抄録
目的 当施設では発足以来10年間,インフルエンザや激烈な下痢症の集団発生こそなかったものの,気道感染,尿路感染,発熱を伴う下痢症などの小流行がしばしば発生した.感染症のあと回復が遅れてADLが損なわれるケースが目立ち,先の論文に示したように高頻度に耐性菌が検出された.本研究ではこうした経験を通じて,高齢者における感染症の治療に当たって細菌培養の結果に基づく抗菌薬選択の重要性を検討した.方法 感染症のあと微熱が遷延するなど回復が遅れ,ADLが低下した入所者を対象として咽頭ぬぐいや尿から細菌培養を行い,感受性テストに基づく抗菌薬治療を行った症例を纏め,症状の軽快とADLの回復を指標として治療効果を判定した.結果 (1)多くの症例で,感受性試験にあわせた治療によって耐性菌の消去とともに症状の軽快,ADLの回復に導くことが出来た.(2)MRSAや多剤耐性肺炎球菌が検出された人々では,RifampicinとSulfamethoxazole/trimethoprimの併用療法が有効であった.(3)フルオロキノロンは尿路感染症の治療に有効ではあるが,MRSAと並んでこの種薬剤に対する耐性菌の存在に厳重な注意を払う必要がある.結論 虚弱高齢者に対する抗菌薬使用に当たっては,評価を出来るだけ早く行い,漫然とした内服薬投与を慎み,細菌培養による感受性テストの結果を尊重すべきである.高齢者介護施設で医療従事者は常に感染症の早期治療と予防に心がけていなければならないが,それだけでは克服できない設備と経営上の問題も立ちはだかっている.