日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T5-O-8
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T5.テクトニクス
北部秩父帯-御荷鉾緑色岩類-三波川帯の構造関係:関東山地のイライト K-Ar 年代からの視点
*清水 以知子盧 志強板谷 徹丸纐纈 結衣辺 笛
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抄録

北部秩父帯のジュラ紀~白亜紀初期の付加体は,古典的には三波川帯の未変成~弱変成部とみなされてきたが,近年,秩父帯と三波川帯の間に分布する御荷鉾緑色岩類との関係も含め,様々なテクトニックモデルが提案されている.磯崎・丸山 (1991) は,微化石年代や変成年代のギャップに基づき,北部秩父帯を構造的上位の地質ユニット(上吉田ユニット)と下位の地質ユニット(柏木ユニット)にわけ,上位のユニットは,下位の三波川変成作用を受けたユニットより古い地質体であり,西南日本内帯の美濃-丹波帯に相当するナップ(クリッペ)と考えた.その後の磯崎ほか (2010) の地体構造区分でもこの考えが踏襲されているが,砕屑性ジルコン年代の情報により,三波川変成帯のピーク変成年代についての考えが大きく変化している.これまでの秩父帯-三波川帯の構造モデルは主として四国地域での研究に基づいて提唱されたものであるが,本講演では,三波川帯・秩父帯の古典的フィールドである関東山地北西部における堆積岩中のイライト K–Ar 年代の知見 (Lu et al., 2022) に加え,炭質物ラマン温度計による最高被熱温度推定とナップ境界断層の露頭観察から,北部秩父帯のユニット区分と,三波川変成帯との構造関係を議論する.調査地域の北部秩父帯は下位から柏木ユニット・万場ユニット・上吉田ユニットに区分される.イライト結晶度と炭質物ラマン温度計のデータから,上位ほどピーク変成温度が低くなる傾向が読み取れる.柏木ユニットはジュラ紀後期~白亜紀前期に付加した整然層よりなり,万場および上吉田ユニットはいずれもジュラ紀中期に付加した混在岩よりなるユニットである.柏木ユニットと上吉田ユニットは四国との広域対比に用いられているが,枕状溶岩などの塩基性溶岩で特徴づけられる万場ユニットに相当する地質体は四国では認定されていない.このことから.関東山地においても,万場ユニットを上吉田ユニットに含める区分がしばしば用いられてきた.その場合,大きな構造境界(断層)は従来の万場ユニットを含む「上吉田ユニット」と柏木ユニットとの境界に想定されている(関東山地団体研究グループ, 1994).しかし,調査地域のイライト K–Ar 年代において,柏木-万場ユニット境界では明瞭なギャップはみとめられなかった.上吉田ユニットの K–Ar 年代はばらつきが大きいものの,140 Ma 以前の古い変成年代が示唆された.これらの事実は,大きな構造境界が万場-上吉田ユニット境界にあるというナップモデル (Shimizu, 1988) を支持する.このことは放散虫による年代ユニットが,変成年代ユニットと必ずしも一致しないことを意味している.万場ユニットの混在岩と柏木ユニットの砂泥互層は神流川ぞいの連続露頭において,漸移的に変化する.万場ユニットの分布が本地域に局在していることから,御荷鉾海山に沈み込みによってプレート境界の上盤側の付加体が乱され引きずり込まれた部分が,万場ユニットである可能性が考えられる. 御荷鉾緑色岩類の最上位のジュラ紀新世の赤色頁岩に挟在される酸性凝灰岩は,柏木ユニットと同じ約 115 Ma のピーク変成年代を示しており,御荷鉾緑色岩類が柏木ユニットのメンバーであるという考えを支持している.関東山地の三波川帯(鮎川ユニット)と北部秩父帯柏木ユニットの間には 30 Ma ほどのギャップがあるが,四国地域もふくめて大域的にみると,付加-沈み込み-上昇サイクルを繰り返す一連の「三波川変成帯」とみなすことができる. 引用文献 磯崎行雄・丸山茂徳, 1991, 地学雑誌, 100, 697–761. 磯崎ほか, 2010, 地学雑誌, 119, 999–1053. 関東山地団体研究グループ, 1994, 地球科学, 48, 83–101. Lu, Z., Shimizu, I., Itaya, T., 2022, Minerals, 12, 1515. Shimizu, I., 1988, J. Geol. Soc. Japan, 94, 609–628.

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