で均質化しており、後退変成作用の高温時には周囲の黒雲母と交換反応し外縁部の組成が変化したと考えられる。①のように#Mgが均質な部分にPやCaのドメインの見られる粒子は、#Mgが均質化する以前、つまり累進変成作用時に合体した粒子である。それに対して②や③の粒子は最高変成時以降に合体し、合体前の#Mgが減少した外縁部を保持している。#Mgの減少を伴いPの等値線を切る外形は、成長の休止か部分的溶解が交換反応以前に生じたと考えられる。

     以上の結果より、本研究地域のザクロ石には様々な時期に粒子が合体したことが明らかになった。粗粒側に尾を引く結晶サイズ分布はこのような多段階のイベントを反映していると考えられる。

  • 乾 睦子, 関野 公聖, 関根 涼介
    セッションID: T1-P-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    三波川変成帯の長瀞地域では、低変成度の緑泥石帯とされる地域の中に局所的にザクロ石が出現する露頭がいくつかあることが知られている。そのような露頭のひとつが秩父鉄道樋口駅付近であり、同露頭における炭質物のラマン分光分析により最高到達温度は400℃を少し上回る程度と見積もられている(Inui et al., 2017)。ザクロ石の再結晶は沈み込み帯の変成作用の中でも主要な脱水反応のひとつである。脱水反応がどのようにして始まるかを知ることは、沈み込み帯の地下における水の挙動を解明することにつながる可能性がある。本稿では、この低変成度地域の露頭に見られる細粒ザクロ石の分布と化学組成累帯構造から、ザクロ石の再結晶を局所的に促した要因に迫ろうと試みたので報告する。

     同露頭は主に泥質片岩からなり、主に白雲母からなる厚さ1mm以下~3mm程度の層が、主に石英からなる層をはさんで重なり片理を形成していた。白雲母からなる層は緑泥石、斜長石と時に細粒ザクロ石を含んでいた。ザクロ石は自形または丸みを帯びた自形で、出現する場合には白雲母層内にだけ分布し、大半は直径50μmより小さく、大きな粒子でも直径100μm程度までと非常に細粒であった。1枚の薄片内でも特定の層にだけザクロ石が多く見られることがあった。

     ザクロ石はこの露頭に全体的にあるのではなく片理と同じ水平方向に連続する分布を示すことが指摘されている(Inui et al., 2018)。そこで、ザクロ石が出現した部分と出現しなかった部分との全岩化学組成を比較したが有意な差は検出されなかった。片理の白雲母層毎にザクロ石の密度が異なることも考え合わせると、ザクロ石の成長開始条件はサンプルのレベルではなく白雲母の薄層のレベルで異なっていた可能性がある。

     次にザクロ石の化学組成累帯構造をSEM-EDS(JEOL JSM-6010LA、国士舘大学)にて観察したところ、多くがMn端成分に富む均質なコアとCa端成分に富むリムとの2段階に見える累帯構造を持ち、コア部とリム部の境界は比較的明瞭であった(Inui et al., 2020)。Mg, Fe端成分もコアからリム向かって増加していた。一部の試料ではコア部の後方散乱電子像に約5μm幅の縞が見られ、振動累帯構造を持っていると考えられた。さらに、多くの粒子がコアの中心付近に不定形の芯のような部分(以下、初期核と呼ぶ)を持ち、異なる化学組成を持っていた。なお、初期核もザクロ石であることはラマン分光分析によって確認した。1枚の薄片(薄片番号20220417s1-01)中に観察できたザクロ石のうち、リムの断面だけが見えた粒子が62個に対して、コアとリムの累帯構造が観察できて初期核が見えなかった粒子が53個、初期核が観察できた粒子は40個であった。非常に多くの粒子に初期核が見られたと言える。コア・リム部の化学組成は薄片内の粒子についてほとんど同じ値であったことから同じ条件で成長したと推測される。一方の初期核は、直径10μm未満が多く正確な測定は難しいが、化学組成が多様であることは確実であることから、細粒ザクロ石のコアが成長開始した時に既にばらばらな化学組成を持つザクロ石の微粒子があったと考えられる。ザクロ石の局所的な成長は、初期核となったザクロ石の微粒子の存在に依存して起きたことが考えられる。振動累帯構造を形成させた規則的な現象も初期の成長に関与した可能性がある。これほど多くの微粒子が局所的に存在した理由は不明であるが、薄片内の多数の粒子の初期核の化学組成だけをプロットすると三波川変成岩類における正累帯構造のザクロ石の組成範囲に重なる領域にばらつく結果が得られた。

    〈参考文献〉

    Inui et al.(2017)国士館大学理工学部紀要, 11, 55-60.

    Inui et al.(2018)Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 113, 181-189.

    Inui et al. (2020) Minerals, 10(3), 292-305.

  • 原山 翔, 志村 俊昭
    セッションID: T1-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     山口県光市の千坊山周辺地域は領家帯に属し、その東側には多くの研究者により詳細な変成分帯が行われている岩国-柳井地域がある(Ikeda, 2004など)。

     Okudaira et al.(2024)では、領家帯は変成度の低い方から高い方へ、以下のように変成分帯されている。

     緑泥石-黒雲母帯

     黒雲母帯

     白雲母-菫青石帯

     カリ長石-菫青石帯

     珪線石-カリ長石帯

     ザクロ石-菫青石帯

    領家帯の変成度はMTLに向かって上昇するが、西側ではMTL付近で減少に転じる(Okudaira et al., 2024)。この減少の原因について、岩国-柳井地域では大規模な断層や褶曲の影響が指摘されている(Okudaira, 1996; Skrzypek et al., 2016など)。

     千坊山周辺地域では石塚ほか(2009)と宮崎ほか(2016)により20万分の1地質図幅が作成されている。変成分帯は変成度の低い方から高い方へ、

     黒雲母帯

     カリ長石珪線石帯

     ざくろ石菫青石帯

    とされており、南側から北側にむかって変成度が上昇しているとされている。本研究では千坊山周辺地域の変成分帯及び変成反応の考察を行った。

    地質概説

     千坊山周辺地域は全域に変成岩類が分布しており、局所的に花崗岩類が貫入している。変成岩類は砂泥質及び珪質の片麻岩、泥質片岩、珪質片岩に分けられる。片岩は主に調査地域南西部の室積半島に分布している。変成岩類の露頭では片理面や鉱物線構造が観察でき、露頭規模やそれより小さいスケールの褶曲もみられる。多くの褶曲は、層厚に大きな変化が見られない座屈褶曲である。室積半島では、片理面はNW-SE走向、SW傾斜のものが多い。その他の地域の片理面は、北西部ではNE-SW走向、NW傾斜、中央部ではE-W走向、N傾斜、南東部ではNW-SE走向、NE傾斜のものが多い。

    変成分帯

     千坊山周辺地域の変成岩の代表的な鉱物組み合わせと変成分帯は、南から北にむかって以下の通りである。

     白雲母帯 : Ms + Bt + Chl

     珪線石帯 : Bt + Afs + Sil

     菫青石帯 : Crd + Bt + Afs + Sil

     ザクロ石-菫青石帯 : Bt + Crd + Grt + Afs

     (全ての帯に+ Qz + Pl)

    菫青石帯とザクロ石-菫青石帯の片麻岩は一部ミグマタイト化している。これらの岩石の優白部では斜長石に波動累帯構造が見られる。菫青石帯では菫青石に、ザクロ石-菫青石帯ではザクロ石と菫青石及びカリ長石によって、黒雲母と珪線石が切断されているところが見られる。

    この変成分帯をOkudaira et al.(2024)で示されている変成分帯と比較すると、白雲母帯は緑泥石-黒雲母帯、珪線石帯と菫青石帯は珪線石-カリ長石帯、ザクロ石-菫青石帯はザクロ石-菫青石帯に対応すると考えられる。

    この変成分帯の配列は、南から北に変成度が上昇していることを示している。白雲母帯と珪線石帯の間は幅1kmほどの露欠となっており、変成度や地質構造のうえでギャップが大きい。このことは、両者の間に石塚ほか(2009)により示された伏在している断層の存在を支持している。珪線石帯と菫青石帯の間ではCrd出現アイソグラッドが、菫青石帯とザクロ石-菫青石帯の間ではGrt + Crd共生が出現する反応アイソグラッドが存在する。ザクロ石-菫青石帯は、菫青石帯、珪線石帯の構造的上位に位置している。

