日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T15-P-3
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T15.地域地質・層序学:現在と展望
北部北上山地における後期白亜紀から古第三紀の陸成層(岩手県岩泉町):堆積年代・粘土鉱物・ビトリナイト反射率
*野田 篤森本 和也髙橋 幸士檀原 徹岩野 英樹平田 岳史
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抄録

大陸縁辺前弧域の堆積物は,堆積時における地殻変動・火山活動・気候を知る手掛りとなる重要な地質情報を含む.白亜紀から古第三紀にかけてのユーラシア大陸縁辺(東北日本の太平洋側)では陸成〜浅海成の地層が堆積する前弧堆積盆が発達しており,この陸側縁辺に相当する陸成層(上部白亜系横道層と古第三系小川層群)が北部北上山地の岩手県岩泉町門地域に分布する.横道層はいわゆる「赤盤」と呼ばれる赤色化した溶結凝灰岩,小川層群は高品質の耐火粘土(カオリン粘土)や石炭を産することで知られる.従来,横道層は下位から基底礫岩層,砂岩シルト岩層,赤色岩層(溶結凝灰岩層)の3部層に,小川層群は下位より小松層,名目入層,大久保層,雷峠層の4部層に細分されていた(棚井ほか,1978).横道層は,砂岩シルト岩層から産出する花粉胞子群からコニアシアン期〜カンパニアン期(棚井ほか,1978)とされ,また赤色岩層中の砂岩に含まれる砕屑性ジルコンのフィッション・トラック年代から71.2±4.4 Ma(マーストリヒチアン期)の年代が報告されている(加藤ほか,1986).一方,小川層群は,小松層の植物化石群集から漸新世前期(村井, 1977)または始新世後期〜漸新世初期(棚井ほか,1978)の堆積年代とされている.今回,5万分の1地質図幅「門」の作成にともない,これらの地層の層序関係と堆積学的特徴を明らかにするため,詳細な野外調査・U–Pb年代測定・XRD 分析・ビトリナイト反射率測定を実施した. 凝灰岩中のジルコンU–Pb年代測定の結果,横道層中部の凝灰岩から86.4±0.3 Ma(後期白亜紀コニアシアン期〜サントニアン期),赤色岩層から56.1±0.3 Ma(暁新世サネティアン期〜始新世ヤプレシアン期),名目入層の凝灰岩から52.6±0.2 Ma(ヤプレシアン期)のU–Pb年代を得た.XRD分析による粘土鉱物組成は,赤色岩層・小松層・名目入層はカオリンに富み,横道層下部〜中部・大久保層・雷峠層はイライト・スメクタイト・オパールなどに富むことが分かった.横道層と小川層群は,石炭のレンズや薄層を挟み,海棲動物化石を欠くことから,その堆積環境は河川〜湖沼域と推定された.石炭の平均ランダムビトリナイト反射率 (VRr) は,横道層から小川層群にかけて上位へわずかに小さくなるが,全体では0.37%〜0.53%(褐炭〜亜瀝青炭)の範囲に収まる. 以上の結果から,横道層は後期白亜紀コニアシアン期頃から河川〜湖沼成の堆積物として堆積したが,従来,横道層の最上位とされた赤色岩層は,暁新統〜始新統であることから,同じくカオリン粘土に富む小松層の下部に組み入れるのが適当と判断される.この赤色岩層の堆積時は,暁新世〜始新世の温暖化極大期に相当するため,カオリン粘土の起源は当時の温暖湿潤な気候下において生じた凝灰岩の風化生成物である可能性がある.また,横道層と小川層群との間では,ビトリナイト反射率に大きな違いはないことから,小松層の堆積以前における横道層の削剥量は大きくなく,仮に後期白亜紀以降の地温勾配が 30 K/km以上であった場合,横道層の最大埋没深度は2,200 m以下,現在までの平均削剥速度は50 m/My以上と推定される.今回,内陸域に堆積した陸成層の堆積年代を制約したことで,太平洋側の久慈層群や種市層,野田層群との対比が可能になり,当時の広域的なテクトニクスや地殻表層の沈降・隆起・削剥履歴の解明が進むことが期待される.参考文献村井 貞允, 1977, 岩手県岩泉町小川岩手粘土鉱山産化石植物群. 藤岡一男教授退官記念論文集, 315–324.棚井敏雅・飯島 東・吾妻高志, 1978, 北上北部岩手粘土鉱山付近の上部白亜–古第三系. 地質学雑誌, 84, 459–473.加藤 誠・藤原嘉樹・箕浦名知男・輿水達司・斉藤真人, 1986, 上部白亜系横道層ジルコンのフィッション・トラック年代. 地質学雑誌, 92, 821–822.

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