日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T13-O-10
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T13.沈み込み帯・陸上付加体
室戸沖稠密地震探査から推定した前弧域の熱流量分布:海山沈み込みの影響
*木下 正高白石 和也中村 恭之
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抄録

南海トラフ前弧の中西部では、2018年から2020年にかけて一連の高密度反射法地震探査が実施された(Nakamura et al, 2022 GRL)。その結果、室戸岬沖に沈み込む海山を含む、沈み込むプレート境界の特徴的な地形が示された。本研究では、この地震探査データセットから、BSR(ボトムシミュレーティングリフレクター)を抽出した。BSRとは、上部のハイドレートに富む地層と下部のガス含有層との境界として定義されるものである。南海トラフ中西部の前弧域のBSR深度から熱流量値を計算した。その結果を既存の熱流データ(地表、ボアホール、BSR由来)と統合した。 BSRから推定した熱流量は、BSR面における深度(圧力)と温度、海底とBSR間の平均熱伝導率から計算される。BSR面での温度は、実験室データから得られたハイドレート=ガス相転移のP-T曲線から計算した。熱伝導率の値は、全体で一様に1.3 W/m/Kとしたが、この値は、地震探査ラインと孔内計測データに沿った Vp モデルによって修正される可能性がある。BSRまでの深度は海底下400~500m程度である。なおBSR深度の短波長の変動は海底地形の変動に起因するものなので、今回はフィルタリングで除去した。得られた熱流値は地域平均されたものである。 熱流量は室戸沖のトラフ軸付近(南海トラフ中央付近)で最も大きい。前弧域では、熱流量は50~70mW/m2の間で変動するが、南海トラフ最西端の日向灘沖の前弧域で最も低い。室戸沖の前弧域からトラフ軸にかけての地形は、東側と西側に比べて陸側への湾入が大きいのが特徴である。変形フロントから20km陸側では熱流量は〜80mW/m2であるのに対し、湾入地形の両側では40〜60mW/m2である。さらに陸側に進むと、室戸岬沖の沈み込んだ海山の上に熱流量の少ない領域(〜60km x 30km、海溝と平行に延びている)が見つかった。熱流量は〜30mW/m2であり、周辺地域のほぼ半分である。この海山は直径20kmにも及ぶと解釈されており、低い熱流量は海山の上方と海側に広がっているようである。 他の海山沈み込みの場所からの例もある。九州東部沖の日向灘前弧域では、九州-パラオ海嶺(KPR)が数Ma B.P.以降N30W.に向かって斜めに沈み込んでいる。KPRから離れた場所の熱流量は〜45mW/m2であるのに対し、沈み込んだKPRの上方では〜25mW/m2である。コスタリカ沈み込み前縁部では、海山の沈み込みがその上の堆積物と熱流量を著しく変動させている。この変動は、海山の沈み込みに関連した割れ目を通る移流流体によるものと解釈された。本発表では、沈み込んだ海山の周囲で熱流が変動する可能性のあるメカニズムについて議論する。

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