日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T11-P-1
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T11.南極研究の最前線
東南極リュツォ・ホルム岩体の大構造とユニット区分についての問題点
*豊島 剛志
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抄録

東南極リュツォ・ホルム岩体では、ジルコンU-Pb年代データなど多様なデータに基づいて、ユニット区分やテクトニクスが議論されている(Nogi et al. 2013; Takahashi et al. 2017; Toyoshima 2017; Dunkley et al. 2020など)。しかし、岩体全体の地質構造や各ユニットの接触関係(不整合・整合、断層、貫入、上下関係など)の理解、地質構造解析に基づいたテクトニクスの議論が不足している。本岩体には、岩石層序によるYoshida(1978)の区分、地球物理学的データによるNogi et al. (2013)の区分、岩石学的・地球化学的データとジルコンU-Pb年代データによるTakahashi et al.(2017)の区分、形態線図によるToyoshima (2013, 2017)の区分、主に原岩年代によるDunkley et al. (2020)の区分などがある。これらには共通点も多いが、相違点・問題点も多い。本論文では、本岩体のテクトニクスの理解にとって不可欠な大構造やユニット区分等の問題点について議論したい。本報告ではToyoshima (2017)による本岩体の形態線図を改訂し、次のユニットに再区分した:インホブデ、ルンドボークスヘッタ、スカーレン、オングル島-ラングホブデ、日の出岬、奥岩-新南岩、明るい岬の7ユニット(Fig. 1)。構造による本報告のユニット区分は原岩年代によるDunkley et al. (2020)のスイート区分との共通点も多い。形態線図は、本岩体に、1)ほぼE-W走向の面構造が卓越する地域、2)NW-SE走向の面構造が卓越する地域、3)N-S走向の面構造が卓越するが多時相褶曲を被っている地域があることを示している。1)の地域として、竜宮岬、かすみ岩、びょうぶ岩、奥岩と、本岩体南部の地域がある。2)の地域には新南岩や日の出岬、明るい岬、たま岬がある。3)の地域はオングル諸島、ラングホブデ、スカルブスネスなどである。1)の地域にはE-Wトレンドの褶曲が発達し、2)の地域にはNW-SEトレンドの褶曲が発達している。3)の地域にはほぼN-SからNE-SWトレンドの褶曲とE-Wトレンドの褶曲が発達している。1)の地域は本岩体の西部に多い。プリンスオラフ海岸地域ではE-W走向からNW-SE走向へと面構造・褶曲が湾曲している地域があり、NW-SE走向の層平行右横ずれ剪断帯によって面構造が引きずられているように見える。これらユニットが作る大構造は、上盤南西移動の衝上断層運動によって形成された褶曲・衝上断層帯であると予想されている(Toyoshima, 2017)が、証明されていない。また、形態線図や各露岩の地質図から見ると、本岩体の大構造は、多時相褶曲によって強く曲げられているものの、基本的に北-北東に緩傾斜あるいはほぼ水平に近い姿勢を持つと考えられるが、野外調査に基づく実証が必要である。さらに、各ユニット(またはスイート)の接触関係のタイプと形態・姿勢、各ユニットにおける別のユニットとの混在関係の有無(包有関係など)についてほとんど情報がない。今後の調査研究によりこれらを明らかにする必要がある。ところで、変成帯において形態線図に示される地質構造的不連続は、変成帯がある程度上昇した後の脆性変形領域にて形成された断層であることも多い。そこで、本岩体における脆性断層パターンとそのテクニクスについても検討した。Toyoshima et al. (2019, 2020, 2021)は本岩体において初めてシュードタキライトを報告し、シュードタキライトを伴う2系統の脆性断層を識別した。そして、Ishikawa (1976)とYoshida (1978)による断層系・応力場の解析を参照し、シュードタキライトを伴う脆性断層の構造解析から、2ステージの応力場を求めた:ENE-WSWトレンドとWNW-ESEトレンドの共役断層を形成させたE-W圧縮応力場と、NW-SEトレンドとほぼN-Sトレンドの共役断層を形成させたNNW-SSE圧縮応力場(Toyoshima et al., 2021)。前者の応力場はNogi et al. (2013)のテクトニック・モデルにおけるENE-WSWトレンドの右横ずれ断層形成時の応力場と考えることが可能である。この断層運動は、本岩体の褶曲・衝上断層帯のtear断層であるとも考えられる。後者の応力場は、Toyoshima et al. (2013, 2017)やTakahashi et al. (2017)のユニット境界断層を形成させた応力場であると考えらえる。しかし、その妥当性の検証のためにも、今後、広域的な調査とデータ収集が必要である。

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