日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R8-O-4
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R8(口頭)海洋地質
沖縄島,残波岬北東沖で採取されたモモイロサンゴ遺骸の14C年代とその地質学的意義
*公文 富士夫徳山 英一奥村 知世新井 政良荒井 晃作
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抄録

沖縄島中部の北西側の海域では、本部半島から伊江島にかけての高まりから徐々に南西側に深くなる,水深200m~500mほどの緩斜面が広がる.この緩斜面下では,凹凸地形を呈する音響的基盤を,辺戸沖層群およびその上位の表層堆積物(名護沖層群)が薄く覆うことが報告されている(佐藤ほか,2011;荒井ほか,2015).音響的基盤は海底の凸部に連続し、相対的に硬い地層が海底に露出していることを示唆している.その凸部の周囲にはしばしば凹地が発達することも報告されている.

このような凹地で発見されたモモイロサンゴ(Pleurocorallium elatius)遺骸(骨軸)に対して14C年代測定(2標本,3試料)を行ったところ,最終氷期の寒冷期にあたる2万年前と3.3万年前を示す年代値が得られた(Table1).遺骸の表面には小さな孔が無数に見られ,死後相当の時間を経ていることは確かである.一方,表層から数mm以深では緻密な組織が残されており,年代測定は緻密な部分に対して行われた.同一標本から分取した2試料が近い年代値を示すことからも,測定された年代値はサンゴの成長した年代を示す可能性が高く,次のような堆積のシナリオが推定される.

2~3万年ほど前の氷期に,海底の高まりに付着して成長していた宝石サンゴが,死後に落下して,斜面下に集積した.その後,後氷期の海水準の上昇によって,名護湾層の極細粒砂~シルトの堆積する水理環境に変わったものの,海底の高まりの周囲だけは局所的な流速の増大によって懸濁性の堆積物が沈積しにくい場になった結果,凹地が形成されたもの(obstacle scour:佐藤ほか,2011)と考えられる.今回の年代測定によって,凹地の中はほぼ無堆積の堆積環境が数万年間以上にわたって継続していることが確認された.

一方,年代を測定したモモイロサンゴは,八放サンゴ亜綱サンゴ科に属し,水深100~500mの深い海域に生息する.サンゴ科のサンゴ類には緻密な骨軸を形成するものが多くあり,骨軸を研磨・加工することによって宝飾品として利用され,珍重されてきた.そのため,この仲間は宝石サンゴとも呼ばれ,漁業の対象となっている.宝石サンゴ漁業では,生きた状態で採取されたもの(生木:せいき)と,遺骸の状態で採取されたもの(枯木:かれき)とが区別され、両者ともに市場に流通している。漁獲量においては,枯れ木が6~8割を占めている(2012年~2016年:日本珊瑚商工協同組合資料).今回の年代測定結果は,足摺沖の場合と同様に(Okumura et al., 2021),枯木と呼ばれてきた宝石サンゴ資源の一部が,過去に蓄積された化石資源であることを示唆している.このような知見の蓄積が宝石サンゴの資源量評価の一助になると考えられる.

引用文献

荒井晃作・佐藤智之・井上卓彦,2015,海洋地質図,no. 85, 産総研地質調査総合センター . Okumura, T., Kumon, F.,and Tokuyama, H., 2021, Radiocorbon, 63, 195-212. 佐藤智之・荒井晃作・井上卓彦,2011,産総研地質調査総合センター速報,no.55, 35-41.

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