日本地質学会学術大会講演要旨
Online ISSN : 2187-6665
Print ISSN : 1348-3935
ISSN-L : 1348-3935
第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T13-P-4
会議情報

T13.沈み込み帯・陸上付加体
(エントリー)現世の震源断層と対比可能なスケールで分布する興津断層
*隅田 匠市来 政仁坂口 有人
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】  プレート境界地震の震源断層表面のアスペリティは,数 km~数 100 kmの規模である(例えばYamanaka and Kikuchi, 2004 など).スロー地震の発生域も同様に数10 kmから数100kmの規模である(Obara and Kato,2016).これまでに過去の震源断層の露頭がいくつも報告されているが,露頭における断層岩研究と現世の地震観測研究とを対比するには,ある程度スケールを合わせる必要がある.震源断層の露頭がどれくらい広がり,どのような不均質性を有するのかを少なくとも10 kmスケールで議論できることが望ましい. 四国四万十帯興津メランジュの構造的上位の境界断層である興津断層ではシュードタキライトの発見が報告されている(Ikesawa et al., 2003).この興津断層は底付け付加によって形成されるデュープレックス構造の上部デコルマであるルーフスラストに位置する.興津メランジュの構造的下位の境界断層は,デュープレックス構造底部のフロアスラストは海洋地殻に直接接しているプレート境界断層にあたる.このフロアスラストでは,部分溶解した可能性があるカタクレーサイトが報告されている(向江ほか,2021).  興津メランジュと,その境界断層を10 km以上にわたって走向方向に追跡し,その断層岩の分布や状態を明らかにすることは,現世の震源断層と対比するうえで重要である. 【結果と考察】  これまで興津メランジュの北東部では玄武岩が複数層シート状に分布しており,海洋底層序を複数回繰り返すデュープレックス構造を形成していると確認されている.また,興津メランジュの黒色頁岩が北東走向で北あるいは南に急傾斜の構造を持ち,興津断層は興津メランジュの構造にほぼ平行に走る(Ikesawa et al., 2003).  本調査でこれまで未調査地域であった興津メランジュの南西部を調査し,興津断層の南西端の構造情報を取得した.北東部のようにシート状の玄武岩層を確認することはできなかったが,極々一部で玄武岩露頭が確認できた.興津断層の南西端はN60°W18°Nであり,周辺の興津メランジュの黒色頁岩は東西走向で北あるいは南に急傾斜を示す.つまり,興津断層は南西端では興津メランジュの古い構造方位と大きく斜交している.これは興津断層が,興津メランジュの大規模なデュープレックス構造の形成ステージよりも後のステージに再活動したせいかもしれない.  調査の結果,興津メランジュと興津断層は従来考えられていたエリアよりも広く分布していることがわかった.その分布域は約18 Kmに及ぶことが確認された.断層露頭も断続的に追跡可能と思われる.これは現世の震源断層や地震観測によって観測されるアスペリティと対比可能なスケールであるといえる. 【引用文献】Ikesawa, E., Sakaguchi, A., and Kimura, G., (2003) Pseudotachylyte from an ancient accretionary complex: Evidence for melt generation during seismic slip along a master decollement? Geology, 31, 637-640. 向江知也・坂口有人(2021)高知県四万十町興津メランジュで発見された沈み込みプレート境界断層.日本地質学会学術大会講演要旨,第128学術大会 Obara, K., and Kato, A., (2016) Connecting slow earthquakes to huge earthquakes. Science, 353, 253-257坂口有人(2003)四万十付加体興津メランジュの震源断層の特徴と流体移動に伴うセメンテーションによる固着すべりのアナログ実験,地学雑誌Journal of Geography 112 (6) 885-896Yamanaka, Y., and Kikuchi, M., (2004) Asperity map along the subduction zone in northeastern Japan inferred from regional seismic data. Earthquake Research Institute, 109, B07307.

著者関連情報
© 2023 日本地質学会
前の記事 次の記事
feedback
Top