日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T8-P-9
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T8.フィールドデータにおける応力逆解析総決算
断層地形に乏しいひずみ集中帯内の小断層すべりデータから推定される応力場:山陰ひずみ集中帯を例に
*向吉 秀樹内田 嗣人市村 正如吉田 歩夢香川 加奈吉崎 那都金本 翔真
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キーワード: 歪集中帯, 伏在断層, 小断層
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抄録

2000年鳥取県西部地震(M7.3),2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)など,活断層が報告されていない場所で中―大規模の内陸型地震が度々発生している.これらの地震はいずれも近年のGNSS観測によって,周囲よりひずみ速度の速いひずみ集中帯(山陰ひずみ集中帯:Nishimura &Takada, 2017)内で発生している.このうち,2000年鳥取県西部地震余震域においては,Uchida et al. (2021)において,余震域を網羅するような地質踏査が行われ,余震域内に高密度に小断層が発達しており,これらの断層が複数の応力場を経て形成し,現在の応力場と調和的な応力場を示すものも認められることを報告している.本研究では,山陰ひずみ集中帯周辺においてより広範囲の調査を行い,2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)など他の余震域の小断層が示す応力場や,ひずみ集中帯外の岩石が記録している背景古応力場との関係について明らかにすることを目的とした調査を実施した.調査は,Uchida et al. (2021)が報告している2000年鳥取県西部地震余震域の小断層調査と同様に,2016年鳥取県中部地震余震域,2018年島根県西部地震余震域周辺に露出する小断層を対象に断層姿勢およびすべりデータの取得を行った.また,ひずみ集中帯外の小断層が記録している背景古応力場の調査対象として,ひずみ集中帯北側に位置する松江市宍道湖南岸および島根半島東部における調査を行った.さらに山陰ひずみ集中帯と同様に断層地形に乏しいひずみ集中帯して,向吉ほか(2018)で報告されている南九州せん断帯内の小断層露頭の断層が示す応力場との比較も行った. 調査対象地域である, 2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)には,おもに白亜紀後期~古第三紀の花崗岩類が露出する.ひずみ集中帯外の調査対象地域である松江市宍道湖南岸および島根半島東部には,おもに中新世の堆積岩類及び火山岩類が露出する.南九州せん断帯内の小断層露頭周辺には,白亜系四万十帯中に貫入する中新世花崗閃緑岩が露出する. 調査の結果, 2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)の両余震域の小断層は,Uchida et al. (2021)が報告している2000年鳥取県西部地震余震域の応力解析結果と同様の複数の応力場を示し,東西または南北引張の正断層型応力場が卓越するが,同地域における現在の応力場(Kawanishi et al.,2009)と調和的な東西圧縮南北引張の横ずれ型応力場も認められた.ひずみ集中帯の範囲外では,現在の応力場と調和的な応力場は認められず,主に正断層型の応力場および南北圧縮東西引張の横ずれ応力場を示した. ひずみ集中帯内の小断層から推定された現在の応力場と調和的な応力場は,現在の応力場において,ひずみ集中帯内の断層が活動し,地表付近の小断層にもその変位が及んだ痕跡を示している可能性がある.山陰ひずみ集中帯の比較として調査した南九州せん断帯内の断層に関しては,基盤の花崗閃緑岩から喜界アカホヤテフラを含む第四紀層を切り,地表まで到達する小断層において,現世応力場と調和的な応力場を示す断層すべりが認められる.この断層が示すすべり方向は,喜界アカホヤテフラ堆積以降の断層すべり方向を示すといえる.周辺の小断層の中には,第四紀層を切らないものもある.これらの断層のすべりを示す断層条線のプランジはやや高角となっており,現世応力場以前の応力場を反映していると考えられる. 今回取得した山陰ひずみ集中帯内の断層すべりデータに関しては時間軸がないが,南九州せん断帯中の断層の例や,2000年鳥取県西部地震に伴い,横ずれの変位を示す変状が地表に露出した例(伏島ほか,2001)を踏まえると,現世応力場と調和的な応力場を示す断層は,現世応力場で生じた断層すべりを反映している可能性が高いと考える.断層地形に乏しいひずみ集中帯においては,断層が未発達の状態にあり,震源域で生じた断層変位が地表付近では複数の小断層によって分散すると指摘されている(例えば 岡田,2002).本研究で確認された,現在の応力場と調和的なすべりデータを示す小断層は,現在の応力場で活動した地殻内の断層変位が地表付近まで到達し,地表の小断層で変位を分散した痕跡をみているのかもしれない.

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© 2023 日本地質学会
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