抄録
目的 老人保健施設の入所者には,心不全,呼吸不全を持つ虚弱高齢者や,脳血管障害で嚥下機能の低下した患者が多く,常に感染に曝され,治癒の遷延する場合が多い.一方,医療現場で薬剤耐性菌の増加が問題になり,抗菌薬の適正使用が望まれている.こうした実情を背景に,虚弱高齢者における感染症治療の問題点を明らかにするため,急性ならびに慢性発熱患者について病原細菌の検索を行い,薬剤感受性試験を通じて耐性菌の頻度を検索した.方法 風邪症候群や持続する微熱を機会に咽頭ぬぐいを試料として,また尿路感染症で治療に抵抗する症例の尿を試料として,細菌培養と抗菌薬に対する感受性試験を行った.結果 急性熱発患者の39%から,また発熱を繰り返す患者の75%から好気性病原細菌が検出された.後者の主なものは,全検体数49のうち,MRSA(12),MSSA(5),肺炎球菌(7),β溶連菌(4),Klebsiella pneumoniae(5),Enterobacter cloacae(5)であった.急性発熱患者からの1株を合わせた肺炎球菌8株のうち,2株のみがPSSPで,1株はPRSP,残り5株はPISPであった.また,これら8株のうち5株までがレボフロキサシン(LVFX)に耐性を示した.MSSAの中にも高頻度にLVFX耐性菌が見出された.2例に咽頭ぬぐいから大腸菌が検出されたが,これらと尿路感染症から分離された大腸菌の4株中3株もLVFX耐性で,且つ後者のうち1株はESBLであった.結論 今回われわれが得た肺炎球菌,MSSA,大腸菌中の各種抗菌薬,特にLVFXに対する耐性菌の頻度は全国調査で発表されている値に比べて遥かに高く,高齢者の介護と医療に重要な問題を提起している.