    鉱物化学組成

    変成度が上昇するにつれザクロ石のSpsが減少しAlmが増加している。いずれの帯のザクロ石もコアからリムに向かってSpsが増加しAlmPrpが減少している。

    ザクロ石-菫青石帯の斜長石は、他の帯の斜長石に比べAbが高い。

    考察

    この地域で起きている昇温期の変成反応を考察した。鏡下観察より、珪線石帯と菫青石帯の間ではWei et al.(2004)におけるBt + Sil + Qz + H2O = Crd + liqの反応が、菫青石帯とザクロ石-菫青石帯の間ではBt + Sil + Qz + H2O = Grt + Crd + liqと、Bt + Sil + Qz + H2O = Grt + Crd + Kfs + liqの反応が起きていると考えられる。

    室積半島の変成岩は他の地域と比べ、変形作用の影響を強く受けていないと考えられる。

    ザクロ石-菫青石帯が菫青石帯と珪線石帯の構造的上位に位置していることは、この地域に断層や褶曲などの構造的ギャップがある可能性を示唆している。

    引用文献

    Ikeda (2004) CMP., 146, 577–589.

    石塚ほか (2009) 20万分の1地質図幅「中津」. 産総研.

    宮崎ほか (2016) 20万分の1地質図幅「松山」(第2版). 産総研.

    Okudaira (1996) Isl. Arc, 5, 373-385.

    Okudaira et al. (2024) Elements, 20, 96-102.

    Skrzypek et al. (2016) Lithos, 206, 9-27.

    Wei et al. (2004) JMG., 22, 495-508.

  • 椿 陽仁, 志村 俊昭
    セッションID: T1-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     領家帯は,九州北部から本州中部にかけて広がる,白亜紀の火成活動により形成された深成岩類と高温低圧型の広域変成作用を被った変成岩類が分布する領域である (Okudaira et al., 2024).

     松山市湯山地区は,愛媛県高縄半島の南西部に位置し,この地域の変成岩類と花崗岩類は領家帯に属している.本地域は北部から南部にかけて,角閃石黒雲母花崗岩体 (以下,松山岩体),黒雲母花崗岩体 (以下,湯ノ山岩体),変成岩体が分布し,これらの3者は互いに接している.湯ノ山岩体のジルコンU-Pb年代は,98.8±1.0 Maとされている (Shimooka et al., 2019).変成岩類は,変成分帯 (Fig. 1)と各帯の鉱物組合せの記載が,鳥海ほか (1991)と宮崎ほか (2016)により行われている.最高変成度で見られる泥質変成岩の鉱物組合せは,Grt, Crd, Kfs, Bt, Ms, Pl, Qzである (鳥海ほか, 1991).変成作用は,松山岩体の接触変成作用を受けた後に湯ノ山岩体の接触変成作用を受けているとされている (野戸, 1975; 越智, 1982).変成P-T条件については,検討されていない.

     本研究では,松山市湯山地区の半島基部の変成岩類の変成分帯と変成P-T条件の推定を行い,変成作用について検討を行った.

    記載

     本地域の2つの花崗岩体は,変成岩類の片理面に対して非調和的に貫入している.変成岩体には,ざくろ石菫青石片麻岩,カリ長石菫青石片麻岩,カリ長石菫青石片岩,白雲母黒雲母片岩などが見られる.

     ざくろ石菫青石片麻岩は,ざくろ石と菫青石が共生しており,優白部の斜長石に波動累帯構造が見られる.

     カリ長石菫青石片麻岩は,菫青石 (斑状変晶)とカリ長石は共生している.また,この菫青石は,黒雲母,白雲母,斜長石で構成される片麻状構造を切っていない.

     カリ長石菫青石片岩は,菫青石 (斑状変晶)とカリ長石は共生している.この菫青石は,黒雲母,白雲母,斜長石で構成される片理を切っている.菫青石を除く基質の鉱物の大きさは,白雲母黒雲母片岩と同程度である.また,カリ長石菫青石片岩は松山岩体との貫入境界付近で多く見られる.

    変成分帯

     変成作用のピーク期に晶出した考えられる鉱物組合せに基づいて,以下のように変成分帯を行った (Fig. 1).本地域の変成岩は,変成度の低い方から高い方へそれぞれ,Bt zone,Crd zone,Kfs zone,Grt zoneに分帯した.また,松山岩体との境界付近は,松山岩体の貫入により形成されたContact aureoleとした.

    変成P-T条件

     Crd zoneのピーク期の変成P-T条件は,Grt-Bt地質温度計 (Hodges and Spear, 1982)とGMPB地質圧力計 (Hoisch, 1991)の計算結果から,約150–300 MPa,約540–550℃と見積もられる.

     Grt zoneのピーク期の温度条件は,Grt-Crd地質温度計 (Thompson, 1976; Wells, 1979; Perchuk et al., 1985)の計算結果から,約620–670℃と見積もられる.

    結論

     カリ長石菫青石片麻岩の菫青石とカリ長石菫青石片岩の菫青石は,産状の違いから晶出した時期が異なると考えられる.このことから,本地域の変成岩体は,最低2回の複変成作用を受けていると考えられる.

     変成分帯より変成岩の変成度は,湯ノ山岩体との貫入境界に近づくほど上昇している.このことから,変成岩体は湯ノ山岩体による接触変成作用を受けていると考えられる.

     Contact aureoleに分布するカリ長石菫青石片岩は,記載や変成分帯の結果より,松山岩体による接触変成作用を受けていると考えられる.また,カリ長石菫青石片岩の源岩は,記載や変成分帯の結果よりBt zoneに相当する白雲母黒雲母片岩であったと考えられる.

     これらのことより,本地域の変成岩体は湯ノ山岩体の接触変成作用を受けた後に,松山岩体の接触変成作用を受けたと考えられる.

    引用文献

    Hodges and Spear (1982) Amer. Mineral., 67, 1118–1134.

    Hoisch (1991) CMP, 108, 43–54.

    宮崎ほか (2016) 地質図幅「松山」(第2版). 産総研.

    野戸 (1975) 地質学雑誌, 81, 59–66.越智 (1982) 地質学雑誌, 88, 511–522.

    Okudaira et al. (2024) Elements, 20, 96–102.

    Perchuk et al. (1985) JMG, 3, 265–310.

    Shimooka et al. (2019) JMPS, 114, 284–289.

    Thompson (1976) AJS, 276, 425–454.

    鳥海ほか (1991) 日本の地質「四国地方」. 日本の地質「四国地方」編集委員会, 6–8.

    Wells (1979) JP. 20, 187–226.

  • 遠藤 俊祐, 森 創太朗
    セッションID: T1-P-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに 飛騨帯構成岩類(ペルム-トリアス紀の花崗岩・片麻岩類およびジュラ紀花崗岩類)の分布は飛騨山地から山陰地方へと延長することが鳥取県大山西麓に僅かに分布する基盤岩類から示唆されている.最初期の研究として,石賀ほか(1989)は,伯耆溝口駅東方の大江川河床からザクロ石含有泥質片麻岩および苦鉄質片麻岩(以降,溝口変成岩)を報告し,これらを飛騨片麻岩類に対比した.また苦鉄質片麻岩から185.1±6.1 MaのRb-Sr全岩・鉱物アイソクロン年代を報告した.近年,Tsutsumi et al.(2017)は,同産地から採取した珪長質片麻岩類のジルコンU-Pb年代を報告した.そのなかで,原岩が花崗岩類と推定される試料の年代値257.6±2.9 Maを火成年代として古期飛騨花崗岩類に対比した.一方で,ザクロ石含有泥質片麻岩のジルコンは砕屑性粒子とみなしてその最若年代が183 Maであることから,原岩の泥質岩はジュラ紀付加体またはジュラ紀周防変成岩とされた.この解釈を受け入れた場合,同一産地の同様な片麻岩でありながら,両岩石は地帯区分上の帰属が大きく異なることになる.しかし,この地域の片麻岩露頭には花崗岩類の細脈が発達するため,183 Maの年代を示すジルコンは泥質片麻岩中の砕屑性粒子ではなく,ジュラ紀花崗岩類(江尾花崗岩)の細脈から混入した可能性が残る.そのため,ザクロ石含有泥質片麻岩の薄片上での組織と関係づけた岩石年代学的な再検討が必要である.

