日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R6-O-4
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R6(口頭)ジオパーク
ビッグヒストリー概念のジオパークへの適用
*天野 一男
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抄録

「ビッグヒストリー」は,全ての歴史を宇宙の歴史の中で扱う研究・教育法を指す用語として,Christian(1991)によって提唱された.Christianは1989年からオーストラリアのマッコリ−大学でビッグヒストリーの講義を開講していた.その後,その内容はChristian(2004)の大著にまとめられた.ビッグヒストリー研究・教育の基本的姿勢は,138億年の宇宙の開闢からはじまってその未来までの時間軸の中に人類の歴史を位置づける点が特徴である(クリスチャン,2019; クリスチャンほか2名,2016など).H.G.ウェルズ(1966)の歴史記述手法の現代版と言える.

 一方地質学では,ジオストーリーを明らかにするために,宇宙形成から現在までの時間軸の設定を,近代地質学成立以来重要な課題として追求されてきた.現在では放射性同位元素や古地磁気研究等の技術的発展により高い精度できめられるようになった(日本地質学会, 2007).地質学がビッグヒストリー研究・教育分野ではたす役割は大きい.

 ジオパークは,大地(ジオ)の上に広がる動植物や生態系(エコ)の中での私たち人(ヒト)の生活や文化や産業・歴史を楽しみながら学ぶことを目標としている(https://geopark.jp/about/).これはまさにビッグヒストリーの目指す方向と一致している.本講演では,茨城県北ジオパーク構想のジオストーリーに,ビッグヒストリーの考え方を導入しオリジンストーリーを作成した実践例を紹介する(水戸市立博物館, 2020).概要は以下の通り.第1章:地球と太陽系の誕生(ここでは宇宙の誕生からストーリーを始めた),第2章:先カンブリア時代の地球と水戸,第3章:古生代の地球と水戸,第4章:中生代の地球と水戸,第5章:新生代の地球と水戸Ⅰ(古・新第三紀),第6章:新生代の地球と水戸(第四紀),第7章:未来の地球と水戸.

 ビッグヒストリーにより地球の未来を語る場合,「人新世」の枠組みにもとづいた展開も必要になる.人新世は,人類が地球環境に決定的な影響を与えた時代として提唱されている新しい時代区分である.現時点において地質学界では正式の時代区分としては認定されていないが,ビッグヒストリーの観点から地球の未来を語る場合,人新世の枠組みは無視できない.人新世の始まりは,人の経済活動等が地球環境に大きな影響を及ぼしはじめた1960年前後におかれる可能性がある.人新世の境界に関連した出来事は,ジオパークにおいても観察の対象となり得る.それは多くの場合,環境問題の負の遺産である場合が多く,ジオパークのツーリズムの中で,「ダークツーリズム」として展開される.講演では,茨城県北ジオパークにおけるダークツーリズムの例として,太平洋戦争中の風船爆弾をテーマとしたツアーを取り上げる(天野・茨城県北ジオパーク構想ジオネット北茨城, 2020).

[引用文献]

・天野一男・茨城県北ジオパーク構想ジオネット北茨城, 2020, 茨城県北ジオパーク構想における風船爆弾ツアー.日本地球惑星科学連合2020年大会要旨.(https://confit.atlas.jp/guide/event/jpgu2020/subject/HCG34-P02/programpage)

・Christian, D., 1991, The Case for “Big History”. J. World History, 2, 223-238.

・Christian, D., 2004, Maps of Time-An Introduction to Big History. Univ. Calif. Press, 642pp.

・クリスチャン,D., 2019, オリジン・ストーリー 138億年全史.筑摩書房, 385pp.(柴田裕之訳)

・クリスチャン,D.ほか2名, 2016, ビッグヒストリー.明石書店, 400pp.(石井克弥ほか2名訳)

・水戸市立博物館, 2020, 水戸の大地の成り立ち−水戸140億年史.水戸市立博物館特別展図録,79pp.

・日本地質学会, 2017, はじめての地質学.ベレ出版, 247pp.

・ウェルズ,H.G., 1966, 世界史概観 上・下.岩波書店,223pp.,235pp.(長谷部文雄・安部智二訳)

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