日本地質学会学術大会講演要旨
Online ISSN : 2187-6665
Print ISSN : 1348-3935
ISSN-L : 1348-3935
第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T3-O-8
会議情報

T3(口頭)スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展
沈み込み帯の断層挙動の多様性をもたらす地質学的要因
*山口 飛鳥大熊 祐一奥田 花也山本 一平福地 里菜
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2010年ごろまで、沈み込み帯の地震現象は、温度に依存する「地震発生帯」の上下に安定すべり域が存在するというある仮想的な断面の中での議論が多かった。しかし、プレート境界浅部における超低周波地震、プレート境界深部の短期的/長期的スロースリップ・微動などの一連のスロー地震の発見や、2011年東北地方太平洋沖地震における海溝軸まで達するすべりの観測などにより、プレート境界断層の空間的な挙動は沈み込み帯によって異なるばかりか、一つの沈み込み帯の内部でも多様であることが明らかになってきた。本発表ではそのような沈み込み帯の断層挙動の多様性をもたらしうる地質学的な要因について概観する。

①地形的凹凸

Cloosによる海山アスペリティモデル (Cloos, 1992)の提唱以来、海山のような地形的凹凸の役割は注目されてきた。近年では、海山沈み込みは上盤プレートを破壊し、強度を下げることでクリープをもたらすとするWang and Bilek (2011) のモデルが注目されている。大熊ほか(本大会)は表面が高摩擦の海山、表面が低摩擦の海山、海山なしの3条件で砂箱実験を行い、海山沈み込みによる付加体の地形や断層発達には表面の摩擦条件が大きく影響することを示した。このことは、砂箱実験と対応するような臨界尖形モデルの適用可能深度では、海山のような海洋プレート上の地形的凹凸の役割は、断層面の凹凸を作るだけでなく、周囲と摩擦特性の異なる物質をプレート境界に強制的に持ち込む効果も大きいことを強く示唆する。

②物質ごとの摩擦挙動と続成反応

日本海溝における緊急掘削(JFAST)で得られたIODP Site C0019のスメクタイトに富むプレート境界断層や、ジュラ紀付加体のチャート中に見られる前期三畳紀の層準規制的なデコルマなどは、沈み込む物質の摩擦強度がプレート境界断層の発達位置を規定することを示唆している。物質ごとの摩擦の安定性(a-b)についてはIkari et al. (2011)などでまとめられているものの、実際の沈み込み物質や、温度・有効圧・速度依存性については系統的な実験が途上である。また、泥質岩のスメクタイト-イライト転移に加え、変質玄武岩のサポナイト-緑泥石、遠洋性珪質堆積物のオパール-石英、火山灰のガラス-スメクタイトなど、続成反応に伴う鉱物相の変化が重要であると考えられる。

③脆性-延性遷移と温度

四万十帯を対象とした研究 (Kimura et al., 2012など) では延性変形に関する議論はほとんどなされてこなかったが、その後、Pallazin et al. (2016)やTully et al. (2020) により四万十帯およびその深部の岩石を用いて沈み込み帯の強度断面が描かれている。近年、海嶺沈み込みと関連して形成されたと考えられる沖縄県慶良間諸島の約100Maの付加体で、礫岩を原岩とするマイロナイトが発見された(山本ほか、投稿中)。四万十帯において明らかにマイロナイトと認定される岩石の発見はこれまでになく、海嶺沈み込みに伴う高い地温勾配下の沈み込み帯におけるレオロジーを制約するものとして期待される。

④流体

スロー地震の発生に対する流体の関与は沈み込み帯浅部(Tonegawa et al., 2021など)・深部(Kano et al., 2019など)ともにさまざまな観測から確実視されており、四万十帯の高変成部における鉱物脈の解析結果とも整合的である(Ujiie et al., 2018など)。変形における流体の役割は第一に有効応力を下げることであり、流体の存在がもたらす低い有効応力の中での上記①~③のバリエーションが重要であると考えられる。一方で流体と岩石の反応や流体からの鉱物沈殿が断層物質の摩擦や断層内の間隙流体圧を制御する可能性もあり、その発生条件の検討も必要である。

文献

Cloos, 1992, Geology, 20, 601-604; Ikari et al., 2011, Geology, 39, 83-86; Kano et al., 2019, Sci. Rep., 25, 9270; Kimura et al., 2012, Tectonophysics, 568, 25-38; Palazzin et al., 2016, Tectonophysics, 687, 28-43; Tonegawa et al., 2021, EPS, 73, 89; Tulley et al., 2020, Sci. Adv., 6, eaba1529; Ujiie et al., 2018, GRL, 45, 5371-5379; Wang and Bilek, 2011, Geology, 39, 819-822

著者関連情報
© 2021 日本地質学会
前の記事 次の記事
feedback
Top