主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第130年学術大会(2023京都)
回次: 130
開催地: 京都大学
開催日: 2023/09/17 - 2023/09/19
将来の地球温暖化が危惧されている現在、全球的な気候変動に対する南極氷床の応答を理解することは学術的にも社会的にも喫緊の課題である。東南極氷床は50メートル以上の海水準相当の氷を有し、過去の温暖期には部分的に融解していた可能性が地質データから示唆されおり(Wilson et al., 2018)、西南極氷床と同様に気候変動に対して敏感に応答している可能性が高い。様々な時間スケールの現象が重なる東南極氷床変動を理解するには、数百年以上の長期にわたるデータ解析が不可欠であるため、地質試料分析とモデルシミュレーションを組み合わせたアプローチが必要となる。特に堆積物試料から示される海水準データとGIA(Glacial Isostatic Adjustment)モデルの計算結果を統合的に解釈すると、過去の氷床変動を推定することができる(e.g., Ishiwa et al., 2021)。東南極インド洋区の西側では、約9,000年前から6,000年前に氷床高度低下が起きたことが報告されているが(Kawamata et al., 2020; Suganuma et al., 2022; White and Fink, 2014)、従来のモデルと比べて有意に遅い。そこで本研究は、第61次南極地域観測隊で採取した堆積物試料の分析結果と、東南極のリュツォホルム湾とプリッツ湾で既報告の海水準データを再評価し、海水準データセットを構築した。さらに、GIAモデルによる解析を行い、完新世における東南極氷床変動を推定した。本研究の海水準データセットでは、完新世の高海水準期において、リュツォホルム湾で現在の海水準より約30 m、プリッツ湾で約10 m高く、地域差が20 m以上あることが示された。GIAモデルによる解析では氷床変動史と地球の内部構造が主要な入力値であるが、本研究では表面露出年代から示される氷床高度低下の時期を考慮した氷床変動史を構築した。さらに、地球の内部構造に対する海水準変動の応答を評価するため、複数の内部構造を入力値として解析を行った。その結果、GIAモデルにより計算される海水準変動は、堆積物試料から示される海水準データと整合的であった。これらの結果から、完新世の高海水準期における両地域での海水準の差異は、東南極インド洋区の東西での氷床高度低下時期の違い、すなわち氷床質量の減少時期の違いが支配的な要因となり生じたことが示唆された。今後、より広範な地域で、より古い海水準データを取得することで、本研究で着目した空間・時間スケール以上の氷床変動復元が期待される。