日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T1-O-17
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T1(口頭).変成岩とテクトニクス
炭質物ラマンスペクトルから被熱温度を推定する際のピークフィッティングの自動化
*金木 俊也纐纈 佑衣
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抄録

地球内部における岩石の続成・変成過程を調べる上で、被熱温度は重要な情報である。炭質物は、堆積岩や変成岩中に普遍的に存在し、力学的な変形を受けていない場合は周囲の温度に対してその熟成度を不可逆的に変化させることから、有効な温度指標として広く用いられてきた。特に2000年代以降、ラマン分光法を用いた温度計の開発が盛んに行われており、その一つにKouketsu et al. (2014)が提案した地質温度計がある。彼らの温度計では、測定した炭質物ラマンスペクトルに対して疑フォークト関数およびローレンツ関数を用いた非線形最小二乗法によるピークフィッティングを行うことで、モデルパラメータの一つであるD1もしくはD2バンドの半値幅と被熱温度との線形関係から温度を推定することができる。しかし、ピークフィッティングを行う際のモデルパラメータの初期値を解析者が主観に基づいて設定する必要があるため、得られる結果が解析者に依存し、また解析に多大な時間と労力が必要であるという問題があった。 これらの問題を解決するため、本研究ではPythonを用いた炭質物ラマンスペクトルの自動ピークフィッティング手法を開発した。非線形最小二乗フィッティングの実行には、scipy.optimize.curve_fit関数を用いた。開発したコードを用いてKouketsu et al. (2014)が温度計を構築する際に用いたデータを再解析した結果、Kouketsu et al. (2014)と調和的な結果を得た。再解析で得られたピークの半値幅と被熱温度との関係が線形モデルで説明できると仮定し、それぞれの誤差を考慮した重み付きデミング回帰を行った結果、温度計が適用可能な温度範囲(150から400 °C)での95%予測区間は30から35 °C程度であることがわかった。

コードが他のデータセットに適用可能かを調べるため、Nakamura et al. (2019)およびKouketsu et al. (2021)で測定された炭質物ラマンスペクトルについてもコードを用いた再解析を行った。得られた結果は先行研究の報告値と95%予測区間の範囲内で調和的であったことから、本コードはKouketsu et al. (2014)のデータ以外にも適用可能であることが確認された。

Kouketsu et al. (2014)は、測定した炭質物ラマンスペクトルの特徴に応じて、Fitting AからGまでの七種類のフィッティング手法を使い分けることを提案している。このうち、温度計の適用範囲である150から400 °Cにおいては、Fitting CからGの計五種類の手法が用いられる。しかし、フィッティング手法の分類それ自体が解析者の主観を多分に含むため、本コードを用いて解析を行った場合でも、得られる解の一意性が数値誤差の範囲で担保されないという問題が残されていた。そこで、Kouketsu et al. (2014)のデータについて、Fitting CからGまでの五種類のフィッティング手法のいずれかを採用したコードによる自動解析を実施した。その結果、D2バンドの半値幅から計算された被熱温度は、採用する手法によってその値が95%予測区間を超えて変動することがわかった。D1バンドの半値幅から計算された被熱温度は、Fitting CもしくはDを用いた場合とFitting EからGのいずれかを用いた場合で、95%予測区間に収まらない差が存在することがわかった。ただし、後者の場合に推定された被熱温度は、先行研究での報告値と95%予測区間の範囲で調和的であった。これらの結果から、Fitting E・F・Gのいずれかの手法を採用したコードによる自動解析を行い、D1バンドの半値幅から被熱温度を計算すれば、フィッティング手法の分類による主観性が推定温度の誤差に及ぼす影響は支配的でなくなることが明らかとなった。

以上をまとめると、本研究では、Kouketsu et al. (2014)の炭質物ラマン温度計を用いるための自動解析コードを開発した。D1もしくはD2バンドの半値幅から計算した被熱温度の95%予測誤差は30から35 °Cであった。本コードはKouketsu et al. (2014)以外のデータにも適用可能であり、Fitting E・F・Gのいずれかの手法を採用したコードを用いてD1バンドの半値幅から温度を推定する場合、どの手法を用いても解析結果に重大な影響を及ぼさないことがわかった。

参考文献

Kouketsu et al. (2014) Island Arc

Kouketsu et al. (2021) Journal of Metamorphic Geology

Nakamura et al. (2019) Island Arc

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