    岩石記載,変成条件と年代 ザクロ石含有泥質片麻岩は黒雲母の形態定向配列による弱い面構造が発達し,細粒の長石と石英が等粒状組織をなす変成岩である.構成鉱物は石英,斜長石,黒雲母,ザクロ石,チタン鉄鉱,磁硫鉄鉱,石墨である.基質の黒雲母の一部は微細な白雲母とチタン鉄鉱に置換されている.ザクロ石は0.5 mm前後の自形粒子で,逆累帯を示すリムを除くと,ほぼ均質な組成(Alm75-77Prp12-14Sps7Grs4)をもつ.ザクロ石は石英,カミントン閃石,チタン鉄鉱,磁硫鉄鉱を包有する.石英包有物はホストのザクロ石の結晶面で囲まれた多面体の形態をとり,さらに微小な斜長石(An39-42)と菫青石(Mg#=0.57-0.58)を包有する.基質の斜長石の組成範囲(An36-43)は上記のザクロ石中のものと重複するが,黒雲母の変質部に隣接するリムではCaが増加しAn57-70となる.ザクロ石中の黒雲母(Mg#=0.53)は基質の黒雲母に比べて高Mg#である. ザクロ石の均質なコア組成およびその包有物の斜長石と黒雲母の組成を組合せて地質温度圧力計を適用すると,温度圧力条件は550℃,1.9 kbarと推定された.低圧条件であるため,ザクロ石は江尾花崗岩の接触変成作用により形成された可能性がある.

     ザクロ石含有泥質片麻岩は副成分鉱物としてジルコンのほかに,微小(20ミクロン以下)なモナザイトを含む.基質の石英や斜長石中に包有されるモナザイト粒子のコアからは約250 MaのEPMA年代(初期鉛をゼロとした見かけ年代)が得られた.またリムでは200-160 Maの見かけ年代を示した.約250Maの年代は飛騨片麻岩類の広域変成作用に一致し,ジュラ紀のリム年代は江尾花崗岩の接触変成作用に関係づけられる.従って,ザクロ石含有泥質片麻岩を含めて溝口変成岩は飛騨帯構成岩類であると考えられる.

    文献

    石賀ほか(1989)地質学雑誌 95,129-132; Tsutsumi et al. (2017) JAES 145, 530-541

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    菊地 泰生, 田口 知樹
    セッションID: T1-P-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    地球内部における水の分布は不均質であり、その保持機構についても未解明な点が多い(e.g. Ohtani, 2021 AREPS)。プレート収束境界における流体挙動は、島弧火成作用や地震活動など様々な地球科学的現象を引き起こす要因になり得る。また、岩石の物理化学的性質やレオロジー挙動も微量水の存在で劇的に変化するため、プレート境界をなす変成岩の含水量推定は重要と言える。一般に、深部まで沈み込んだ地殻物質中では含水鉱物の多くが不安定となる。しかし、ザクロ石やオンファス輝石はNAMs(Nominally Anhydrous Minerals)と認識され、構造的に結合したOH基により微量の水を保持できる。NAMsの中でも、エクロジャイト構成鉱物であるオンファス輝石は比較的含水性の高い鉱物と報告されている(Bromiley & Keppler, 2004 CMP)。しかし、超高圧エクロジャイト中のオンファス輝石の産状と含水量の関係性を包括的に調査した研究例は少ない。本研究では中国東部蘇魯帯の超高圧エクロジャイトを対象に、顕微フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)に基づきオンファス輝石の定量的な含水量分析を実施した。

     研究試料は蘇魯帯楊庄(Yangzhuang)地域の超高圧エクロジャイトを使用した。近年、当地域のエクロジャイトを対象に変成岩岩石学および電子顕微鏡鉱物学的研究が実施されており(e.g. Taguchi et al., 2016 JMG; Taguchi et al., 2019 JMG)、そのピーク変成条件はP/T = 3.1 GPa/660–725°Cと推定されている。本研究ではオンファス輝石に富むエクロジャイト2試料(試料番号:95ZYh、95ZYg)、及び灰簾石に富みオンファス輝石が比較的乏しいエクロジャイト1試料(試料番号:95ZYa)に着目した。エクロジャイト全試料において、基質ではオンファス輝石+ザクロ石+石英の鉱物組み合わせが認められる。試料毎に量比は異なるが、その他鉱物として灰簾石±藍晶石±白雲母±角閃石±ルチルが認められる。また、コース石の仮像(多結晶質石英)がザクロ石やオンファス輝石など基質鉱物中の包有物として全試料で観察できる。各試料の両面研磨片(厚さ約150–190 µm)を作成後、オンファス輝石の赤外分光分析を実施した。分析の際は光路の窒素パージを行い、オンファス輝石の含水量はLambert-Beerの法則から算出した。各オンファス輝石には、3630–3610 cm-1、3530–3510 cm-1、3460–3440 cm-1付近にOH基の吸収スペクトルが確認された。オンファス輝石の含水量推定値を以下に示す:240 ppm(試料95ZYh; オンファス輝石118粒子の平均)、201 ppm(試料95ZYg; オンファス輝石70粒子の平均)、271 ppm(試料95ZYa; オンファス輝石14粒子の平均)。

     今回確認されたオンファス輝石の吸収スペクトルの形状とピーク位置は、世界各地のコース石エクロジャイトや石英エクロジャイト(e.g. Katayama et al., 2006 Lithos; Gose & Schmädicke, 2022 JMG)及び高圧実験生成物(Bromiley & Keppler, 2004 CMP)とよく似ていた。また、本研究試料のオンファス輝石が示す含水量は、超高圧変成帯の一つであるカザフスタン・コクチェタフ地域の石英エクロジャイトとよく一致していた(Katayama et al., 2006 Lithos)。最近の実験岩石学的研究では、オンファス輝石の含水量は変成温度と相関を示すことが報告されているが、本研究成果はその指摘とも矛盾しない(Jiang et al., 2022 Geology)。楊庄地域のエクロジャイトは後退変成作用の影響が比較的少ないことを考慮すると、本研究結果はピーク変成期における含水量を反映している可能性が高いが、今後も含水量データの収集は必要と考えられる。

  • 磯山 未遊, 遠藤 俊祐
    セッションID: T1-P-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     大山西麓の江尾花崗岩類(一部が片麻状構造を示す石英閃緑岩~トーナル岩)は,石賀ほか(1989)により発見された片麻岩類とともに飛騨帯構成岩類とされた.このことは複数の研究グループが江尾花崗岩類から新期飛騨花崗岩類に対比しうる前期ジュラ紀のジルコンU-Pb年代を報告したことで確実視された.しかし,江尾花崗岩類の詳しい分布や岩相区分,貫入母岩については依然として未解明である.さらに,最新のKawaguchi et al.(2023)の年代データでは,溝口地域の江尾花崗岩の主岩体がジュラ紀の岩体だけでなく,古期飛騨花崗岩類に対比可能なトリアス紀の岩体を含むことを示唆している.一方で,従来江尾花崗岩類とされた江尾周辺の岩体は古第三紀の山陰帯花崗岩類の可能性がある.これらのことから,江尾花崗岩類は今後の詳しい調査により,その名称を含めて再定義される必要があると思われる.今回,溝口地域の江尾花崗岩類の分布域の調査により,その貫入母岩の可能性がある変成岩類の分布を見出した.さらに片麻状構造の顕著な江尾花崗岩類の岩体内部から捕獲岩(ザクロ石含有片麻岩)を見出した.これらの岩石学的特徴を報告する.

    溝口地域の変成岩類

     閃緑岩質~珪長質の片麻岩類と苦鉄質岩が確認された.片麻岩類の露頭にはネットワーク状の緑簾石脈がみられる.片麻岩類は細粒の石英,斜長石,ホルンブレンドで構成され,原岩は明らかではない.苦鉄質岩は粗粒な角閃岩で,主にホルンブレンド,斜長石,磁鉄鉱により構成される.角閃石は粗粒で,大部分が緑色であるが,一部が褐色を呈する.

