主催: 一般社団法人日本地質学会
会議名: 第131年学術大会(2024山形)
回次: 131
開催地: 山形大学
開催日: 2024/09/08 - 2024/09/10
東南極セール・ロンダーネ山地は、東アフリカ造山帯 (750-620 Ma)とクンガ造山帯 (580-530 Ma)が見かけ上交差する場所に位置するとされ [1]、この地域の変成岩類の温度-圧力-時間-変形履歴を読み解くことは、ゴンドワナ超大陸の形成プロセスを理解する上で重要である。同山地は、主にグラニュライト相の変成岩からなり、時計回りの温度-圧力-時間(P-T-t) 履歴を示す北東テレーンと、より低変成度の変成岩からなり、反時計回りのP-T-t 履歴を示す南西テレーンに分けられる [2]。両テレーンは、分離されたジルコン粒子を用いたU-Pb年代測定から650-600 Maにピーク変成作用、590-530 Maに紅柱石安定領域の後退変成作用を被ったと考えられており [2]、同山地においてジルコンやモナズ石の化学組成を考慮し、他の変成鉱物との共存関係を調べた先行研究は限られている [e.g., 3]。
同山地中央部に位置するメーフィエルは南西テレーンに属するが、時計回りのヘアピン型P-T-t 履歴が報告された [4]。[5] は、メーフィエルで採取された珪線石―黒雲母-ザクロ石片麻岩中のザクロ石の包有物に対し、Zr-in-Rt地質温度計 [6] を適用して時計回りのP-T 履歴を構築した。また、[4] はマトリクスに産するモナズ石の電子線マイクロプローブU-Th-Pb 年代(EPMAモナズ石年代)測定により、700-540 Maを変成ピークの年代と報告したが、モナズ石の化学組成が考慮されておらず、ザクロ石とモナズ石の平衡関係が議論されていない。そこで [7] は [5] と同試料に対してEPMAモナズ石年代測定を実施し、モナズ石の産状とY濃度を考慮した結果、約650 Maにザクロ石とモナズ石が平衡共存し、約550 Maにはザクロ石と非平衡状態になったと解釈した。本研究では、同試料中のジルコンに対して予察的にLA-ICP-MSを用いた局所U-Pb年代および微量元素の同時測定を行った。
本試料のザクロ石には、ザクロ石中の拡散が遅いPで不連続な組成累帯構造が存在し、内側からP濃度が低いインナーコア、P濃度が高いアウターコア、P濃度が低いマントル、P濃度がやや高いリムに分けられる [5]。ジルコンはマトリクスに産するほか、ザクロ石、黒雲母、珪線石、白雲母、石英の包有物として産する。
本試料に含まれるジルコンの内部組織は、インヘリテッドコア、変成コア、変成リムに区分できる。変成コアはCL像で振動累帯構造を示し、石英、珪線石、カリ長石、黒雲母、燐灰石、石墨を包有する。一方、変成リムはCL像で暗いものも明るいものも見られ、珪線石、カリ長石、ルチルを包有する。
変成コア・リムは1点を除きいずれもYbn/Gdn比が0.25-3.6のグループと20-50のグループの2つに分けられる。Ybn/Gdn比が小さいグループの変成コア・リムはそれぞれ637±41 Ma (n=3; MSWD=1.8; Th/U<0.16)、562±8 Ma (n=7; MSWD=1.14; Th/U<0.02)の238U-206Pb加重平均年代(±2σ)を示す。Ybn/Gdn比が大きいグループの変成コアは628±27 Ma (n=5; MSWD=4.0; Th/U<0.02)、変成リムは567±16 Ma (n=2; MSWD=0.032; Th/U<0.03)の238U-206Pb加重平均年代を示す。このうち、ザクロ石リムに包有される変成リムが566±21 Ma (n=1, Ybn/Gdn=28) を示すため、現在みられるザクロ石リムは566±21 Ma以降に形成された可能性がある。
ジルコンがザクロ石と平衡共存したか否かは、両鉱物間のHREEの分配係数から検証可能とされる [8]。本試料のジルコンは、上述のように2つの年代幅において高低両方のYbn/Gdn比が見られるため、ザクロ石のHREE組成と併せて両鉱物間の平衡関係を精査することで、詳細な変成履歴の構築につながるだろう。
引用文献
[1] Meert 2003 Tectonophysics [2] Osanai et al. 2013 Precam. Res. [3] Higashino et al. 2023 Gondwana Res. [4] Tsubokawa et al. 2017 JMPS [5] Nakano et al. 2023 JpGU abst. [6] Tomkins et al. 2007 JMG [7] Nakano et al. 2024 JpGU abst. [8] Taylor et al. 2017 JMG