日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-O-5
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T12.地球史
層状チャートを対象とした新しい放散虫・コノドント化石抽出法
*尾上 哲治冨松 由希堀 早紀子リゴ マニュエル
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抄録

中・古生代の時代決定に重要な放散虫は,ケイ酸質な骨格をもつ海生動物プランクトンであり,石英を主体とした硬く緻密な堆積岩である層状チャート中に含まれる.層状チャートからの放散虫化石の抽出には,従来フッ化水素酸(HF)を用いた処理法(林, 1968)が用いられてきた.放散虫と同様に,コノドントも5〜15%HF溶液を用いて層状チャートから抽出されてきた(林, 1969).しかし,HF溶液は,どのような濃度であっても毒物に指定されるため,処理は必ず高排気量のドラフト内で行う必要があり,薬品上・健康上の問題も多い.そこで本研究では,HF溶液を用いる方法より,安全且つ効率的に放散虫・コノドント化石を層状チャート中から抽出する方法について検討を進めた.シリカは高pH溶液に高い溶解性を示すことが知られている. 例えば,水酸化ナトリウム(NaOH)溶液は, 珪藻土や放散虫軟泥中の生物源オパールの溶解実験にしばしば利用されてきた.一方,珪酸塩鉱物を用いた実験からは,NaOH溶液による溶解反応は,室温ではほとんど進行しないことが示されている(Choquette et al., 1991).しかし,石英に対するNaOH溶液の溶解度は,温度の上昇とともに著しく増加する.そのため本研究では,NaOH水溶液を用いて層状チャートの溶解実験および微化石の抽出実験を行った.本研究では,美濃帯犬山地域の三畳紀およびジュラ紀の赤色層状チャートを用いて溶解実験を行った.実験に用いる粉末試料は4.0 g, 溶液は40 mlに統一し,濃度は 1-4 mol/L,温度は 60-100℃,時間は 1-5時間という条件で進めた.これらの条件で溶解実験を行った後,中和・乾燥を経て,残さ試料の電子顕微鏡(SEM)観察,質量の測定,X 線回析分析(XRD), 蛍光X 線分析(XRF)を行い,NaOH 溶液が層状チャート試料に与える影響を調べた.減量測定の結果からは,NaOH水溶液の濃度が高く,温度が高いほど,溶解後のチャートの減少量は大きいことが明らかになった.特に100℃で加熱した場合は,どの濃度でも減少量が大きかったのに対し,80℃や60℃では,濃度に関わらず減少量が少なかった.XRDやXRF分析の結果からは,NaOHは粘土鉱物(イライト等)よりも石英を効果的に溶解していることが明らかになった.また本研究では,1 mol/lの低濃度であっても,保存状態の良好な放散虫やコノドント化石を層状チャートから抽出することができた(Rigo et al., in press).1 mol/lのNaOH溶液は,劇物にも指定されないため取り扱いが容易である.また低コストでもあることから,従来のHF 溶液を用いた方法よりも安全で効率的な微化石抽出法であると結論づけられる.引用文献Choquette, M., Berube, M.-A., Locat, J., 1991. Behavior of common rock-forming minerals in a strongly basic NaOH solution. The Canadian Mineralogist 29, 163-173; 林信悟, 1968, 栃木県葛生町のあど山層から産出したコノドントについて.地球科学,22, 63-77; 林信悟, 1969. HF法によるコノドントの抽出. 化石研究会会誌, 2, 1-9; Rigo, M., Onoue, T., Wu, Q., Tomimatsu, Y., Santello, L., Du, Y., Jin, X., Bertinelli, A. 2023. A new method for extracting conodonts and radiolarians from chert with NaOH solution. Palaeontology, in press.

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© 2023 日本地質学会
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