日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-O-7
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T6.堆積地質学の最新研究
ペーパーシンラフトとコーティッドバブルの形成過程:気液界面におけるCaCO3沈殿
*白石 史人秋元 貴幸富岡 尚敬甕 聡子高橋 嘉夫
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抄録

トラバーチンは温泉成の炭酸塩堆積物であり,微生物岩や石油貯留岩のアナログとして注目されている.トラバーチンに特徴的な組織として,ペーパーシンラフトとコーティッドバブルがある.ペーパーシンラフトは温泉水の流れが弱い場所の水面に形成される薄皮状の沈殿物,コーティッドバブルは水底の泡周囲が薄皮状の沈殿物で覆われた中空の球体である.先行研究では,水面よりも気泡表面の方がCO2脱ガスが活発であるためにCaCO3過飽和度が高く,それによってコーティッドバブルが形成されると解釈したが,気泡と大気の圧倒的な体積差を考えると実際はその逆である可能性がある.また,負帯電した気液界面におけるCaCO3結晶核形成が,同じく負帯電した有機物上での核形成と同様に,非晶質炭酸カルシウム(ACC)前駆体を経由するのか,という疑問も残されている.そこで本研究は,大分県長湯温泉に見られるペーパーシンラフトとコーティッドバブルを対象とし,野外観察,微小電極測定,および各種顕微鏡(偏光顕微鏡,走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡,走査型透過X線顕微鏡)による観察を行うことで,それらの成因を明らかにすることを目的とした.  野外観察の結果,ペーパーシンラフトは約1時間程度,コーティッドバブルは約8時間程度で形成されることが明らかとなった.また,日中の気泡表面には微小な白色沈殿物が見られ,しばしば水流によって高速に動いていた.微小電極測定の結果からは,酸素泡表面よりも水面で顕著なCO2脱ガス,そしてその結果としての顕著なCaCO3沈殿が起きていることが示された.顕微鏡観察からは,ペーパーシンラフトの水面に接する面において,約0.3–1.0 μmのアラゴナイト結晶が隙間なく配列していることが示された.一方,コーティッドバブルの水面に接する面では長さ約1–3 μm,幅1 μm以下のアラゴナイト結晶が,その長軸を気泡表面と平行にして配列しており,これらの結晶間にはしばしば隙間が見られた.いずれの試料でも初生的なACCは見られなかった. これらの結果から,水面では活発なCO2脱ガスによるCaCO3核形成が卓越していると考えられる.負帯電した水面においてACC前駆体が形成されていた可能性はあるが,有機物上での沈殿とは異なり,水面が鉱物で覆われると負帯電した気液界面は消失するため,ACCは安定化しないと考えられる.気泡表面においては,CO2脱ガスはあまり活発ではない一方で,他所で形成された針状アラゴナイトが付着し,それらの結晶成長が卓越していると考えられる.

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© 2023 日本地質学会
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