日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T10-O-4
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T10.文化地質学
地域に根ざす地学教育教材の開発 ~指定文化財の活用法~
*坂本 昌弥
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抄録

初等教育理科における学習内容(単元)は,「児童が対象である自然の事物・現象に関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追究していくことができるように意図的な活動の場を工夫することが必要である」とされている.また地質分野に係る単元学習時の指導方法については,「児童が土地のつくりや変化について実際に地層を観察する機会をもつようにする」「遠足や移動教室などあらゆる機会を生かすとともに,博物館や資料館などの社会教育施設を活用する」こと等が推奨されている(文部科学省,2018).これはこのような学習の積み重ねによって,児童が主体的に自然の持つ規則性に気付き,自然環境を思考・理解・尊重する力や態度が効果的に育成されると考えられるためである(坂本,2022).それゆえ理科の授業では,フィールドワークや社会教育施設等を児童の学習活動に可能な限り活用し,身近な空間の中で理科教育がなされていくことが望ましい.文化庁(2023)によると,全国には現在3,300件以上もの国指定史跡名勝天然記念物が存在する.加えて都道府県及び市町村指定文化財は12万件近い文化財が存在する.地質に関連する文化財指定については,「地質鉱物のうち学術上貴重で,我が国の自然を記念するもの」として12項目の指定基準があり,加えて天然保護区域に関する基準が存在する(文化庁,2022).指定の対象物は,その地域に特徴的にみられる岩石・地層・化石等であり,これらは学校教育の単元として活用されるべきものも多い.文化財指定時には,専門的知見を持つ研究者等が当該天然記念物候補物件に対して学術論文等の形で価値づけし,これを社会に公表することによって指定理由を明らかにしている.それゆえ指定天然記念物等の文化財についての専門的知識を持たない教員であっても,地域に存在する指定文化財の学術的価値や特徴を把握・理解しやすい教育環境がすでに整っており,これを活用することによって地域に根ざした地学教育教材の開発をおこなうことが可能である.しかし現状では,この教材開発は積極的におこなわれているとは言い難い.例えば熊本県教育委員会(2021)は,「熊本県文化財保存活用大綱」を策定し,おおよそ6つの観点から文化財を取り巻く環境変化に柔軟に対応することとしているが,学校教育への地質鉱物等の文化財の積極的な活用方針は見られず,観光等に活用されているケースが主である.指定天然記念物は,市町村指定のものを含めると身近に存在している場合が多く,これらを学校教育に活用することによって,教員が児童の生活空間の中から地質に関する事物・現象に関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追究していくことができるような活動の場を創り出すことができる可能性がある.それゆえ本研究では,その具体的な活用事例を示し,その教材開発法を明らかにする.鹿児島市に位置する桜島火山は昭和29年に県指定名勝として文化財指定され,現在まで鹿児島のシンボルとして保全・活用されている.そのすそ野に広がる溶岩原は,近赤外衛星画像を活用すると,桜島火山の噴火史を概観することができ,学習活動に活用しやすい(例えば坂本,2007).特に桜島火山の衛星画像を近赤外で処理することによって得られた画像は,明確な水域と陸域の境界線が判明でき,また植生の分布を観察することができる.ここで桜島の山頂域が黒く観察できるのは植生がないためであり,また発達したガリーの様子,流出する土砂によって発達した扇状地の様子,昭和噴火や大正噴火によって形成された溶岩地帯の観察等が容易にでき,教材として非常に活用しやすい. 【引用文献】文化庁(2022):記念物の保護のしくみ.https://www.bunka.go.jp/(最終確認日,2023/1/23).文化庁(2023):文化財指定等の件数.https://www.bunka.go.jp/(最終更新日,2023/7/10).熊本県教育委員会(2021):熊本県文化財保存活用大綱.93p,シモダ印刷.文部科学省(2018):小学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編.167p.東洋出版社,東京.坂本昌弥(2007):桜島火山防災教育の実践 ‐人工衛星画像と防災マップの活用‐.日本理科教育学会九州支部発表論文集,35,59-62.坂本昌弥(2022):指定天然記念物を教材とする理科教育の展開.~地域に存在する教育資源の活用~.心理・教育・福祉研究,21,43-52.

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© 2023 日本地質学会
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