日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T8-O-4
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T8.フィールドデータにおける応力逆解析総決算
[招待講演]微小地震の震源メカニズム解に基づく日本列島内陸部のストレスマップ
【ハイライト講演】
*内出 崇彦椎名 高裕今西 和俊
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抄録

地殻応力は地震を含む地殻変動の原動力であり、地震発生予測やテクトニクスの理解の手掛かりとなる物理量である。現在の応力場は、その場観測によって調べられているほか、地震の震源メカニズム解を用いた推定も行われている。前者は特定地点のことが精度よくわかる一方、後者は地震発生深度における広範囲の代表的な応力場を知ることができるという利点がある。ただし、後者では応力軸方向と応力比を推定することはできるが、応力の大きさを求めることができないという欠点もある。以下、「応力軸方向と応力比」を単に「応力」と記す。応力分布を示した地図として代表的なのは、世界各地での研究成果をまとめたWorld Stress Map(例えば、Heidbach et al., 2018)である。わが国でも、防災科学技術研究所の広帯域地震観測網(F-net)によって概ねマグニチュード(M)3.5以上の地震を対象にして得られたセントロイドモーメントテンソル(CMT)解を用いて、応力分布が推定されている(Terakawa & Matsu'ura, 2010, 2023)。より詳細な応力分布を得るためには、より小さい地震を解析する必要がある。Yukutake et al.(2015)は、地震波形から手動で読み取ったP波初動極性に基づいてM2以上の地震の震源メカニズム解を求め、それを用いて応力場を推定した。この推定では、P波初動極性の読み取りに膨大な人手と時間を要するという問題がある。そこで、Uchide(2020)はP波初動極性の読み取りを深層学習により自動化した。Uchide et al.(2022)はこの深層学習モデルを用いて、日本内陸及び日本近海(海岸線から50 km以内)の20 km以浅で、2003年から2020年までに発生したM0.5以上の21万件を超える地震の震源メカニズム解を推定した。それに基づいて、応力インバージョン解析を行った。グリッド間隔は緯度・経度ともに0.2度(概ね20 km)である。得られた応力場情報は、産総研地殻応力場データベース(https://gbank.gsj.jp/crstress/)で公開している。得られた応力場は、日本列島が概ね東西圧縮である、東北地方・関東地方の太平洋側の一部では南北圧縮であるといった、既に知られている性質を示すほか、興味深い特徴があちこちに見られる。 別府・島原地溝帯、四国の中央構造線、糸魚川静岡構造線南端部(静岡県内)などといった地質境界を境にして、水平主圧縮軸方位が異なるケースが見られた。北上高地では、南部は南北圧縮、北部は東西圧縮となっているが、その境界が三陸海岸におけるリアス海岸の有無によく対応しているように見える。これらの空間的な対応を生み出したメカニズムはまだ不明である。2011年東北地方太平洋沖地震による影響も見積もった。同地震の前後の期間でそれぞれ応力インバージョン解析を行った。その結果、応力軸方位の有意な変化が見られたのは、2008年岩手・宮城内陸地震の震源周辺と釜石付近など、一部の地域にとどまり、広範囲に応力軸方位を劇的に変えるような様子は見られなかった。今回作成したストレスマップは、既に地震発生場の理解の基礎的な情報として用いられつつある(例えば、Nishimura et al., 2023)が、さらに構造地質学的な研究の手掛かりになることも期待される。謝辞本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)、気象庁の地震観測網、国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターの地震観測網によって得られた地震波形データ、気象庁一元化処理検測値を使用した。本研究の一部は公益財団法人三菱財団の自然科学研究助成、産総研エッジランナーズの支援を受けて実施した。参考文献Heidbach et al. (2018) Tectonophysics, 744, 484-498.Nishimura et al. (2023) Sci. Rep., 13:8381.Terakawa & Matsu'ura (2010) Tectonics, 29, TC6008.Terakawa & Matsu'ura (2023) GJI, 233, 162-181.Uchide (2020) GJI, 223, 1658-1671.Uchide et al. (2022) JGR-SE, 127, e2022JB024036.Yukutake et al. (2015) EPSL, 411, 188-198.

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© 2023 日本地質学会
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