日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-O-10
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T12.地球史
[招待講演]モンゴル・ゴビ砂漠上部白亜系における年代層序確立:脊椎動物化石相変遷の理解に向けて
【ハイライト講演】
*千葉 謙太郎実吉 玄貴青木 一勝
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抄録

モンゴル・ゴビ砂漠に分布する上部白亜系からは数多くの陸上脊椎動物化石が発見されている.特に恐竜類に代表される脊椎動物化石群は,世界でも有数の保存状態と量を誇り,様々な陸生動物の生理・生態,進化の理解に極めて重要な役割を果たしてきた.これらの豊富な化石産地は,東西約1000 km,南北約400 kmにわたってゴビ砂漠に散在しているが,各産地に露出する地層の層厚は非常に薄く,また,年代決定に有用な微化石を含む海成層や絶対年代の測定対象となる鉱物を含む火山灰層も挟在されない.このため,モンゴル上部白亜系の年代層序に統一的な見解が得られておらず,そこに含まれる脊椎動物相の時間的変遷に対する議論を困難にしている.そこで,岡山理科大学–モンゴル科学アカデミー古生物学研究所の合同調査隊では,2015年より上部白亜系バインシレ層,ジャドフタ層,ネメグト層の分布する多くの化石産地にて地質・発掘調査を行ってきた.さらに,現地調査で得られたカリーチや恐竜類の歯化石を用いた絶対年代決定を行うことで,モンゴル上部白亜系の年代層序の確立とそこに含まれる脊椎動物相の時空間的変遷を明らかにすることを目指している. これまでの研究により,モンゴルに分布する上部白亜系の堆積年代はカリーチや歯化石の絶対年代決定により制約できる可能性が見出されている.バインシレ層より採取されたカリーチのカルサイトU-Pb年代測定からは,95.9 ± 6.0 Ma,89.6 ± 4.0 Maとの年代値が得られており,同層に含まれる玄武岩のK-Ar年代や北米産淡水性軟体動物化石との比較から想定される相対年代と調和的である(Kurumada et al. 2020).また,ネメグト層から産出したティラノサウルス科タルボサウルスの歯化石を用いて行ったアパタイトU-Pb年代測定からは,66.7 ± 2.5 Maとの年代値が得られており,同層から産出する淡水性軟体動物化石や恐竜類,特に北米からも発見されている大型植物食恐竜サウロロフスから想定される年代と整合的である(Tanabe et al., 2023).以上の結果から,今後,現地調査とカリーチや歯化石のU-Pb年代測定を継続的に行い,対象範囲を拡大していくことで,モンゴル・ゴビ砂漠に分布する各化石産地の時間的な分布を明らかにできる可能性が高い.  また,年代を測定したバインシレ層産カリーチとほぼ同層準から,小型脊椎動物化石を比較的高密度で多産する層準が,本研究チームによって複数発見されている.この化石群集には,これまでバインシレ層からほとんど報告のなかった魚類,哺乳類,有鱗類爬虫類などの標本が多く含まれている.この時代,被子植物が多様性を増加させ,それにともない昆虫や哺乳類,爬虫類なども多様性を増加させたとするCretaceous Terrestrial Revolution(KTR)と呼称される陸上生態系の変遷が起きていたと考えられている.この時期の化石記録は全球的に限られているため,前述した化石群集に対する分類学的検討をすすめることで,アジア内陸部におけるKTR期の脊椎動物相の理解に大きく貢献できるだろう.  近年のモンゴル上部白亜系の地質学的研究と,本研究グループの堆積学的・年代学的検討から,モンゴルの上部白亜系は,後期白亜紀(100.5 ­– 66.0 Ma)のほぼ全期間にわたる化石記録を比較的連続的に保存している.さらに,河川成層を主体とする下位のバインシレ層や上位のネメグト層は,その間に存在するジャドフタ層やバルンゴヨット層などの風成層を主体とする層準と,一部が同時異層関係にあることから,モンゴルの上部白亜系は,大陸内陸部における湿潤から乾燥までの多様な環境とそこに生息する脊椎動物相の変遷史を記録した貴重な地質学的遺産である.後期白亜紀は,前述のKTRや白亜紀末大量絶滅イベントなど,陸上生態系の変遷において非常に重要なイベントが起きている.現在,後期白亜紀の陸上における脊椎生物相の変遷の理解はほとんどが北米の地層と化石記録に基づいているが,内陸部という特殊な環境を記録しているモンゴル上部白亜系とそこに含まれる化石標本群の検討から,後期白亜紀における重要なマクロ進化的イベントへ対するより多面的な理解に寄与することができるだろう.引用文献:Kurumada et al., 2020. Terra Nova, doi.org/10.1111/ter.12456; Tanabe et al., 2023. Island Arc, doi.org/10.1111/iar.12488.

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© 2023 日本地質学会
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