    江尾花崗岩類の捕獲岩

     捕獲岩のザクロ石含有片麻岩は,粗粒の石英と斜長石,苦鉄質鉱物の集合体が片麻状構造をなす岩石である.この捕獲岩中と母岩の江尾花崗岩(石英閃緑岩)にみられる片麻状構造は調和的である.苦鉄質鉱物の集合体は緑泥石,黒雲母,ざくろ石,スピネル,磁鉄鉱,チタン鉄鉱からなる.ざくろ石は0.4-0.1mm程度で,薄層状に広がる細粒のチタン鉄鉱の濃集部に沿うように集合体を形成するほか,孤立した自形粒子としても存在する.ざくろ石は,チタン鉄鉱,磁鉄鉱,スピネル,斜長石を包有し,これらはマトリクスにも存在する.BSE像からざくろ石は明るいコアと暗いリムに区分できる.ざくろ石のコア組成はSps54-43Alm40-48Grs4-5Prp1-3とスぺサルティン成分に富み,昇温累帯構造を保持している.リムではグロシュラー成分が不連続に増加し,Sps44-42Alm44-46Grs9-8Prp3-4の組成をもつ.ざくろ石に包有された斜長石はCaに富みAn79-81の組成をもつ.マトリックス斜長石はAn81からAn39まで広い組成範囲を示すが,ざくろ石リムと接している部分はAn成分が高い.スピネルは亜鉛に富み,その固溶体組成はGhn63-67Hc26-30Spl4-5Glx3である.構成鉱物から鉄アルミナ質な堆積物もしくは火成岩が原岩として想定される.ざくろ石のリム組成とマトリクスの斜長石,黒雲母の組成を組み合わせると,430℃,1.4 kbar前後の温度圧力条件が推定される.以上の観察・分析結果と,西側で大規模な山陰型花崗岩(古第三紀初頭の根雨花崗岩)が貫入し,江尾花崗岩類が顕著な接触変成作用を受けていることを併せて考えると,捕獲岩中でざくろ石などが形成された時期は,山陰型花崗岩の貫入に伴う接触変成作用時である可能性が高い.

    文献

    石賀ほか(1989)地質雑 95,129-132.Kawaguchi et al. (2023) Gondwana Res. 117, 56-85.

  • 野宮 健太, 田口 知樹
    セッションID: T1-P-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    中国東部蘇魯帯では、超高圧指標鉱物(コース石やその仮像)を含むエクロジャイトが広く産出する。仰口地域のエクロジャイトでは残存コース石が基質に認められることもあり(Zhan & Liou, 1997 JMG)、岩石上昇期の流体浸透が乏しく、蘇魯帯の中でもピーク変成条件をよく保持していると期待されている。これまで当地域では様々な岩石学的研究が実施されている一方で、先行研究間でエクロジャイトの温度推定値には大きなギャップが存在し、ピーク変成条件の制約に至ってない。先行研究の多くは汎用的なザクロ石−単斜輝石温度計(e.g. Ravna, 2000 JMG)に基づき変成温度が議論されており、別手法に基づく比較検証も重要と考えられる。本研究ではZrルチル温度計を用いた仰口地域のピーク変成温度を再検討したと同時に、オンファス輝石中のヒスイ輝石成分に関しても検証した。

     仰口地域のエクロジャイトは巨視的な岩体または片麻岩中にレンズ状で産出する。本研究では、仰口北部に位置する湾岸沿いのエクロジャイト1試料(95YKB08x)および南部のGeneral's Hillで採取されたエクロジャイト2試料(95YK0h1、95YK24a)を使用した。各試料の基質鉱物組み合わせはザクロ石+オンファス輝石+石英+白雲母+ルチル±角閃石±藍晶石であり、副成分鉱物としてジルコンが認められる。仰口湾沿いの試料ではザクロ石やオンファス輝石が粗粒結晶(最大1 mm)として観察されるが、General's Hillの変成鉱物は比較的細粒なものが多い。いずれの試料においても、ザクロ石中にオンファス輝石、ルチル、SiO2相(コース石の仮像)が包有物として存在する。基質のオンファス輝石中のヒスイ輝石成分は、それぞれXjd = 0.38–0.46(95YKB08x)、Xjd = 0.69–0.78(95YK0h1)、Xjd = 0.65–0.74(95YK24a)を示す。ザクロ石中のオンファス輝石包有物は、Xjd = 0.34–0.45(95YKB08x)、Xjd = 0.64–0.74(95YK0h1)、Xjd = 0.62–0.74(95YK24a)である。各試料の基質と包有物間でオンファス輝石のXjd値にほとんど差は認められない。しかし、General's Hill産のオンファス輝石では、不純なヒスイ輝石に相当する非常に高いXjd値が確認された。各試料40粒子以上のルチルについてEPMA分析を行った結果、それぞれZr含有量の平均値はZr = 94–141 ppm(95YKB08x)、Zr = 52–89 ppm(95YK0h1)、Zr = 46–94 ppm(95YK24a)であった。Zrルチル温度計(Tomkins et al., 2007 JMG; Kohn, 2020 AM)を適用すると、仰口湾沿い(仰口北部)ではT = 約650–690°C、General's Hill(仰口南部)ではT = 約610–660°Cと見積もられた(P = 3.0–4.0 GPaと仮定)。

     仰口地域のエクロジャイトでは、熱力学的解析によりピーク変成温度条件としてT >800°Cが報告されている(e.g. Wang et al., 2014 Nat. Commun.)。しかし、先行研究の推定温度値は、今回Zrルチル温度計により得られた値と比べ優位に高い。単斜輝石中のヒスイ輝石成分が多量な場合(Xjd >0.50)、ザクロ石−単斜輝石温度計による温度推定には大きな誤差が生じることが経験的に知られている(Nakamura et al., 2015 JMPS)。本研究においても、General's Hillのオンファス輝石は著しく高いXjd値を普遍的に示した。蘇魯帯仰口地域のエクロジャイトについて、既存のザクロ石−単斜輝石温度計やシュードセクション法に基づく温度推定値は過剰に評価されている可能性がある。

  • 森 大成, 加々島 慎一, 矢口 真司
    セッションID: T1-P-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    山形県と秋田県の県境に位置する神室山は阿武隈帯に属し,白亜紀花崗岩・新第三紀花崗岩と形成年代不詳の変成岩類からなる変成深成複合岩体である.神室山の変成岩類は阿武隈変成岩である御斉所・竹貫変成岩との対比可能性を指摘されてきた(笹田, 1985).阿武隈変成岩は,約110 Maに低圧高温型の広域変成作用を受けたものであり,竹貫変成岩,御斉所変成岩,日立変成岩,西堂平変成岩,玉簾変成岩から構成される.神室山の変成岩類については町田・石渡 (2010) によって解析が行われ,ザクロ石黒雲母片麻岩中のザクロ石と角閃岩中の角閃石の化学組成割合や,変成作用の温度条件が竹貫変成岩と類似する結果が得られている.しかし,神室山の変成岩類がたどったP-T pathについての考察はなく,対比を行うには岩石学的証拠に乏しい.そのため本研究ではザクロ石の組成累帯構造から神室山の変成岩類のP-T pathの推定を行い,竹貫変成岩を含む阿武隈変成岩との対比を行った. 

