日本地質学会学術大会講演要旨
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第128学術大会(2021名古屋オンライン)
セッションID: R19-P-3
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R19(ポスター)応用地質学一般およびノンテクトニック構造
秋田県横手市の古海底地すべり露頭とシリカ鉱物相
*林 宏樹
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抄録

はじめに

 断層が構造性の断層であるか非構造性の断層であるかを特定することは,その断層が将来に活動するかどうかを判断する上で重要である.近年,国内において断層破砕物質の面構造や粘土鉱物含有量を用いた断層面と地すべり面の判別の試みがなされているが(脇坂ほか, 2012;中村, 2017),信頼性の高い評価手法は確立していない.また,これらの研究対象は現世の陸上地すべりであり,新第三紀など地質時代に発生した海底地すべり(古海底地すべり)のすべり面と構造性の断層面との判別に関する研究事例はない.

 今回,すべり面の鉱物学的性質から構造性の断層面と古海底地すべり面との判別手法を検討することを目的に,秋田県横手市で報告例のある新第三紀の古海底地すべり及び出羽丘陵北部の正断層(藤岡ほか, 1976)を対象に調査を行った.

横手市の古海底地すべり露頭(新露頭)と出羽丘陵北部の断層露頭

 秋田県横手市南部には層状珪質泥岩と白色凝灰岩の互層からなる後期中新統~鮮新統の山内層及び相野々層が分布し,それぞれ秋田-山形堆積盆の女川層及び船川層に対比される.東方の真昼山地における緩い褶曲構造,横手市南部の盆地東縁に発達する層状泥岩の過褶曲等の多様な構造,さらに盆地内で泥岩角礫を取り込んだ凝灰岩が見られることから,阿部ほか(2005)はこれらの構造の成因を凝灰岩形成時の海底地すべりによるものと考えた.

 今回,横手市南部において層状珪質泥岩と白色凝灰岩の互層からなる2ヶ所の新露頭を記載した.これらの露頭は向斜翼部の階段状すべり面,上盤側に多くの小断層が発達し粘土層を伴う層面すべり,地層の急激な褶曲・逆転といった特徴を示し,いずれも古海底地すべりによるものと推定される.

 また,藤岡ほか(1976)で報告されている出羽丘陵北部の断層について断層トレース上で露頭探索を行い,ほぼ直立した層状黒色泥岩中に最大で幅数十cmのガウジを伴う断層を記載した.本断層は南北走向でほぼ鉛直であり,北に36°プランジした条線を示すほか,地層の引きずりから西側低下の変位が推定される.

鉱物組成

 横手市の露頭及び断層露頭について,各すべり面の破砕部又はガウジと整然層の試料をそれぞれ複数採取し,XRDによる鉱物組成の分析を行った(図).分析は新潟大学理学部のRigaku製ultima IVで行い,CuKα線源,管電圧40kV,管電流40mAで岩石試料粉末の不定方位分析を行った.鉱物種の同定に当たってはSEM-EDSによる元素分析結果も参考とした.

 横手市の露頭の珪質泥岩はほぼ石英のみからなり,凝灰質な部分は少量のオパールC,斜長石及び粘土鉱物を含む.凝灰岩は石英,オパールC,斜長石,斜プチロル沸石及び粘土鉱物からなる.両岩相ともすべり面の破砕部分では全体的に石英が支配的となるが,原岩が凝灰質な場合には粘土鉱物の増加,斜長石及び斜プチロル沸石の減少,オパールCのピークの消失といった鉱物組成の変化が見られる.

 断層露頭の黒色泥岩はオパールCないしオパールCTと石英のピークが顕著であり,有意量の粘土鉱物と少量の斜長石及び斜プチロル沸石を伴う.ガウジ部分では粘土鉱物が支配的となるが,それ以外の鉱物組成に大きな違いは見られない.

考察とまとめ

 横手市の古海底地すべり露頭では凝灰岩(整然層)中のオパールCがすべり面破砕部で消失したが,出羽丘陵の構造性断層(整然層・ガウジ)でそのような傾向は確認されなかった.この原因は検討中であるが,①高温流体の流入等による温度上昇でオパールC又はオパールCTの石英への相変化が促進された,②すべり面が水みちとなり続成作用中の珪質セメントの形成が阻害された,③天水によりオパールCが選択的に溶脱した等の可能性が考えられる.

 以上のように,すべり面(断層)破砕部分のシリカ鉱物相を古海底地すべり面と構造性断層の判別指標として利用できる可能性が示された.今後は詳細な鉱物相分布や微細組織の把握,成因の解明,異なる岩相への適用性等を検討する予定である.

文献

脇坂ほか,2012,応用地質,52,6,231-247. 中村,2017,地すべり学会誌,54,2,37-45. 藤岡ほか,1976,5万分の1図幅,羽後和田地域の地質. 阿部ほか,2005,地すべり学会誌,41,5,447-457.

図 各露頭試料のXRD分析結果

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© 2021 日本地質学会
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