日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T13-P-9
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T13.沈み込み帯・陸上付加体
(エントリー)付加体浅部の断層におけるせん断による液状化発生過程に関する実験的研究
*田代 圭吾堤 昭人山本 由弦Wang GonghuiChang ChengruiHuang Chao
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キーワード: 液状化, 断層, 付加体浅部
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抄録

断層の地震性すべりの挙動は,本質的にはすべりに伴う断層強度の弱化過程である.そのため,地震時すべり挙動を予測するためには,強度弱化の特性を明らかにする必要がある.本研究では, 付加体浅部に発達する断層周辺物質を用いて,異なる排水条件下での大変位剪断実験を行い, 剪断に伴う間隙水圧上昇の過程が断層のすべり弱化挙動に及ぼす影響を検討した.実験には, 三浦・房総半島に分布する付加体にて採取した物質を使用した.三浦・房総半島には, 埋没深度が浅いことにより沈み込み帯浅部における付加体の初期変形が保存された地質体(三浦・房総付加体)が分布している(Yamamoto et al., 2005).この付加体中に発達する断層において, 断層ガウジ物質が上盤側の地層中に注入している様子が観察され, 変形時の高間隙水圧発生の痕跡として注目されている(Yamamoto et al., 2005; Yamamoto, 2006).断層帯における変形時の間隙水圧上昇の過程は, 有効応力の低下に起因した断層強度低下をもたらすため, 液状化の発生機構を解明することは, 地震時の断層の強度弱化のメカニズムを理解する上で,重要である.三浦半島三崎層ではスコリア質砂岩と半遠洋性シルト岩よりなる互層が発達している.今回のせん断実験には, 半遠洋性シルト岩を試料として用いた.実験には,京都大学防災研究所の大型リング剪断試験機(Sassa et al., 2004; Agung et al., 2004)を使用した.この装置では, 非排水条件下での剪断試験が可能であり, 剪断応力を加える事で自発的に断層の間隙水圧を高める事ができる.これにより,剪断応力下において間隙水圧が上昇し, 破壊線に到達して剪断断強度が低下し, 最終的に定常すべりに至るまでの破壊過程全体をシミュレーションする事ができる.本研究では排水実験により有効垂直応力を一定にする実験と非排水実験にて水の排出を制御する実験を行った.これにより, 力学的に液状化を起こす実験とそうでない実験を行うことができた.採取した試料は風化部分を取り除き,60℃の乾燥機にて24時間乾燥後, 粉砕したものを 150メッシュにて篩をかけ使用した.半遠洋性シルト岩を充填した剪断部分の上盤側と下盤側には, 珪砂8号を充填した.どちらの実験においても剪断開始に先立って, 試料中の間隙(空気)を二酸化炭素に置換した後に水を入れ, 500 kPaにて1日圧密を行った.圧密完了後, 0.1 kPa/sec にて剪断応力を増大させた.非排水実験では剪断応力が251.8 kPaにて, 排水実験では368.8 kPaにて破断線に到達した.どちらにおいても破断ピークと原点を結ぶ直線がそろっているため, 摩擦則が成り立っており, 断層物質の固有の破断強度は同じであるといえる.非排水実験では有効応力は破壊線に到達する過程の間隙水圧上昇に伴い500 kPaから320 kPaまで減少した. 破壊線に到達後, 巨視的回転(すべり)が開始すると間隙水圧が急激に上昇し, 約350 kPaまで増加して定常 になり, 剪断応力は約40 kPaまで低下した.したがって, 剪断すべりによる間隙水圧上昇により断層強度が約 84 %低下し, 力学的に液状化した.滑り量に対する剪断応力の低下を両実験にて比較すると非排水実験では間隙水圧の助けをえるため, 下がり方が急であり100 mm程の滑りで剪断応力は定常値まで低下する.排水条件の実験では断層物質の性質のみで剪断応力が低下するため, 定常な剪断応力に落ち着くまで450 mm 程の滑りを経ている.天然の断層ではこの中間の振る舞いをすることが推測される.非排水実験において, 間隙水圧の上がり方と剪断応力の低下の振る舞いに強い関連性がみられた.また, 垂直方向の断層幅の減少と間隙水圧の上がり方にも相関が見られた.このことから断層幅の減少幅が間隙水圧上昇に影響していることが推測される.発表では、排水条件によって実験後の試料における粒子配列についてどのような構造の違いがみられるかについても報告する.参考文献: Agung et al., 2004, Landslides 1, 101–112. htps://doi.org/10.1007/s10346-004-0001-9. Sassa et al., 2004, Landslides 1, 7–19. https://doi.org/10.1007/s10346-003-0004-y. Yamamoto, 2006, Earth and Planetary Science Letters, 244, 270-284. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2006.01.049 Yamamoto et al., 2005, Tectonics, 24, TC50t08, https://doi.org/10.1029/2005TC001823.

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