     本調査で確認された神室山の変成岩類は,ザクロ石を含まない低変成度の片麻岩が大半を占め,ザクロ石黒雲母片麻岩は1試料のみの発見であった.変成岩類の鉱物組合せは,石英,斜長石,緑泥石,黒雲母を含み,一部ザクロ石,カリ長石が含まれる.神室山の変成岩類は,鉱物組合せより緑色片岩相の変成度を示し,ザクロ石を含むものについてはAlm, Sps, Prpの端成分の割合から角閃岩相を示す.ザクロ石の累帯構造は,結晶内部から結晶周縁部に向かってMn成分が緩やかに上昇する逆累帯構造を示す.また,一部のザクロ石は結晶内部でMn成分が均質,結晶周縁部で急激な上昇を示すものもある.これらのザクロ石の粒径は,最大のもので0.54 mmとすべて細粒である.Kretz (1973) よりザクロ石が結晶内部で正累帯構造,結晶周縁部で逆累帯構造を保持する地域でも,細粒の場合は逆累帯構造しか存在しない場合があることがわかっている.また,宮下 (1995) より細粒なザクロ石では後退変成作用による逆累帯構造があるとされている.これらより本研究で分析を行ったすべてのザクロ石が持つ逆累帯構造は,後退変成作用によって形成されたものであると考えられる.変成作用の温度圧力条件は,ザクロ石-黒雲母交換温度計 (Ferry and Spear, 1978) によりT=545-679 ℃,ザクロ石-斜長石-白雲母-黒雲母地質圧力計 (Hoisch, 1990) によりP=1.1-3.1 kbarが見積もられた.ただし,変成岩類の近傍に花崗岩類が分布していることから花崗岩類貫入の熱による組成の改変が考えられるためこれらの値は参考値とする. 

     以上より推定される神室山の変成岩類のP-T pathは,ザクロ石が後退変成作用の記録のみを残すことから, T=545-679 ℃, P=1.1-3.1 kbarの範囲を後退変成作用が通過したということになる.神室山の片麻岩類を形成した広域変成作用はこれよりも高い温度圧力条件であることが推定可能である.その場合,阿武隈変成岩の一つである竹貫変成岩と同程度の変成作用であったことがわかるため,神室山の変成岩類は阿武隈変成岩と対比される可能があることがわかった.

    <引用文献>

    Ferry, J. M. and Spear, F. S. (1978) Contrib Mineral Petrol, 66, 113 -117.

    Hoisch, D . (1990) Contrib Mineral Petrol, 104, 225-234.

    Kretz, R. (1973) Canad, Mineral, 12, 1-20.

    町田怜史・石渡明 (2010) 日本鉱物学会2010年年会講演要旨集, R4-P09.

    宮下由香里 (1996) 地質学雑誌, 2, 84-104.

    笹田政克 (1985) 地質学雑誌, 91 (1) , 1-17.

  • 菅原 菜々美, 豊島 剛志, 福田 倫太郎, 植田 勇人, 小山内 康人, サティッシュ-クマール マドスーダン
    セッションID: T1-P-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ジルコンU-Pb年代測定が広く行われた結果,約45Ma以降に2回あるいは複数回の変成・火成作用(熱イベント)によって,日高変成帯・日高帯において大陸地殻形成が起こったとされている(Kemp et al., 2007;志村ほか、2015;Takahashi et al., 2021;Yamasaki et al., 2021;菅野・豊島,2019;Kanno et al., 2020、菅野, 2021MSなど).しかし,これら複数回のイベントについては年代論と若干の火成岩についての考察があるものの,ジルコンU-Pb年代測定普及以前の研究成果の再解釈や,個々のイベントの変成作用や変形作用の違いを考慮した上での議論はほとんど行われていない.このため,日高変成帯形成を引き起こした複数回のイベントに関わるテクトニクスや衝突の実体は曖昧なままである.そこで,元浦川上流地域(ニシュオマナイ川から神威岳にかけての地域)において,日高変成帯のグラニュライト・角閃岩・トーナル岩などの変形・変成作用の解析と,それを考慮したジルコン年代測定を開始した.本地域では日高変成帯の高度変成岩・トーナル岩が断層によって複数回繰り返しており(豊島,1981MS,1983MS;馬場,2010MS),日高変成帯の衝突過程や形成テクトニクスに関する新知見が得られると考えたからである.本地域の西端には日高西縁マイロナイト帯であるトーナル岩マイロナイトが分布し,その東側に,トーナル岩・グラニュライト・褐色角閃石角閃岩からなるユニットが断層によって少なくとも3回繰り返している(西から順に,西部ユニット,中部ユニット,神威岳ユニットと呼ぶ).西部ユニットの最下部(西部)はミグマタイト・トーナル岩からなり,西のトーナル岩マイロナイトへと漸移している.神威岳ユニットの多くはグラニュライト・角閃岩を包有するトーナル岩質ミグマタイトである. 本地域の変成岩・トーナル岩の面構造は北東から東に傾斜し,NW-SE〜N-S走向であるが,一部でNE-SW走向を示す.多くの変成岩・トーナル岩の線構造は面構造の傾斜方向にプランジし,同方向の軸を持つ褶曲を伴う.日高西縁マイロナイト帯と中部ユニットの最下部には2方向の線構造が存在する.日高西縁マイロナイト帯では,南西プランジの線構造に重複して,面構造の走向にほぼ平行な線構造が認められ,それぞれ右横ずれ正断層センスと正断層センスの剪断変形を示す.このことから,本地域の日高変成帯西縁において,右横ずれ正断層運動の後に,正断層運動が起こったと考えられる.中部ユニットの最下部には,面構造の走向方向と傾斜方向の線構造が認められ,それぞれ右横ずれセンスと逆断層センスの剪断変形を示す.西部ユニットと中部ユニットの境界断層が非対称構造から見て逆断層であることや,多くの変成岩・トーナル岩の線構造が逆断層センスの剪断変形を示すことから,本地域におけるグラニュライト・角閃岩の繰り返しは,逆断層によって形成され,東西圧縮ないし北東南西圧縮の結果であると考えられる.グラニュライトのザクロ石には正累帯構造・逆累帯構造が認められる.また,西部ユニットと中部ユニットの泥質変成岩には,ザクロ石・珪線石が菫青石・スピネルに置換される変成反応組織が認められた.この反応によって形成された菫青石は傾斜方向の線構造と同時に形成された褶曲によって曲げられている.したがって,ザクロ石の正累帯構造を作る温度上昇の後,圧力低下しながらの温度上昇が起こり,その後に逆断層運動による変成岩・トーナル岩ユニットの上昇と繰り返しが起こったと考えられる. 本地域の西部ユニット下部に見られるグラニュライトのアグマタイトの優白質脈部分から18.6±0.21Maの年代が得られた.これは,アグマタイトの優白脈の形成・貫入年代と考えられる. 引用文献馬場圭太(2010MS)新潟大学卒業論文.菅野萌子・豊島剛志(2019)JpGU要旨.Kanno M et al.(2020)Abstracts of JpGU-AGU.菅野萌子(2021MS)新潟大学修士論文.Kemp, A.I.S. et al. (2007) Geology, 35, 807-810.志村俊昭ほか (2015) 地質学会要旨.Takahashi et al.(2021)Island Arc, 30, Issue1豊島剛志(1981MS)新潟大学卒業論文.豊島剛志(1983MS)新潟大学修士論文.Yamasaki et al.(2021) Geology, 49, 952-957.

  • 髙畑 彩, ウォリス サイモン
    セッションID: T1-P-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    本研究は、東アルプス山脈での野外調査を踏まえ、苦灰岩(ドロマイト岩石)の変形要因の解明について考察するものである。

    ヨーロッパのアルプスなどの大陸衝突帯には、大陸縁辺に多い炭酸塩岩が広く分布するという特徴がある。また、造山帯の変形は炭酸塩岩層に集中することが多い。なぜなら、炭酸塩岩の主要鉱物である方解石(CaCO3)は200℃以下でも延性変形できるかなり柔らかい鉱物であるからである。一方、大陸縁辺の炭酸塩岩には主としてドロマイト(MgCa(CO3)2)からなる苦灰岩(ドロマイト岩石)も多く存在する。ドロマイトは方解石と結晶構造など類似した炭酸塩鉱物であるが、変形実験の結果に基づき、ドロマイトは方解石より降伏応力が高く、600°C以上の高い温度でないと延性変形しないと考えられている(Delle Piane et al., 2008, Li et al., 2021)。しかし、主にドロマイトからなる苦灰岩は600°Cより有意に低い温度 (~300°C)でも延性変形する(Newman & Mitra, 1994)という報告例がある。硬いはずのドロマイトは何故柔らかく振る舞うことができるのかは未解決の問題である。

