日本地質学会学術大会講演要旨
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第129年学術大会(2022東京・早稲田)
セッションID: T2-O-1
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T2(口頭).新生界地質から読み解く西南日本弧の成立—付加体形成から背弧拡大まで
(招待講演)新生代グローバルテクトニクス論争と西南日本  -海嶺沈み込み、海盆拡大、島弧体系の成立-
*木村 学橋本 善孝山口 飛鳥
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抄録

アジア大陸東縁、西太平洋縁辺に位置する日本列島の形成過程についてのプレートテクトニクスに基づく研究は、プレートテクトニクスの理論体系が成立して直ぐに始まった。その初期の俯瞰的描像は、Uyeda and Miyashiro (1974)に始まる。彼らは、白亜紀以降のテクトニクスの変遷を太平洋におけるプレートの変遷と結びつけ、列島形成を論じた。時系列的因果関係も示唆しつつ、①白亜紀末のクラ・太平洋海嶺の沈み込み、②同、日本海の拡大、③始新世の太平洋プレートの運動方向の変化、④同、伊豆小笠原マリアナ列島の成立、⑤中新世の古南海トラフにおける太平洋プレートからフィリピン海プレートへの転換と現在の島弧海溝系の成立が示された。

 プレートテクトニクスの提案直後から、日本列島の新たな地質観察・観測や物理観測によってこれらを検証する研究と、グローバルな包括的テクトニクスを支配するダイナミクスの旺盛な研究が1990年代まで進行し、Maruyama et al. (1997)やTaira (2001)に代表される総括がされた。しかしポストプレートテクトニクスブルースとでも呼ばれた研究停滞期が日本でも訪れた。列島論も観測・実験・理論の大規模再蓄積を要する時期に入ったのである。

 一方、この時期には1995年の阪神淡路大震災を契機に列島に設置された世界最稠密な広帯域地震計網、汎地球測位システムなど地球物理的観測網とスパコン計算技術の発達、超深度まで掘削可能な「ちきゅう」の就航と南海地震発生帯掘削計画(2007~)などの進展が見られた。その中で起こった2011年の東日本大震災は、現在のダイナミクス理解に飛躍をもたらしている。「斉一主義」の科学観に基づく列島の精緻な成立過程の議論が、列島論の持つグローバルな一般性と素過程の研究と結びつき、新たな展開の段階に入っていると言える。

 1970年代に提案され、多くの議論がされた過去のテクトニックな事象は、①白亜紀末期ではなく、暁-始新世におけるイザナギ・太平洋海嶺の沈み込み、 ②ハワイホットスポット自体の移動も考慮した始新世における太平洋プレートの運動の変化、③ 始新世におけるフィリピン海プレートの成立とその後の拡大・回転移動、④漸新・中新世における日本海拡大と日本列島の回転、 ⑤中期中新世の古南海トラフにおける太平洋プレートからフィリピン海プレートへの沈み込むプレートの転換と前弧異常火成活動、⑥ 後期中新世におけるフィリピン海プレートの沈み込み再開と鮮新・更新世における側方圧縮テクトニクスの本格化、と整理・再構成されるように思われる。このそれぞれについて、新たなデータ発掘と議論が続いている。

 これらの事象の原因は主に、太平洋側の海洋プレートと上盤に位置する日本列島との相互作用として議論されているが、始新世はインド大陸がアジア大陸と衝突を開始し、アジア北東縁に及ぶ大変形が開始された時期でもある。ユーラシア大陸のマイクロプレート化やリソスフェア下のアセノスフェアと下部マントルに及ぶダイナミクスの観点からも理解する必要があろう。

引用文献

Maruyama, S., et al. (1997). Island arc, 6(1), 121-142; Taira, A. (2001). Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 29(1), 109-134; Uyeda, S., & Miyashiro, A. (1974). Geological Society of America Bulletin, 85(7), 1159-1170.

筆者らの関連する参考論文

Kimura, G. Hashimoto, Y. et al. (2014) Tectonics, 33(7), 1219-1238; Kimura, G., Koge, H., & Tsuji, T. (2018). Progress in Earth and Planetary Science, 5(1), 1-12; Kimura, G., Yamaguchi, A., & Kinoshita, M. (2018). Geol Soc Am Spec Paper, 534, 87-99. Kimura, G., et al. (2019). Island Arc, 28(5), e12320. 木村学 他 (2018). 地質学雑誌, 124(1), 47-65.

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© 2022 日本地質学会
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