日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T12-P-6
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T12.地球史
徳島県勝浦町に分布する下部白亜系立川層より産出したアドクス科カメ類化石
*薗田 哲平小布施 彰太辻野 泰之中尾 賢一中山 健太朗
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抄録

アドクス科のカメ類は白亜紀から始新世にかけてアジアおよび北アメリカ大陸で繁栄した半水生のカメ類である(Hirayama et al., 2000).アドクス科は現生のスッポン科およびスッポンモドキ科を含む汎スッポン類(Pan-trionychia)に含まれるが,その姿や生態はむしろイシガメやヌマガメのような半水生種に近かったと考えられている(Meylan & Gaffney, 1989).後期白亜紀に比べて前期白亜紀におけるアドクス科の化石記録は乏しく,タイやラオス,日本でわずかに報告されているのみである(Tong et al., 2009; Sonoda et al., 2015a). 今回,徳島県勝浦町に分布する下部白亜系の物部川層群立川層最上部から多数のアドクス科カメ類の甲羅化石が産出したので報告する.立川層は主に汽水~淡水成層からなり,上位の海成層である下部羽ノ浦層から産出するアンモノイドによって上部オーテリビアン〜下部バレミアン階に対比されている(松川・伊藤,1995).近年,徳島県立博物館の発掘調査によって立川層最上部の淡水成層からは恐竜類を含む数多くの脊椎動物化石が発見されている(辻野ほか,2020).産出したカメ類の甲羅化石のうち43点については,1)甲羅の外表面が浅くて丸いピット状の小さな凹みからなる彫刻に覆われている,2)肋骨頭の発達が弱い,3)肋板骨の腹側面に肋骨相当部分の膨らみがなく平坦である,4)鱗板溝が浅く細いなどのアドクス科に特有の形質が確認できた.そのうち,第2上尾板骨,左第3・4・6肋板骨,右第4・8肋板骨,左第4・6縁板骨、右第5・6・10縁板骨など計17点において,5)甲羅中央部から後方にかけて縁鱗が肋板骨の遠位部を顕著に覆うAdocus属の共有派生形質が認められた.前期白亜紀におけるAdocus属は,これまで福井県の手取層群北谷層(アプチアン階)や福岡県の関門層群千石層(上部バレミアン〜アプチアン階)からしか知られておらず,下部バレミアン階からは初めての報告であり,世界最古の産出記録となる.また西南日本外帯の下部白亜系からは初の産出例である.一方で,1)〜4)の特徴を有するものの5)の特徴を満たさない肋板骨や縁板骨が7点確認された.標本が部分的であるため,属の同定は困難であるが,これは立川層の堆積当時に少なくとも2属のアドクス科カメ類が同所的に生息していたことを示唆している.手取層群北谷層においても同様に, Adocus sp. に加えて,異なる属と考えられるアドクス科カメ類が確認されている(Sonoda et al., 2015b).北谷層からはアドクス科以外にも多様なカメ類が知られており,スッポンモドキ科やシンチャンケリス科,シネミス科?は立川層と共通している.一方でタイやラオスの下部白亜系においては,スッポンモドキ科が産出する点においては共通するが,アドクス科についてはAdocus属とは異なるシャチェミス亜科のカメ類のみが知られている(Tong et al., 2009).今後,より詳細な分類学的検討を行うことによって,最古のAdocus属の形態学的な特徴や,アドクス科ならびに汎スッポン類の初期進化を明らかにし,前期白亜紀の東アジアにおける古生物地理の解明において重要な資料となることが期待される.引用文献Hirayama et al., 2000. Russian Journal of Herpetology (7)3: 181–198. 松川・伊藤,1995.地質学雑誌,101(1): 42–53. Meylan & Gaffney, 1989. American Museum Novitates, 2941: 1–60. Sonoda et al., 2015a. Paleontological Research 19(1): 26–32. Sonoda et al., 2015b. PeerJ PrePrints 3:e949v1 Tong et al., 2009. Geological Society, London, Special Publications (315): 141–152. 辻野ほか,2020.徳島県立博物館研究報告(30): 1–14.

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