    ヨーロッパのアルプス造山帯は、アフリカ大陸とヨーロッパ大陸との間に挟まれたアドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸縁辺の北西-南東方向の衝突によって形成された(Wallis & Behrmann, 1996)。造山運動は白亜紀後期に始まり、現在まで続いている。衝突前、アドリアマイクロプレートとヨーロッパ大陸との間にはテチス海が広がり、海の両側に炭酸塩岩の多い大陸縁辺が存在し、また炭酸塩プラットフォームも数多く存在した。有名な例として、イタリアの北部に位置する、主に苦灰岩からなるドロミーティ山脈(Dolomiti)が挙げられる。これらの苦灰岩と同時期に堆積した、炭質物を多く含む石灰質半遠洋性堆積物も広く分布する。これらの堆積物は炭酸塩プラットフォームから剥がれ落ちてきたブロックや砂粒子など様々な大きさを示す苦灰岩を含む。

    本研究の調査地域は、東アルプスのTauernfenster南東部(オーストリア)にあり、アドリア大陸の基盤岩と海底堆積物がプレート境界に相当する大きなテクトニック境界の付近で強く変形した地域である。先行研究(Bickle & Powell, 1977)により、変成温度は約300°Cであり、延性変形を含む様々な変形組織を示す苦灰岩は、露出している低温での苦灰岩の変形を調べるのに適している。この苦灰岩には、強い延性変形を被ったことを示唆する面構造や、ブーダン構造など脆性変形を示すものもある。また、本調査地域の苦灰岩は石英の多い砂岩層の上に堆積し、その後、その砂岩は変成作用と変形を受けて石英片岩となった。石英片岩の微細組織解析により変形時の応力を推定でき、苦灰岩と隣接するので、苦灰岩の変形時に作用していた応力を推定できるということも本調査地域の特長である。

    本研究に関する昨年の野外調査では、まず、堆積物として形成した苦灰岩のブロックと造山運動によって形成したブロックを識別した。また、造山運動によって変形した苦灰岩の中で、隣接する脆性変形を示すものと延性変形を示すもののサンプルを採取した。面構造を示す苦灰岩は10μmほどの粒径を呈し、非変形の苦灰岩に比べて非常に細粒になっており、細粒化は苦灰岩の低温延性変形を促進すると推測できる。細粒化すると拡散クリープや粒界滑りが起こりやすくなるため、これらのメカニズムが重要な役割を果たしている可能性がある。また、面構造に平行かつ粗粒な1-2mmの層も存在し、面構造を横切る同様な脈も存在する。これらの脈が示す流体の流入も変形に関わっている可能性がある。本発表では、延性変形を示す苦灰岩の微細組織や組成分析、また詳細な温度決定を紹介し、延性変形の条件を制約する。これらの情報に基づき苦灰岩の延性変形の要因に迫る。

    文献:Delle Piane et al (2008). Journal of Structural Geology, 30, 767-776

    Li et al (2021). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 126

    Newman & Mitra (1994). Geological Society of American Bulletin, 106, 1267-1280

    Wallis & Behrmann (1996). Journal of Structural Geology, 18, 1455-1470

    Bickle & Powell (1977). Contributions to Mineralogy and Petrology, 59, 281-292

  • 植田 勇人, 竹之内 耕, 小河原 孝彦
    セッションID: T1-P-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】ひすい輝石岩は海洋プレートの沈み込みに伴う高圧変成帯や蛇紋岩メランジを象徴する岩石でありながら,その形成過程や希少性の要因が十分に理解されているとは言い難い.本発表では,形成の年代や圧力条件が異なる北海道神居古潭帯と糸魚川市の青海-蓮華帯のひすい輝石岩を比較し,それらの形成過程解明に向けた新たな仮説を提示する.【神居古潭帯】白亜紀~古第三紀の高圧変成帯である神居古潭帯には,ひすい輝石+石英の組み合わせを持つ変成岩が産し,それらの中には花崗質岩の原岩組織を残すものが知られている.今回ジルコンを抽出した岩石(以下,変トーナル岩とする)は神居古潭峡谷地域の転石であり,等粒状組織の名残と思われる塊状でまだらな組織をもつ.石英のほか,斜長石であったと思われる部分をおもにひすい輝石とローソン石が,また,火成有色鉱物であったと思われる部分を藍閃石が占め,曹長石は見られない.当岩塊の縁には蛇紋岩との反応縁(リンド)の疑いがある藍閃石岩が付着している.当試料から得られたジルコンにはオシラトリー累帯が認められ,およそ160 MaのU-Pb年代が得られた.中央北海道の白亜紀付加体中には,トーナル岩を伴う島弧起源のオフィオライト岩類が産し,これらは現在の九州-パラオ海嶺のような海洋プレート上の残存島弧が沈み込む際に付加したと提唱されている(Ueda & Miyashita, 2005, Island Arc, 14, 582-).これらのトーナル岩からは,今回の変トーナル岩に近い160-170 MaのジルコンU-Pb年代が得られている.そのため,白亜紀に沈み込んだ残存島弧のトーナル岩がひすい輝石+石英の安定領域に達した際に当岩石が形成された可能性を指摘できる.【青海-蓮華帯】検討した岩石は青海川橋立産の石英を欠き曹長石を伴うひすい輝石岩である.当試料の周縁部には櫛状に並んだ角閃石(大部分は二次的に緑泥石や滑石に変質)からなる明瞭なリンドがみられることから,ひすい輝石岩と周囲の超苦鉄質岩が平衡共存できず反応縁を生じたことが示唆される.このため当該岩石は熱水からの沈殿よりは既存の岩石の交代作用で形成された可能性が高い.当岩石に含まれるジルコンのCL像には明瞭なオシラトリー累帯とセクター累帯が見られ,520 Ma前後のU-Pb年代が得られた.また,局所的にみられる薄いリムからは470 Ma前後と若めのU-Pb年代が得られた.ジルコンの組織から,当該岩石はジルコンを伴う約520 Maの火成岩を原岩とし,470 Ma以降にジルコン周縁部の鉛ロスや二次成長を伴う改変がおこったことが示唆される.仮に原岩が花崗岩や閃緑岩のようなジルコンを含む珪長質火成岩だとすると,曹長石+ひすい輝石が安定な中圧条件において,シリカに不飽和な周囲の超苦鉄質岩へ向かって原岩からシリカが拡散する際の反応(例えば,曹長石+水→ひすい輝石+シリカ溶液; シリカ溶液+かんらん石→蛇紋石,滑石)によって説明できるかもしれない.【島弧沈み込み仮説】沈み込み帯において変成や交代作用でひすい輝石岩が形成されるためには,曹長石成分に富みマフィック成分に乏しい珪長質な岩石が沈み込む必要がある.ジルコンU-Pb年代から,神居古潭帯のひすい輝石岩は海洋プレート上の島弧火成岩が沈み込む際に形成された可能性が示唆された.現在のフィリピン海プレート上にある残存島弧の各所にトーナル岩が産出することから考えて,このような海洋性島弧-背弧系の沈み込みは,ウェッジマントルに珪長質火成岩を搬入しうる普遍的なイベントであることを指摘できる.青海-蓮華帯形成時に島弧の沈み込みがあったかは不明であるが,仮に同様のプロセスで珪長質火成岩がマントルまで沈み込んだ際には,たとえ圧力が不十分でも,周囲の超苦鉄質岩との化学組成差が著しいために,元素拡散によって曹長石からひすい輝石が生じうると考えられる.このような仮説が成立しうるか,今後検討していきたい.

  • 阿部 なつ江, 野坂 俊夫, マッケイグ アンドリュー, ラング スーザン, リッセンバーグ ヨハン, ブルム ピーター, IODP Exp ...
    セッションID: T1-P-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    The upper mantle is essential for understanding magmatism, crust formation, and element cycling between Earth's interior, hydrosphere, atmosphere, and biosphere. Mantle composition and evolution are inferred through surface sampling and indirect methods. We recovered a 1268 m section of serpentinized mantle peridotite from the Atlantis Massif, with minor gabbroic intrusions, showing depleted compositions and mineralogical variations controlled by melt flow. Located at 30 degrees North on the Central Atlantic Ridge, the Atlantis Massif is an ocean core complex exposing gabbroic rocks and serpentinized peridotite from the lower oceanic crust to the upper mantle. Four previous IODP expeditions were conducted here. IODP Expedition 399 (April 12 - June 12, 2023) by D/V JOIDES Resolution aimed to elucidate the formation of the oceanic core complex, explore reaction processes between the oceanic crust, upper mantle, and seawater, investigate non-biological water-rock reactions representing ancient systems, and evaluate sub-seafloor life activity.

