日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: T4-O-5
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T4(口頭)二次改変された過去の弧-海溝系の復元:日本およびその他の例
オホーツク海南縁の白亜紀島弧-海溝系の地質:常呂帯仁頃層群付加体(北海道)の砕屑物組成からの制約
*植田 勇人奈良 幸明阿久津 優太
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抄録

【はじめに】北海道東部の常呂帯仁頃層群は,オホーツク海南縁に形成された付加体と考えられている.オホーツク海は20 km内外の薄い大陸性地殻を有するが,ジュラ紀以降の岩石(おもに花崗岩類や苦鉄質~珪長質火山岩)しかドレッジされておらず,その起源が不明な海盆である.同海盆の北や西には陸弧(オホーツク-チュコトカ火山帯や東シホテアリン火山帯)や白亜紀付加体があるため,白亜紀(~古第三紀?)には,オホーツク海はユーラシア大陸とも,太平洋の海洋プレート(イザナギプレート)とも独立したプレートであった可能性が高い.したがってその成因は,中生代の日本列島周辺のプレート配置や新生代の衝突テクトニクスに大きな制約を与えうる.本発表では,常呂帯仁頃層群で認識された海溝充填堆積物の産状と砕屑物組成に基づいて,オホーツク海の成因や地史について議論したい.

【仁頃層群の海溝堆積物】仁頃層群は,玄武岩(MORB~OIB)や火山砕屑岩,赤色泥岩とチャートを主体とする付加体であり,黒色泥岩や石英長石質砂岩を全く含まない.このため,付加体でありながら海溝充填堆積物が充分認識されてこなかった.我々は,玄武岩に伴われるトラカイトからジュラ紀のジルコンU-Pb年代を得た一方で,従来海山玄武岩に伴う再堆積性の火砕岩類として扱われてきた緑色の火山砕屑性砂岩から,チャート(ジュラ紀末~前期白亜紀)より若い後期白亜紀の砕屑性ジルコンを得た.また,EDS面分析やLA-ICPMSによって,火山岩片が本質的に火山弧起源の組成を持つことが示された.以上から,仁頃層群の緑色砂岩は,海山のエピクラスタイトでなはく,海溝充填堆積物であったと評価される.

【砕屑物組成】仁頃層群の砂岩はきわめて岩片質で,玄武岩から流紋岩までの幅広い組成の火山岩片を主体とし,しばしば火山ガラス片や軽石片を多量に含む.これらに加え,角閃岩~変斑れい岩やトーナル岩片を様々な割合で含むことがある.砂岩に伴われる赤色泥岩はしばしば含礫泥岩状であり,玄武岩やドレライトのほか角閃岩~変斑れい岩やトーナル岩を角礫として含む.赤色泥岩を伴う混在相中には,メートルサイズのトーナル岩のブロックも見られた.砂岩中の火山岩片と含礫泥岩中の変成岩片は島弧火山岩の特徴を示す一方,含礫泥岩中の火山岩片はMORBに類似した組成を示した.トーナル岩ブロックからはジュラ紀末のジルコンU-Pb年代が得られた.砂岩は砕屑性ジルコンにきわめて乏しいが,80–100 Maのジルコンが最若集団をつくるほか,後期ジュラ紀から前期白亜紀のジルコンもわずかに含まれる.

【後背地】 含礫泥岩と砂岩では砕屑物の組成や粒度に違いがあるため,少なくとも2種類の後背地が推定される.一つ目はタービダイト砂岩の給源としての後期白亜紀火山弧である.ジュラ紀より古い砕屑性ジルコンを欠くなどユーラシア大陸の古期岩類の関与が認められないことや,苦鉄質~珪長質の多様な火山岩で構成される点は,オホーツク海のドレッジと共通する.そのため,この火山弧はオホーツク海の古千島弧であったと対比できる.2つ目は含礫泥岩の給源としての海溝陸側斜面であり,MORB的な火山岩と角閃岩化した島弧火成岩,および古期トーナル岩が露出していたと推定される.IBM海溝陸側斜面には,島弧形成初期の岩石・層序が露出することが知られる.そのため,海溝陸側斜面から供給されたと推定される仁頃層群の含礫泥岩中の礫やブロックも,オホーツク海の古千島弧形成初期の岩石である可能性がある.それらの岩石は,古千島弧の基盤が元来は海洋地殻的であり,ジュラ紀末には既に島弧火成活動がおこり,後期白亜紀にかけて火成弧として成熟していった生い立ちを示唆している.

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