日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-P-8
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T6.堆積地質学の最新研究
奄美大島周辺海域における古地震履歴解明に向けたタービダイト層および火山灰層の供給源推定
*中西 諒前田 歩芦 寿一郎天野 敦子山口 飛鳥
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抄録

地震調査研究推進本部(2022,日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版))は琉球海溝北部の海溝型地震について古地震の情報が不足していることから,M8以上の海溝型地震の発生確率は不明であるとし、さらなる調査が急務であるとしている.学術研究船「白鳳丸」KH-22-3次航海は,白鳳丸改修工事後の地学系観測機器類の習熟航海として奄美大島周辺前弧斜面の4サイトで採泥が実施され,マルチプルコアラーとピストンコアラーによる柱状試料が採取された.これらのコア試料におけるタービダイト層は更新世以降の地震履歴を明らかにする上で重要である.本報告ではその履歴や最大規模解明に向け,タービダイト層や火山灰層の起源について述べる. 対象とした採泥点は洪水による土砂流入のある海底谷などを避け,喜界島周辺前弧斜面域の凹地形から採泥された.得られたピストン・マルチプルコア試料は高知大学海洋コア国際研究所においてX線CTスキャン,MSCL-S測定を行った後,サンプリングを行った.コア試料中のガラス質な層準については東京大学大気海洋研究所のSEM-EPMAを用いて,火山ガラスの化学組成分析を行った.砂層については同所のX線回折分析装置によって回折パターンを得た. 火山ガラスの分析から,これまでに奄美周辺まで分布が報告されている鬼界Ah,姶良Tn,鬼界Tz,Ata火山灰といった広域火山灰が確認された一方で,西南日本でこれまでに報告例のない低K2O(約2%)で特徴づけられる系列の火山灰層が多数確認された.砂層の鉱物組成は,斜長石と輝石からなるグループと,石英・長石と炭酸塩鉱物で構成されるグループの大きく2種類に分けることができる.前者は石英をほとんど含まないことから,ローカルな火山活動による火山灰層の可能性がある.後者の炭酸塩に富む砂層は喜界島に近い地点でのみ確認され,鬼界Ah火山灰下位から2m程度の層準に限定的に確認された.これらの砂層の供給源をより詳細に推定するため,炭酸塩鉱物の種類や浮遊性・底生有孔虫の割合について浅海(約1000m以浅)の堆積物との比較を試みた.表層試料は産業技術総合研究所の海洋地質図調査においてグラブ採泥器で採取された.この試料の有孔虫および翼足類の計数結果については(長谷川・内村,2017,平成28年度研究概要報告書,地質調査総合センター速報)を参照した.浅海堆積物は採取地点の水深が増すほど浮遊性有孔虫の割合が増加し,翼足類・底生有孔虫の割合は減じて1000 m以深ではほとんど確認されない.これを反映して,鉱物組成は水深が増すほどMgに富むカルサイト(Mg-Cal)やアラゴナイト(Ag)の割合は減少し,1000m以深では確認されなかった.これを定量的に比較するためXRD回折パターン(2θ)における各鉱物のピーク分離を行い,ピーク面積比(Cal/Cal+Mg-Cal+Ag)を算出した.コア中の半遠洋性泥では底生有孔虫や翼足類に対して浮遊性有孔虫が90%以上を占めるのに対して,砂層では70%以下であることがわかった.砂層の炭酸塩ピーク面積比は0.3–0.6を示し,これは水深300–700mの表層堆積物と同等の値であった. このような結果からコア中の炭酸塩質砂層は斜面上部から供給されており,ラミナなどの堆積構造が確認されることからも地震・津波や洪水といった突発的なイベントによって形成されたタービダイト層であると考えられる.砂層の存在が陸域に近い採泥点に限られていること,完新世では確認できないことから,氷期の海退によって砂の供給源が近づくことで採泥点まで砂層が運搬されるようになったと解釈される.洪水起源の可能性を考慮する必要があるものの,地震性のものであれば,その破壊領域は限定的であった可能性がある.今後さらなる調査によって地震起源であるかを特定し,その分布から古地震規模を推定する必要がある.

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