    Hole U1601C at the serpentine site in the southern massif was drilled to 1267.8 mbsf, becoming the fifth deepest hard rock hole in IODP history. Continuous temperature, density, porosity, and seismic velocity measurements were taken, along with fluid samples from multiple depths. Dunite zones in these cores exhibit intermediate dips, contrasting with initially steep mantle fabrics, indicating oblique melt transport. Extensive hydrothermal fluid-rock interaction is recorded across the core's full depth, with oxidation in the upper 200 m. Alteration patterns align with vent fluid composition in the nearby Lost City hydrothermal field.

    Future analysis of these core samples and data will elucidate the oceanic lithosphere structure, formation of oceanic core complexes, crust alteration, and the generation of hydrogen and methane, essential for the subsurface biosphere.

  • 志村 侑亮, 遠藤 俊祐, 淺原 良浩
    セッションID: T1-P-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】沈み込み帯プレート境界で形成される地質体(付加体や高圧変成岩類)には,蛇紋岩やかんらん岩などマントル由来の岩石が含まれることがあり,これらの岩石は,大きくマントルウェッジを起源とするものと海洋リソスフェアを起源とするものがある.代表的な例として,白亜紀の東アジア東縁部沈み込み帯で形成された三波川高圧変成岩類が挙げられる.Aoya et al. (2013)1は,三波川高圧変成岩類には数m~数kmサイズの蛇紋岩ブロックがザクロ石帯よりも高変成部に産することに着目し,これらの蛇紋岩はマントルウェッジ起源のものであると結論付けた.他の例として,ヨーロッパアルプスの高圧変成岩類に含まれる蛇紋岩(アルプス西部のリグロ・ピエモンテオフィオライトなど)は,海洋地殻が定常的に形成されない低速拡大海嶺部に露出したマントル,すなわち海洋リソスフェアを起源とすることが知られている2.一方,上記の起源では説明できないものもいくつか存在する.紀伊半島中央部に分布する白亜紀四万十付加体の麦谷ユニットには,一部で蛇紋岩が分布することが知られている3.本ユニットはザクロ石帯よりも低変成度(パンペリー石-アクチノ閃石相)の弱変成付加体であり,この蛇紋岩がマントルウェッジ起源とは考えにくい.また,本ユニットを形成した海洋プレート(イザナギプレート)は,高速拡大海嶺で形成したため海底に蛇紋岩が露出していたとも考えにくい.そこで本研究では,麦谷ユニットに含まれる蛇紋岩とその周辺において野外調査を実施し蛇紋岩の産状を把握するとともに,蛇紋岩の鉱物化学組成を検討することで蛇紋岩の起源や成因を推定した.また,蛇紋岩との接触面には交代作用による反応帯が確認されている3.近年,プレート境界の蛇紋岩と交代作用で形成された岩石は,深部スロー地震の発生と関連していることが明らかになり4,プレート境界の地質体と蛇紋岩との間の加水-脱水反応・元素移動など交代作用の実態を解明することが重要になりつつある.本研究では,蛇紋岩と接触する玄武岩の全岩化学組成を検討し,麦谷ユニット中の玄武岩と蛇紋岩の間の交代作用についても検討した.

    【結果と考察】蛇紋岩は,幅数m~十数mで,麦谷ユニット中のメランジュ(泥質基質中に砂岩・珪長質凝灰岩・チャート・玄武岩の岩塊を伴う)の岩相境界面を切って分布しており,境界部には交代作用により幅数mのタルク岩が挟在する.境界周辺のメランジュも交代作用を受けており,特に玄武岩では著しい淡緑色化が確認される.蛇紋岩はメッシュ組織を示すリザダイト,Crスピネル,不透明鉱物からなり,北北西-南南東および北北東-南南西方向のタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈を伴う.一部の蛇紋岩は,東西走向で北に中角で傾斜する面構造を有しており,その方位は麦谷ユニットの片理面とほぼ平行である.メランジュとタルク岩の境界面はシャープであるのに対し,蛇紋岩とタルク岩の境界面は漸移的であり,タルク岩から蛇紋岩にかけて蛇紋岩中に含まれるタルク脈およびドロマイト-マグネサイト脈の密度が少なくなる傾向がある.蛇紋岩中のCrスピネルの化学組成を検討した結果,Cr/(Cr + Al)比が0.3–0.6程度,Mg/(Mg + Fe2+)比が0.5–0.7程度であり,この蛇紋岩は海洋リソスフェアを起源とする可能性が高い.また,この蛇紋岩がメランジュの構造を切っていること,麦谷ユニットの後退変成作用時に形成された片理面によってオーバープリントされている野外産状を考慮すると,蛇紋岩は,麦谷ユニットがプレート境界でメランジュ構造を形成した後,プレート境界から離れ上昇へと転換した時期より前に取り込まれたことを示唆する.交代作用を受けた淡緑色玄武岩とその影響がない濃緑色玄武岩溶岩を対象に全岩化学組成を検討した結果,淡緑色玄武岩は濃緑色玄武岩溶岩よりもMgに富んでいることがわかった.これは,蛇紋岩との接触に伴う交代作用でMgが付加されたことで説明できる.一方,Si濃度には変化がない.蛇紋岩とメランジュの境界部に挟在するタルク岩は,Crスピネルを含むこと,蛇紋岩と漸移関係であることから蛇紋岩のSi交代作用で形成されたといえ,タルク岩形成の上でメランジュ中のSiもしくは外部Si流体からの供給が必要である.今回の全岩化学組成の結果を考慮すると,タルク形成に関連した蛇紋岩のSi交代作用は外部Si流体によるものと推察される.[文献:1Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451–454. 2Agard, 2021, Earth-Sci. Rev., 214, 103517. 3志村ほか, 2020, 地質雑, 126, 383–399. 4Tarling et al., 2019, Nat. Geosci., 12, 1034–1042.]

  • 曽田 祐介, 森下 知晃, 奥平 敬元, 水上 知行
    セッションID: T1-P-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

    高圧型変成岩類を伴う片状アンチゴライト蛇紋岩は,沈み込み帯で観測される地震波異方性の原因とされ(Katayama et al., 2009など),マントルウェッジ下部での変形や流体の情報が記録されていることが期待される.本研究では,細粒かんらん石脈が発達した蛇紋岩に注目し,低いシリカ活動度流体による変かんらん石の形成とマントルウェッジ内の流体について考察する.

    【試料概要】

    今回注目した細粒かんらん石脈が発達したアンチゴライト蛇紋岩は,紀伊半島東部鳥羽地域の黒瀬川帯で断層沿いに分布する岩体で,らん閃石片岩やはんれい岩,単斜輝石岩のブロックが伴われている (Yokoyama 1987).アンチゴライト蛇紋岩は,露頭では塊状緻密な岩石で,主にアンチゴライトとかんらん石からなる.アンチゴライト化が弱い部分(現在は低温蛇紋石化)に輝石やその仮像が見られず原岩はダナイトと推定される.アンチゴライト蛇紋岩は面構造と線構造が発達したマイロナイト組織が発達し,板状アンチゴライトは強い結晶定向配列を持ち,かんらん石はポーフィロクラストをなす.細粒かんらん石脈は,かんらん石ポーフィロクラストの周りや,シアバンドに沿って網目状に分布し,面構造やかんらん石を切り,標本スケールのダナイトブロックの剪断面にも存在する.細粒かんらん石脈は,主に,かんらん石 (直径0.02 mm程度) と磁鉄鉱で構成される.細粒かんらん石は,等粒状で直線的な粒界を持ち光学的な定向性は持たない.

    【かんらん石の化学組成】

    かんらん石ポーフィロクラストは,Feに富んだリムを持つ累帯構造が見られ,細粒かんらん石脈近傍ではMgに富むようになり,光学顕微鏡下でその部分は,細粒な磁鉄鉱を伴って濁った産状になっている.

