日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
セッションID: T6-O-15
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T6.堆積地質学の最新研究
(エントリー)下部白亜系手取層群北谷層北谷恐竜化石発掘現場の蛇行河川堆積物中有機物に記録された堆積環境の多様性
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
*矢野 滉紀中村 英人湯川 弘一安藤 卓人
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抄録

福井県勝山市の北谷恐竜化石発掘現場には下部白亜系陸成層の手取層群北谷層が分布し、長年の大規模な発掘調査によって恐竜化石を含む多様な陸上動植物化石が発見・報告されてきた。発掘現場の露頭は蛇行河川流域で形成された堆積岩から成り(Suzuki et al., 2015)、前期白亜紀の河川周辺における陸域古環境を記録している。バイオマーカー等の堆積岩中の有機物組成を詳細に検討し、豊富な化石記録と対比を行うことで河川周辺の堆積環境や生物相を復元できる可能性がある。本研究では、北谷恐竜化石発掘現場の堆積岩や植物化石を対象にロックエバル分析やバイオマーカー分析等の有機地球化学分析を実施し、堆積物中に供給された有機物の性質および起源生物の寄与を復元することで堆積環境の推定を行った。 ロックエバル分析の結果、堆積岩のケロジェンタイプはType ⅢからType Ⅳに相当し、植物などの陸源有機物が堆積物中有機物の中で優占的であることが示唆された。また、Tmax値やバイオマーカーを用いた熱熟成度指標を総合すると、ビトリナイト反射率で約1%前後に相当する熟成度を示し、鈴木ら(1994)で報告されたビトリナイト反射率の実測値とおおよそ一致した結果が得られた。しかしながら、北谷恐竜化石発掘現場の露頭の範囲は直方で数十mに限られているにもかかわらず、Tmaxやメチルフェナントレン熟成度指標(MPI-1, MPR)の値は試料間で大きく異なっていた。北谷層は河川成の地層であることを考慮すると、これらの値のばらつきは上下層準間での熱熟成の程度ではなく、堆積場によって供給された有機物の性質や組成の違いを反映している可能性がある。 バイオマーカー分析ではn-アルカンや植物起源の脂肪族・芳香族テルペノイド、真核生物由来のステラン、バクテリア由来のホパン、光合成色素に由来するプリスタンやフィタン、嫌気的環境を好むメタン酸化細菌由来のクロセタンといった起源生物の推定が可能な成分に加えて、2~7環の多環芳香族炭化水素(PAH)等が検出された。コロネン等の燃焼生成物の寄与は層準間で多様性が見られ、菌類起源とされているペリレンは翼竜の足跡が見られる層準や氾濫原埋積層などで顕著に高い濃度で検出された。Fukuititan nipponensisが発見された層準では還元的堆積環境で保存されるC35ホパンやシアノバクテリアに由来する2-メチルホパンが検出されており、クロセタンの寄与が他の層準と比較しても高いことなどから、当時の河川域の中でも特異的に還元的または嫌気的な堆積環境で形成されたと考えられる。これらの分析結果は異なる堆積環境の間での起源的な有機物の性質の多様性が、熱熟成が進んだ手取層群の地層中においても保存されていることを示す。[参考文献] Suzuki et al. (2015) Memoir of the Fukui Prefectural Dinosaur Museum, 14, 1–9鈴木ら(1994) 地質学雑誌, 100(4), 302-311

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