日本地質学会学術大会講演要旨
Online ISSN : 2187-6665
Print ISSN : 1348-3935
ISSN-L : 1348-3935
第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: G3-O-5
会議情報

G3. ジェネラル-サブセッション3 環境地質
産業廃棄物最終処分場の立地条件としての地下水盆管理と水循環について
*田村 嘉之
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

はじめに

産業廃棄物最終処分場の設置については、「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」において技術上の基準が定められている。その基準に地質環境に関係する立地条件はない。その他、「千葉県廃棄物処理施設の設置及び維持管理に関する指導要綱」に廃棄物処理施設の立地等に関する基準がある。その基準のうち、地質に関係する立地環境等としては、急傾斜地崩壊危険区域、砂防指定地、地すべり防止区域を含まない等の項目がある。また、地下水などの水環境については、「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」で評価するが、立地基準とはなっていない。

一方、地下水を含む水循環としての法律として、水循環基本法の一部が改正され、令和3年6月16日に公布、施行された。今回の法改正により、地下水の適正な保全及び利用を図るために必要な措置を講ずるよう努める規定が追加された。その他、「水源地域保全条例」、「水道水源保護条例」により規制している自治体があり(一般財団法人地方自治研究機構webサイトhttp://www.rilg.or.jp/htdocs/ の条例の動き参照)、千葉県では、我孫子市、君津市等で「水道水源保護条例」を制定している。条例では、対象となる事業としてゴルフ場、最終処分場等を対象とし、排水基準による規制のみで、立地規制とはなっていない。本発表では千葉県内の産業廃棄物最終処分場を取り巻く地質環境の概況、地質災害との関連性及び埋立地の維持管理上で発生している問題点について述べる。

概況

千葉県における産業廃棄物最終処分場は、図-1に示したように9箇所ある(https://www.pref.chiba.lg.jp/haishi/shorigyou/meibo.html)。安定型、管理型の設置位置は、人口密集地である千葉県の東京湾岸、東葛飾でなく、房総半島の南側に集中している。このうち、管理型処分場の立地している地質環境を以下に示す。

管理型1

地形:標高215m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場の北側隣接地に地すべり地形がある。

地質:上総層群黄和田層。地質構造は概ね北西へ20~10度傾斜している単斜構造。処分場北西側と東側には向斜軸、また北西側向斜軸の北側に低角な断層がある。

水文環境:処分場は湊川に流入する支流である高宕川の上流部である。処分場周辺の水道水源は表流水で、処分場から北西へ約10kmの地区では地下水が水道水源である。

管理型2

地形:標高90m前後の上総丘陵及び南北方向に延びる谷地形。処分場付近に地すべり地形、急傾斜地の区域はない。

地質:上総層群梅ヶ瀬層。地質構造は概ね北西へ約12度傾斜している単斜構造。

水文環境:処分場は小櫃川に流入する支流の最上流部である。また、処分場から北へ約6kmの位置には平成の名水百選の1つである久留里の生きた水として知られる自噴井戸群がある。

管理型3

地形:標高58m前後の埋立地。もとは南側に開いた谷地形である。処分場南側には海食崖がある。

地質:下総層群香取層、犬吠層群名洗層、飯岡層。地質構造は、北西方向へ緩く傾斜している単斜構造で、上位の香取層とは不整合関係にある。

水文環境:もとは谷地形で、水路が南側に向かっていたと推定される。処分場のある自治体の水道水源は全て表流水である。

管理型4

地形:東京湾岸部の標高1m前後の埋立地。

地質:人工地層。震度5強の地震で処分場のほとんどの場所で液状化として“ややしやすい”と予測されている。

水文環境:処分場の周囲は東京湾である。処分場は高潮浸水想定区域図より、1.0m~3.0m未満の浸水予測が分布している。また、津波浸水予測図より、房総半島東方沖地震で50~80cm程度の浸水が予測されている。

管理型処分場の諸問題

現在、千葉県で稼働している管理型最終処分場のうち、管理型1及び管理型2で、高濃度の塩化物イオンがモニタリング井戸で検出された。

管理型1は、不透水性の地層である黄和田層を埋立底面とし、人工的に構築した遮水構造物がない状態で、廃棄物の埋立が行われている。モニタリング井戸で高濃度の塩化物イオンが検出された原因は、埋立層中の保有水が黄和田層の火山灰鍵層Kd38が透水性がよいため、火山灰層を経由して処分場外に流出したとされている。現在、埋立地の下流側に揚水井戸を多数設置して、高濃度の塩化物イオンを含む地下水が流出を防止する対策を講じている。

管理型2は、埋立底面に遮水シート等を人工的に構築した遮水構造と漏洩検知システムも備えている。モニタリング井戸で高濃度の塩化物イオンが検出された原因は、埋立上面から保有水が土堰堤等から埋立地外へ流出したとされている。本事例では一時的な保有水の流出と位置付けられ、モニタリング井戸による継続した水質監視のみで対応している。

著者関連情報
© 2022 日本地質学会
前の記事 次の記事
feedback
Top