    かんらん石ポーフィロクラストのコアは, Fo値 (100*Mg/(Mg+Fe)) が90.7~91.2,NiOが0.37~0.39 wt%で,マントルかんらん岩の組成 (Takahashi, 1987) を示し,原岩ダナイトの組成が残存している.ポーフィロクラストのリムおよびアンチゴライトと片状組織をなすかんらん石は,Feに富むようになるが (Fo値;89.2~90.4), NiOはコアと大きくは変わらない (0.35~0.40 wt%).細粒かんらん石とその脈近傍のポーフィロクラストは,Mgに富み (Fo値;90.9~92.8),NiOは大きくばらつく (0.28~0.42 wt%).

    【考察】

    ポーフィロクラストのリムなどのFeに富むかんらん石は,アンチゴライト化の際の高いMg比を持つアンチゴライトとの平衡によると考えられる (Evans, 2010).一方,Mgに富む細粒かんらん石は,滑石や斜ヒューム石などを伴わないので,温度上昇によって形成された (Scambelluri et al., 1991) とは考えにくい.MSH系でダナイトの蛇紋岩化を考えると,アンチゴライトの形成にはSiO2の付加が必要で(例えば,Evans, 2010),蛇紋岩化において流体のシリカ活動度は重要とされている(Frost and Beard, 2007).Purple_Xを用いて,流体のシリカ活動と温度の関係を見ると,かんらん石+アンチゴライト→かんらん石の変化は,温度上昇ないし流体のシリカ活動度の低下を示しており,細粒かんらん石脈がシリカ活動度の低い流体によって形成された可能性を示している.Mizukami et al. (2014) は,マントルウェッジ内の二つのタイプの流体シリカ活動度と蛇紋岩鉱物組み合わせの存在を指摘しており,今回の細粒かんらん石脈は両タイプを跨ぐ流体移動を示唆している.

    【文献】

    Evans, 2010, Geology 38, 879-882. Frost and Beard, 2007, Journal of Petrology, 48, 1351-1368. Katayama et al., 2009, Nature 461, 1114-1117. Mizukami et al., 2014, Earth and Planetary Science Letters, 401, 148-158. Scambelluri et al., 1991, Journal of Metamorphic Geology, 9, 79-91. Takahashi et al., 1987, Okayama University, Series A, 9, 1-14. Yokoyama, 1987, Jour. Mineral. Petrol. Econ. Geol. 82, 319-335.

T2.南極研究の最前線
  • 堀川 恵司, 岩井 雅夫, Hillenbrand Claus-Dieter , Siddoway Christine , Halbers ...
    セッションID: T2-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    西南極氷床のアムンゼン海セクター,特にスウェイツ氷河とパインアイランド氷河は,他の南極地域と比べて速い速度で氷の質量損失が起こっている (Rignot et al., 2019)。これは,0.5–1.2℃の水温をもつ南極周極深層水(CDW; Dutrieux et al., 2014)が氷床下部から棚氷を溶かし,棚氷が持つ堰止効果を弱めていることに起因する (Wåhlin et al., 2021)。さらに,このセクターは他の氷河域と異なり,接地線付近に顕著な地形的高まりがなく,基盤岩が内陸に向かって傾斜している。そのため,CDWによる氷床の底面融解によって,スウェイツ氷河の接地線が内陸へ傾斜する基盤岩を越えると,暖水が約2000mの氷河下盆地まで流入することになり,自己持続的な氷床後退によって広範囲かつ急速な氷床融解が起こると示唆されている (Holt et al., 2006, Feldmann and Levermann, 2015, Seroussi et al., 2017,)。このような氷床融解シナリオは、将来の温暖化における海面上昇の長期的な大規模化および急速化に対する懸念を提起しているが,現時点では,鮮新世や更新世などの過去の温暖期において西南極氷床の崩壊を裏付ける明白な地質学的証拠は得られていない。

    本講演では,国際深海科学掘削計画(IODP)379次航海によって,西南極アムンゼン海で初めて掘削された鮮新世(533万年前–258万年前)の海底堆積物(U1532コア)の地球化学的データを中心に,氷床モデルによる解析と合わせて,鮮新世における西南極氷床の崩壊を明らかにしたので,それを紹介する。

    本研究では,U1532コアの砕屑物のSr-Nd-Pb同位体比分析に加え,西南極基盤岩岩石(n=100)と西南極縁辺域表層堆積物(n=42)の同位体比分析も網羅的に行い,砕屑物の起源解析を詳細に行った。その結果,4.65 Maから3.33 Maの期間に,14回の西南極氷床の融解イベントを明らかにした。そのうち,砕屑物の同位体比分析を行った3.33, 3.46, 3.6, 3.88, 4.65Maでは,内陸部のエルスワース・ウィットモア山脈に由来する砕屑物の同位体比シグナルが見られることから,これらの時期では西南極氷床の末端部が内陸まで大きく後退するほど大規模に融解していたことを明らかにした。また,14回確認される西南極氷床の融解は,この期間の氷期―間氷期サイクルよりも顕著に少ないことから,西南極氷床の融解が全ての間氷期で誘発されていたわけではないことが示唆された。さらに,3.6Maイベントなど,西南極氷床が大規模に融解していた時期では,その直前に全球規模の大きな寒冷化が起こっているという対応関係が見られる。寒冷期には海水準が低下することで,西南極氷床の氷床末端部も陸棚縁辺まで前進し,陸棚上に侵食に伴う氷河谷を形成したであろう。このような状況を考慮すると,鮮新世のいくつかの間氷期で生じた西南極氷床の大規模な融解は,高水温によるものではなく,CDWの流入を規定する大規模なトラフの存在に起因していたのではないかと考えられる。これは,CDWがその後の融氷期にスウェイツ氷河下部まで流入し,自己持続的な氷床後退をもたらすのに必須の地形条件になる。

    本研究は,鮮新世における西南極氷床の脆弱性を明らかにし,現在進行している地球温暖化においても,スウェイツ氷河の接地線の後退を契機に,鮮新世と同規模の氷床の質量損失が起こる可能性を示唆している。

    [引用文献]

    Rignot, E. et al. Proc Natl Acad Sci U S A 116, 1095–1103 (2019).Dutrieux, P. et al. Science 343, 174–178 (2014). Wåhlin, A. K. et al. Sci. Adv. 7, eabd7254 (2021). Holt, J. W. et al. Geophysical Research Letters 33, 2005GL025561 (2006). Seroussi, H. et al. Geophysical Research Letters 44, 6191–6199 (2017). Feldmann, J. & Levermann, A. Proc Natl Acad Sci U S A 112, 14191–14196 (2015).

  • 飯塚 睦, 関 宰, 板木 拓也
    セッションID: T2-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    過去の温暖期における南極氷床の動態を理解することは、南極氷床の質量損失に伴う将来の海水準変動を予測するための重要な手がかりとなる。これまでの研究では、現在よりも温暖な最終間氷期において、南極氷床が大幅に後退したことが示唆されている。しかし、最終間氷期における大規模な氷床後退の原因については、明らかになっていない。最近の観測によると、大陸棚への暖かい周極深層水(CDW)の流入による棚氷の底面融解が南極氷床の不安定化を引き起こし、氷床後退につながることが示唆されている。しかし、南大洋高緯度域(南緯60º以南)における水塊指標がないため、CDWの侵入の強化が大規模な氷床質量損失の主要因であったかどうかを検証することができていない。そこで、本研究では、水塊の特性と密接に関連している放散虫群集を用いて、新たな周極深層水(CDW)の流入の強弱に関する指標を開発し、CDWの流入強化と南極氷床後退の関連について議論した。まず、南極海高緯度域(南緯60º以南)から採取した表層堆積物とプランクトンネットの放散虫群集を分析し、南大洋高緯度域における水塊ごとの放散虫群集を特定した。さらに、その群集組成を用いて、CDWの流入の強弱を示す指標(radiolarian CDW index)を開発した。先行研究を含めた表層堆積物のradiolarian CDW indexは、現在のCDWの流入の分布と調和的であり、この指標の有用性を示した。さらに、この指標を海底堆積物コアGC1407に適用し、最終間氷期におけるCDW流入の強弱を復元した。その結果、最終間氷期にはCDWの流入が大幅に変動しており、南極氷床後退の時期とCDW流入強化の時期が一致していることがわかった。したがって、南極氷床の後退とCDW流入の強化が関連していることが示唆された。

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